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43.DAD(ダンジョン・アタック・ダイエット)

 肉眼では見えにくい魔力の淀みのような地点に脚を踏み入れると、次の瞬間──まるで洞窟の中のような空間にたどり着きました。


「うわわっ!? ほ、本当にここダンジョンなの?」

「ええ、そうですよ」

「まさか聖アントミラージ学園の中にダンジョンがあるなんて……」


 ダンジョンやゲートなどは目を凝らせば色々なところにあるんですけどね。普通の人はなかなか気づかないみたいです。


 さて、今回見つけたダンジョンは、先にウルフェたちに探索させたところ、俗に言う〝外れダンジョン″でした。

 ドロップカードは野菜や果物などの生鮮食品ばかりで、魔法道具やレア鉱石などはドロップしないタイプだったのです。


 ですが、目的がキャメロンの育成となると話は別です。

 出てくるモンスターはゴブリンやコボルトなどの低級モンスターのみ。剣の達人となったウルフェと、制約があるとはいえ影魔法が使えるヴァンパイアのネビュラちゃんがいるので、この程度のダンジョンのモンスターごときに遅れをとることはないでしょう。


「も、もしかしてこれって、すごい発見だったりするのかな?」

「ダンジョンのことと、これから行うことは誰にも話さないでくださいね。私と──キャメロンお姉様だけの、秘密です」

「は、はひ……わかったわ」


 キャメロンの口止めも済んだところで、いよいよこれより、ユリィシア式スペシャルトレーニングのスタートです。


 哨戒役としてネビュラちゃん、その後ろにウルフェが続いて最後尾に私とキャメロンが歩く陣形を取ります。

 ここ半年ほどの間の暇つぶしに、エンデサイド村近くで発見したあと放置していたダンジョンに潜っていた際に組み立てた、ダンジョンアタック時のフォーメーションです。


 え? そのダンジョンをどうしたのかって?

 残念ながらこちらも外れダンジョンでしたし、ウルフェたちに怪我をさせるようなレベルのモンスターもいなかったので、すぐに飽きて再放置してしまいましたが。


「ふわぁぁ……あたしダンジョンって入るの初めて。おじいちゃんがいくつか所有してるんだけど、危ないからって一度も入れさせてもらったことなかったんだ」


 少し震えながら、それでも興味津々に周りを見渡すキャメロン。私の服の袖を掴んでいる様子がなんとも可愛らしいです。


「ご安心ください。ここは大したダンジョンではありませんし、何かあっても私が治癒しますので」

「えっ? 治癒?!」

「お嬢様、モンスターが来るでございます」


 先頭を進んでいたネビュラちゃんが警戒の声を上げます。

 闇の中から出てきたのは数体のコボルトです。


「ふん、雑魚か……お嬢様のお手を煩わすまでもない」


 ウルフェがすたすたと前に出て剣を数閃すると、あっという間にコボルトたちは光の粒子となり、カードだけを残して消えていきました。


「お見事です、ウルフェ様」

「索敵してくれたネビュラのおかげだよ。ただの女の子だと思っていたのに、こんなにも優秀な偵察スカウト兼魔法使いだったとはね。その素質を見抜いてメイドにしたお嬢様の慧眼、さすがです」

