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佐倉聡

 先月、ポケットモンスターソードシールドが発売されましたね。これはその前のポケットモンスターウルトラサンウルトラムーンを題材にしています。

 しばらくはほぼ同じ時間に毎日投稿する予定です。よろしくお願いします。

「さとしくん、ポケモンのこと教えてくれない?」


 今日の全ての授業が終わり、教室でぼーっとしていた僕、佐倉聡は加納さんに話しかけられた。

 そう聞かれた僕は開いた口が塞がらない。

 加納さんこと加納はるかは綺麗に染まった茶髪によく見れば施されている薄い化粧がそれ無しでも十分に綺麗な顔を引き立てている。そんなかわいい女の子をクラスメイト達が放っておくはずがなく、いつも学科内の中心人物達と一緒にいるまさにリア充といったイメージの女の子だ。

 まず僕みたいな運動も勉強もできないインキャに話しかけてくること自体おかしいのだ。ポケモンのことについて語り合えるはずがない。

 加納さんとは少ししか話したことはないけど、ポケモンのことを興味があるようにはとても思えなかった。


「い、いいけど、加納さんポケモンに興味あるんだ?」


 女の子と話すのは緊張して、どもってしまった。そういえば女の子と話すのなんて久しぶりだと思いだす。

 クラスメイトで男子高に行った人が「共学は女子との関わりがあるのが羨ましい」と口を揃えて言うが、共学に通っていたところで実際一部のリア充を除き、女子と関わることなんてないのだ。だからこうして女子に話しかければ緊張して話せなくなってしまうのだ。

 そんな言い訳をするが僕にコミュニケーション能力がないだけで、普通の人は仲良くなっているのかもしれない。

 まあそんな言い訳をしてもこの状況には何の変化もしない。


「まあ、一応」


「なんでポケモンなんかに?」


 そうして頷いた加納さんに一番気になっていることを尋ねる。

 ポケットモンスターの特にレーティングバトルのプレイ人数はほとんど男が占めており、加納さんみたいな女の子はとても少ない。それに歳を重ねるごとにプレイ人数は減っていく。

