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46.デビュタント(ユリィシア視点)

 ──遡ること、1日前。



 ◇



 あぁ、キャメロンの育成が面白すぎて、私としたことがデビュタントのことをすっかり忘れていましたわ。

 これまでずっと人と接することなくアンデッドとばかり過ごしてきたこの私ですが、人を成長させるというのもなかなか面白いものですね。特にSSランクが解放されたときなどは軽いカタルシスを覚えましたものです。


 ですが女性へ転生したからには、淑女を目指すというのが今の私のもう一つの目標です。そのためにはきちんと明日のデビュタントの準備をしなければなりませんね。

 ついでに言うと、クラスメイトたちの着飾った姿を見るのも楽しみです。まだうら若き乙女たちの一世一代の晴れ姿、しかとこの目に焼き付けさせていただきます。


 ダンジョンを脱出して慌てて白薔薇寮に戻った私たちを待ち構えていたのは、三人の女性たちでした。


「レナユナマナ!」

「やっほーユリィシア」「お手伝いに来たわ」「あたしたちに任せといて!」


 お手伝い? なんの手伝いでしょうか。


「だってあなた明日デビュタントでしょ?」「可愛い弟子のネビュラちゃんだけだと心許ないからね」「あたしたちも手伝ってあなたを全力で綺麗にするわ」


 おぉ、どうやら援軍に来てくれたみたいです。

 これは実に頼もしいですね。


「えーっと、この方たちは……?」

「私のお友達ですわ。あとネビュラちゃんの師匠でもあります」

「ねーユリィシア」「あたしたち、お友達よねー」「うんうん。ところでそこのかわい子ちゃんはだぁれ?」


 おや、レナユナマナがキャメロンに目をつけたみたいです。


「私のお姉様メントーレになる方です。キャメロンお姉様ですわ」

「「「うわーこの子がユリィシアのお姉様に!?」」」


 ここで一気に三人に取り囲まれるキャメロン。目を白黒していますが、レナユナマナはおかまいなしにタッチしまくっています。


「なにこの子、すごく素材がいいわね!」

「うん、これは気合い入るわ! まとめて一緒にやっちゃいましょう!」

「あなたもドレスを持ってきて!」

「ふぇ?! は、はぁ……」


 というわけで、キャメロンは無理やりドレスを取りに行かされてしまいました。

 ところが持ってきたドレスはぶっかぶか。それもそのはずです、なにせこの1ヶ月でキャメロンの体型は劇的に変化してしまったのですから。


「あら、まったく寸法が違うじゃない。ちょうど予備を幾つか持ってきてるからこっちを使うといいわ」

「え?」

「予備のドレス持ってきて正解ね。そういえばユリィシアにはアンナメアリ様から宝飾品のプレゼントを持ってきたわよ」

「ありがとうございます。両親からもらったドレスだけでしたので」

「あらじゃあ一緒にあなたもコーディネートしなおしましょうかね」

「え? え?」

「ちょっとあなた、胸おっきいわね。このままだとキツイだろうから、あたしが仕立て直すわ。間に合うかな?」

「えっーー?」



 ──そしてついに迎えたデビュタント当日。

 レナユナマナの頑張りもあって、なんとか準備は間に合いました。ヴァンパイアなので体力たっぷりなはずのネビュラちゃんでさえ、さすがにぐったりしているくらいです。


 今回、私たちは馬車でゆっくりと会場に向かいます。なんでもギリギリまで私たちの姿を他の人たちに披露したくないのだとか。


「遅くなって大丈夫なんですか?」

「ちゃんとアンナメアリ様が手を回してるから大丈夫大丈夫」「それにジュザンナ様も同意しているらしいわよ」「最近あの二人、なんだか仲がいいのよねぇ」

「ふぇ!? そ、そのお名前、どこかで聞き覚えが……?」


 やがて会場に到着すると、私たちは他の生徒たちがいる大きな部屋ではなく、個別の小さな控え室に通されました。てっきり他の生徒たちと一緒だと思ったのですが、なぜ別なのでしょうか。

 しかも、いざ登場する番が近づいてきたときに急に待ったがかかりました。本来であればオルタンスの前に登場する予定だったのですが、ジュザンナが止めたらしいのです。


「準妃様が、大切なVIPがまだ来てないから、ユリィシアの登場を待って欲しいんですって」

「……そうですか、わかりました」


 登場順は特に気にしていないのでどうでもいいのですが、待たされることによって、違う問題が発生しました。

 そう──緊張してきたのです。


 実は私、前世で命を狙われることはあっても大勢の前で注目されることなど無かったので、どうして良いのかわからなくなってしまいました。

 どうしましょう……心臓がドキドキします。

 こんなに緊張したのは、いつ以来でしょうか? 間違って師匠が潜んでいた隠しダンジョンに落ちた時を思い出します。あのときは危うくゾンビにさせられるところでしたからね……今となっては良い思い出です。


 しばらく待機していると、ようやくゴーサインが出ました。いよいよ私の入場の番です。

 クリームイエローの可愛らしいドレスを着たキャメロンに導かれて、みんなの前を行進します。


 ですが、あまりの緊張に周りが全く見えていません。なんとなく注目されている気がするのですが……なぜでしょう?

