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85.連邦と冒険者ギルド


ここから第五部 冒険者編となるエピソード11になります!


 ここは──世界のどこかにある、とあるダンジョン。

 世間からほぼ知られることないこのダンジョンは通称『冥界ダンジョン』と呼ばれている。その理由は、このダンジョンに君臨していると言われる一体のアンデッドの存在にあった。


「なぁリーダー、さすがにヤバくないか? ここ──『終わりの四人ラスト・フォー』の一人、【奈落】がいる場所だろ?」

「Sランクを目指している俺たちがビビってても仕方ないだろ! それにAランクまでならアンデッドは討伐している。いつまでも非正規ダンジョンで燻ってるわけにはいかないだろ! ここらで一発逆転を狙わないと、俺たち一生非正規から抜け出せないぞ?」


 彼らは五人組のチーム『黄金の右腕』。

 非正規ダンジョン探索者──通称〝冒険者″一行である。


 〝黄金の右腕″の五人は、それなりの実力を持つ冒険者ではあったものの、どこかの国や企業に正規就職することも叶わず、ひとつの勝負に出ることにした。

 それが──【奈落】が住む『冥界ダンジョン』に命がけで挑んだ理由である。


 やがて彼らは、まるで宮殿のように多数の柱に赤いカーペットが敷かれた場所に到着する。

 ここは間違いなく【奈落】の玉座である。黄金の右腕の五人は緊張感からごくりと唾を飲み込む。


「ひぃぃぃぃ!」


 そのとき、一行の一人が何かを見つけた。

 宮殿の間の最奥に玉座があり、そこに一体の骸骨が鎮座していたのだ。


 だが──すぐに様子がおかしいことに気づく。

 なんと、玉座に座る存在がピクリとも動かないのだ。


「あれは──」

「……死んでる?」

「バカッ! アンデッドなら最初から死んでるだろ!」

「でも、あれは……」

「そうだな。どう見ても……機能を停止しているように見えるな」


 玉座の存在は蜘蛛の巣が覆われており、ずっと動いていないであろうことが遠目にも分かる。

 おそらくは、数年。……下手すると10年以上であろうか。


「もしかして【奈落】は──滅びたのか?」

「ばかな……数百年以上存在している伝説のSSS級アンデッド……が、か?」


 だがもしそれが真実であれば大発見である。

 彼らは勇気を振り絞り、動かなくなった骸骨へと近寄っていく……。


「たしか【奈落】は、600年前に滅ぼしたヤニ王国の王冠を被っていると聞いたぞ。もしかして……これか?」

「取ってみるか?」

「触って動き出したらどうする? 俺ら即死だぞ?」

「それよりも帰還してギルドに報告しようぜ! それだけでも成果としては十分だ、調子に乗りすぎて命を捨てるような真似はよそう!」


 リーダーの決断をもとに、最終的に彼らは骸骨には触れずに報告に帰ることにする。


 しかし、ただ帰るのは勿体無いと考えた彼らは、ダンジョン内にあるであろう【奈落】の遺産というべき数々の金銀財宝を少しでも持ち帰ろうと、恐怖を押し殺して捜索を行った。

 だが不思議なことに──あるべき財宝はほとんど見つかることはなかったのである。




 ◆◆




 聖マーテル神国の神都ファーリアにある聖母教会の総本山〝大教会(エクレーシア)″。

 その裏口にある小さな扉から、一人の老女が旅立とうとしていた。


「本当に枢機卿を辞任するんだな? スミレ・ライトよ」

「ええ、そうよ。コーディス・バウフマン」


 だがバウフマンに答えるスミレの顔は妙にさっぱりとしていた。


「おんし、自分の娘や孫を恨んでおらんのか? あやつらに騙されたせいで、おんしは枢機卿の地位を失ったのじゃろう?」

「ふん、もとよりこんな地位などどうでもよかったさ。いつでも辞めてやる覚悟よ。とはいえあいつら一発は殴ってやらんと気が済まないがね。まさかこのあたしを出し抜くとはねぇ……」

「なるほど、どうりで清々しい表情を浮かべているわけだ。あんた枢機卿が嫌で嫌で仕方なかったわけか」

「好き嫌いじゃないさ。だがまるで偶像アイドルを作るかのように聖女を量産するこの仕組みが気に入らなかっただけよ。せめてあたしが防波堤になって、力のない子が選ばれないようにはしてきたつもりだけど……先日の帝国の内乱でも一人犠牲になっちまったしね。あんなこと、起こしちゃいけないんだよ」

「そのあんたが、なんで今回枢機卿を気持ち良く辞めることにしたんだ?」

「あん? そんなの簡単さ。──〝本物″が見つかったからだよ」

「本物?」

「ああ。だからこれから──そいつが紛れもない本物かどうか確認しに行くのさ」


 バサッ。

 風を切る音を立てながらスミレはマントを羽織ると、バウフマンに手を振って軽やかに大教会を後にする。

 その足取りは、60歳を超えるものとは到底思えないほど軽やかであった。


「さーて、このあたしの《 罪悪の神判(ギルティ・ジャッジ)》をかいくぐって騙してくれた孫娘はどこに行ったのかね。フローラのやつは逃亡したと言ってたけど……ふふふ、久しぶりだね、こんなにも胸が高鳴るのは」


 そう言うとスミレは、これまで見せたこともないような愉快げな笑顔を浮かべたのだった。





 ◆◆





 レオニダス連邦。

 通称──連邦と呼ばれるこの地は、複数の小国の連合国家によって成り立っていた。北の地にあり過酷な自然環境もあって、一国一国が独自の文化や強みを持っており、互いに尊重しながら存続していた。


