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しっぽなき猫  作者: 風来星楽
しっぽなき猫の後日談
6/7

おじさんの死…

 十年の月日が過ぎた。おじさんは亡くなった。僕の目の前で倒れたんだ。外にニャーと鳴き叫んでも、誰も気づいてくれなかった。だから、おじさんは、死んでしまった。僕に、何か言いたそうに、手を差し伸べながら。僕は、おじさんの隣に寝転がった。僕は、ニャーニャーと鳴いたり、猫パンチをしたり、ばりかいたりして起こそうとした。結局、起きなかった。びくともしなかった。助けに誰も来ない。おじさんの家族は、僕が来てから、誰一人来ない。いや、いないのかもしれない。でも、こんな優しいのにいないはずがない。

 おじさんは、毎日朝六時ぐらいに起きて、エサを置いて職場に向かう。昼の十一時くらいに一度帰ってきて、ぐゅーと抱きしめてくれる。また、職場に出ていく。夜の十時に帰ってきてくれる。そしてまた、エサをくれる。夜は一番豪華であった。まぐろやはまち、かつおがエサの上にのっている。二枚、三枚。毎日のっている。毎日のっているものは変わる。あのときの家族と同じようだった。おじさんも“あの家族”も僕を見るたびに笑ってくれた。「かわいいね」と言ってくれた。うれしかった。本当に…。そんな当たり前の日々が今日、終わった。おじさんが死んでしまったから…。エサもない、だからお腹が空いた。喉も乾いた。“かわいい”とも言ってくれない。ぎゅーとも抱きしめてくれない。なぜ死んでしまったんだ、僕の目の前で。僕にとって、おじさん、あなたは、かけがえのない人であったのに――――。


 三日後、おじさんの家族がやってきたんだ。いや、“あの家族”が…。


                      ✻



“ピーンポーン”と一番下の息子がインターホンを鳴らす。中からはニャーニャーと聞こえるだけ。どこかに行っているのかな、と思った。でも、車も止まっていいる。どこかの行っているとは、考えにくかった。

「おじいちゃん、いるなら出てきてよ。」と息子が言った。でも、出てこない。私の妻は「お義父さんって猫飼っていたかしら]と聞いてきた。私は、父が猫を飼っているとは聞いてないと答えた。私は、合い鍵を使い、玄関のドアを開けた。

「お父さん、いるの?」と私は叫んだ。でも、返事がしない。すると、一番上の息子が泣きながら走ってきた。「おじいちゃんが…。おじいちゃんが…。」言葉が詰まり、とても焦っているようだった。息子の後を追う。私は、息子が指さす方向を見た。そこには、お父さんが倒れていた、猫が隣で寄り添いながら……。

 私は、すぐに救急車を呼んだ。しかし、遅かった。くやしかった。自分を恨んだ。もっと早くお父さんに会いに来てあげればとよかったと…。悲しさと悔しさが満ち溢れる中、家にいた猫のことを思い返した。あの顔、あの模様、そしてしっぽがないということ。私は、父の家に戻った。まだあの猫がそこにはいた。首輪がつけてあった。そこに“タマ”と書かれていた。そうだ、あの時の猫だ。タマなんだ。外出先で逃げ出し、車にひかれ、河川敷に飛ばされて、どこかに行ってしまった、あのタマなんだ。

父の葬式のあと、遺品を整理していたら、一枚の紙を見つけた。そこには、

“もし、私が死んだら、この猫を大事にしてあげてください。

              あの時、車にひかれて探せなかったタマです。“







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