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82.決戦

 帝都ガーランドにほど近い平原で、両軍が勢いよくぶつかっていきます。

 ついに帝都まで進出したアナスタシア軍6万は、神聖帝国軍の帝都護衛部隊およそ2万と対決していました。


 ですが勢いはアナスタシア側にあるみたいです。猛烈な勢いで神聖帝国軍を駆逐していきます。私はウルフェとネビュラちゃんを引き連れて戦場を縦横無尽に駆け巡り、敵味方無関係に治癒しまくりました。

 味方からは迷惑がられるかもとは思ったのですが、案外誰からも文句を言われないので、調子に乗って片っ端から癒しまくります。塵も積もれば山となる。この治癒行為でそれなりの魔力増加が期待できるのですから。


「うぉぉぉ! 聖女さまぁぁぁぁあ!」

「我々には【癒しの聖女】様がついてるぞぉぉぉっ!!」

「敵まで癒すなんて……同じ帝国人同士傷つけ合うなということなのかっ!?」

「これぞ聖女の慈悲! これぞ聖女の慈愛! 皆のもの、正義は我らにあり! 何も恐れることなく突撃せよーっ!!」

「「おおっーーー!!」」


 ……私は勝利の偶像マスコットか何かですかね?


 途中、神聖帝国軍から悪魔を憑依させた【強化騎士ヒュブリス】たちが出てきました。

 待ってました、ここでボーナスタイムに突入です。


「──《浄化の癒し手》』」


 左手のギフトを手の形に拡張させ、まるで雨のようにふらせることで憑依した悪魔を一気に浄化していきます。

 今ので軽く10体は浄化したでしょうか。あとはウルフェたちに倒させて、ついでに治癒すれば……はい、いっちょ上がりです。


 これで一気に魔力を稼ぎましたねー。やっぱり戦争は美味しいです。

 ただ死人が出ていないので、素体集めの方が全く捗っていないのは残念ですが……死んでしまうと治癒で魔力稼ぎができないので仕方ありません。物事には優先順位がありますからね。


 ですが、どうやらボーナスタイムもこのあたりでお終いのようです。

 これ以上戦場にいても、稼げる【強化騎士ヒュブリス】はあらかた屠ってしまったので、あまり効率的ではありません。それよりも悪魔の親玉を仕留めた方が魔力は増えるでしょうから。


「ウルフェ、ネビュラちゃん、ダレスのところに向かいますわよ」

「ダレスのところに……ですか?」

「どうやって行くのでございますか?」

「もちろん、ゲートを使ってですわ」


 この手の城には、大体ゲートが隠されていることが多いのです。なぜなら王族が危機に陥った時のために、とっさに逃げることができる隠し通路を用意しているものですからね。

 ダンジョンで発見される魔法道具の中に、まれに近距離用自立ゲートが出てくることがあり、王侯貴族がそのゲートで逃走経路を確保しているのです。


 普通の人には隠しゲートはどこにあるかわからないでしょう。ですがアナスタシアにあらかじめ、いざというときに逃げるために王家に伝わるおおまかな逃走用ルートを聞いていました。

 たどり着いたのは、帝城から少し離れた場所にある墓地。当然、こんな場所に兵士などいません。


「お嬢様、墓地ですか?」

「ええ」

「お嬢様は本当に墓地がお好きですね……」


 ええ、好きですが何か。

 この場所はいい感じに荒廃していて死霊術師ネクロマンサー好みになっていますが、今は後回しです。さっそく『鑑定眼』を使って──。


「見つけましたわ」

「えっ!?」

「どうやらこの墓石自体がゲートの魔法道具のようです。さすが帝族、なかなか手が込んでますね」

「こ、こんなところに隠しゲートが……」


 やはり魔法道具のゲートは、天然もののゲートと違って変な波動のようなものを出しているので、簡単に見つけやすいですね。

 墓地の石に魔力を込めてみると、すぐに起動します。これが魔法の扉──人工ゲートですね。天然ゲートと違って通過するには魔力を大目に消費しますが、今の私にとってはたいした問題ではありません。


