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才能④

 それから二日間はひたすらにポケモンに浸り続けた。

 対戦数を増やし続けるために寝て起きてはポケモンをする生活をつづけた。

 もちろん彼方には選出プレイングを教えてもらっていたのだが、どうやら彼方はプレイングに関して勘に頼っている部分が大きいらしくなかなか理解することができなかった。

 けれど、試合数のおかげか、彼方に少しでも教えてもらったおかげかはわからないが少しずつレートが伸び始め、1800ちょっとから1900までたどり着くことができた。

 しかし、油断はできない。2000チャレンジを『カナ』に負けて1700に落ちてからも1900に戻ることは何度かあったのだがそこから一度も勝てていない。

 それは俺が弱いからというのもあるが、1900と2000の間には高く大きな壁が存在する。

 それはレート差マッチングといって1900以上は上位数%しか存在していない。つまり、自分より低いレートの人と当たる確率のほうが圧倒的に高くなる。

 そして、相手のレートが低いと、勝ってもらえるレートは少なく、負けると吸われるレートは多い。例えば勝っても4しか上がらないし、負けると28ひかれることなんてざらに起こる。まさにハイリスクローリターンなのだ。

 つまり、その中で一勝一敗を繰り返したところでどんどんレートが下がっていくだけなのだ。

 それが壁となって立ちふさがり、連勝し続けることしかその壁をぶち破る方法はない。

 そして、レーティングバトル最終日前日。

 3徹の疲れで5時間くらい昼寝をして目を覚ました時から。

 遂に流れがやってきた。

 連戦連勝。自分で自分が集中できているのが分かった。 1902→1918→1928→1940→1948→1960→1971→1987

 とレートが上がっていき一度も負けることがなく七連勝これ以上ないくらい調子がいい。

 恐らく次が2000チャレンジ。

 ドクンドクンっと心臓が跳ね、手が震える。

 怖い。ここで負けてしまうと、負けるとまた前と同じようにまた流れが途切れてしまうのではないかと不安でたまらない。

 けれど、ここでやらなければせっかくの良い流れが途切れかねない。


「頼む……、勝たせてくれ…!」


 目を瞑りながら次の対戦へと進むボタンを押した。

 すると、すぐにマッチングして相手のレートは1928。勝てば間違いなく2000に乗ることができる。

 ただ対戦相手のパーティを見た時、俺は一瞬思考を止めてしまった。


「オニゴーリ……」


 相手のパーティ

 ボーマンダ、クレセリア、オニゴーリ、モロバレル、ゲッコウガ、ミミッキュ

 俺のパーティ

 カバルドン、ボーマンダ、ギルガルド、カプ・コケコ、ゲッコウガ、カミツルギ

 という画面になっている。

 相手のパーティはオニゴーリのための構築であり、俺のパーティはオニゴーリを倒す手段が少ない。正直、勝算が薄かった。

 けれど、諦めるわけにはいかない。たしかこのパーティには彼方から教えてもらった選出があったはずだ。

 たしかカプ・コケコ、カバルドン、ボーマンダの選出で何とかなると思いたい。彼方もその選出が安定といっていた。

 しかし、パーティ相性は間違いなく悪い。最善の選出をしたとしても勝てるかは怪しい。震えながら選出を確定させる。

 ついに俺の二度目の2000チャレンジが始まった。


 相手の初手はモロバレル。俺の初手はカプ・コケコ。

 正直有利な対面とは言えないが、ボーマンダに下げれば有利対面を作れるが…。

 迷った結果、俺はカバルドンに下げると、案の定ボーマンダをよんで『キノコの胞子』を打ってきた。『キノコの胞子』は相手を眠り状態にする技だがカプ・コケコが展開したエレキフィールドによってカバルドンは守られた。ボーマンダは飛行タイプのため地面を這うエレキフィールドの恩恵を受けることができないのだ。