「すべてはお嬢様のおかげでございますよ、ウルフェ様」


 ふむ、二人の連携はこのダンジョンでもうまく噛み合っているみたいですね。

 ちなみに今回出現したカードは『りんご』と『みかん』でした。休憩時のおやつにでもするとしましょう。


「す、すごいです、みなさん……まるで本物の冒険者みたいです」

「俺はただのお嬢様の執事ですよ」

「ボクはメイドでございます」


 元剣闘士奴隷とヴァンパイアのね。


「ネビュラさんは、メイド服で大丈夫なんですか? 戦いにくくないです?」

「はい、これは呪いで──ぐえーっ!? ……し、失言でごさいました。これはボクの趣味ですので気にしないでくださいまし」

「は、はぁ……」


 メイド服姿のネビュラちゃん、すごく似合ってると思うんですけどね。


「さて、ダンジョンに慣れてきたところでそろそろキャメロンお姉様の本格的なトレーニングに入りますか」

「え? たった一回だけであたしなにも慣れてないんですけど……」

「案ずるよりも実際に動いてみるのが一番ですよ。ウルフェ、ネビュラちゃん、手頃なモンスターを一匹確保してもらえますか?」

「えーっと、あたしの意見はスルーですか……」


 私は二人に指示して、次に出現したゴブリンの集団を一匹だけ残して全滅させます。


「──影で縛れ、『影束縛ダークバインド』」

「ぎゃっ! ぎゃぎゃっ!」


 ネビュラちゃんがゴブリンを影魔法で縛って確保し、そのままキャメロンの前に連れて来させました。

 間近でゴブリンを見たキャメロンは、モンスターをあまり見慣れていないせいか、ドン引きしています。その表情は前世で女の子にお気に入りのスケルトンを見せた時の反応に似ていますね。私のちょっとしたトラウマの記憶です。


「それではキャメロンお姉様、とりあえずこのゴブリンをギフトで柔らかくしてもらってもいいですか」

「え?! モンスターを!? わ、わかったわ。やってみるわね……えいっ!《柔らかくなぁれファニーサイド》」


 キャメロンが懐から取り出したのは、銀色に光る小さな杖。これでゴブリンをちょんっと突っつきます。はて、これで柔らかくなったのでしょうか。


「ウルフェ、試してみて」

「はっ」


 ズバッ。一刀の元で両断します。

 あえなく光の粒子と化すゴブリン。


「どうですか? 柔らかくなりましたか?」

「うーん、正直弱すぎてわかりません。殴った方が良いかもしれませんね」

「仕方ありません、次は別の方法で検証してみましょう」


 こんな調子で何度かモンスターを捕獲して柔らかくする作業を続けていたのですが、すぐにキャメロンがバテてしまいました。


「あたしもうだめ……ぜひー、ぜひー」

「疲れましたか? ですがまだ魔力は尽きていないようですね。体力を回復させますので、もう少し続けてみましょう」

「回復って……ひゃあ!」


 私の〝治癒の右手″で優しくタッチすると、キャメロンはすぐに元気になりました。やはり若いと回復も早いですね。


「ユリィシアは回復魔法も使えるのね……すごいわ」

「大したことはありません。それよりも少し休暇しましょう」


 休憩向きのスペースを見つけて腰を下ろしたあと、さきほど収穫・・したりんごなどを食べて英気を養います。

 気力が回復したところで、ふたたび出発です。


 キャメロンの魔力が尽きるまでいろいろな検証を行い、彼女の覚醒を促すのが私の考えたダンジョンでのトレーニング方法です。

 なにせ魔力は枯渇させてこそ、次の段階エクスタシィに至るのですから。



 このような調子で、その後10グループくらいのモンスターたちを殲滅したところ、ついにキャメロンが魔力切れを起こして膝をつきました。


「ごめんなさい。もう……歩けないわ……」

「どうやら限界みたいですね。それでは戻って今度は次の対応フェーズを行います。ウルフェ、粗相のないようにお抱えして」

「承知しました」


 もはや回復する体力も無くなってグッタリしたキャメロン。ウルフェに抱えさせてさっさとダンジョンから脱出したあと、次に私たちが向かったのは──白薔薇館にある私の部屋でした。


「あたし、白薔薇館に入ったのは初めてだわ。ここがユリィシアのお部屋──とっても素敵ね……まるでお姫様の棲むところみたい」

「それではキャメロンお姉様、ここに横になってくださいますか」

「ふぇ? あ、きゃっ!?」


 ウルフェに指示して優しくソファーに横たえさせると、そのまま癒しの右手に魔力を込めて、優しくキャメロンの全身をマッサージしていきます。


「ああん……気持ちいい……」


 キャメロンに施しているのは、〝癒しのエステ″のカスタマイズ版です。

 これは、癒しの魔力にあえて強弱をつけることで意図的に贅肉を震わせて、強制的に脂肪を燃焼させる効果を発揮します。


 ですが真の効果は──私がキャメロンのゆるふわボディを合法的にナデナデ出来ることです。

 彼女の全身はマシュマロのように柔らかく、とても触り心地が良いです。あぁ、ずっと触っていたい……。


「こんなのダメ……クセになりそう」

「まだまだです。全身いきますよ」

「はぁん! いやぁん! こんなにされたら……あたしもう、お嫁に行けない……」


 やがてキャメロンは、施術を受けながらぐっすりと眠り込んでしまいました。よほど疲れてたのでしょう。

 このあとはゆっくりとお風呂に入ってもらってしっかりとを汗を流したあと、今日のおさらいとギフトの検証、そして覚醒に向けての検討ですね。




 ◇



 それから一ヶ月間、キャメロンのトレーニングは続けられることになりました。

 キャメロンが所属しているステップコースは、事実上全ての授業が「自習」になっていたので、時間だけはたくさんあります。

 そこで、私はずっと授業がありましたので全てにお付き合いすることはできませんでしたが、ウルフェとネビュラちゃんに頼んで徹底的にダンジョンに挑んでもらうことにしました。