「本当にありましたですね……」

「さすがはお嬢様……」

「では突入しますわよ」


 さぁ、帝都が陥落する前に、最後の一稼ぎをしましょう。




 ◇◇



 人工ゲートを潜り抜けた先は、暗い部屋の中でした。扉を探して外に出てみると──おやおや、大当たり。帝城の中でもかなり上層階のようです。窓から外を見ると、遠くで帝国軍と神聖帝国軍が戦っているのが見えます。


「本当に帝城についたのですね……さすがはお嬢様」

「しかし人の気配がしませんね?」


 たしかにネビュラちゃんの言う通り、人の気配がほとんどしません。かなりだだっ広い回廊だったりするのですが、一体どういうことでしょうか。


 やがて私たちは、回廊の最奥にある豪華な扉に手をかけます。開けるとそこは──真っ赤なビロードのカーペットが敷かれた、高い天井の広場。真向かいにあるのは、豪華な玉座。

 どうやらここは謁見の間のようですね。


「……よく来たな。貴様が【癒しの聖女】か?」


 まるで地の底から響くような声に前を向くと、玉座に黒い影が座っています。その横には寄り添うように立つ黒い女性の姿。ふむ……なかなか魅惑的な肉体バディをお持ちの女性ですね。


「ダレス……!」

「それにあの女性神官……ヤバい気配を感じるでございます。おそらく人間ではありません。噂の『四魔帝将』最後の一人、【暗黒神官】イーイールでございましょう」


 『四魔帝将』?

 どこかで聞いたことありますが……まあどうでもいいでしょう。はやく浄化でもして私の糧になっていただかないといけませんね。


 とはいえ、ダレスは油断のできる相手ではありません。

 私の【鑑定眼】が示した結果は、なかなかに気にいらないものでした。




 ──【魔皇大帝】 ダレス・ウォーレンハイト・スカイガルデン・ヴァン・ガーランディア──


 称号:『魔王』、『強欲の支配者』、『悪魔を統べしもの』、『神聖帝国皇帝』、『肉親殺し』

 ギフト:《強欲の大罪》


 状態:悪魔化(済)

 素体ランク:不可

 適合アンデッド:不可



 ──



 ──【暗黒神官】イーイール・サキュラス──


 称号:『悪魔神官』、『魔王の側近』、『悪魔に魅せられしもの』、『闇魔法の使い手』

 ギフト:《魅了》

 状態:悪魔化(済)

 素体ランク:不可

 適合アンデッド:不可


 ──




 やはり……二人とも完全に悪魔化が完了していますね。

 こうなるとアンデッドの素体としては全く使い物になりません。おそらくは悪くない素体でしたでしょうに……勿体ない。


「小娘っ! 魔王ダレス陛下がお尋ねよ! ちゃんと答えなさい!」


 私が鑑定に夢中になっていると、側にいた魅惑バディの持ち主イーイールがキツい口調で問い詰めてきました。

 実は私、前世で気の強い女性たち──ようは聖母教会の聖女たちや枢機卿たちですが、彼女たちから罵られまくったせいで、どうも苦手になってしまったのです。本来であれば女性は全て女神なんですがね……。

 これ以上罵られるのもキツイので、とりあえず聞かれたことに答えることにします。


「私は──【癒しの聖女】ではありませんわ。ただの下級貴族の令嬢ですの」

「なっ……!?」


 あ、この目はマジギレしてますね。

 スミレといいフローラといい、マジギレした女性は怖いんですよねぇ。ダレスはよくこんな怖い女性(.イーイール)の相手をできますよね。


「くくく……面白いやつだな。おい貴様、名はなんという?」


 ここで助け舟を出してくれたのはダレスです。

 よかったー、これ以上あの怖いお姉さんと話すのも辛かったので、嬉々としてダレスの質問に答えます。


「ユリィシア・アルベルトですわ」

「そうか。貴様、朕の妾にならんか?」


 メカケ?