「危なかった……」


 もしボーマンダを出してしまっていれば、ボーマンダを軸としているのにボーマンダが眠り状態になり機能停止に追い込まえれてしまえばかなり厳しい展開を強いられていただろう。

 安堵しつつカバルドンにステルスロックを命じると、オニゴーリを繰り出してきた。


「オニゴーリ!?」


 これは非常にまずい。

 裏のオニゴーリを削るためのステルスロックだったのにステルスロックを撒く前にほぼ無償でオニゴーリが降臨してしまった。

 オニゴーリはむらっけという特性で一ターンたつごとに一段階能力を下げる代わりに二段階能力をあげるという特性を持つ。

 この特性は本当に恐ろしくどんな時からでも運次第で勝つことができるあまりに理不尽な特性だ。

 しかもみがわりまもるを繰り返すことでターンを稼ぐことができどんどん能力を上げていく。カバルドンのような素早さの低いポケモンでは上から身代わりまもるを繰り返し行われるため、確率的にほぼ勝つことができない。


「とりあえず、『ふきとばし』するしかないよな…」


『ふきとばし』は相手を強制的に交換することができる技でみがわりまもるを抜け出すことを優先した。しかし、


「ぜったいれいど!?まずい!」


 ぜったいれいども一撃必殺技で、三割の確率で相手を倒すことができる。当たればほぼ負けだ。


「避けろ!」


 願うように叫ぶと、何とか躱してくれた。ほっと安堵していると、ふきとばしをしてランダムに交換した結果、またモロバレルが戻ってきた。


「どうする?」


 エレキフィールドは残り1ターンだけ残っているからカバルドンは眠らされる心配はないが、正直ステルスロックを巻いた今カバルドンはモロバレルにできることがなく、このままではなにもせずにカバルドンの体力が減っていくだけ。

 ボーマンダに交換したいが…、またさっきと同じようにキノコのほうしを打ってきて機能停止に追い込まれる可能性もあった。

 まさに駆け引き。相手がどちらを選択するか読む必要があった。

 迷いに迷った結果、


「行け!ボーマンダ!」


 ボーマンダに交換を選択した。

 相手はさっきリスク承知でボーマンダ読みのキノコのほうしを打っている。それを俺に見せているのだから俺は交換できないだろうと読むことを予想したのだ。


「よし!」


 俺の予想が的中し、相手のモロバレルはキノコのほうしを打つことなく、ボーマンダを無事出すことができた。

 ステルスロックをすでに巻いているのでステルスロックの削り+ボーマンダのすてみタックルを受けられるポケモンはいない。

 これで相手の一匹を先に倒せることは確定した。

 何を切る選択をしてくるのかと待っていると相手はあまり考えることなくモロバレルを捨て、最後の一匹であるクレセリアを繰り出してくる。

 ここはカバルドンに下げればいいだろう。そう思ってしまったのが油断だったのだろう。

 相手はクレセリアに『みかづきのまい』を命じた。

「まずい!!」

 『みかづきのまい』を使ったポケモンを戦闘不能にする代わりに残っているポケモン一匹を回復させる技だ。だからまさかHPが満タンのオニゴーリしか残っていない状況で使ってくるとは思わなかった。

 クレセリアが戦闘不能になり、残り一匹しか残っていないため、カバルドンの強制的に交換させる『ふきとばし』が使えない。これがおそらく相手の狙いだったのだろう。

 このままカバルドンが居座っていたらまもるみがわりでターンが稼がれていき、オニゴーリの特性むらっけによってどんどん能力が上がっていき残りの三匹とも持っていかれる。

 だが対抗手段が一つだけ残されている。

 まもるみがわりをすることが分かっているならまもるのタイミングを読んで裏のポケモンに下げ上から殴って倒す。それしかない。

 後は、相手もそれを理解しているだろうし、どのタイミングで下げるか。

 考えろ! 深く! 相手の行動を読み切って見せろ!!


