78.奇跡の生還、その真相
いやーやはり戦争はとっても美味しい〝稼ぎ場″ですね。
今日だけで50体以上の悪魔を屠り、怪我人を万人単位で治癒しまくったおかげで、私の魔力は大量にアップしました。
おそらく私の魔力値は──10万を超えたのではないでしょうか。んー、実に快感です。
……ですが、まだまだ足りません。
今後いつか来るであろう、エルマーリヤとの再会に向けて、私は少しでも実力を底上げする必要がありますからね。
このような貴重な機会、今後とも逃さないよう大事にしないといけません。
ちなみに今回アンデッドの素体については、そもそも良い感じのは既に唾をつけていたのと、他に目ぼしい素体がいなかったこともあり、特に手をつけませんでした。あまり欲張りすぎても良くありませんからね。
「ユリィ! ユリィ!!」
大仕事を終えて帝国軍の陣に帰還した私は、久しぶりに会ったアナスタシアから熱烈な抱擁を受けました。
おぉ、これですよ。このふわふわした甘い感じ。やっぱり抱きつかれるなら女の子が一番です。
「よかった、生きててよかったわ……本当に心配したのよ」
「ごめんね、アナ」
「あたくし、あたくし……あなたが……ユリィが……あぁぁぁぁぁあん!」
「よしよし。いい子いい子」
「泣がない゛っでぎめでだのにぃぃぃぃい! うわぁぁぁぁぁぁあん!」
私たちの再会を見ていた人たちが、大歓声を上げながらボロボロと涙を流しています。
アナスタシアのような美少女に抱きしめられる私が羨ましいのでしょうかね? でも残念ながらこの立場を誰にも譲るつもりはありませんけどね。
「ユリィ、怪我とかはないの?」
「あらシーモアもいらしてたのね、お久しぶりです」
「……君は相変わらずマイペースだね。僕たちがどれほど君のことを心配したかわかってる?」
まぁ普通は私たちが死んだ……いいえ、〝輪廻転生″したと思うでしょうね。
どう考えてもいにしえの大聖女から逃れる術があるとは思えませんもの。
「それで、あなたたちはこれまでどこでなにやってたのかしら?」
げっ、フローラです。
その後ろにはカインやアレク、それにラスターやクリストルの姿まで見えます。
これは……困りましたね。私が救いを求めるようにネビュラちゃんと人化したアミティに視線を向けます。
「……わかりました、お嬢様。僭越ながらこのネビュラから、お嬢様の身になにがあったのかをご説明させていただきます」
私の視線を感じ取ってくれたネビュラちゃんが助け舟を出してくれて、私に代わって説明を引き受けてくれます。さすがは私の腹心です、今度ご褒美をあげましょう。
「実は──お嬢様を含めたボクたちがどうやって助かったのかというと……『いにしえの大聖女』の体にあったとある秘密のおかげなのでございます」
「とある秘密?」
鸚鵡返しに尋ねるウルフェに、ネビュラちゃんは頷きます。
「はい、実は……『いにしえの大聖女』の体に──【○▲◎×◆】があったのです」
「は?」「ひ?」「ふ?」「へ?」「ほ?」
◆
──遡ること、数ヶ月前。
エルマーリヤによって追い詰められ、もはや万策尽きた私は、せめてエルマーリヤの胸に抱かれて輪廻転生しようと胸元に飛び込みました。
そのとき──私は偶然にも、驚くべきものを発見してしまいました。
エルマーリヤの聖なる双丘に見えるもの、それは──。
「っ!?」
私は即座に聖魔法を発動させます。
即座に強烈な反作用が発生して、エルマーリヤの《聖域》からものすごい勢いで弾き飛ばされてしまいました。結果、壁に叩きつけられたのですが、この際贅沢は言ってられません。
「ぐふっ……」
「お嬢様! 大丈夫でございますかっ!?」
「血を吐いて……て、もう治ったりゅ!?」
「ふふふ、見つけましたわ……突破口」
「えっ?」「突破口?」
私はついに見つけたのです。
エルマーリヤから全員が助かる方法。
そのヒントは──エルマーリヤの胸にあったのです。
「おっぱいです」
「へ?」
「エルマーリヤの聖なる双丘に、『ゲート』もしくは『ダンジョン』がありましたの」
「は?」
それまでエルマーリヤの周りには《聖域》が張られていたため、私の鑑定眼でも気づきませんでした。
ですが、聖域の内側まで入り込んだとき──私の目に、ある〝特異点″が飛び込んできたのです。
「エルマーリヤの胸の真ん中に特異点がありました。おそらくあれは──ゲートかダンジョンです」
「なんですって……?」
「そ、そんなところにゲートかダンジョンがあったりゅ?」
「理論上はありえますわ。なにせエルマーリヤの魔力は規格外、存在自体が特異点といえますからね。異常魔力の揺蕩う場所にこそ──ゲートやダンジョンは産まれるものなんですもの」
すべての魔法を打ち消し、触れるだけで輪廻転生を発生させるエルマーリヤですが、さすがに自分の体に発生しているゲートもしくはダンジョンまでは追ってこれないでしょう。
そう、これは──偶然がもたらしてくれた、絶好のチャンスなのです。
エルマーリヤから全員が逃れるためには、この特異点に飛び込むしか方法はないでしょう。
「ネビュラちゃん、アミティ。この私に──命を預けますか?」
「預けるもなにも、他に助かる手があるならお願いするりゅ! あの存在に力を吸われてもう変身も出来ないりゅ!」
「もとより命を預けてございます、お嬢様」
二人の返事を受けて、私は近くに落ちていたクロップスの残骸へと駆け寄ります。
探すのは──あれです。
どこにありますの? はやく見つけないとエルマーリヤが……っと、ありました!