 連邦は、各王家からなる連邦会議によって運営されており、3年周期で加盟国のうちの一人の王が『連王』となり、連邦の大方針を決めていた。

 しかしながら基本的には各国の自治を認めていることもあり、単に仕事が増えるだけの連王の座は押し付け合うのが通例となっていた。

 名ばかりの王、そんなものに連邦に加盟する国々は興味が無かったのである。


 厳しい気候条件。

 限られた産物。


 それでありながらこの地で国々が生き残っているのには、当然理由があった。

 それは──レオニダス連邦が存在する北の山脈『ウラニール山脈』が、ダンジョンの宝庫だったからである。


 およそ15の連邦加盟国の全てが三つ星──最高ランクのダンジョンを所有しており、かつそれぞれの国がダンジョンから発掘された戦略級魔法道具を最低ひとつ以上所有していたのだ。

 使えば、一撃で国を滅ぼすと言われるレベルの兵器が15個以上である。


 しかも連邦は、互いに他国から攻められたときに防衛を支援する協定を結んでいた。仮に連邦以外の国が攻め込んだら、15の戦略兵器で反撃されるのである。

 ダンジョン以外にたいした産物もなく、攻める旨みも大してない。ゆえに連邦は他国から侵略されることなく、放置に近い形で存在を保ち続け、独自のシステムでこれまで発展を遂げてきたのである。



 レオニダス連邦の中央にあるガスターホルンという街に、比較的大きな規模の冒険者ギルドがある。

 冒険者ギルドは非正規ダンジョン探索者である〝冒険者″たちに日雇いの仕事を斡旋する──いわゆる職業紹介所である。

 まれに連邦内の正規ダンジョン探索者の雇用の話も上がることがあったが、正規の職員は各国の国家試験を合格したエリートしか入隊できないことが多く、あくまで冒険者はスポット雇用の扱いである。

 そのような冒険者たちを束ね、仕事を斡旋し、ときには怪我や治療、金貸しや保証、回収したカードや魔法道具の買取などを行っているのが冒険者ギルドの主な業務である。


 また冒険者ギルドはごく稀に見つかる新規のダンジョンやゲートの登録受付も行っていた。

 ただこちらは一年に一件見つかるかどうかという程度の発見率であり、かつ見つかったものの9割は──ジャンク・ダンジョンと言われる宝物ドロップがほとんど見つからない無星のものであった。

 価値のある一つ星や二つ星のダンジョンやゲートなどは、数年から十数年に一度発見されれば良い方であろう。三つ星レベルになるともはや世界を揺るがす大発見である。

 だがそれでも──夢を求めて山中を彷徨い狩りなどを行いながらゲートやダンジョンを探すゲートハンターも数多くいた。

 彼らもまた、冒険者ギルドを根城として活動していたのである。



 ──ガスターホルンにある冒険者ギルドも、そのような背景から、基本的には仕事にあぶれた荒くれ者か、一攫千金を狙った命知らずな若者たちばかりが集まる場所であるはずであった。


 だが今、このギルドの待合室は極めて穏やかな雰囲気が流れていた。

 いつもは喧嘩や怒鳴り合いを繰り広げる男どもが、妙に静かにおとなしくしていたのである。


 彼らは、とある一点を見ていた。いや正確には、見ているとバレないようにコソコソとチラ見していた。


 コトリ……コトリ……。

 彼らの視線の先にいる人物は、彼らに見られていることなどまったく気づく様子もなく、丁寧にカバンから取り出した瓶を机の上に並べている。


「シアちゃん……可愛いなぁ。なんであんなに肌が白いんだろう」

「やっぱり高貴な出なのかな? 噂だと帝国の戦争で落ちぶれた貴族の娘だって聞いたけど」

「俺は王国のとある貴族の妾の娘じゃないかって聞いたけどな」


 シアと呼ばれる少女の横には、顔に模様を塗った異国の蛮族のような幼女がいて、瓶を並べるのを手伝っている。


「あの子は妹……じゃないよな?」

「なんでも南方の龍を崇める部族の子らしいぞ。シアちゃんが拾って育てているらしい」

「はぁ……あの顔だけでも天使なのに、行いまで天使なのかよ! たまんねぇな!」

「いずれにせよ、シアちゃんがここ冒険者ギルドっていうはきだめ・・・・に降臨した女神だってことに変わりはねぇ。お前ら、わかってるな?」

「ああ、触れず無駄に話しかけず争わず。適度に距離を取り、遠くから愛でる。それが──ガスターホルン冒険者一同の『魔法薬師シアちゃん観察』に関する〝裏ルール″だ」



 やがて、30本近くの瓶を並べたところで、シアが長い睫毛をパチパチさせながら顔を上げた。彼女の動きに合わせて隣にいた蛮族の幼女がカバンの中から一本の小さな旗を取り出し机の上に立てる。


 旗には──柔らかな文字でこう書かれていた。



『魔法薬師シアの薬局、開店中』



 続けて蛮族の幼女が、ギルド内に響く声を張り上げる。


「はい、お待たせしたリュー! 魔法薬師シアの薬局、ただいま開店でリュ! 飲めば傷が治る回復ポーションと、本日は毒消しポーションもあるリュ! あ、ちゃんと喧嘩せずに並ばないと、もう売りに来ないリュから、大人しく順番に来て欲しいリュー!」


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[良い点] 賢者の遺言に従ってる謎の幼女ちゃんかわいいですね。 [一言] 更新待ってました! 体調に気をつけて頑張って下さい!
[一言] ユリィシアちゃん不安よな、おばあちゃん動きます。
[良い点] 蛮族の幼女… りゅーりゅー言ってるし、頭かわいそうな子なんだろうなぁ そんな子を拾うなんて、どれだけ聖女なんだシアさん
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