表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/167

60.黒薔薇 vs 黒百合(後編)

 悪魔に汚染されてしまったアナスタシア。

 残された時間は──あと僅か。

 そんな彼女を救う手段は、汚染された魂から悪魔を追い払う──すなわち『破邪』することです。


 そして私は偶然にも──破邪のギフトを持っています。

 正確には《浄化の左手》なので名前はちょっと違いますが……まぁなんとかなるでしょう。


 モノは試しです。とりあえず悪魔メイガスを左手で殴ってみることにします。


「不意打ちユリィパーンチ!」

『ぐえっ!』


 あ、いけません。今は〝黒百合″状態でした。

 これでは《浄化の左手》が効果を発揮しませんね。ただの物理攻撃でしかありません。

 うーん、せめて左腕だけでもどうにかなりませんかね?


 私は怒りの気持ちを抑えながら、なんとか聖なる力を取り戻そうとします。

 すーはー、すーはー。りらっーくす。りらっーくす。


『な、なんだ貴様はっ!? この身体の主は貴様にとって大切な存在ではなかったのかっ!? それを不意打ちで殴るとは……悪魔にも劣る所業ではないかっ!』


 あーもう煩いですね。

 しかもチョロチョロ動かれると狙いがズレるじゃないですか。


 とりあえず《 審罰の左目 》でガチガチに動きを縛ってみて──あ、うまくいきましたね。

 どうやら完全に悪魔化する前であれば、私のギフトも効果を発揮するようです。


『──か、身体が動かんっ!? しかも、なぜ貴様の左半身が……白くなっていくっ?! あ、ああっ、その力はぁぁあっ!?』


 お、どうやら上手く行っているみたいですね。私の身体に聖なる力が戻ってくるのを感じます。

 ただ力の加減が分からなくて、左手どころか私の左半身が元の白色に戻ってしまったようです……あらあら。


 半分白色で半分黒色など、なんだかシュールなのですが──この際仕方ないので受け入れるとしましょう。このあたりは今後の課題ですね。


「さぁ、今度こそ成敗しましょうかね。腕をぐーるぐる回してぇの──」

『信じられん……なんだその左手のギフトはっ!? それではまるで、か、か、神の──』

「回した回数だけ威力が倍増しますからねぇ」

『な、なんだとっ!?』

「あ、もちろんウソですけどね」

『き、貴様っ!? ウソを吐くなど悪魔にも劣る──』

「うるさーい。くらえっ、ユリィパーンチ!」


 ばきっ!


『グワアアァアアァァアァァァア!!』


 《浄化の左手》がクリーンヒットし、悪魔メイガスが間抜けな声を上げながらアナスタシアの体から少しだけ飛び出しました。

 お、なんだかうまくいきましたね。


 ただ一発だけでは完全に出てこなかったので、もう何発か打ち込む必要がありそうです。

 本来は肉弾戦は苦手なのですが、この際贅沢は言えません。ポリシーを曲げてでもアナスタシアのために頑張らなければならないときもあるのです。


 と、いうことで──。


「ユリィパーンチ! ユリィチョーップ! ユリィエルボー! ユリィ……デコピン!」

『や、やめロォオォオォオォォ!!!!』


 お、意外にもデコピンが結構効きましたよ。

 私の《浄化の左手》の効果は抜群で、ついにはアナスタシアに憑依していた悪魔が完全に体外に出てきました。

 姿を現したメイガスは──まるで黒いコウモリのような姿。これならゴミ虫というよりもゴミクズと呼んだ方が良いかもしれませんね。


『ば、ばかな……憑依に成功した悪魔が、体外に出されるだと?! そんなの前代未聞だぞ?!』


 たしかに私も聞いたことがありません。

 でも、できちゃったものは仕方ないですよね。


 さて、なんとか悪魔の分離は成功したので、次はいよいよ総仕上げです。

 私は黒百合状態のままの右手をパチンと鳴らします。


 ──本来はアナスタシアを驚かすためにとっておいた仕掛けを、いまこそ披露するとしましょう。


「あなたたち、出てらっしゃい」


 私の合図に呼応して、ダンジョンの入り口が輝き始めます。

 実は私は──ダンジョンにあるものを隠していたのです。

 それは──。


「「「きしゃー!!」」」


 ダンジョンから姿を現したのは──ぼんやりと黄色い光を放つ7体の幽霊レイスタイプのアンデッド。しかも全員が女性です。


『な、なんだ? こいつらは……?』

「うふふ……彼女たちはですね、七不思議の最後の一つ──『7人の聖導女』ですわ」

「「「きしゃー!!」」」


 これが、私のとっておき・・・・・の仕掛け。

 私は『七人の聖導女』を、事前に捕獲していたのです。


 実は──七不思議の中で『7人の聖導女』だけが本当に存在していることに、私とネビュラちゃんは薄々気付いていました。そして、二人で夜の学園内を徹底的に調査した結果、『7人の聖導女』の実在を確信し、ついには捕獲することに成功したのです。

