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87.冒険者のお仕事(ユリィシアとアミティ)

 

 さて、ということでまずはポーション作成です。


 なんでもEランクに上がるためには一ヶ月に200本以上のポーションを作ること、となっています。

 ですが、せっかくのこの機会をただのポーション作成で無駄に過ごすつもりはありません。なにせ私は効率厨、無駄な時間を過ごすなどありえないのですから。

 良い機会なので、色々とチャレンジしてみようと思います。


 通常であればポーションは薬草を煮詰め、魔力を注いで効果を変質・向上させることで完成します。

 ですが私は違うポーションの作成方法を編み出していました。きっかけは、ウルフェです。


「ウルフェに毒ポーションを作っているときに、毒の効果が消えていることに気づきました」

「ユ、ユリィシアはウルフェに毒を盛っていたリュ?」

「まあこれには色々と訳があるのですよ」


 イケメンが憎かっただけですが。


「それで判明したのは、私がポーションを作ろうとすると自然と『癒しの右手』と『浄化の左手』の効果が発動しているということです」


 私が手を使って何かを作ると、その全てに癒しと浄化のギフトの恩恵が降りかかります。これはポーションも例外ではなく、毒は解毒され傷薬もただの水になってしまうのです。


「それは……ダメじゃないかリュ?」

「そこに、私のもう一つのギフト──『祝福の唇』を事前に落とします。すると……」


 私がポーションの原材料が入ったガラス容器に唇を触れると──キラリと光を放ち、うっすら黄色に色づいたポーションが出来上がりました。


「はい、完成ですわ」

「こ、これは……ポーションなのかリュ?」

「気になりますか? ではウルフェに飲ませてみましょう。ウルフェ、来てもらえますか?」

「はっ。お嬢様、なんなりと」


 私の特製ポーションをネビュラちゃんが飲むと昇天してしまうので、ここはウルフェを実験台にします。


「ウルフェ、これを飲んでもらえますか?」

「おお、これは──お嬢様特製のポーションではありませんか! 久しぶりに下賜していただけるのですね!?」

「あ、飲む前に軽く体を傷つけてもらえますか」

「承知しました、お嬢様! ていっ!」


 なにやら歓喜の表情を浮かべて腕を剣で軽く傷つけると、血を流しながら黄色いイエローポーションをゴクゴク飲み干すウルフェ。アミティはなにやら胡散臭いものを見るかのような目で見ていますが、きっと嬉々としてポーションを飲むウルフェが気持ち悪かったのでしょう。


「ウルフェ、どうですか?」

「こ、これは……美味いです!」


 いや、味などどうでも良いのですが。


「それに──全身から力が溢れてきます! これは……なんという活力、なんという気力! まるで全身に火がついたようです! うぉぉぉぉおおおぉおっ!!」


 なにやらスイッチが入ったかのように雄叫びを上げるウルフェはやたら煩いのですが、どうやらちゃんと治癒効果は残っているようですね。腕の切り傷がすぐに完治したのを確認しました。

 やはり『祝福の唇』には私のギフトの効果を増強・延長するだけでなく、ポーションなどに留まらせる効果もあるようですね。これは新しい発見です。


「今なら相手が魔王でも戦える気がします! さすがはお嬢様のお造りになったポーションですね! このウルフェ、地上のどんな生物が相手でも一刀両断してみせましょう!」

「これ……本当にポーションなのかリュ? もはや万能薬エリクサーじゃないかリュ?」

「まさか、ウルフェが少しオーバーリアクションなだけですよ」

「そ、そうなのかリュ?」

「うぉぉぉぉぉおっ!!」

「気になるなら、アミティも飲んでみますか?」

「い、いえ遠慮しとくリュ。真龍は人間とは身体の作りが違うリュからね」

「そうですか」


 私はアミティに突き出していたポーションの瓶を引っ込めます。回復効果はウルフェで確認できたので十分でしょう。

 しかも、あわよくばと期待していた追加効果・・・・についてもちゃんと確認することができました。どうやらこのポーションを使って治癒した場合にも、ちゃんと私に『癒しのボーナス魔力』が入ってきているようです。

