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84.最後の救済


エピソード10のラストになります( ´∀`)



 ごごごごっ──……ごごごごごごごご……ごごご──。


 〈あーああーーーアーアアーアー───〉


 〈あーああーーーアーアアーアー───〉


 〈あーあーーーアーアアーアーアアアアァァァ─〉


 またです……どこからともなく聞こえてくるゲートが開く音と賛美歌を奏でる声。

 毎回思うのですが、これは一体誰が歌っているんでしょうかね?


『な、なんだ……!?』

『ふふふ……来たか……』


 クリストルとダレスの頭上に、光り輝く神殿のような門が姿を表し──開門すると同時に中から光の粒子が羽となり飛び出してきます。


 光の羽が舞い散る中から現れたのは──白いドレスを着て、背中から天使の翼を生やした美しい一人の女性。


『救いを求めわたくしの名を呼ぶ子羊よ──どこにいるのですか? どうか安心してください。このエルマーリヤが、あなたを──【輪廻転生】を以って、苦しみから永遠に解放してさしあげましょう』



 あぁ……また来てしまいました。


 現れたのは──【いにしえの大聖女】エルマーリヤ・ライトジューダス。

 呼べは必ず出現するSSS級アンデッド、『終わりの四人ラスト・フォー』のうちの一人。輪廻転生の主であり──私の初恋の人。


『なんだ……この女は? アンデッドなのか?』

『知らないのか、ダレス。彼女が──いにしえの大聖女さ』

『なっ!? 貴様、いにしえの大聖女を呼んだのかっ!? ……だがまぁいい。相手が誰であろうとこのダレスが……』


 ふわり。

 ダレスの巨大蜘蛛の体を、エルマーリヤが優しく包み込みました。


『可哀想な子羊よ。さぁ、わたくしの胸の中で輪廻の輪の中に戻りなさい──【聖者の救済エル・リインカルナ】』


「目を伏せてっ!」


 私の叫びに、一度エルマーリヤの輪廻転生を経験した皆が一斉に目を逸らします。

 ですが、ダレスはそんなこと知りません。


『がっ……!? これが……いにしえの大聖女……だと!? ばか……な……』


 聖魔法が使えない割には、ダレスもかなり頑張って抵抗した方だと思います。ですがさすがの魔王もエルマーリヤの前ではただの迷える子羊でしかありません。


『朕の……世界が……すべて……』


 徐々に身体が崩れ落ちたかと思うと──やがて魔王ダレスの全身は灰になって散っていきます。

 これが──アナスタシアを苦しめたダレスの最期でした。


 私は親友を苦しめたこの男を許すつもりなどなかったのですが、こうなっては手出しもできません。が魂を賭して親族の魂を悪魔から救ったのでしょう。


 そして……消滅したのはダレスだけではありませんでした。


『あばよ、みんな。……弟を救えなかった愚かなオレッちも、バカな子孫くらいは救って……生まれ変わってくるぜ……』


 僅かな言葉を言い残して、クリストルもダレス同様、塵となって消えていきました。


「クリスーーーーっ!!」


 アミティが悲しげな声をあげます。ですが私も気持ちは同じです。


「あぁ……なんてことでしょう」


 クリストルは極めて優秀なSSランク素体でした。なのにまたしても私はエルマーリヤによって貴重な素体を奪われてしまったのです。

 思わず涙がこぼれ落ちます。その様子をアミティに見られてしまいました。


「ユリィシアも……悲しんでくれるのかリュ?」

「もちろんですわ」


 だって、すごく貴重な素体がまたエルマーリヤにダメにされてしまったんですもの。クリストルほどの素体は滅多にお目にかかれません。


「取り返しのつかない……損失です」

「あたちにとっても……同じリュ……クリスはあたちの親も同然だったリュ……もっと長生きして欲しかったリュ……」


 私やアミティが悲しみにくれる中、クリストルとダレスはエルマーリヤによって輪廻転生し、消滅していきました。

 この瞬間、神聖ガーランディア帝国は事実上滅亡したのです。


 ですが、これで全てが終わったわけではありません。

 なにせ私たちの前には──クリストルが残していった、とんでもない置き土産が残っていたからです。


「エルマーリヤ!」


 声をかけると、エルマーリヤが私の方に顔を向けます。


 とはいえ、これは私の方も願っていた機会でもあります。

 いずれは彼女にもう一度会いたいと思っていたからです。


 どうしても──彼女に聞きたいことがあったから。


「いけませんお嬢様、危険です! 早く逃げなければ……」

「私は大丈夫ですわ、ウルフェ。それよりもあなた方は早く逃げなさい」

「で、ですが……お嬢様が今度こそ輪廻転生させられてしまっては……」

「それはありませんわ。エルマーリヤは、私を輪廻転生しません・・・・から」

「は?」


 おっと、余計なことを言ってしまいましたね。

 これ以上は私とエルマーリヤの問題です。立ち入られるのはご遠慮いただきましょう。


「ここは私一人で出ます。あなたたちはすぐに城から逃亡してください。今度は私も──守れませんよ?」

「お、お嬢様だけを置いていくわけにはいきません! もう……俺は、残されるのは嫌なんです!」


 ですが、ウルフェが聞き分けのありません。本当にめんどくさい男ですね。


「まだ分からないのですか? 私は、あなたたちを失いたくないのです」

「っ!?」

「それに、私はエルマーリヤに大切な話があります。ここは──私に任せてください」


 それだけ言うと私はエルマーリヤへと歩み寄っていきました。


 今回、エルマーリヤは不思議と襲いかかってくることなく、ダレスたちを救済した場所に佇んでいます。

 その彼女に、私はあるものを投げつけました。


「忘れ物ですわ!」


 投げつけたのは──次元指輪から取り出した女の子の人形。大聖女のダンジョンの宝箱から見つけたものです。

 エルマーリヤは人形を素直に受け取ると──穏やかな笑みを浮かべました。


『あら……これはアンナですね。懐かしい』

「やっぱりこれは、あなたのものでしたのね」

『ええ、ずっと探していたのです。わたくしの小さな頃からのおともだち……』


 会話をしながら、私の心は驚きに包まれていました。

 エルマーリヤが──普通に話している?

 狂ったアンデッドのはずなのに?