 なぜそんなポケモンに興味を持ったのか単純に気になった。


「それは……気になってる人がやってるからかな」


 加納さんは俯き、上目遣いでこちらを見る。僕はその姿にどきりとさせられてしまい、僕は顔を赤くしたのを気付かれないように顔を逸らした


「その気になってる人って誰?」


「うーん、秘密」


 加納さんは考えるように顎に手を当ててから、人差し指を立て唇にあてた。

 か、可愛すぎる。


「べ、別に教えてくれたっていいじゃないか」


「んー、じゃあポケモンのこと教えてくれたらわたしもその人のこと教えてあげようかなあ」


「ほんとに?」


「うん本当」


 頷く加納さんを信じ、ポケモンのことを教える気になったが、何も知らない人にポケモンを教えるなんて初めての経験だった。何から話したものか悩む。


「じゃあとりあえずポケモンのどんなことについて知りたいの?」


「う?ん……じゃあ君がいつも葛葉くんと話してる努力値? とか個体値?だっけ?それってポケモンのことなんだよね。そのことについて聞きたいかな」


 葛葉とは僕の数少ない友達の一人であり、ポケモン仲間の一人だ。そいつと話していることを聞いてポケモンについて興味を持ったのだろう。


「え、加納さんは僕と葛葉くんとの話聞いてたんだ、僕たちそんな大きな声で話してたっけ?」


「う、うん。だってほら君は気づいてないかもしれないけど大きな声で話してたよ」


「そ、そう?」


 僕としてはそんなに大きな声を出した覚えはないのだが、クラス中に聞こえていたらしい。

 自分の趣味の話になるとついつい調子に乗って大きな声で話してしまうことは僕だけではないはずだ。

 ……これ結構恥ずかしいな。今度から気をつけよう。

 そう心に誓っていると、加納さんはジトっとした目でこちらを見てくる。


「おーい。聡くん早く説明してくれれば嬉しいんだけど」


「ごめんごめん、えーとどこまで話したっけ?」


「何も話してないじゃない」


「え、何も話してなかったっけか。ごめんって」


 何か考えていると気がつくとその考えることに熱中してしまうのが僕の悪い癖だ。反省しながら謝る。


「加納さんはポケモンはやったことあるの?」


「一応、クラスで流行ってたから小学生の時に少しだけならやったことあるけど…」


「オッケー。じゃあ、まずは種族値についてから説明しようか。種族値っていうのは一番簡単に説明

するには動物で例えるのが早いかな」


「動物?」


「そう動物。例えば、人が走るのとチーターが走るの、どちらが早いかわかるよね」


「それはもちろんチーターでしょ」


「うん。その通り。それと同じようにポケモンでも、例えば同じように育ててもガブリアスとビッパ

の強さは違うのはわかるよね」


「まあ確かにそんな気はするけど」


「そう。それぞれのポケモンの能力値の違いが種族値って言って、HP、攻撃、防御、特攻、特防、素早さに分かれていて同じように育ててもそれぞれがどれぐらい育つか変わってくるんだ」


「ん? うーん。わかったようなわからないような」


「具体的にいうと例えばガブリアスの種族値はHPが108、攻撃力が130、防御力が95、特攻が80、特防が85、素早さが102といった風に決められていてそれがポケモンの性能、つまりどのポケモンがどれぐらいの攻撃ができて、どれぐらいの防御力を持つということが決まってくるんだ」


 ポケモンごとのどれぐらい早く動けてどれぐらい防御力があって、どれぐらい攻撃力の違いといえばわかりやすいだろうか。


「えっと、種族値についてはわかったけど……あのさっきの数値ってもしかして覚えてるの?」


 そう言われて彼女を見ると思いっきり引いていた。


「まあ一応」


「きも」


「き、きもくないって、ポケモンをガチでやっている人だったらこれぐらいの暗記は基本なんだって、じ、地味に傷つくからやめて」


 ポケモンをガチでやっている人はガブリアスの種族値ぐらいは暗記している。嘘かと思う人もいるかもしれないが本当の話である。

 それを超えた廃人と呼べるレベルになってくると、ネット対戦でよく使われるポケモンの個体値をほとんど覚えているのが普通だ。


「その暗記力を勉強に活かせばいいのに」


「ほ、ほら好きなことだと覚えられるけど嫌いなことって覚えられないんだよ」

 勉強をせずにポケモンのことばかりやっていたら、成績だって悪くなる。ちなみに僕の成績は留年するかしないかぎりぎりのライン。そんなレベルだ。正直にいってかなりやばい。


「今度わたしが勉強教えてあげようか? ポケモンのこと教えてくれたお礼に」


「いいの? 加納さんが教えてくれるんだったら僕の成績もなんとかなりそうだよ」


 加納さんはクラスの中でもずば抜けて成績のいい方だ。

 その加納さんに教えてもらうことさえできれば僕の留年すれすれな絶望的な学力もなんとかなりそうな気がする。


「君も暗記力はありそうだからなんとかなりそうだけどなあ」


「いやいや、勉強に関しての記憶力はほんとごみだから。具体的に言うと、前の日にやった授業の内容を次の日には忘れているレベルだからね」


「そんな人いるの? わたしは授業聞いただけでテストはなんとかなるなあ」


「なにそれ、羨ましい」


 こういう記憶力は個人差がでてしまう。記憶力がない僕にとって記憶力がある人は本当に羨ましい。


「じゃあ約束ね」


 そう言って加納さんは小指を僕に向かって差し出す。


「何?」


「勉強会のこと」


「そうじゃなくて。この手は何?」


「指切りげんまんしとこ」


「そんなことしなくても嘘はつかないって」


「いいから」


「いや……その」


「嫌……だった?」


 加納さんは上目遣いで見て、聞いてくる。


「嫌とかじゃなくて……。その、普通に恥ずかしくない?」


「いいから! ……ね?」


「じゃあ、うん」


 僕は恐る恐る加納さんの小指に自分の小指を絡ませる。


(ああ、柔らかい。小さい。可愛い)