 つまり私はこのポーションを使うことで、治癒魔法を披露することなく相手を治癒することができます。これは嬉しい誤算ですね。


「さて、これで特製ポーションは完成ですね。あとはこのポーションの名付けネーミングです」

「【ユリィシアお嬢様の癒し水】!」

「却下です」


 ウルフェはアホなんですかね。わざわざ私が偽名を使っている意味を理解しているのでしょうか。


「【癒しの聖水】はどうリュ?」

「聖水というネーミングはいけませんね。教会に目をつけられてしまいます」


 普通にポーションでも良いのですが、せっかく流通させるのでちゃんと名前を付けたいのですよね。

 ……そういえばこのポーション、ほのかに黄色に色付いています。よくよく見ると黄金色に見えなくもありません。

 ──あぁ、いい名前を思いつきました。


「【乙女の黄金水】──はどうでしょうか?」

「おお、【乙女の黄金水】! 素晴らしい名前です! さすがはお嬢様!」

「そ、そのネーミングだけはやめたほうがいい気がするリュ……」

「アミティ、何か問題ありまして?」

「あたちの龍としての直感が、その名前はやめた方がいいと言ってるリュ」


 龍の直感というのが何なのかは分かりませんが、仕方ありませんね。なんとなく縁起が悪いので、別の名前にすることにします。


「たとえば……チーム名が【琥珀の百合(アンバーリリー)】なのだから、【リリーポーション】なんていうのはどうリュ?」

「リリーといえば百合、百合といえばお嬢様……ふむ、悪くはないな」


 なんだかだんだん考えるのが面倒になってきたので、もうアミティの案を受け入れることにします。


「わかりました、ではリリーポーションにしましょう」

「良い名前ですね、さすがはお嬢様!」

「ふぃー、なんだかホッとしたリュ……」


 さて、名前が決まれば次は販売です。

 私はあまり人と接するのが苦手なので、販売員はアミティに丸投げすることにしました。


「あ、あたちが売るリュ?」

「アミティも冒険者ランクを上げる必要があるでしょう? ランクアップのためのお仕事の中に、物品販売というのもありましたからね」

「俺がお嬢様の販売のお手伝いをしましょうか?」

「却下します」


 ウルフェは論外です。だってイケメンと二人でポーション販売なんてしたくありませんもの。

 そう言う意味ではアミティは女性なのでまだマシです。まぁ彼女の場合は女性と言うよりもメスって感覚ですが。


「わ、わかったリュ……やってみるリュ。たしかにクリスもあたちに人間に慣れろと言っていたリュ」

「それには商売をするのが一番ですわ」

「なるほど……だったら頑張ってみるリュ!」


 この子、けっこうチョロいですね。


 次に販売場所ですが、冒険者ギルドの受付嬢であるメアリに相談するとあっさりと解決しました。冒険者ギルドにある待合所のテーブルを一つ貸してくれることになったのです。


「あなたたちみたいな女の子の冒険者は大歓迎よ。だから一月は特別に貸してあげるわね」

「ありがとうございます」

「がんばってね、期待してるわ」


 お店の名前は『魔法薬師シアの薬局』。商品は『リリーポーション』のみ。

 ポーションの値段は5000エルにしました。通常のポーションが1000〜3000エルなので少し高めですが、私は技術を安売りするつもりはありません。


 準備が整ったところで、さっそくポーション販売を始めます。


「いらっしゃいいらっしゃい、魔法薬師シアの薬局がオープンしたリュ! 今ならシア特製のリリーポーションが一個5000エルだリュ! ご購入特典としてあたちの笑顔もついてくるリュ!」

