QRレンタルチーム①
「どうしてこうなった」
僕、佐倉聡は思わずそう叫んでしまう。
それは僕が今加納さんからの誘いを受け、彼女の家に招かれ、
『準備してるからちょっと待っててね』
そう言われて、加納さんの家の前に僕は立っていた。
彼女の家は普通の二階建ての一軒家だが、なんだかとても大きいものに感じる。
(なんで僕が女子の家に呼ばれるんだ。どこのリア充だよ)
くそ、思わず心の中でつっこんでしまった。
おちつけ。とりあえずおちつくんだ。
落ちついてなぜこうなったのかを思い出してみよう。
* * *
加納さんに初めてポケモンについて聞かれて、そのまま一緒にポケモンを買いに連れていかれてから数日たった時のことである。
その数日間は加納さんとまったく話すことはなく、いつも通り健二くんとポケモンの話をしたり、ポケモンのパーティを考えたりしていつも通りの日々を過ごしていた。
ていうか僕、いつもポケモンのことばかり考えてるな。ヤバイなちょっとは勉強しないとな
と少しは思ってもテスト前にならないとやる気を起こさないのが僕であり、変わらずの怠惰な毎日を送っていた。
しかし、あの日から加納さんから音沙汰がないことが少し気になっており、
(そういえば、加納さん、もしかしてポケモンなんてすぐ飽きてやめてしまったのかな)
まず、加納さんがポケモンやるということ自体がおかしかったのだ。まあやめるのが妥当なのかもしれない。
そんなことを考えながら、放課後、教室で一人で特にやることもないが、帰るために動き出すこと自体がめんどくさくて、携帯をいじっている。そんな時だった。
「いつか空いてる日ある?」
加納さんがそう突然話しかけてきたのである。
「わわっ! どうしたの? 加納さん」
僕はあまりにもびっくりしたためそんな声が出てしまう。
「うん? 聞こえなかった?」
加納さんはこてっと首を傾げる。
「いつか空いてる日があるかって聞いたの」
「えっと、僕はバイトもしてないから、基本いつでも暇で、今日とかもこうして暇してるわけだけど、どうして僕にそんなこと……」
僕は一瞬固まってしまったが、どうにかこうにかそんな言葉を返した。すると、加納さんは突然身を乗り出した。
「マジ! 今日空いてるの?」
「まあ、うん」
僕は突然身を乗り出してきた加納さんのせいでたどたどしく答える。
「あたしも今日暇だからさ。うち……来ない?」
「へ……?」
僕は驚きすぎてそんな変な声が出て固まってしまう。
どういう意味だ? これは加納さんの家に誘われているということでいいよね。でもどうして加納さんの家に誘われてるんだ?
別に僕は加納さんと仲がいいわけじゃないし、一緒に行ってもやることないはずだけど。
「おーい? どうしたの?」
加納さんはそう言って僕の目の前で手を振る。
お、おちちゅけ。ま、間違えた。お、おちつけ。とりあえず事実から確認しないと!
「うちってもしかして加納さんの家?」
「そうだよ」
加納さんはすました顔でそういった。
うん? なんで僕が女の子の家なんかに行くんだ。と、とりあえず断らないと。
「えっと、なんで? 別に加納さんの家でやる必要あることなの?」
「いいから。行こう。暇なんでしょ」
加納さんはそういいながら僕の手を引っ張って行く。
「ちょっ、えー」
僕は加納さんに引っ張られると、抵抗しても無駄だとわかっていたので渋々ついていくことにしたのであった。
* * *
そんなわけで僕は加納さんの家の前に連れて来られ、
「準備してるからちょっと待っててね」
そう言われて、現在家の前で待たされている最中なのである。
ああ、ほんとにどうしてこうなった。こんな青春イベント望んでない。
いや、こんなイベントを妄想したことはあるけど、いざこんなイベントが起こると何をやればいいのかわからない。
ああ、こんな緊張してしまうんだったら、いつもの平穏な日常に戻りたい。
そんなこと思っても現実は変わるわけがなく、ガチャリと扉が開く音がして、振り向くと、加納さんが扉から顔を出していた。
「入っていいよ」
「あ、うん」
僕はそう頷き、恐る恐る彼女の家に入っていく。
「お茶用意するから、先に部屋入ってて。あ、二階の最初の部屋があたしの部屋ね」
僕は彼女の言われた通りに二階への階段を上っていく。ていうか女子の部屋に入るの初めてだな。どんな部屋なんだろう。
そう思いながらまた恐る恐る彼女の部屋に入っていった。
ああ、めっちゃ綺麗だし、なんかいい匂いする。当たり前かもだけど、僕の散らかっていて地味な部屋とは全然違う。
このまま立ち尽くしてても仕方ない。とりあえず座らないと、とそう思ったまでは良かったのだが。
「どこに座ればいいんだ?」
僕は思わず立ち尽くしてしまった。
ベッドの上に座る? それはなんかこう期待してる感じで良くないと思う。