「ここだ!」 


 それは身代わりを押す二回目のターン相手がそろそろ焦ってくると読んでの行動だった。

 すると……相手はまもるを選択していた!!


「よっしゃあ!」


 そう叫んで喜び舞い上がった直後だった。


 絶望はやってくる。


 オニゴーリがむらっけで素早さを挙げた。それだけで俺の勝ち筋は限りなく少ないものになってしまった。


「え?」


 血の気が引いていき、顔が真っ白になっているのが自分でもわかった。

 素早さをあげられてしまった。それだけで俺が出したボーマンダと攻撃順が逆転する。

 つまり上からみがわりまもるをされ続けてじりじりとターンを稼がれ能力値を上げられていく。

 わずかな勝ちへの可能性を信じて続けるが、相手のオニゴーリはどんどんと都合のいい能力値を上げていって、俺は何もできないまま、ただオニゴーリ一匹にパーティが崩壊していくのを見ていることしかできなかった。

 そして、最後の一匹残ったカプ・コケコが相手のオニゴーリの『ぜったいれいど』一撃必殺技の三割で倒れた時。


 心の折れる音がした。


* * *


 そこからはさらに残酷だった。

 一勝もできないまま怒涛の七連敗で1900から落ちてから、さっきまでの良い流れを取り返されるかのように運の悪い負けが続いていく。

 俺はなんて弱いんだろう。そう思う。

 2000チャレンジで負けてしまったのははっきり言って仕方がないけれど、そこからの連敗はきちんと考えてさえいれば勝てた試合もあった。

 心が弱いから。立ち上がれなかったのだ。

 ついに取り返しがつかないラインだと思っていた1800を割ると、俺はついにDSを手放し、時計を見ると二時を過ぎている。

 ここから2000を目指すことは残りの一日ではどうあがいたって無理だろう。何よりもうポケモンをやる気力が残っていない。

 俺みたいな才能がないやつがいくら努力したって無駄だったのだ。そう考えると虚しさだけが心の中に残った。

 ふと三週間前の記憶が俺の頭をよぎった。才能のない俺にポケモンをやる意味はない。そう彼方が言い切った時のことだ。

『あなたはどうしてポケットモンスターというゲームをやってるの?

 自分の弱さに悲しくなってしまう時はないの?

 勝てなくてつまらないと感じることはないの?

 義務のようにやることはない?』

 その問いに対して俺は曖昧なままで、今もポケモンというゲームを続けている。これが義務のようにやっていると言われればその通りかもしれない。

 今の俺ならこの問いになんと答えるだろうか。あの時足りなかった時間なら今はたくさんある。

 言ってしまえばゲームというやる義務もないものをつまらないと感じることがあるのになぜ続けているのかということで、そのことを考えておきたかった。

 たしかに今なんてこのゲームはつまらないのだろう。そう思っている。

 いかに頑張って駆け引きに勝利しても運という神様の気まぐれで勝負自体は負けるという理不尽が起こった時。

 同じように頑張っているつもりでも才能の差だけで差をつけられていった時。

 その時は本当につまらないと思う。なぜこのゲームをやっているのか。ゲームにここまで時間を割いている理由は何なのか。

 わからなくなる。

 けれど、俺は一日も経てば気がつけばポケモンのことを考えている自分が嫌になる。

 依存症と言われればその通りなのかもしれないが、最低限の勉強、バイトはきちんと行なっているし、成績は良い方だ。ゲームに残った時間を割くのは悪くはないだろう。

 他に趣味なんていくらでもある。つまらないと感じるゲームになぜここまで…。

 わからない。

 俺はそっとスマートフォンを取り出しラインを開いた。この気持ちを誰かに吐き出したくなったのだ。でも友達である聡に話したら、止められそうな気がした。仲が良いからこそ話したくなかったのだ。だから俺はサークルを開く際に交換していた彼方のラインを開き、打ち込む。


『俺さ。ポケモンをやめようと思うんだ』


 それが俺と彼方の初めてのラインでのやり取りだった。

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