「ほう……ポーション屋か、珍しいな」

「こいつはあんたが作ったのかい? 可愛いお嬢さんなのにすごいなぁ」

「黄金色? 変わった色をしているね」

「本当に効果はあるのかい?」


 周りに急に人が集まってきたので、コミュ障の私は思わずドギマギしてしまいます。

 ですが意外にもアミティは対人スキルが高いようで、周りに集まってきた客たちをうまく捌いています。なかなかやりますね。


「おうおう! かわいいおねーちゃんじゃねーか! ぜひともこの俺にポーションを売ってくれよ、ついでに飲ませてもらえねーかなぁ」


 あーウザいですね……。なんか変なやつがやってきましたよ。

 しかもそれまで集まっていたお客さんたちが蜘蛛の子を散らすように散っていきます。なんという営業妨害、これはいけません。


「アミ、やっておしまいなさい」

「やるって……本当にいいリュ?」

「あなたは竜を崇める部族のシャーマンなのでしょう? だったら龍の力を呼び寄せれば良いのです」

「おいおい姉ちゃんたち、なにコソコソ話してるんだい? さっさとこっちに来て、俺たちの相手をしてくれ──」

「ああもうわかったリュ! こうなったらやけくそリュ! ──偉大なる真龍よ、あたちに力を与えるリュ!」


 アミティがわざとらしい文言を唱えます。もうすこしマシな台詞はないのですかね?


「な、なんだこの娘は? なんだか恐ろしい気配が……」

「いくリュ! 龍の爪ドラゴンクロー!」

「ゲフッ!」


 アミティの一撃を喰らって、男はパックリと額が破れ血を撒き散らしながら吹き飛んでいきました。さすがは真龍、軽く撫でただけでも並みの人間よりは強いですね。


「あの子凄いな……バングを一撃で吹き飛ばしたぞ?」

「バングは素行は悪いけど冒険者ランクBだ、手に負えない荒くれ者だったのに……」

「龍を崇めるシャーマンなのか? 凄いんだな……」


 なにやら周りが騒がしいですが、私の注意は壁にめり込んでピクピクと痙攣する男に向けられています。

 アミティに指示して引っこ抜かせると、じゃばじゃばとポーションをぶっかけました。

 すると──すぐに傷が癒えて、男は意識を取り戻します。さすがは私のポーション、効果はバッチリですね。


「はっ!? 俺はいったいなにを……」

「ポーション代、5000エルです」

「さっさと払うリュ!」

「ひ、ひぃぃぃぃっ!?」


 男は財布を丸ごと置いて、逃げるように去って行きました。お買い上げありがとうございます、またのお越しをお待ちしております。


「ふぅ、ポーション一本売るのも大変ですね」

「これは……売れたと言っていいのかリュ?」

「でも毎回こうだと面倒ですね……ポーションを売りに来るのをやめましょうかね……」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 商売が面倒になってポーションを片付けていると、騒ぎを聞きつけて駆けつけた受付嬢のメアリが、慌てた様子で声をかけてきました。



「ポーション販売をやめないでください! あれだけの怪我が一瞬で治るポーションなど、あたし初めて見たんです! だから……」

「私は面倒ごとや争いごとは苦手なのですが……」

「大丈夫です! もう二度と今日のような騒ぎが起きないように冒険者ギルドが全力で防ぎますから!」


 まぁ……それであれば構いませんけどね。

 しかし冒険者ギルドというのはなかなか親切なのですね。前世で賞金首だったときはさんざん冒険者崩れの賞金稼ぎに命を狙われてあまり好きではありませんでしたが、今回のことで少し見直しましたよ。


「わかりました。そこまでおっしゃるのであれば、また売りに来ますわ」

「あ、ありがとうございます! ギルドマスターにもちゃんと伝えておきますね!」


 どうやら商売の出だしは好調のようですね。

 この調子で行けば、一月後にはEランクに上がれそうですわ。ふふふ……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >「ウルフェに毒ポーションを作っているときに、毒の効果が消えていることに気づきました」 この作品の長所。 ユリィシアが不幸に陥るのを、愉しむこと。
[良い点] 美少女ポーション店なんて好評になるに決まっているじゃないかやだー! [気になる点] 乙女の黄金水を販売した時の評判と売れ行き(_’ ああ、あと。 アミィちゃんは「知っていた」んだねぇ? 黄…
[一言] 百合、、、お花、、、お花摘み、、、( ゜∀ ゜)ハッ!
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