 メガネ……ですかね?


「お嬢様、妾とは──内縁の妻のことですよ」


 あぁ、その妾ですか。さすがはネビュラちゃん、ナイスサポートです。


「どうだ? 皇帝の妾といえば悪い立場ではないぞ? このイーイールよりも上の愛妾にしてやろうではないか」

「なっ!? ダレス大帝!?」

「いい女が上に立つ、当然のことじゃないか? それともイーイール、貴様はユリィシアよりも上だと思ってるのか?」

「当然です! 今ここでこの小娘の首を刎ねて証明してみせましょう!」


 うわー、また怖いお姉さんがやってきました。

 困りましたね……ダレスさん、どうにかしてもらえないでしょうか。

 救いを求めるようにダレスに視線を向けると、次の瞬間──。



 ──ずむっ。


「あがっ!?」


 鈍い音とともに、イーイールの胸元から黒い何かが突き出しました。

 なんと、ダレスの背中から何か黒い脚のようなものが伸びて、イーイールの胸を貫通したのです。黒い血を吐くイーイール。


「な、なぜ……ダレス……さま……」

「くだらん、くだらんなぁイーイールよ。朕はなぁ……強欲なのだ。朕のものを奪うものは、たとえ誰だろうと容赦はしない」

「そん……な……」

「死ね、イーイール」


 ぎゅうぅんっ、という嫌な音とともに、イーイールの身体が一気に干からびていきました。あぁ、ナイスバディが勿体ない……。


「さぁ聖女ユリィシアよ。どうする? 朕の妾になるか? それとも……イーイールのように干からびて死ぬか?」


 答えですか?

 そんなもの、決まっています。


「もちろん──お断りしますわ」


 私が答えると、ダレスは嬉しそうに口元を歪めます。


「そうか、これを見ても断るか。……であれば仕方ない、朕が貴様の全てを奪ってやろう。死んで──朕のものになるがいい」


 バキッ。

 バキバキバキッ!


 鈍い音とともに、ダレスの背中が割れて何かが飛び出してきます。どうやら彼は悪魔としての真の姿を表そうとしているようです。


 ずずっ──ずずずっ……。

 何か巨大なものを引きずるような音。

 ダレスの背中から、節を持つ脚のようなものが八本、伸びてゆきます。


 ぞわぞわっ。

 私の背筋が、一気に泡立ちました。


「くくく……見せてやろう、魔王の真の姿を──全てを奪う、強欲の権化を!」


 ウルフェが私の前に立ち塞がり、守ろうとしてくれます。

 ですが──私は見てしまいました。ダレスの変貌した姿を。


 象よりも巨大で黒い毛に覆われ、まるで風船のように大きく膨らんだ胴体。

 人としての原型を僅かに止める顔には──数十もの赤い光を放つ目。

 そして、一本一本が柱のように長くて太い、節のある巨大な八本の足。


 その姿は──。


 あぁ、信じられません。

 よりによって、そいつの姿になるなんて……。


 ダレスが変貌を遂げたのは──。



 とてつもなく巨大な黒い蜘蛛の姿ではないですか。




 その姿を見た瞬間、私は──。


 私は──。



「ぎゃぁぁぁぁああぁあぁあぁぁぁあぁあぁあぁぁぁっ!!」



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― 新着の感想 ―
[一言] こんなにも「負けてしまえ!」と叫びたくなる主人公は初めて。
[一言] アンデットに巣張っちゃうとかで苦手なのかな? この反応からするに全力でペシャッと殺っちゃいそうな気がしてならない( 敵の敗因、蜘蛛になったから(゜ω゜)
[良い点] ユリィ蜘蛛きらいなのかな? 悲鳴がぎゃああって普段とのギャップに笑っちゃう
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