 僕はそんな幸せな感覚に浸ってしまう。

 気持ち悪いとは思うかもしれないが許してほしい。滅多にこうして女子とふれあう機会なんてないから仕方ないじゃないか。


「指切りげんまん。嘘ついたら針千本のーます。指切った」


 加納さんはそんな風に歌って指を離す。幸せを感じすぎてついその離した指を少しだけ残念に思ってしまった。


「てことでポケモンの話について続きを話してもらっていいかな」


「えー、まだ聞きたいの?」


「当たり前じゃない。まだ種族値しか聞いてないよ」


「いやあ、これ以上ポケモンのことを話したらまたキモがられるかなあと思ってさ」


 前述した通り自分の趣味を人に話すのはキモがられるようなことをベラベラ話してしまいそうだ。


「いや、あたしはそんなことないけど。むしろポケモンがその種族値を覚えなきゃいけないほど奥の深いゲームだとは知らなかったから逆に興味を持ったわよ」


「でもさっきはキモいって言ったじゃん」


「普通にキモかったからキモいって言っただけで」


「やっぱりキモいんじゃないか」


「でもほらキモいのと好奇心は別だから」


 まあでも興味を持っていてくれてはいるのだろう。でないと、この先まで聞こうとは思わないはずだ。


「はあ、わかった。いいよ。じゃあ次は個体値について話そうか」


「もう、早くしてよね」


「個体値はね。一言で言うと、ポケモンそれぞれの個体の差と言ったらいいかな」


「個体の差って言われてもわかんないんだけど」


「まあ例えるならば僕と加納さんの記憶力で例えたほうがいいかな。同じ人間という種族なのに、僕は一日で忘れてしまうことを加納さんは二、三ヶ月先まで覚えてる。ポケモンもこれと同じで、個体値の違いによって、同じポケモンでもそれぞれの個体によって差が生まれるんだ」


「なるほどそれで個体値って言うわけね。ほんとにポケモンを動物としてたとえたらわかりやすいかも」


「個体値はHP、攻撃、防御、特攻、特防、素早さごとに決まっていて、レート対戦で使えるようにするには何個も卵をうましたり、何回もゲットし直したりする厳選でその個体値を最大にしなきゃいけないんだ」


「へー、ちなみに一匹の個体値が最大になるには何匹ぐらいゲットしないといけないの?」


「まあ、出る時の運と育成環境にもよるけど、大抵五十匹以上はかかるかな」


「五十匹!? そんなにかかるの?」


 加納さんは目を見開いた。

 そんなに驚くものだろうか。僕達にとっては普通だったため加納さんが声を荒げて驚いているのが少し意外だった。


「うん。まあもっと極めるんだったらそれ以上にかかることになるけどね。よく考えてみるとこんなに対戦する前準備がこれほどつまらなくて時間がかかるゲームって他にないんじゃないかな」


 モンハンとかでも武器を作るのも、ポケモンほど作業感は無いだろうし。

 いつも通り過ぎて普通に感じていたけどよく考えてみると異常かもしれない。

 そうか。ポケモン廃人は皆、異常だったのか。


「……それってやらないといけないの?」


 加納さんは驚きが止まらないのかおそるおそるという風に聞いてきた。


「うん。もしこれをやらなかったら、レートで耐えたかもしれない相手の攻撃を耐えなかったり、倒せてたかもしれない相手を倒しきれなかったりして勝てた試合が勝てなくなる可能性が出てくるんだ」


「えー…、それってポケモンやってる人全員やってるものなの?」


「まあレート対戦をやってる人だったらたぶん誰でもやってるだろうね」


「それが普通ってやばくない? そんなのできるわけないじゃん」


「……一応、ポケモンレート対戦をやってる人は多くて二十万人、少なくても十万人はいるんだけど」


「十万人!! そんなにいるんだ。ていうかそれを普通に十万人がやってるってやばい」


「まあその次に努力値を振らないといけないからもっと時間がかかるんだけどね」


「そういえばまだ努力値について聞いてなかったね。ていうかこれ以上にも時間かかるんだ…」


「まあね」


 慣れればなれるほどポケモンを育成する環境が整っていき、今となっては別に大変だと思いもしないようになった。まあでも僕も初めのほうは驚いたし、当たり前の反応なのだろう。

「えっと、とりあえずその努力値についても教えてほしいな」


「ああ、そうだったね。えっと、努力値っていうのは、まあ例えるとするならば、無いとは思うけど

僕がポケモンをやめて勉強に専念するようになったとするだろ」


「ポケモンやめることないと思うんだ」

 加納さんは呆れたような目でこちらを見る。


「まあそれは置いといて、そこで僕がいくら勉強できないとはいえ、努力して勉強したらたぶん成績伸びるよね」


「まあそうだろうね」


「それをポケモンで言うと、相手のポケモンを倒せば倒すほど、自分のポケモンが強くなっていくんだ」


「なるほど、それが努力値って言うわけね。でもそれって、ずっと倒し続けてれば永遠に強くなって行くんじゃない?」


「いや努力値には合計の上限が決められていて、HP、攻撃、防御、特攻、特防、素早さのどれに重点を置くかによって、それが戦略に大きく関わってくる」


「ん? どうゆうこと?」


「例えば、普通なら負ける相手のポケモンと対面したとしても、努力値の振り方次第で返り討ちにすることができて、でもそうすることによって倒せてたはずの相手に逆に倒されたりするんだ」