『この子は、どこにあったのですか?』

「あなたの胸にあるダンジョンに、ですわ」


 ですが意味がわからないのか、首を横に傾げるエルマーリヤ。

 その仕草さえも可憐で、思わずドキッとしてしまいます。

 いけませんね……だからこの人は苦手なのです。


「あなたの胸の中にあるダンジョンは極めて異常なダンジョンだった。あれは一体なんなんですの?」

『……』

「知らないのですね、ではいいですわ。代わりにもう一つの質問に答えていただけますか?」


 なぜか正気を取り戻しているエルマーリヤ。こんなことはかつて今まで一度もありませんでした。

 理由はわかりません。ですが、この機会を逃すわけにはいきません。


 会話が成立しているうちに、私は──どうしてもエルマーリヤに聞きたいことがあったのです。

 それは──。


「エルマーリヤ、あなたはなぜ……私がいくら呼んでも出てきてくれなかったのですか? そしてなぜ、私を輪廻転生させなかったのです?」





 ◇





 前世において──。

 フランケルだった私がエルマーリヤを初めて呼び出したとき。


 彼女の【聖者の救済エル・リインカルナ】によって『不死の軍団ヘルタースケルター』のおよそ9割を輪廻転生させられた私は、確かに死を──輪廻転生を覚悟しました。


 ですが、あのとき私は生かされました。

 美しい顔のエルマーリヤが近づいてきたかと思うと、ニコリと微笑んで、そのまま消えてしまったのです。


 その後、エルマーリヤは『その名を呼べば必ず現れるアンデッド』、『その名を呼んではいけないもの』として一気にSSS級アンデッドとして認知されていきました。

 ですが──いくら私が呼びかけても、彼女が出てきてくれることはありませんでした。


 その名を呼べば神出鬼没に出現するいにしえの大聖女が、なぜか私が呼んだ時だけは決して現れませんでした。


 前世だけではありません。今世でもそうです。


 確信したのは、前回の戦闘時。

 確かに私は何度かエルマーリヤの【聖者の救済エル・リインカルナ】を防ぎました。

 ですが、これらのうちに私向けに放たれたものは──実は一つもありませんでした。

 そう、エルマーリヤは──最初から私を輪廻転生させる気がなかったのです。


「どうして……?」


 私の問いかけに、エルマーリヤは初めて瞳を開けて微笑みました。ですが、そこに『輪廻転生』の魔術は込められていません。

 まるで生きていたときと同じような美しい彼女の瞳……。思わず吸い込まれそうになります。


 ──微笑みのエルマーリヤ。


 生前そう呼ばれていたときの面影のまま、エルマーリヤは私に語りかけてきました。


『まだ……早いですよ』

「早い? それってどう言う……」

『時が来ればわかります。その時にまた……お会いしましょう──』

「待って! エルマーリヤ・ライトジューダス!」


 ですがエルマーリヤは──。

 私が初めて恋したときと同じ笑顔で、優しく私の頬に触れながらこう口にしました。


『ではまたお会いしましょう──フランケル・・・・・

「っ!?」


 それだけ言うと、エルマーリヤは──まるで風の中に溶けるようにして消えていったのでした。






 ◆◇






 父親である皇帝を殺害し、神聖ガーランディア帝国を建国したダレス大帝。

