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80.大聖女のダンジョン(後)

 ネビュラちゃんと真龍アミティの三人でのダンジョン探索は続きます。


「あのー、もしかしてだけど……」

「ん?」

「ユリィシアは……ううん、なんでもないリュ。とりあえずここから脱出するまでは一蓮托生リュ」


 おやおや、アミティは何をぬるいことを言っているのでしょうか。


「何を言ってるのです? ずっと・・・一蓮托生ですよ」

「ふぇ?! で、でもあたちはクリスを……」

「その程度は構いませんよ。でもあなたはクリストルを救う時、なんでも言うことを聞くと言いましたよね?」

「ギクッ!? い、言ったかもしれないリュ……」


 残念でしたね、あの時点で私たちの〝契約″は成立しているのですから。


「いいでしょう、クリストルが存命の間はご自由になさい。それに大丈夫です、心配はいりませんよ。たとえ彼が死んだとしても、ずっと一緒なのですから……」


 苦労の末に手に入れたSSランク素体に貴重な真龍の素体、そう簡単に手放すわけにはいきませんからね。

 生きている間までは縛ろうとは思いませんが、死後は──むふふっ。


「あわわっ……もしかして聖女と呼ばれる存在は、みんなヤバいやつばっかりなのかリュ?」

「うーん、いにしえの大聖女とお嬢様が特殊事例だとは思いますが……どうなんでしょうかね? たしかにエトランゼ様も変なお方ではありましたが」

「に、逃げていいリュ?」

「『癒しの聖女』の軍団入り、おめでとうございますアミティ様」

「や、やめて欲しいリュ……。クリス、助けて欲しいリュ……。この人たち、下手なモンスターより怖いリュ……」



 探索を始めて7日目──。

 ついに私たちは下のフロアに降りる階段を見つけました。

 しかし、安直に喜ぶわけにはいきません。なぜなら階段の目の前に門番らしきモンスターがいたからです。


「お嬢様、あれは……」

一つ目巨人キュクロープスですわね」


 一つ目巨人キュクロープスはダンジョンに出没するモンスターの中でもかなり高位の存在です。そしてとても厄介な特性を持っています。


「キュクロープスには魔法が効きません」

「えっ?!」

「キュクロープスは物理攻撃のみでしかダメージを与えられないモンスターなのです」


 物理系の単細胞モンスターは私の最も苦手とする相手です。特に魔法無効化みたいな特性まで併せ持つキュクロープスみたいな相手は、正直戦いたくはないですね。


「……あたちが龍化すればなんとかなるかもしれないでリュが、あんまり攻撃力は高くないリュよ?」

「うーん、やめておきましょう」

「リュりゅ?」


 私たちの目的はこのダンジョンの違う出口からの脱出であって、攻略ではありません。

 そもそも第一層の探索も全て終わったわけではないですから、この層の探索が終わった後でも遅くはないですしね。

 であれば今、無理して戦う必要はありません。無益な戦闘は避けて探索を再開することにしましょう。


「……ユリィシアは意外と冷静リュね」

「お嬢様は自称『効率厨』なので、無益なことは嫌いなんでございますよ」


 そうです。私は効率を最も重視するのです。探索よりも脱出。宝よりも外界ですわ。

 さぁ、それではダンジョン第一層の探索に戻りましょうかね。もし全部探してみてもだめなら……またここに戻ってきましょう。



 階段のあるエリアから離れてさらに奥へと進んでいくこと数日──。

 私たちはまた新たに宝箱を見つけました。しかも今回は、禍々しい宝箱の手前にガーディアンらしき存在がうろついています。このダンジョンで出会った三体目のモンスターは、嬉しいことにアンデッドでした。


「あれは……また亡霊レイスでございますかね?」

「アンバーブレスで琥珀化するリュ?」

「いいえ、捕獲しましょう」


 実はこのレイスも、鑑定の結果、聖属性を持っていることが判明しています。ここのダンジョンのアンデッドは一体どうなっているのでしょうかね? 決してアンデッドランクは高くはないのですが、貴重ですので捕獲します。

 これで『七人の聖導女』も四体目の補充完了ですね。


「また消えたリュ……この聖女は一体何をやってるリュ?」

「気にしたら負けですよ、アミティ様。それよりも宝箱はやはり即死系の罠があって、ボクには解除不能でございます。今回も──」

「もうわかってるリュよ! あたちが盾になればいいリュよね!」


 どかーーん!!