「それが戦略性ってのは?」


「ああ、だって、その努力値振りによってどのポケモンを相手させるかが変わってくるから、どうやって相手に勝つか全然変わってくるんだ」


「ふんふん。なんとなく努力値と、個体値、種族値についてはわかったよ。けどさ。ちなみにその個体値と努力値なんかを全部終わらせて一匹のポケモンを育て上げるのに何時間ぐらいかかるの?」


「まあレベル上げも含めると軽く五、六時間は普通にかかるかな。それをパーティ構成を考えて六匹作り上げて対戦するのを考えると、ものすごい時間はかかるな」


「それって……やってて楽しい?」


「楽しいんだって。まあ確かに作業はつまらないし、大変だけど、育て上げたポケモンがレート対戦で活躍して勝つことができれば本当に嬉しいし、負ければ悔しい。それが楽しいんだ」


 一喜一憂すること自体が本当に楽しくて僕はその魅力にとりつかれた一人だ。

 もちろんポケモンは運も絡むゲームだから、運負けすることによって本気でやっているからこそ、キレそうになることだってある。

 でも読みや戦術がハマって得た勝利という名の麻薬はその負けすらも忘れさせるほどの魅力を持っている。


「でもはっきり言って、言葉だけじゃポケモンの魅力は言い表せないよ。だけどこれだけは言える」


 僕は一旦、言葉を打ち切り、息を吸い込み、



「ポケモンというゲームは神ゲーだ」



 そう僕は祈るように言い切った。


(加納さんには少しでもポケモンの魅力が伝わっただろうか)


 少し不安になりながら僕は恐る恐る加納さんを見る。


「なんか楽しそうだね。あたしも少しやってみようかな」


 加納さんはそう言ってくれていた。


「本当?」


「とりあえずなんか楽しそうなのはわかったし……うん。やってみたいな。まず何からやればいい?」


「とりあえずDSとポケモンのカセットを買って欲しいんだけど二万円ぐらいするけど大丈夫?」


「たしかDSなら弟が使ってないのがあったはかも」


「じゃあカセットだね。中古でもいいなら今なら三千円ぐらいで買えたはずだよ」


 中古の場合は、たまにクリア済みで、育成済みのポケモンがいることがあり、新品で買うよりもいい場合もあるくらいだから今から買うのであれば中古のほうがいいだろう。


「三千円ぐらいならお小遣いもらったばかりだから大丈夫」


 そう言ったのを聞いてから僕はふっと息を吐き、窓の外を見ると、窓の外からオレンジ色の光が差してきている。その光が眩しくて、僕はそっと手で目を覆い隠し、夕日を遮った。

 そのおかげで、もうすでに夕日が差し込むほどの時間になっているのかと気づき、時計を見ると、六時を回っていた。


「じゃあ僕は帰るから、買ったら教えてね」


 なかなか長い時間話していたせいでなかなか遅い時間になってしまった。早めに帰らないと宿題などもしなければならないし、何よりポケモンをする時間がなくなってしまう。

 そう思って鞄を急いで手に取り、早足で帰ろうとした。


「待って」


 加納さんは僕の手を取り、引き止めた。


「ま、まだ何かあるの?」


 僕は突然手をつかまれたことに驚いたせいで声が上ずってしまった。

 本当に加納さんは距離が近い。僕みたいな女の子とのかかわりの薄い男子には緊張しかしないから勘弁してほしい。

 とそんな抗議の目でみると、加納さんも少しは照れているのか目を合わせてくれず、意を決したのか口を開いた。



「あ、あのさ。これから一緒に買いに行かない?」



「へ?」


 予想外のことを言う加納さんを変な声が出てしまった。


「いいじゃん。行こうよ」


 そうやって僕を無理矢理引っ張っていこうとする。加納さんの手を引っ張り返す。


「なんで? すぐそこに中古ショップがあるからそこに買いに行けばいいじゃん。別に僕がいなくてもいいんじゃない?」


「だって一人でポケモンを買いに行くのはちょっと恥ずかしいじゃん。それに学校の近くの店だよ。そんなの学校の人に見られるに決まってるじゃん。だから他のところお店で買いたいの」