 力による強固な帝国を築くことを目標に圧政を敷いて帝国を支配しようとしたものの──彼の野望は長くは続かなかった。


 圧政に苦しむひとびとは、ダレス大帝に反旗を翻す。

 その中から、数多くの英雄たちが生まれた。



 リヒテンバウム王国の王子との婚約を破棄し、命を賭して帝国に戻り、のちに帝位につくこととなるカリスマ──【黒薔薇女帝】アナスタシア。


 彼女の元婚約者でありながら、彼女を支援するために王位継承権を放棄し、天才的な軍略の才能を開花させた【鷹眼王】ジュリアス・シーモア。


 アナスタシアに仕え続け、堅実に彼女を支えた【黄金騎士】ランスロットと彼の妹【黒真珠】シャーロット。


 庶民の中から生まれた英雄。数々の獣人たちの村を神聖帝国から解放し、アナスタシアから叙勲されて騎士隊長にまで抜擢された若き希望【解放剣士】ラスター。


 この戦争を機に頭角を表すことになる【光の勇者】アレクセイ・アルベルト。帝国の軍事顧問になる【雷将軍】ザンデル。英雄夫婦【剣皇騎士】カインと【元聖女】フローラなど……。



 彼らの活躍により、アナスタシア率いる帝国軍は勝利した。

 敗れた神聖帝国はわずか半年で滅亡し、ダレスはその短い生涯を閉じることとなる。



 だが、彼らにも勝る伝説を残したものたちもいた。


 【癒しの聖女】ユリィシア・アルベルト。

 二人の従者【紅蓮の聖剣】ウルフェと【漆黒の侍女】ネビュラを従え、数多くの村を救い、数万人もの戦傷者を癒し、さらには伝説の真龍『琥珀龍アンバードラゴン』をも従え、アナスタシアたちを勝利に導いた特別な存在。


 その存在は確かではないが、【賢者】クリストルという人物も従えていたという。だがクリストルは以後の歴史に姿を表さないことから、架空の人物であるという説もある。


 いずれにせよ、女帝アナスタシアがこの戦争に勝利することができたのは、【癒しの聖女】ユリィシアの存在が大きかったと言われている。

 彼女がアナスタシアの親友であったからこそ、アナスタシアを助け、さらには帝国を救ったというのだ。


 だがアナスタシアが決戦に勝利し、帝城に乗り込んだ時──すでに全てが終わった後であった。

 ダレス大帝は行方不明となっており、最終的に生死が確認されることはなかった。ただ現場に残されていた手紙から、ダレスが死亡したと知らされ、この戦争は幕を下ろすこととなる。



 真実を知るものは、【癒しの聖女】ユリィシアとその一行のみ。



 だがそのユリィシアは、アナスタシアに『ダレスはクリストルと相打ちで果てた』という手紙だけを残し──何処かへと消え去っていたのだった。




これにてエピソード10および『帝国戦争編』は完結です。


そして次からはエピソード11 『冒険者編』となります!



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― 新着の感想 ―
まさかのム〇キング回
[良い点] 個人的には、まだユリィシアたちの活躍を見ていたいので、続くのは嬉しい。 無理に引き伸ばしても良いことはないので、作者さんが終わらせたいと思うところで終わらせるのが1番ですが、書く意欲がある…
[一言] >もう少し続けたいと これはアレですね。伝説の名台詞?の「もうちょっとだけ続くんじゃ」ですね(笑) 期待して待ってます♪
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