 あ、わかりました。きっと遅れて登場したからですね。

 注目されるようなことは極力避けたい私、一刻も早くこの居心地の悪い空間から立ち去りたくて仕方ありません。


 逃げたくなる気持ちを必死に抑えながら、なんとか生徒たちの列を通り抜けていきます。最後に待ち構えていたのは──大変美しい3人の女性。

 それもそのはずです、なにせこの三人は全員が国王の妃なのですから。こんな美人を三人も妻にするなんて、国王陛下はなんとうらやまけしからんことでしょうか。

 事前に教わっていたとおり三人の前でカーテシーをすると、アンナメアリとジュザンナが席を立ちあがり、満面の笑みを浮かべながら私のそばに歩み寄ってきます。


「やっぱり素敵ねユリィシア。レナユナマナを送り込んだ甲斐があったわ」

「ありがとうございます、アンナメアリ側妃。おかげで準備が捗りました」

「あなたはわたくしの娘みたいなものですからね。すごく可憐で美しいわよ」


 私もアンナメアリみたいな母親は大歓迎です。胸の大きさではフローラに軍配ですが、触り心地はアンナメアリの方が上だと思います。うーん、なかなか甲乙つけがたいですね。


「ごめんなさいねユリィシア、シーモアのわがままで足止めしちゃって。なんでも少し遅れるからあなたの入場タイミングを見たくて足止めしてたんですって」

「いいえ、かまいませんよジュザンナ準妃様」


 どうやら準妃はシーモアを待っていたらしいです。たしかにあちらに姿が見えますね。

 嬉しそうに手を振ってます。お前は子供か。

 こいつのせいで注目を浴びることになったのかと思うと、軽い苛立ちすら覚えます。SSランクでなければ即アンデッドの刑に処するところでしたね。


「わたくしはあなたに祝福を与えるわ、ユリィシア」

「わたくしもよ、ユリィシア」


 続けて二人がアンナメアリとジュザンナが私に薔薇の花を胸元につけてくれました。

 あら、ありがとうございます。ところでこの花はなんなんでしょう。誰か教えてください……。


「シーモアをよろしくね」


 花を付ける際、ジュザンナが耳元でそう囁いたのですが、どういう意味でしょう?


 ようやく出番を終えて安堵した私は、他の女子生徒たちがいる場所に戻ろうとします。ここでやっと他の子たちの姿が目に入りました。

 あぁ、みんな着飾っていてなんと可愛らしいことか。花の13歳の乙女たちの可憐なこと、出来立てのスケルトンに匹敵する魅力です。あぁ、今すぐみんなの近くに駆け寄って、空気をスーハーしたいです。


 ところが、私の行く手をふさぐものがいました。

 シーモアです。

 ……こいつ、ここに来てまだ私の邪魔をするか。


「会いたかったよ、ユリィシア。僕の大切な人」

「お久しぶりですね、シーモア。元気そうで何よりです」

「全ては君のおかげだよ」


 元気なのは分かったので、さっさとどいてもらえますか?

 私は女子たちの花園たちに突入して、初々しい匂いをクンカクンカしたいのです。


「どうしても君のデビュタント姿が見たくってね、無理を言って君を最後に回してもらったんだ。迷惑だったらごめんね」


 ええ、迷惑です。

 おかげで皆の注目を浴びることになってしまいました。

 悪いと思っているなら、さっさとどいてもらえますかね?


「そして、この機会にどうしても君に伝えたいことがあるんだ」

「はい? なんでしょうか」

「ユリィシア、僕と……婚約してもらえないだろうか?」


 婚約? 

 それってシーモアにずっと縛られるということですよね?


「お断りしますわ」


 もちろん即答です。

 周りがなにやらざわめいていますが、なぜでしょう?


 私にとって一番大切なのは、苦労して集めた『不死の軍団ヘルタースケルター』たちで、次が軍団の候補となる素体たち。いかにシーモアが素体として優れているといっても、縛られるのは私が最も嫌うところなのですから。


 それに、婚約といえば結婚です。

 ……なんで私が男と結婚しなければならないのですか?