 僕はそうでもないが、なるほどたしかに大学生にもなってポケモンをしているというのは恥ずかしいかもしれない。


「だけどほら、僕と二人で買いに行くわけでしょ。それは変な誤解を生みかねないんじゃ」


「いいからさ、いこ」


 そう言って加納さんは僕の手をさらに強く引っ張るが、僕は何とか阻止しようと、手を引っ張り返す。


「いや、ダメだって」


「えー、ダメなの?」


「ダメだって。だってほらいろいろな人に誤解されかねないよ。例えば加納さん気になってる人がい

るって言ってたじゃん。その人に誤解されたらどうするの?」


 僕は手を引っ張り返しながらそう言って脅した。いくら加納さんだってそれは嫌だろうと思ったが加納さんはそんなことを言っても気にするそぶりも見せず、ニコッと笑ってこう言った。


「大丈夫だよ」


「なんで?」


 意味が分からない。加納さんだって気になる人に誤解されたら困るはずだ。例えその本人に見られないとわかっていたとしても噂とは恐ろしいもので刹那の間に広がってしまう。加納さんみたいなかわいい女の子の色恋沙汰はもっと早いだろう。

 そのことを理解していないはずがない加納さんがどうしてこんなにあっさり頷けるのだろう。

 僕は理解に苦しみ首を傾げると加納さんはふふっと笑って僕に向かって指を差す。



「だってあたしの気になってる人って君のことだから」



「へ?」


 僕は理解が追いつかず、変な声がでて急に力が抜けてしまう。


「わ、わああ」


 僕が力を急に抜いてしまったことによって力のバランスが狂い、僕は加納さんのほうに倒れこみ、加納さんは僕が押し倒したように倒してしまった。


「痛っつー……ごめん」


「そ、それはいいんだけどさ。早く離れてくれないかな?」


 そう言われてようやく目を開けると、僕の手は加納さんの胸のあたりを触っていた。


「ご、ごめん」


 そう言って僕は急いで離れる。


「あはは、もうこんな冗談に騙されないでよ」


 加納さんは僕を騙したのが嬉しかったのか嬉しげに笑う。


「冗談?」


 僕はあまりに驚いてしまっていたため聞き返してしまった。


「うふふ、うん。冗談だよ。本気かと思った?」


 い、一瞬本気かと思ってしまった。そうだよね。加納さんみたいな人が僕なんかを好きになるはずがないよね。

 しかし、いくらわかりきっているとはいえといって,簡単に加納さんを許せるわけでわない。


「この貧乳」


 そうボソッと呟く。すると、加納さんは眉をピクリと動かした。


「今なーんて言った?」


 加納さんは怖いほどの満面な笑顔を浮かべて言った。


「べ、別に、何も言ってないよ」


「今なーんて言った?」


 加納さんは全く笑顔を崩さず同じ口調で言う。

 怖い怖い怖い怖過ぎる。

 加納さんって怒るとこんなに怖いのか。今度から絶対に怒らせないようにしないと。


「す、すみませんでした」


 あまりにも恐ろしすぎて、不良漫画に出てくるモブ並みの勢いで深々と頭を下げてしまった。

 あのモブ達は毎回こんな怖い思いをしているのか。大変だな。


「反省してる?」


「も、もちろんです」


「じゃあ手伝ってくれる?」


「えーと、ほら僕だっていろいろやることあるんですよ」


 早口でまくし立てるが、嘘をつくのが下手くそなせいで疑いの目で見られる。

 本当はやることがあるわけではないのだが、単純に女の子と二人で出かけるということにびびってしまったのだ。


「ダーメ。ついてこないと許さないよ」


「えーっと……、でも……」


「いいからいくよ」


 そう言って加納さんは僕の手を掴み引っ張る。


「わ、分かったから。い、行くから手を離してよ」


「ダメだよ。だって離したら君逃げるでしょ」


「大丈夫だって逃げないから」


「約束だよ」


 そう言って加納さんは手をそっと離す。

 あまりの緊張から解放され安心し、僕はそっとため息をつく。まあ仕方がない。同じポケモン仲間が増えることはいいと思うし、加納さんのことを手伝うことにしよう。

 そう思って先を急ぐ加納さんの後をついていくことにした。




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