 最初は1回の戦闘ごとに肩で息をしていたキャメロンも、徐々に体力が続くようになっていきます。

 同様に体のほうも順調に絞れていき、ふよふよだったキャメロンの体が少しずつ小さくシャープになっていきます。ですが胸はバインバインのままです。


 当初の体重からわずか10日ほどで10キロ近く減量したころ、私はとある発見をしました。


「あぁ……なるほど。そういうことだったのですね」


 キャメロンの肉体が変化していく様子を観察していた結果、ようやく彼女の魔法の能力が伸びなかった理由がわかりました。

 どうやら彼女の持つ〝柔らかくするギフト″が肉体全体に適用された結果、自身の魔力までも柔らかくしてしまい、魔法が発動する際に魔力の集中を妨げていたようなのです。

 それが、魔法がきちんと発動しない原因でした。


 原因さえ分かればあとは簡単です。特にキャメロンの場合は痩せるだけで良かったので、特別な解決策も必要ありませんでした。

 日に日に痩せていくことで自然と魔法阻害要因が消えていき、やがて──。


「じゃあ、ユリィシアに言われた通り、魔力を柔らかく ・・・・してみるわね」

「ええ、お願いします。キャメロンお姉様」


 彼女の贅肉の下から現れてきたのは──極めて研ぎ澄まされた高純度の魔力の塊。ギフトと贅肉で意図せず隠匿されていた彼女の保有魔力は、驚きの1000オーバー。

 なんと彼女は、前世の私やフローラに匹敵するほどの強大な魔力の持ち主だったのです。


 しかもキャメロンはこの「柔らかくする」ギフトを使って魔力を柔らかくし、自由自在に魔力の形を変えることができました。その結果彼女は、意図的に魔力を操る──魔力操作の技術を手に入れたのです。


 キャメロンの持つ魔力操作の力は、魔法を発動する際にその威力を格段に引き上げます。


「じゃあ、水槍の魔法を使ってみるわね」

「あちらのコボルトの群れに放ってみていただけますか」

「わかったわ。──えいっ!『水槍ミルスピア』」


 キャメロンは水筒から水を取り出すと、魔力を操作して水の槍を作り上げます。彼女の命に従って手から放たれた水の槍は、目の前まで差し迫っていたコボルト6体の群れをたった一撃で殲滅することに成功しました。


「すごい……これが私の力なの?」


 低位魔法でこれだけの威力。

 キャメロンは類まれなる魔法の才能を持っていたのです。


「驚きました……ここまで化けるとは」


 実際改めてキャメロンを鑑定してみると、それまで伏せられていた情報が開示されていました。



  ──キャメロン・ブルーノ ──

 年齢:14歳

  性別:女性

 保有ギフト:《柔らかくなぁれファニーサイド

  素体ランク:A

  適合アンデッド:

 スペクター・マジシャン(S)……38%

  エクストラ・ウィザード・スピリット(SS)……14%

  ──



 ついにやりました。

 キャメロンは、SSランクの素体として覚醒したのです。


「やりましたね、キャメロンお姉様」

「すべてあなたのおかげだわ……ありがとう、ユリィシア」

「うふふ、これで目的は達成ですわね」

「えっ? これで達成だっけ? 何か大切なことを忘れているような……」


 はて、何かありましたでしょうか。


「あのー、お嬢様。盛り上がっているところ申し訳ないのですが……明日のデビュタント、どうなさいましょうか」


 ──あっ。


 そういえばそんなものがありましたね。

 いけません、キャメロンを鍛えるのに夢中ですっかり忘れていましたわ。



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オーガのアニキがきっとオレたちの仇を討ってくれるゴブゥゥ・・・ガクシッ
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