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しっぽなき猫  作者: 風来星楽
しっぽなき猫の後日談
7/7

しっぽな猫の最期……

 父の勤めていたセンターに向かった。そこで、父がタマをいつから飼い始めているのかを聞きにきたのだ。職員は、「十年前から」と言った。私は、びっくりした。父の家には毎年行っている。なのに猫はいなかった。どうしてだろうか。私には、わからなかった。でも、一つだけわかったことがある。父は、自分が死んでしまうかもしれないと分かっていながら、タマを飼い続けていたことである。十年前、私の父は余命五年の宣告を受けていた。入院すれば、もっと長く生きれるからって説得しても、苦しんでいる猫がいる限り、私はやめられない、そう言ってセンターの仕事を続けていた。それから一年が経ったときに、もう一度、入院するように言った。そのとき、父は「私が入院すれば、大切なものが悲しむから」と言って、入院しなかった。このときの大切なものは、このタマの事だったのだろうか、と今思う。職員によれば、タマを飼い始めたのは、一二月だったという。父が余命宣告を受けたのは、同年の一一月であった。


                      ✻


あぁ、なんでだろう。あの家族に不安を抱くようになってしまった。僕は、その後、あの家族に引き取られた。楽しい生活を送れるのか。また、地獄のような生活を送るのか、わからない。不安でいっぱいだった。だから、後ろから触られるとギャーと叫んでバリかいてしまうこともあった。怖い、この家族が。みんな僕のことをにらみつけて、“死んでしまえ”みたいに言っているように思える。だけど、この家族を信じて生きていくしかない。僕に残された選択肢は一つだけであった。次は、どこを傷つけられるのだろうか。そんな不安でいっぱいだった。こうして僕の新しい生活が始まったのであった。

 僕は、おじさんのときとは、まったく違う、生き地獄のような生活であった。この家族は、僕のことをバカにしてくる。エサは、一日1回、三十グラムくらいしか与えてくれなかった。でも、ある日、僕に光が差し込んだ。それは、里親を探してくれるというものだった。あのおじさんが勤めていた動物保護センターの職員が、里親を探してくれるというのだ。あの家族が、頼んだらしい。あの家族は、経済的に僕を育てる余裕がなかったのだ。決して、僕を逆呈していたわけではなかった。

 そして、僕はセンターに連れてこられた。検査を受けた。あまりご飯を食べさせてもらえなかったせいか。とても痩せ干せてしまっていた。僕は、一カ月ほど、センターで育てられて、里親が決まった。そして、僕は、ゲージ入れられた。ついに、里親の元に行くんだ。うれしい。きっと、幸せな生活が待っている。そう思い、心を躍らせた。


一か月後、僕は、センターがある町、つまり、おじさんの住んでいた町の老夫婦の元で暮らすことになった。正直怖いけど、おじさんが見守ってくれていると思えば、うれしかった。だって、おじさんの家から十メートルも離れていないところの家で、おじさんも、“うちにかわいい猫がいるんだよ”と自慢していたらしい。それと、“もし私が死んで、息子夫婦が育てられなくなったら、この猫をよろしく”と言っていたらしい。だから、僕のことを、老夫婦は、とても可愛がってくれた。僕は、この夫婦の元で幸せに過ごした。あのおじさんと同じくらい楽しかった。でも、僕は、おじさんのことが忘れられない。毎日毎日玄関に行っては、おじさんの家の方向を向いて、ニャーニャーと鳴いている。おじさんに“僕はここにいるよ”と伝えるように…。時が過ぎ、僕は、いつの間にか亡くなっていた。いや、僕は、おじさんの元に言っていたのであった。


                      ✻


 私は、保護センターに電話をした。

「あの猫が死にそうなんです。」と言うと、「今すぐ、向かいます。」と返ってきた。

電話を切ると、タマを抱っこした。

「タマ、死なないよな、元気だよな。まだ、おじさんのところに言っちゃダメだよ。」と涙を流しながら言った。五分後、センターの人が来た。私は、タマを連れてこようとした。でも、その必要はなかった。タマは、自ら玄関にやってきたのだ。そしてニャーニャーと鳴く、おじさんの家の方向を向いて。タマは、目を閉じ、足を折り曲げ、おじさんの家の方向を向きながら、最期にニャーと鳴いて、死んだ。死んでしまった。そこにいた三人は泣いた。おじさん以上に悲しんだのかもしれない。


                       ✻


 この話を聞いた私は老夫婦の家にお伺いした。老夫婦に

「タマは最後の時まで、父に起きてほしくて、一緒にいたくて、遊びたくてずっと泣き続けた。多分、タマは、誰一人恨んでいない。みなさんがタマを幸せに育ててくれたからこそ、いい死をタマにとって迎えられたと思います。きっと、父とタマは天国で楽しく遊んでいますよ。そして、父にとってもタマは希望だった。余命五年だといわれたのに、十年は生きた。タマはかけがえのないものだった。そして、父は、タマにとってもかけがないものだったと、しっぽなき猫のタマにとって、希望だったと思うんです。」と泣きながら言った。


 そして、タマは、火葬されて、おじさんのお墓の近くに墓を作り、おじさんとタマは、天国でもずっと一緒にいて、ずっと一緒に遊ぶだろう。そして、天国でも、互いにかけがえのない存在となるだろう―――――。


         “タマと親父、元気で過ごせよ“と心の中でつぶやいた。








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