91.パーティ交流
ここからエピソード12となります!
Sランク冒険者チーム『光の翼』の臨時メンバーとなった私は、彼らとともにすぐにガスターホルンの街から旅立つことになりました。
なんでも誰よりも早く、師匠──【奈落】の状況を確認する必要があるのだとか。
「すまないね、バタバタの出発で。誰かに言わなくても大丈夫だった?」
「いいえ、エーデル。特に問題ありませんわ」
ウルフェたちには黙って出てきましたが、彼らも子供じゃないのでまぁ大丈夫でしょう。
旅程については、スライが教えてくれます。
「『冥界ダンジョン』へと向かうためには、途中二つのゲートと一つのダンジョンを潜り抜ける必要があるんだ。だいたい3~4日くらいで到着するかな?」
「わかりました」
基本的に人見知りな私が、ほとんど話したことのない彼らと旅することは、正直不安でした。
ですが私はすぐにこの旅が──予想外に楽しいことに気づきます。
なにせ、リアル女の子が二人も身近にいるのですから。
「シアはどこ出身なの?」
「神国ですわ、フィーダ」
「なるほど、だからおっとりしてるのね。なんとなく神国出身の人って穏やかな人って印象だわ」
「あなた、何か魔法は使えて?」
「いいえ、イスメラルダ。《魔法薬作成》以外はからっきしですわ」
「不思議ねぇ……なんだかすごく魔法を使えそうな雰囲気を持ってるのにね」
「雰囲気だけですわ」
「そっか、でも何があってもシアちゃんもアタシが守ってあげるからね。伊達にアタシらSランク冒険者じゃないんだから」
「それは心強いですわ」
フィーダは元々優しかったのですが、イスメラルダも一旦メンバーとして受け入れてくれるとかなり優しい女性でした。今のように、気を使って色々と話しかけてきてくれます。
学園を出て以来、久しく女性──龍を除く──と話す機会が少なかった私にとって、これはとても幸せなことです。
……あれ。これってもしかして、ウルフェたちと居るよりも楽しくないですかね。
「いいなー、俺もシアちゃんと話したい!」
「ダメよ、スライはナンパするもの」
「シアはあたしたちがケアするもーん。男はあっちいって、しっしっ!」
スライやエーデルにちょっかいを出されそうになっても、すぐに二人がフォローしてくれます。
あぁ、なんだが学園で過ごしてた頃を思い出しますね。遠い昔のようですが、オルタンスやピナ、ナディアたちは元気でしょうか。
やがてフィーダの話は、以前レウニールの街で出会った天使──すなわち昔の私の話に移っていきます。
なんでも『光の翼』というチーム名も、天使の発言が元になっているのだとか……。
私、なにか言い残しましたかね?
エクスロット……まったく覚えがないのですが……。
「だからあたしもお兄ちゃんも、その時以来ずっと『白銀色の天使』を探してるんだ。白銀色の髪を持つ、ものすごい治癒魔法を使う女の子なんだって。って言うのも、お兄ちゃん以外は誰もその人を見てないのよ。当時あたしは盲目だったし、そもそも仮面を被って顔を隠してたらしいのよねぇ」
「はぁ……」
「その人はね、死にかけたスライとイスメラルダを治療して、当時盲目だったあたしの目も見えるようにしてくれたの。実はそのとき目覚めたのが──《魔導眼》っていうギフトなんだ。このギフトはね、相手の強さをある程度見ることができるんだよ」
ほほー、なんとなく鑑定眼の劣化版のような印象を受けますね。実は鑑定眼も相手の強さを見ることができるのですが、情報量が多くて面倒なので遮断しています。
「でもなぜかシアの強さは見えないんだよねぇ。どうしてかなぁ?」
……それはたぶん、私の魔力がフィーダの魔力量を大幅に上回っているからではないですかね。
以前エルマーリヤを鑑定した時も、彼女の能力を見ることができませんでした。おそらくそのときと同じ現象が起こって──情報を阻害しているのではないかと推測されます。
「ところでシアはポーションをたくさん持ってるんだよね? 普段はどこにしまってあるの?」
「はい、ここにあります」
「えっ!? それって次元指輪!? うわーすごい! スーパーレア級じゃない!」
「祖母の形見なんですよ」
「あら、大事なものなのね。うちのパーティもイスメラルダが一個持ってるんだけど、ダンジョンでドロップしたときは大喜びだったわ。ねぇねぇシア、よかったら入り口を開けて中を見せてもらえない?」
「いいですよ」
私はフィーダに言われるがままに次元指輪の入り口を開けます。
空間に黒い穴が形成されて──。
『しぎゃー』
「っ!?」
あ、『七人の聖導女』を入れっぱなしだったのを忘れてました。これはいけません、私は慌てて次元窓を閉めます。