 ふふふ……久しぶりに『天然モノ』をゲットしましたよー。さすがにピッチピチで活きが良いですよね。


 とはいえ、すぐにはどうすることもできなかったので、とりあえずダンジョンに隠して保管していました。

 そして今回の『打ち上げ』で、こっそりアナスタシアに見せて驚かそうとしていたのですが……ふふふ、もっといい使い道を思いつきましたよ。


「悪魔メイガス、あなたに──私の友達を乗っ取ろうとした罰を与えます」

『なっ!? ば、罰だとっ!?』

「あなた──『7人の聖導女』に加わりなさい」

『は、はぁ?』


 特殊アンデッド『7人の聖導女』は、『七人の迷い人セブン・ワンダラー』と呼ばれるBランク相当アンデッド群の変異種で、そのレアリティはAランクです。

 もちろんそれだけでもかなり上位なのですが、彼女たちには実に強烈な固有能力があります。

 その固有能力は──『道連れ』。


 彼女たちは、獲物となる魂を捕獲したうえで、自分たちの一員に加えることができるのです。

 その対象に──はたして悪魔は含まれるのでしょうか?

 ふふふ……実に興味深いですね。さっそく検証してみましょう。


「みなさん、やっておしまいなさい」

「「「きしゃーーーっ!!」」」

『な、なんだー! こいつらはーっ!?』


 7人の聖導女のアンデッド達に囲まれる悪魔メイガス。

 そのまま聖導女たちは手を繋いで、メイガスの周りをグルグルと回り始めます。

 うーん……なんとシュールな光景なんでしょうか。


『いや、やめろっ! うぎゃああああぁあぁ!!』


 やがて完全に捕らえられたのでしょうか──聖導女のうちの一人が天に昇天していき、代わりにメイガスが一団に加わりました。

 列に入った瞬間、メイガスの顔から表情が抜け落ち……人型の姿になって他の六人と一緒に歩き始めます。

 これにて──新たな『7人の聖導女』の完成です。


 いやー、実に面白いですね。どうなることかと思いましたが、ちゃんと悪魔もアンデッド群の仲間入りすることができるようですね。これは新しい発見です。

 しかも悪魔メイガスが加わった結果、『七人の聖導女』のアンデッドランクが、なんとSにランクアップしていました。

 うふふっ……なんと興味深い結果なのでしょう。いろいろな試行錯誤によって、新たな可能性が見える。これぞ死霊術の醍醐味というものですね。


「あー、すっきりしましたわ」


 無事にゴミクズの消去も完成し、新たな天然ものをゲットして満足した私は──すっかり毒気が抜けてしまい、いつのまにやら元の白い姿に戻っていました。


 ふむ……どうやら私はなんらかの激しい感情によって心が揺さぶられることで、黒百合モードに切り替わることができるみたいです。

 確かに私は前世時代からあまり気持ちが昂ることはなかったので、これは完全に盲点でした。

 ネビュラちゃんに検証させている聖属性を抑えるポーションと並行して、こちらについても調査する必要がありますね。


 ですが──それも全てが落ち着いたあとです。

 まずはアナスタシアからでしょう。


 悪魔に侵食され、乗っ取られる寸前だったアナスタシアですが、今は静かに寝息を立てて眠っています。

 幸いにも治癒魔法をつかうと、全ての怪我も癒えました。もちろん、私が殴ったりデコピンした跡も……。

 心配していた魂の損傷も、幸いにも見られませんでした。


「ふふふ……。よかったですわ」


 私は穏やかな表情で気を失っているアナスタシアを抱えると──ほっと息を吐いて、大きく胸を撫で下ろしたのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あしゅら男爵……。 この醜悪な主人公にはお似合い。
[一言] 七人の聖導女の存在や悪魔退治で魔力あげてる主人公の力も蟲毒みたいなものものなのかな。むしろ、聖女と言われてる人の魔法って悪意を奪って力に変えたり傷のしに近づかせる力や毒や呪いを力にかえてると…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