 今回は指向型爆発系のトラップでしたが、さすがは龍の鱗を持つアミティ、黒焦げになっただけで特に問題ありませんでした。


「ゲホッ、ゴホッ。これ……中身が壊れてないリュ?」

「どうやら指向型爆破だったみたいで、中身は大丈夫でございますね。しかしこれは──指輪、でしょうか?」


 これまでの傾向から、また変な因縁を持つ指輪が出たのでしょうか。

 そう思いながら確認したところで──私は度肝を抜かされました。

 中に入っていたのは、いびつな形をした二つの指輪。


「こ、これは!! なぜこれがこんな場所にっ!?」


 私は震える手で二つの指輪を大切に持ち上げます。

 懐かしい意匠、懐かしい感触。

 ずっと探していました。前世の私が死んだあと行方不明になっていた、私の大切な宝物──。


「どうしたのです、お嬢様? 珍しく興奮して……」

「これは──『万魔殿パンデモニウムの鍵』です」

「はぁ? それってもしや……」

「ええ、『万魔殿パンデモニウム』に繋がる臨時ゲートを作ることができる鍵となる指輪なのです」


 前世の私は、これらの『パンデモニウムの鍵』となる魔法道具を5つ、いつも身に着けていました。

 そのうちの2つ──『髑髏の中指』と『死霊の小指』が、この宝箱の中に入っていたのです。


「それが……数多くの死霊術師ネクロマンサーが探し求めていた、フランケルの鍵の一つなのでございますね……すごいお宝ではないですか」

「ええ。とはいえ、この空間では使うことができませんわ。外に出た時に確認しませんとね」


 なぜエルマーリヤのダンジョンに私の指輪があったのか。

 このダンジョンはいったい何なのか。

 さすがの私も徐々に気になり始めました。


 ですが──それでも脱出することが先決です。

 まずは外に出ることができた段階で、じっくりとこのダンジョンについて考えるとしましょう。




 ◆◆




 ダンジョンからの出口となる新たなゲートを探して、とうとう15日ほどが過ぎました。

 『フランケルの指輪』以降、新たな宝箱の発見はなかったものの、広大な『大聖女のダンジョン』を歩き回った結果、ついに私たちは……エルマーリヤの胸にあった出入口とは別の『特異点』を見つけました。

 ダンジョンの突き当りにある、虹色の輝きを放つ歪んだ空間──。


「これは……ゲートでございましょうか?」

「ええ、しかもかなり特殊なゲートですね」

「どう特殊なのリュ?」

「行き先が、1秒ごとに変わっていますわ」

「……はい?」

「……へっ? そ、それはどういう意味リュ?」

「わかりやすく言うと、どこに飛ばされるかまったくわからないということです」


 これ実に珍しい抽選型次元門ルーレット・ゲートと呼ばれるものです。実物を見るのは、これが3例目となりますね。

 ルーレット・ゲートは一定時間ごとに行き先が変わることからこの名がつきました。どこに飛ばされるかがわからず、あまりに危険すぎて飛び込むのがギャンブルと言われている種類のゲートです。


 一般的に知られているルーレットゲートとしては、連邦の南部の森の中にある『フォレスのルーレットゲート』が有名ですが、あのゲートですら飛ばされ先の周期が変わるのは数時間に一度。

 私が個人で所有しているルーレットゲートも3〜4日に一度の周期で変わる程度ですが、いま目の前にあるものは一秒間隔で変化している極めて特殊なものです。どこに飛ばされてしまうのか……実にワクワクしますね。


「それってガチでやばくないですか? このゲート……本気で死ぬんじゃないですかね?」

「でもやっと見つけた念願のゲートですよ。うだうだせずにさっさと飛び込んでみましょう!」

「や、や、やめましょう! こんな恐ろしいゲートに飛び込むくらいなら、ボクはここで長生きしたほうがいいですうぅうぅ!」

「わがまま言わないでくださいネビュラちゃん。さぁ行きますわよ」

「んぐっ!?」


 なにやら騒がしいネビュラちゃんの首根っこを掴むと、呪いを発動させて黙らせます。

 沈黙したネビュラちゃんを見てか、アミティはなにやら諦めた表情で頷きました。


「……言わなくても分かってるリュ。あたちも飛び込むリュよ」

「物わかりが良くて嬉しいですわ。さ、では行きますわよ」

「んぐぐっ!」


 私は二人の手を取ると、そのままゲートに勢いよく飛び込んだのでした。




 ◇◇




「ここは──」

「ま、もしかして──」

「そ、空の上リュ!?」


 ルーレット・ゲートに飛び込んで飛ばされた先は──足場もなにもない場所でした。

 下を見ても、遥か下に雲が見えるような状況。どうやらここは──空の上に飛ばされたようでした。なかなかハズレのゲートだったみたいです。


 気づいた瞬間、私たち三人は自由落下を始めました。


「ひゃぁぁぁ、落ちるぅぅぅうぅぅ! 死ぬぅぅうっぅう」

「これは困りましたね。アミティ、お願いできますか?」

「……ユリィシアは落下しながらもスカートを抑えて冷静リュね。でも──わかったリュ! 【真龍化】!」


 アミティの体が光に包まれ、一気に巨大な真龍へと姿を変えていきます。

 こうやって見るとアミティはやはり龍なのですね。


「あいたっ!」

「龍の背に乗るのは初めてですね」


 アミティの背に掬うようにして拾われると、そのままゆっくりと降下していきます。

 雲の間を抜けていくと、見えてきたの地上の様子。ですが──なにか変です。

 数万人以上のたくさんの人間たちがひしめき合って、なにやらぶつかっています。


「これは、戦場でございますね」

「おお、そうみたいですね」


 しかもよく見てみると、戦っているのは神聖帝国軍と──帝国軍でしょうか。

 お、しかもなにやら懐かしい人たちの魔力も感じます。これはビンゴだったんではないでしょうか。


「……これもあのひとの気まぐれ、ですかね」

「お嬢様、何か言いましたか?」

「いいえ、なんでもありませんわ。それよりも絶好の場所に着いたみたいですから──このまま突入しましょう。アミティ、突撃してください」

『わかったリュ!』


 目指すは──戦場のど真ん中。

 美味しい獲物エサが、待ち構えていますわ。

 私はペロリと唇を舐めると、そのまま下界を見下ろすためにアミティの背の上に立ち上がったのでした。



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― 新着の感想 ―
[一言] エルマーリヤ、やっぱり只者ではない
[一言] アミティ大丈夫だよ気に入られてたら悪いようにはされないから
[一言] アミティが真実に気づいた
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