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90.【奈落】

 冒険者ギルドの壁には、数々の依頼とともに懸賞金がかけられた存在が張り出されている。

 通称──賞金首。

 主に犯罪を犯したものなどが、その首に懸賞金がかけられて掲示されているのだ。


 だが賞金首は人だけでなく、有名な魔獣やモンスターなどにもかけられていた。

 その中でも頂点を極める額が設定されていたのが、四体の至高のアンデッド──【終わりの四人ラスト・フォー】と呼ばれる存在のうちの一体。

 不死の王にして不死者の王。歴史上最強最恐最悪の死霊術師ネクロマンサー

 ──【奈落ジエンド】プロフォンドムである。

 かの存在の賞金額は、なんと1000億エル。これは小国の国家予算をも上回る莫大な額であった。



 【奈落】については、いつ生まれたアンデッドなのかは明確ではない。かなり古い──長い年月存在していることだけは確かである。


 【奈落】が歴史上初めて明確にその名を残したのは、今から500年ほど前に起こした『ヤニ王国の滅亡』である。


 かつて南方を支配していたヤニ王国という大国が、【奈落】ただ一体によって王都の人口10万人以上を全員アンデッドにさせられて滅びた。

 この逸話は、有名な伝説『ヤニ王国と闇の王』の中で詳しく語られている。


 内容は要約すると、こうだ。

 ある日、ヤニ王国の王が配下たちに命じて世界最高の宝を手に入れろと命じた。

 配下のものたちは、きっと闇の王──つまり【奈落】であれば最高の宝を持っているはずだと考え、彼の住まいを襲撃する。

 怒った【奈落】はその報復として、ヤニ王国をたった1日で滅ぼしてしまった。

 今でもヤニ王国の元王都は、死者の都として大量のアンデッドたちが徘徊する魔窟と化しているのだという。


 ──その【奈落】が、機能を停止した。

 アンデッドには死という概念がないため、消滅した場合は『滅びた』『昇天した』といい、遺骸が残ったままの場合は『機能が停止した』と表現する。


 つまり【奈落】は、その姿を残したままアンデッドとしての生を終えたのではないかと、報告を受けた冒険者ギルドは判断していた。


 もしそれが事実であれば一大事である。

 【奈落】はその存在の恐ろしさだけでなく、所有する莫大な財宝──戦略的兵器級の魔法道具を数多所有していると考えられていた。


 誰よりも早く、【奈落】の遺産を手に入れなければいけない。

 ゆえに連邦の冒険者ギルドは信頼できる最高の冒険者を確認のために遣わす判断を下す。


 選ばれたのは──。




 ◇◆




「おいおい可愛いお嬢ちゃん、マジかよ?」

「ちょっとあなた、本気?」


 私が連れて行って欲しいとお願いすると、スライとイスメラルダが戸惑いながらも問いかけてきました。

 ちなみにスライは緑色の髪の──軽薄な感じの雰囲気のイケメンです。きっとたくさんの女性を泣かせてきたに違いありません。許すまじです。

 一方のイスメラルダは金髪にロール髪の美女です。双丘が無いのと気の強そうな釣り上がった目がちょっとマイナスポイントですが……男とメスしかいない環境にいた私からすると、目の保養以外の何物でもありませんね。


「あ、自己紹介が遅れたね。俺はスライってんだ、よろしくな、かわい子ちゃん!」

「あたしはイスメラルダよ。それで、あなた──」

「シアです」

「シア、あなたの冒険者ランクは?」

「今日Eになったばかりですわ」

「E!? 駆け出しも駆け出しじゃないの!? そんなの無理よ!」


 イスメラルダがさらに目を吊り上げてちょっと怖いですが、こちらも簡単に折れるわけにはいきません。師匠の生死を確認するのは、弟子の務めでありますからね。


「マスター・ロズランド。彼女の作ったポーションの評判は?」

「……かなり良い。ホントか嘘かは分からんが、大怪我でさえも治したって聞いた。だがエーデルよ、さすがに駆け出しは──」

「なら治癒術師の代わりにはなるってことだな」

「っ!?」


 おや、どうやらエーデルは賛成してくれるようですね。なかなか良い子に育ってくれたようです。いずれ不死の軍団ヘルタースケルターに入った際には優遇してあげましょうかね。


「なっ!? エーデル、なにを馬鹿なことを言ってるのよ」

「そう怒るなよイスメラルダ、シアが怖がってるだろう?」

「まぁ! もうこの子の名前を呼んでるの!? いくらすごい美少女だからって、まだ成人したばっかりくらいの子じゃない! もしかしてエーデルはこんな若い子が好みだったの!? それともスライのナンパ癖がエーデルにも伝染うつったのかしらね!?」

「ちょ、落ち着けってイスメラルダ。せっかくの美貌が台無しだぜ? それに成人してたら立派な淑女、恋愛は自由だとおも──」

「あんたは黙れスライ!」

「ぐえっ!」


 エーデルとイスメラルダ、スライがなにやら言い争いを始めます。どうしたものかと思っていると、今度はエーデルの妹のフィーダが私に話しかけてきました。


「こんにちは。私はフィーダ・スライバー。エーデルの妹なんだ。今年で18歳なんだけど、あなたは?」

「シアです。15歳になります」

「まぁ、若いねぇー! あなたのことシアって呼んでもいいかしら? その代わり、あたしのことはフィーダって呼んでね」

「はい、フィーダ」


 イスメラルダと打って変わって、フィーダはとても良い子です。フィーダはエーデルと同じ青い髪の色白の美女で、なにより特筆すべきは豊満(ボインボイン)な双丘を持っている点ですね。


