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加納はるか③

 その後、一時間くらい勉強を教えていたが聡くんは何か用事があると言って帰ることになった。

 あたしは少し迷ったが、今日はなんかポケモンが勝てる日だったのを思い出し、またポケモンをやろうとサークル棟に向かうことにした。

 両親にゲームをやっていることを知られると面倒なことになりかねないなので家ではやり辛い。

 最近ではポケモンやるときは大体サークルでやっている。


「あついー」


 まだ四時にもなっていないので暑さが残っている。そんなことを呟きながら早く冷房の中に入ってしまおうとサークル棟への道を急ぐ。

 109号室の前まで来て扉を開くとふわっと心地よい冷たい風が流れてきた。

 エアコンがついているのなら誰かいるのだろうかと思い覗き込むと、葛葉健二くんと目が会った。


「やあ」


「お、おお…」


 あたしは本能的に片手をあげ、挨拶すると、葛葉くんは気まずそうに片手をあげた。

 本音を言うと、あたしと葛葉くんはそんなに話したことがなく二人きりになるのもこれで初めてなのであたしも少しだけ気まずかった。それでもいろんな人と仲良くなることは得意なほうなのでなんとか何か話しかけようと思って頭を捻る。


「「ねえ(なあ)」」


 完全にあたしと葛葉くんの声が被った。


「あ、あはは、なんだい葛葉くん」


「いや、そっちからでいいよ」


「えっとね。じゃあ光はどこいったの? 今日の講義は終わったから、一日ここにいるって言ってたんだけど」


「ああ、彼方なら帰ったぞ。なんか勉強するって言ってたな」


「あはは、光は毎回単位もらえるかもらえないか怪しいからね。ほら、光ってすぐ寝ちゃうからさ。授業中もよく寝てるんだ」


「そうなのか」


 あたしはどうにかこうにかそんな雑談をするがすぐに止まってしまった。

 それでもあたしは諦めず、どうにか話を続けようとして話題を探す。今後同じサークルに属しているなかでこうして話す機会は何度だってあるだろう。そういう時に困ってしまうのが嫌だった。


「そういえばさ。葛葉くんはさっきなんて言いかけたの?」


「あ、いやー、ほんと今更なんだけどさ」


「うん」


「なんでポケモンを始めたんだ?」


 そんなことを聞かれたのは三人目だ。聞き慣れた質問に呆れるように笑う。


「ふふ、みんな同じことを聞くね」


「そりゃあ、意外だからな。彼方は元から好きだったらしいからわかるけど、なんで加納さんみたいな女の子がポケモンをってなるさ」


「別にそんな変な理由じゃないんだけどな。ただ光が真剣にやってたからあたしもやろうって思っただけで」


 さっきと聡くんに返したように少しだけ嘘を混ぜて答える。


「それなのに聡に聞いたんだな。ポケモンのこと」


「えーっと、どういう意味?」


「そのままの意味だよ。幼馴染の彼方に聞けばよかったじゃないか。なのにわざわざほぼ初対面の聡に聞いた理由はなんなんだ?」


 何とか誤魔化そうとしたが、あっけ無くバレてしまった。聡くんが鈍すぎて気づかなかっただけで普通に考えればわかることなのかもしれない。


「あたしと聡くんは別にその時が初対面ってわけじゃないの」


 そうやって暴かれたことであたしは秘密を話したくなった。


「そうなのか? でも聡は」


「うん。聡くんは覚えてないかもね」


 それはきっと聡くんにとって覚えてもいないようなことが始まりなのだ。


「傘を貸してもらったんだ」


「傘? それだけなのか?」


 葛葉くんはよくわからないという風に変な声を出し、首を捻っている。

 我ながらちょろいとは思う。

 人間関係に疲れ切って光に拒絶された日。どしゃぶりの雨が降ってきて、傘を忘れてどうしようもなくなっていた時に聡くんは、いつものように緊張しながら傘を差し伸べてくれた。

 その日からあたしは…。


「違うよ。その日から…ずっとみてた」


 最初は少し気になっただけだったけれど、


「君たちがあんまりにも楽しそうだったから。あたしもやってみたいと思ったんだ」


 たった二人で、あんまりにも楽しそうだったから。羨ましいなって思った。

 仲間に加わりたいって思った。


「だから、あたしもポケモンを始めて、このサークルを作ったんだ」


 そのためにあたしはちょっと強引に人を集めた。目の前の葛葉くんは人数合わせのために聡くんに連れてきてもらったり、光には特に説明もせずにサークル棟まで来てもらったりしていた。


「なるほどな」


「けど、ちょっと強引すぎたかな?」


「ん?」


「突然だったでしょ。このサークルを作ったの」


 少しだけ、不安だった。

 あたしの事情だけで人を集めた。光との繋がりを消したくなくて、聡くん達との繋がりを作りたくて。

 あたしの事情で集めてしまったこのサークルはちゃんとみんなのためになっているのだろうか。


「いや、別に気にすることなんかないんじゃないか」


「そう?」


「ああ、少なくとも俺はこのサークルが楽しいって思ってるよ」


 その言葉がなぜかとても嬉しかった。嬉しくてうっかり涙が出そうになるのを目に力を入れて抑える。


「ありがとね」


 あたしは泣きそうになる目を細めながら、笑って言った。 


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