「ね、ねぇシア。中から変な声が聞こえたような気が……」
「気のせいですわ」
「でも『しぎゃー』って……」
「気のせいです」
強引にフィーダを言いくるめると、改めて中からポーションを取り出します。
私の作った黄金す──もとい、リリーポーションを渡すと、フィーダは驚きの表情を浮かべました。
「なにこれ、すごい……治癒の力が満ち溢れてるわ。シアは相当腕がいいのね」
「ありがとうございます、母親に鍛えられましたので」
「お母さん……神国出身ってことは、どこかの優秀な神官さんなのかな」
「すいません、プライベートなことはちょっと……」
「あ、ごめんね。いろいろ聞いちゃって」
こうして匂わすことを言うと、フィーダは勝手に解釈して納得してくれるので助かります。
本当に良い子ですね、彼女は。どうにかして素体としてキープしたいです。
ガスターホルンの街にあるゲートをギルドからの許可証を示して優先的に潜り抜けると、私たちはあっという間に連邦最大の都市サンナミに到着しました。
余裕のある旅ならば街の散策でもしたいところなのですが、先を急いでいる私たちは街に滞在することなく、すぐに街を出て近くの山──ウラニール山脈の一角をなすダマヴァル山へと向かっていきました。
「ごめんねシア。強行軍になるけど、アタシたち先を急いでるからさ」
「問題ありませんよ、イスメラルダ。そもそも同行を希望したのは私の方ですからね」
「……あなた、思ってたよりいい子ね。出会ったときは厳しいこと言っちゃったけど、それがあなたを守ることに繋がると思ったからであって、その……悪気はなかったのよ」
顔を赤くして背けながらしどろもどろに言い訳をするイスメラルダ。
普段はつっけんどんな彼女が照れると、果てしなく可愛く見えます。もしやこれが……噂に聞いたことがある〝ツンデレ″というやつですかね? だとすると、なんという破壊力でしょうか。
いつも優しいフィーダも悪くありませんが、こうなってくると私も評価の基準を考え直す必要があるかもしれません。
「しっかし、ダンジョンに潜るために登山をするってのも皮肉な話だよなぁ」
「仕方ないだろ、この先にある『針山地獄』の中に『冥界ダンジョン』近くに飛ぶゲートがあるんだからさ」
スライとエーデルが話している通り、私たちはダマヴァル山の中腹にあるエクストラ・ダンジョン『針山地獄』に向かっています。エルマーリヤの胸にあったエクストラ・ダンジョンもそうですが、どうやらエクストラ・ダンジョンにはゲートがあるケースが多いようですね。これは記憶に留めておくことにしましょう。
「ダンジョンの中にゲートねぇ……しっかしゲートってのは不思議なもんだよなぁ」
「たしかに、どういう基準で湧くんだろうかね」
「魔力の淀みが溜まる場所に発生すると言われていますわ。特にここウラニール山脈は地下に巨大な魔力が揺蕩っているので特に湧きやすいんでしょう」
「え?」「へ?」
私の説明に驚いた表情を浮かべるエーデルとスライ。もしかして知らなかったのですかね?
「それは……シアちゃんの持論かい? それとも誰かに教わったとか」
「私は一般知識だと思っていましたが」
「いやいや聞いたことねーよ! あぁ、神国にある賢者の学園なんかだと教えてたりすんのかな?」
おや、どうやら本当に知らなかったみたいですね。
確か私がこの知識を得たのは──そういえば師匠からだったでしょうか。あの頃の師匠はまだ正気を保っている時間が長かったので、時々有益な情報を教えてくれたりしていたんですよね。それも時が経つにつれて徐々にコミュニケーションが取れなくなっていって、命の危機を感じた私は師匠の下を離れることになったのですが……。
「なぁシア、これからオレたちが挑むエクストラ・ダンジョンは命の危険を伴う難易度の高い場所だ。いくらオレたちがSランクだといっても、無傷ではいれないくらい難しい。だから君を──優秀な回復担当を確保したんだ」
エーデルが説明するには、『針山地獄』はエクストラ・ダンジョンの名がついているとおり、致命的な罠が大量に存在し、出現するモンスターも全身が針山みたいな奴らばかりが出現する、とても負傷率の高いダンジョンなのだそうです。
そのダンジョンの第一層のかなり奥の場所に──【奈落】の住処である『冥界ダンジョン』の近くに繋がるゲートがあるのだとか。
「だから、君の魔法薬には期待している。戦闘はオレたちに任せてもらっていいから、ケガしたときのサポートはよろしく頼むよ」
「ええ、お任せください」
ポーションはたっぷりと用意してありますので安心してください。
それにもし足りなくなったとしても──裏技がありますからね、ふふふ。