 しかも彼女は、世にも珍しいギフト二つ持ちです。

 きっと良いアンデッド素体になることでしょう。できればこの双丘を活かしたアンデッドが良いですね。スケルトンなど論外です。できれば実体を伴うものが──。


「ところでシアはどうして一緒に行きたいの? よくあるミーハーな人たちとは違うみたいだけど」

「俺は君みたいな可愛い子は大歓迎だぜ!」

「スライ、あんたは黙りなさい!」

「あはは、ちょっとスライとイスメラルダが騒がしいけど気にしないでね。それで──どうしてかな?」

「私は──行く必要があるのです、その場所に」


 まさかストレートに「実は【奈落】は私の師匠なんです」と言うわけにはいかないので、苦し紛れにそう答えます。さすがにこれでは彼らも納得しないのでは──。


「わかった、連れて行こう」

「は?」「ひ?」「ふ?」「へ?」「ほ?」


 私も思わず「ほ?」と言ってしまいましたが、予想外にもあっさりとエーデルが了解してくれました。これはラッキーですね、最悪は左目ギフトでも使ってどうにかしようと思っていたのですが……説得する手間が省けました。


「ありがとうございます、エーデル」

「ちょっとエーデル! なに言ってるの?! さすがにまずいわよ!」

「そんなことないさイスメラルダ。俺はシアにあの人と似たものを感じるんだよ。──レウニールの白銀の天使にね」


 レウニールの白銀の天使……もしかしてそれは私のことなのですかね?

 違いますよー、私はその人とは別人ですよー。


「もちろん君が別人だというのはわかってるよ。年のころは近いけど髪の色がぜんぜん違うからね。ところでフィーダ、お前の目で見てどうだ?」


 フィーダの目……そういえば彼女には《魔導眼》というギフトが備わってました。

 以前は盲目だったはずですが、治癒したあとに何かのギフトに目覚めたのでしょうかね。


「それがね、見えない・・・・のよお兄ちゃん。こんなの初めて……まさか『レウニールの天使』様から授かった能力なのに……」


 私が授けた能力? 私──そんな力、持ってましたっけ?


「フィーダの目でも見れないなら、きっと彼女は特別な存在なんだろう。ということで決定だ! シアはオレたち【光の翼エクス・ロット】の臨時メンバーだ!」

「「「おぉぉぉぉぉおぉおぉおぉ!!」」」


 エーデルが宣言したとたん、周りを取り囲んでいた冒険者たちが一斉に歓声を上げます。


「よかったなぁ、シアちゃん! 臨時とはいえSランク冒険者の仲間入りじゃないか!」「君のポーションの腕ならきっとエクス・ロットの中でも役立つよ!」「ここからいなくなるのはさみしいけど、また帰ってきてくれよ!」「俺たちの天使、シアちゃんにばんざーーい!!」


 おやおや、みなさん祝福してくれるのですね、ありがとうございます。

 さぁ、そうと決まれば善は急げ。さっさと出発しましょう。





 ◆◇



 受付嬢のメアリと交渉していたウルフェたちは、ギルドの奥がずいぶんと騒がしいことに気付く。

 だが人がひしめき合っていてなかなか確認することができない。


「何かあったんだろうか?」

「あぁ、Sランク冒険者の【光の翼エクス・ロット】が来てるみたいですよ」


 協議をしていたメアリからそう伝えられたものの、Sランク冒険者などに興味のないウルフェたちはすぐに興味をなくす。


「他の冒険者はどうでもいい。Aランクに昇格する以外に一つ星ダンジョンに潜る方法はないのだろうか?」

「ありませんねぇ……連邦各国の正規職員になれば潜れますが、公務員は倍率高いですよぉ」

「でもそれだとドロップアイテムを貰えないだろう?」

「ええ、国家の所有になりますね」

「Aランクには最短でどれくらいでなれるリュ?」

「そうねぇ、どんなに頑張っても5年はかかるかしらねぇ」

「5年!?」


 結局メアリとの協議でも、ウルフェたちは星付きダンジョンに潜れる算段がつかないままであった。


「しかし、星付きダンジョンに潜れないとなると、お嬢様がなんとおっしゃるか……」


 協議が終わったあと、ウルフェは項垂れたまま、いつものテーブルで待っているであろう主人ユリィシアの元に向かう。

 きっとお嬢様は失望なさるだろう。そう思うとウルフェの気持ちは落ち込むばかりであった。


 だが──冒険者ギルド内のテーブル席にもどったウルフェたちは、そこでようやくユリィシアが居なくなっていることに気付く。


「あれ? シアはどうしたリュ?」


 呆然とするウルフェの横で、アミティがギルドの職員に問いかける。

 すると、帰ってきた答えは──。


「あーあのべっぴんなお嬢さんか? Sランク冒険者といっしょにどっかに行っちまったぜ?」


「「「ええええええぇええぇええぇぇえええええぇっ!?」」」





【エピソード11 駆け出し冒険者編】はここまでです。


次からは【エピソード12 奈落編】となります!



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― 新着の感想 ―
[一言] ウルフェまたおいて行かれてるw
[一言] ウルフェが放置プレイに目覚めりゅ
[気になる点] ユリィシアの行く先に、待ち構えるウルティマとスミレ。同行者の光の翼、追いかけるだろう従者3人組。 唯一目的不明の「ウルティマ」がキーポイントになりそう(・・? 「ウルティマ」初回登場時…
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