私はクロップスの服の間に落ちていた指輪を拾い上げます。
探していたのはこれです、〝次元の指輪″。
「ふたりとも、この中に格納しますわよ」
「りゅ!?」「お嬢様、マジですか?!」
「奴隷たちが入っていたくらいなので空気はありますよ。少し暗くて狭いかもしれませんが、輪廻転生するよりマシなので我慢してください。それとも……生身でエルマーリヤの《聖域》に突っ込みます?」
ふたりが激しく首を左右に振るのを見て、私は指輪の力を解放すると、すぐ近くの空間にできた次元穴の中にふたりを叩き込みます。ついでに2体だけ残った『7人の聖導女』も入れて……と。さぁ、これで準備完了です。
「いきますわよ、エルマーリヤ!」
私はすぅと息を吸い込むと、そのまま──エルマーリヤの胸元にあった特異点に飛び込みました。
◇
──跳び込んだ先にあったのは、夜空のようにチラチラと光り輝くものが見える空間にある不思議な場所でした。
この感じ……どうやらあの特異点は『ゲート』ではなく『ダンジョン』だったみたいです。
よかったです、もし飛ばされた先が『万魔殿』みたいに空気がない場所でしたら一瞬で絶命していましたからね。まだまだ私にはツキが残っているみたいです。
「ここは……?」
「ど、どこりゅ?」
次元の指輪から出てきたネビュラちゃんとアミティは、不思議な空間に戸惑っています。
仕方ありませんね、私が説明してあげましょう。
「ここはダンジョンですね。しかも──どうやら【高度次元迷宮】のようです」
ですが私の言葉がピンとこないらしく、ふたりは不思議そうに首を捻ります。
「その……エクストラダンジョンとは何だりゅ?」
「エクストラダンジョンは、通常のダンジョンでは起こらないような異常事態が発生する、極めて特殊なハイレベルダンジョンです」
エクストラダンジョンは、ごく稀に存在するダンジョンです。
通常のダンジョンとは違い、独自の固有特性を持っています。
たとえば──一瞬で死んでしまう致死性の毒が充満している。格の違うモンスターが出没する。致命的な伝染病が蔓延している、等……。
「げっ、マジりゅ!?」
「ええ、流れの冒険者などは『デスダンジョン』と呼んで近づかないみたいですね」
「お嬢様、それって……ピンチが続いているということではないでしょうか?」
でも私から言わせていただくと、エルマーリヤとまともに対峙するよりははるかにマシではないかと思います。
しかも私の鑑定眼がちゃんとこのエクストラダンジョンの『特徴』を既に解析していますし。
「このエクストラダンジョンの特性は──『時間』のようですね」
「時間?」
「ええ、どうやら外界よりも時間の経過が少し遅いようです。その差はおおよそ……数倍くらいでしょうか」
ぶっ。
ネビュラちゃんが汚いことに唾を吹き出します。
「えーっと、それって、ここを出られてもものすごく時間が経過している、ということでしょうか?」
「ええ。まあでもたかだか数倍程度なので、外に出てみたら数百年ということはないと思いますよ。ここでの1日が5日とか……そんな感じではないですかね」
「まぁあたちは長寿だからあまり関係ないでりゅが……」
とはいえ、あんまりのんびりしてたらみんなおじさんおばさんになっているかもしれませんね。
どうせなら骨になってくれていれば後処理が楽なんですが……。
「とりあえず奥に進んでみましょうか。このままここの出口から出ても、またエルマーリヤに追いかけられるだけですからね。ダンジョンの中を探索してみて別の出口がないか探してみましょう」
幸いにもクロップスが残した次元の指輪の中にはかなりの量の食料も入っていました。これだけあれば数ヶ月は生活できそうです。
「しかもエクストラダンジョンはですね、レアリティの高い魔法道具が出やすいという特徴もあります」
「おお! あたちはマジックアイテムは大好きでりゅ!」
「もしかすると、お嬢様の『黒ユリ化』に利するような魔法道具も見つかるかもしれませんね」
「ええ、せっかくですのでダンジョン内のお宝探しといたしましょうか」
こうして私たち三人は、エクストラダンジョン──【大聖女のダンジョン】に挑むことにしたのでした。




