62.双子の契り
ここから新章突入です(●´ω`●)
あっという間に時は流れ──。
気がつくと私は三回生になっていました。
私はいま、前世を含めて青春……いえ人生を謳歌していると言っても過言ではないでしょう。
なにせ、私の側には──。
「ユリィ! こんなところにいたのね!」
笑顔で駆け寄ってくる、長身黒髪の女の子。
三回生になり、生徒会長となったアナスタシアは、前より一段と輝いて見えます。いえ、実際溢れんばかりの魔力が放たれていて……いえ、あれは魔力ではなくオーラですね、オーラ。
「アナ!」
私が呼びかけると、アナスタシアは素晴らしい笑みを浮かべて私の腕に絡みついてきます。さらに溢れるオーラが強くなりました。あぁ、なんと眩いのでしょうか。
アナスタシアは昨年、悪魔に乗っ取られかけるという大事件に巻き込まれましたが、なんとか撃退してことなきを得ました。
その事件のあと私たちの仲は急接近して、なんと親友になったのです。
親友ですよ? し・ん・ゆ・う!!
あの事件のあと、アナスタシアは学園長やいろいろな人たちに謝っていました。詳しくは知りませんが、他にも色々とやらかしてしまっていたみたいです。
ですが、アナスタシアが学園長たちに「すべてはわたくしの勘違いでしたわ、申し訳ありません」と謝罪したことで全てが丸く収まりました。
そう、悪いのは悪魔。悪いのは悪魔……。
とはいえ肝心の悪魔は──今では私の軍団の一員として、学園内の隠しダンジョンのボス的存在として君臨してもらってます。
一度軍団に入ってしまえば、全ては私の身内です。罪を憎んでアンデッドを憎まず、ですわ。
なので私は、その全てを不問にしました。
そもそも人間誰にでも失敗や間違いはあるものです。
前世の私はいにしえの聖女の復活に失敗しても誰も許してくれませんでした。私だって失敗したくて失敗したわけではないのに、命まで狙われるなんて……実に悲しい思いをしたものです。
ですが、今世は違います。なにせ私は許す方の立場なのですから。
私が許したこともあって、学園長やキャメロン、ピナやナディアたちもアナスタシアを責めることはありませんでした。アナスタシアの謝罪を受けて、学園長も反省する態度が素晴らしいと口にしましたし、最終的には全てを水に流すことになったのです。
そして、困難を乗り越えたアナスタシアは大きく成長していました。
不思議なことに、あの事件以降──星のない夜のように漆黒だった髪に、一房だけ私と同じ白銀色の髪が混じるようになりました。
── アナスタシア・クラウディス・エレーナガルデン・ヴァン・ガーランディア ──
年齢:14歳
性別:女性
素体ランク:SS
ギフト:『ブラック・カリスマ』
称号:『大罪を乗り越えし者』、『聖母神の祝福』、『聖者の列聖』
適合アンデッド:
?????(SSS)……16%
──
今では生徒会長の座をフェアリアルから引き継ぎ、名実ともに学園のトップになったアナスタシアの能力は大きく向上していました。
見たことがないギフトがありますが、これは以前の【嫉妬の大罪】が消えて新たに出現したものです。
正体不明なギフトなのですが、適合アンデッドに変更はないので、おそらく以前のギフトが進化なり昇華なりしたものなのでしょう。
あと、称号のほうについては──実は私の鑑定眼も進化を遂げていて、新たに『称号』というものを見ることができるようになったのです。ですが、この称号、全員にあるわけではありません。多くの生徒には称号は見えなかったので、おそらく特別な人にしか表示されないものだと思われます。
ただ、実は称号の意味はよく分かっていません。そもそも生徒たちから呼ばれているものとは別のようですし──アナスタシアの代名詞である『黒薔薇』がありませんから。あ、ちなみに私は『白百合』と呼ばれてたりします。うふふ。
ということでアナスタシアの称号ですが、こちらにはやたらと『聖』の字が入ったものが多いのが気になります。
あと、実は『聖者の列聖』については、ウルフェやネビュラちゃん、他にもキャメロンやピナ、ナディアにも見ることができました。どういうことなのか気になりますが……まぁどうでもいいですよね。なにより一番大事なのは、アナスタシアが私の親友なのだということですよね、し・ん・ゆ・う!
「それじゃあ一緒にランチしましょう、ユリィ」
「ええ、アナ」
今日もいつものようにアナスタシアと一緒に昼食を食べにカフェテリアに向かいます。
そうなんです。私もついに一人飯を卒業したのです! しかも相手はアナスタシア……あぁ、なんという幸せ。
カフェに向かう道中、すれ違う生徒たちがいろいろと声をかけてきます。なにせ私たち──特にアナスタシアは、学園の中でも特に目立つ存在ですからね。中には遠巻きに見ながら悲鳴のような声を上げる子たちまでいました。
「あぁ、薔薇百合様よ! なんて素敵なの!」
「何言ってるの!? 百合薔薇様よっ!」
「さすがは学園の双璧──お美しい!」
「学園の『ブラン・ノワール』……尊いですわ」
そうそう、実は私とアナスタシアは例の事件のあと〝姉妹の契り″を交わしたのです。
ただ厳密には同級生は姉妹になれないので、アナスタシアの提案で特別に新たな契りを創出しました。
その名も──〝双子の契り″。
この契りは、学園内で爆発的に流行しました。
姉妹はハードルが高くても、双子なら……と、仲の良い女子同士が契りを交わすという現象が多発したのです。
事態を重く見た学園側と生徒会は、双子の契りの規制を検討しましたが……やり始めの二人が生徒会役員だったので、なんとも締まらない経緯を辿った挙句、結局は非公認の契りとして見過ごすことになったのでした。
そのような経緯もあって、私たち二人は『始まりの二人』だの『ブラン・ノワール』だの『百合薔薇様』だの『薔薇百合様』だのと呼ばれるようになりました。
勝手に呼ばれる分には良いのですか……とにかく注目を浴びてしまうのはいただけません。なにせ私はともかく、相手はアナスタシアですからね。コミュ障の私にはなかなか辛いものがあります。
でも、しょせんは女の子の視線。今まで睨まれ厭われたことこそあれ、好意の視線を向けられたことはなかったので、これはこれでとても新鮮なものでした。
「あぁ、おいしかったわね。ユリィと食べるランチは格別だわ」
なんとも幸せなことを言ってくれるアナスタシア。
私も同感ですわ。でもそう口にしなくても目と目があうだけで通じます。これぞ親友です、し・ん・ゆ・う!