じゃあ床に座ればいいのか? でも床でどんな座り方をすればいいんだ。あぐらをかくのはなんかこう偉そうな気がしてならないし、体育座りはなんかダサいし、正座は絶対に違う。
「ど、どうしよう」
そうやって僕は唸ってどうやって座るか迷っていると、ドンドンと部屋に迫ってくる足音が聞こえてくる。
「あ、ああああ」
そんな変な声を上げながら、気がつけば正座でしかも部屋の隅に座ってしまった。
(なんだこれ? どうしてこうなった)
これではまるで座敷わらしである。だが迫っている足音はすぐそばに迫っていて、移動しようがない。そして、加納さんがドアを開け入ってきた。
「ん? なんでそんな隅で小さくなって正座してるの?」
「えっと、ほら加納さんの親がくるかもしれなかったから、礼儀は正さないとなって思ってさ」
「ん? 別に今日仕事であたしの親、いないけど。ついでに弟も帰ってきてないし」
「てことはもしかして」
「うん。いまこの家にいるのはあたしと君の二人きりだよ」
「へ、へえそうなんだ」
出来るだけ意識しないように感情を込めないで答えると、加納さんはグイッと近づいてきた。
「だから、えっちなこともできたりするよ」
「なっ」
僕はそう言われて思わず顔を真っ赤にしてしまう。その顔を見た加納さんは、
「ふふふ、あははははっ、何その顔。やっぱ君は面白いなあ。それでこそあたしもからかい甲斐があるよ」
「か、からかってたの? じゃあ今のは全部嘘だったりするんじゃ」
僕は期待を込めて言った。
具体的には親がいないってのは嘘だと思いたいのだ。僕には女の子の家で二人きりは心臓に悪すぎる。
「ううん、私たちが二人きりって言うのは本当だよ」
「マジですか……」
「マジですけど、何か問題あった?」
「こんな状態、加納さんのお父さんに見られたらやばいだろうなと思ってさ」
「大丈夫大丈夫。ばれなければいいの!」
「バレるのが怖いんですけど…」
「まあその時は…あはは。殺されて。あっ、洗濯取り入れるの忘れてたからさ。もうちょっとだけ待ってて」
加納さんはそう言って、慌ただしく部屋から出ていく。
「そんな殺されるって大げさな…」
でも僕にこんな可愛い娘ができたら蝶よ花よと可愛がるだろうな。男なんて近づくことすら絶対に許さないレベルで大切にするだろう。
ん? あれ? これやばくね?
そんな大切にされてる娘に男が、つまり加納さんに僕が近づいていると知られれば……。殺される! 間違いなく殺される!
今すぐバレてないうちにこの部屋を抜けださないと!
僕はそうっと立ち上がり、今すぐこの家から脱出しようと動き出す。
だがそうやって動き出すと同時に扉が開き、加納さんとばっちり目が合ってしまった。
「あれ? どこいくの?」
「べ、別に。帰ろうとなんかしていないよ」
俺はギクっと体を震わせた。
あ、動揺しすぎて本音がででしまった。これじゃあ僕の考えていることが丸わかりだ。
「いやいやその動揺の仕方絶対嘘じゃん」
「そ、そんなことないって」
「ほんとう?」
ば、バレてしまった。どうしよう。加納さんが怪しむ目でこっち見てるよ……。
そ、そうだ。今までちゃんと見てなかったけど、加納さん一回家で準備するって言ったとき、着替えるって言っては入っていったし、その話をしよう。
「本当だって!そういえばさ。わざわざ服着替えたんだね」
今までちゃんと見てなかったがいつもの私服ではなく、ショートパンツにサイズが小さめのTシャツなんと言うか全体的に無防備な格好に着替えていた。
「あ、うん。なんか汗かいてたから着替えたんだけど、えっと、その、どうかな?」
「ん? 何が?」
「だからこの……まあいいよもう」
なぜか加納さんを怒らせてしまったらしい。まあ突然帰ろうとすれば怒るのも当たり前か。とりあえず謝らないと。
「ごめん、なんか怒らしちゃったみたいだ」
「君はデリカシーとかいろいろ足りないし、妙に鈍いし最低だよ。ほんとに」
「ごめん……許して。なんでもするからさ」
「言ったわね?」
「え」
あ、軽い気持ちでなんでもするって言っちゃったけどよく考えたらダメじゃん。なんでもすると誓ってしまったらほんとになんとでもされそうだ。
「うーん…何してもらおっかなあ」
加納さんが迷っているのを慌てて止めようと思って
「い、今のやっぱなし」
「ダメだよ。言った以上はやってもらわないと」
加納さんがこれは占めたと言いたげに笑っていた。
「いや、えっとあの」
「何言っても無駄だよ」
「ほんとに無理な命令だけは勘弁して」
「わかってるって。うーん思いつかないし実際にやってもらうのはまた今度にしようかな」
「ほっ」
とりあえず不安はあるが何か命令されるのを伸ばすことに成功した。
月日がたてば加納さんが忘れるかもしれないし、普段はあまり話さないから実行される危険性は少なくなったといえるだろう。
ただ相手は加納さんだ。なんだかんだで実行される予感はする。
その時は…、頑張ってくれよなその時の僕…。