 意味がわかりません。


 さぁ、答えたのですからもういいでしょう。

 早く退いてもらえませんかね。


 一方シーモアは大きくため息をついたあと、天を仰ぎます。ですがまだ退いてくれません。こいつしつこいですね。


「……やっぱりね、君ならそう言うと思ってたよ。ちなみに……ダメな理由を聞いてもいいかな?」

「私を待っているものたちがいますから」


 私の愛しい『死者の軍団ヘルタースケルター』たちがね。


「その中に……僕も入っているのかな?」

「ええ、もちろんシーモアも入っていますわ」


 だってあなたは、私の大事なSSランク素体なのですもの。


「あぁよかった。僕も君の心の中にちゃんと残っていたんだね」


 あからさまにホッとした表情を浮かべるシーモア。心配なさらなくてもSSランクの素体をそう簡単に手放すつもりはございませんよ?

 だからもういいですかね。だんだんソワソワしてきました。

 周りから注目を浴びているいまの状況は、陰キャでコミュ障な私にとって拷問に近いものがあるのですよ。

 さっさとみなさんの陰に隠れて、初々しい同級生たちのきらびやかなドレス姿を間近でガン見しながら愛でたいのです。


「……そうだよね。君は僕一人じゃなくて、みんなのために尽くす人だ。そうだって知ってたから、僕は君に惹かれたんだ。だけど、僕の初恋はこれで終わり。みんなの前で振られて心の整理がついたよ。だから僕も──これからはちゃんと心を入れ替えて、王族の一員としての責務を果たすよ」

「ユリィシアちゃん、この子のわがままに付き合ってくれてありがとう。シーモア、これでもう満足?」

「ええ、母上。もはや未練はありません」

「……わかったわ。じゃあ例の話は進めてもいいのね?」

「はい、もちろんです」


 何の話かはさっぱりわかりません。

 ですがジュザンナが耳打ちでわざわざ教えてくれました。


「ユリィシアちゃん、シーモアはね、アナスタシア皇女と婚約するのよ。あの子はあなたに振られたことで踏ん切りがついたみたい。王族の責務を果たす覚悟が、ね」


 おお、あの黒髪美少女アナスタシアと婚約するのですか!

 なんといううらやまけしからん! イケメン死すべし!

 ……あれ? ですがついさっきどこかで婚約という単語を聞いたような気がするのですが……ま、どうでもいいですね。


「ユリィシア、君は──君が信じる道を進んで欲しい。僕に出来る限りバックアップするから」

「はぁ、ありがとうございます」


 バックアップということなら、私をはやくみんなの元に戻してもらえませんかね?


 ようやくシーモアが退いてくれたので、ぺこりと頭を下げて戻ろうとすると、私の前を立ち去ったシーモアが、ジュザンナと一緒にアナスタシアの方に向かっていきます。

 その際にふと、アナスタシアと目が合いました。


 そのときです──。

 私の右目に、なにか閃光のような光が飛び込んできました。


 これは……アレクやキャメロンの時と同じ、新たなギフトに目覚めたものの光です。


 閃光を発したのは──アナスタシア。

 なんと、この場で彼女がなにか新たなギフトに覚醒したのでしょうか。


 気になったので【鑑定眼】で確認してみることにします。

 すると、私の右目に映し出されたのは──。




  ── アナスタシア・クラウディス・エレーナガルデン・ヴァン・ガーランディア  ──

 年齢:13歳

 性別:女性

 ギフト:《嫉妬の大罪エンヴィ》(New!!)

 素体ランク:S

 適合アンデッド:

 ロイヤルスペクター(S)……72%

 プリンセスゴースト(S)……69%

  ???????(SS)……3%

  ──



 わーお、たしかに新しいギフトに覚醒してますね。

 それにしてもギフト名……《嫉妬の大罪》ですか。

 これは──聞いたことのないギフトですね。いったいどんな効果があるのでしょうか?


 それよりも重要なのは、アナスタシアにSSランクのアンデッド素質が見え始めたことです。

 まだ見ることのできない彼女のアンデッド素質はなんなのでしょうか。



 それらを知るためにも、アナスタシアとはぜひ仲良くならなければなりませんね。


 ……うふふっ、これからの学園生活も素敵なものになりそうですわ。





ちなみにシーモアのプロポーズに『イエス』と答えると、シーモアエンド(BAD END)になります(嘘)



これにてエピソード6は完結です!

次からはエピソード7となります( ´ ▽ ` )


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