「しかし、ユリィはものすごい治癒の力を持ってますのに、なぜ隠すの?」
「大した力ではありませんわ」
もぐもぐ食べながら適当に答えますが、アナスタシアは納得してくれません。
「もったいないわ、それだけの力があればきっと聖女にだって……」
「それだけは無理ですわ。私にその資格はありませんもの」
「まぁ、ユリィってば謙虚ですのね」
謙虚なのではなくて、聖女になるのが論外なだけなのですけどね……。
それに、私ももうすぐ15歳。
そう、待ちに待った成人です。
成人さえしてしまえば、私は一人でいろいろなことができるようになります。もちろんこの学園という幸せな空間を卒業した後のことですけどね。
こうなってくると、この学園行きを進めてくれたフローラに感謝してもしきれません。前世の私を殺害したことくらいは水に流しても良いでしょう。
ですが──私の幸せはいつまでも続きませんでした。
◇
「聞いてくださいユリィシア先輩! このまえのピアノコンクールで金賞をもらったのですよ!」
「あたしも絵画コンクールでサン・ロワール賞を受賞しました!」
嬉しそうに私に報告してくれるのは、ピナとナディアのふたり。
この二人も実は双子の契りを交わしています。なんでも『ユリィシア教』を皆に布教するための同盟だと言っていたのですが……ユリィシア教ってなんですかね?
「実はコンクールでオリジナルの曲を披露したんです。その名も──『愛しの百合の君』。もちろん、ユリィシア先輩のために作った曲ですよ!」
「あたしも先輩を題材にした絵で受賞したんです! その名も──『窓辺で微笑む百合の君』。審査委員たちも先輩の美しさに釘付けでしたの! 100万で売ってくれと言われましたけど断りましたよ。もちろん先輩にプレゼントするためです! 一応背景に黒薔薇様も入れてますよ」
「まぁナディア、それはユリィシア先輩の引き立て役として、ですよね?」
「ええ、もちろんよ!」
二人はこのように言っていますが、すでに仲直りをしており、アナスタシアとの確執はもうありません。事実──。
「あ、噂をすればアナスタシア先輩ですよ! せんぱーい!」
このように、今では普通に言葉を交わすようになっています。
ところがピナの大きな声にも、アナスタシアは返事をしません。聞こえていないのでしょうか?
遠目にも浮かない表情のアナスタシア。なにやら上の空です。どうしたのでしょうか、気になって駆け寄ります。
「アナ、どうしたのです?」
「あ、ユリィ……」
私に気づいたアナスタシアが少しだけ力のない笑顔を浮かべます。
それだけでも嬉しいのですが……やはり表情は冴えません。ちょっと気になりますね。
「実は──どうやら帝国に不穏な空気が流れてるみたいですの」
「不穏な空気?」
「ええ、帝国内で内乱が起こりそうなの」
内乱!
これは心踊る事態ですね!
なにせ内乱や戦乱は、アンデッドの素材が集まる絶好の機会です。
私も戦乱が発生するたびにこっそりと忍び寄って、素体集めを行っていましたから。
特に英雄や将軍クラスが討ち死にしたあとなどが狙いどきです。ランクの高いアンデッドが手に入る可能性が高いですからね。
とはいえ前世の時はやりすぎてバレてしまい、随分と警戒されたり嫌われたりしてしまいましたが……。
「穏やかではないですね」
「ええ、詳しい情報が入ってこないからわからないのですが、家族が無事だと良いのですが……」
そういえばアナスタシアは帝国のお姫様でした。その家族ということは、皇帝や皇子皇女ということになるのでしょうか。
もともと帝国は敵を作りやすい政策を敷いていたので、敵が多いだけでなく国内にも火種が多いことで有名でしたからね。
とはいえ、親友のアナスタシアが悲しむようなことが起きなければ良いのですが。
しかし、残念ながら私の願いは叶いませんでした。
とうとう帝国で決定的な事件が発生してしまったのです。
◇
「……お嬢様、ご報告がございます」
まもなく今年の一回生のデビュタントを控えた日の夜のこと。珍しくネビュラちゃんが神妙な顔つきで私の部屋にやってきました。
「なんですの? ネビュラちゃん」
「たった今入った情報なのですが──ガーランディア帝国で大きな政変が発生しました」
政変?
「勿体ぶった言い方ですね。もう少し分かりやすく言っていただけますか?」
「はい、では申し上げます。帝国皇太子のダレスが……クーデターを起こしました」
「えっ?」
「クーデターは成功し、皇太子ダレスは先代皇帝を含む帝位継承者を全て殺害。その上で──新たに『神聖ガーランディア帝国』の樹立を宣言。その初代皇帝として即位する旨を対外的に発表いたしました」




