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30.覚醒(後編)

「はぁーーー!? オイオイ! オメーなんで俺の治療してんだヨッ!?!? 意味わかんねーヨ!!! 俺が言うのもなんだが、弟の頑張りが台無しぢゃねーーか!!」


 唾を飛ばしながら迫ってくるシャプレー。本当に汚いですね。

 そもそもこの男に怒られる理由がわかりません。


「なぜ私が怒られるのですか?」

「ちょ、ちょっと! オメーほんとわかってんのか? 困った顔したってアカンやろー! そもそも俺は悪党だよ悪党! 悪党をそんな簡単に治癒しちゃダメだって!?」

「……?」


 はて、意味がわかりません。

 別に私は怪我をしている人がいれば誰彼構わず治癒しますけどね。だって時間は有限なのですよ? 今を逃せばいつ魔力を増強する機会チャンスが来るかわかりませんからね。


「はー……なんで俺が説教しなきゃならないんだか。おいオメー、底なしのバカなのか? それとも……マジモンの聖女様かよ」

「私は聖女ではありません。二度とその名で呼ばないでください」

「はー、なんか調子狂うなぁ」


 シャプレーはぶつぶつ言いながら、なにやらこめかみを揉み出します。なんだか失礼な態度ですね。


「……まぁいいさ。若干拍子抜けはしたが、やることはやらせてもらうぜ。【泥喰い】のシャプレーと呼ばれた悪党のこの俺を治癒したこと、一生後悔するんだな! あと、恨むならてめーのイカれた脳を恨むんだぞ!」


 なにやら凄みを利かせながら、シャプレーがぐっと私に近づいてきます。


「じゃあありがたく頂かせてもらうとするかね! せいぜい(ピーー)してるときは可愛らしくさえずってくれよ?」


 手を握られます。

 びりびりっ! おまけに肩口から服を破られてしまいました。

 あぁ、せっかくアンナメアリにもらった可憐な服を……。


「泣け! 喚け! 叫べ! でも助けはこねーよ! ひゃはははっ」


 正直ピーーなどどうでもよいのですが、お気に入りの服を破かれたのはさすがに不愉快です。

 うざいです、うざすぎます。ゾンビは嫌いですが、こいつをアンデッドにしてやりましょうか。

 たしかに今の私は治癒魔法しか使えませんが、だからといって……。


 ──ずくん。


 そのときです。

 また、私の左目が大きく疼きました。



 あぁ、この感覚──前にシーモアの呪いを解除したときに似ています。

 もしかして、これは──。


「んぐっ!?」


 突然、目の前のシャプレーが股間を押さえてうずくまりました。

 はて、どうしたのでしょうか?


「うがあぁあぁ……オメー、俺になにをしやがった!?」


 何か?

 なにもしていませんが。

 むしろあなたの身になにが起こったのかを具体的に詳細に教えて欲しいです。


「ぐぅうぅ……⚫︎▽×が痛てぇ……しかもた、勃たねぇ……反応すらしやがらねぇ! こいつは……どうなってやがんだ!?」


 ふむ?

 どうやら彼の⚫︎▽×が無反応になったようです。

 いったい彼の身に何か起こったのでしょうか? 興味が湧いたので《 鑑定眼 》で観察してみます。すると──。



 ──


【泥喰い】シャプレー

 状態:呪い(不能)

 ユリィシア・アルベルトの持つ邪眼《 審罰の左目 》の効果により、⚫︎▽×が不能となる呪いをかけられている。


 ──


 おお! なんと呪いがかかっているではありませんか!

 いったいどこで……と思ったら、よくよく見てみると私が原因のようです。

 《 審罰の左目 》? 初めて聞く名称ですが、私の左目にもなにやらギフトが備わっているのでしょうか。


 これは実に興味深いです。名称と効果からして、相手に呪いをかけるギフトなのでしょうか? そのような面白いギフトは初めて聞きましたが──。


「うがあぁぁぁ!? どうなってやがんだよぉおぉぉ!? お、俺の⚫︎▽×があぁああぁあぁ、ウンともスンともいわねぇんだよぉぉぉおぉっぉお!!」

「……本当に煩いですね」


 思考を邪魔されてイラっときた私は、つい左手で殴ってしまいます。あ、綺麗に拳が入りました。


 パリーン。


「ぎょえええぇええええぇええぇ」


 あ、このガラスが割れたかのような音は聞き覚えがあります。

 たしかシーモアを解呪したときと同じ音です。ということは──どれどれ鑑定っと。



 ──


【泥喰い】シャプレー

 状態:通常


 ──



 おお、やはり呪いが解除されてますね。


「あ、あれ? 俺の⚫︎▽×が……蘇った!?」


 ずっと股間を押さえていたシャプレーも、⚫︎▽×が元に戻ったと気付いてなにやら喜んでいます。

 ふむ、ようやく検証できましたが、私の左手の《 浄化の左手 》が持つ呪い解除のギフトは本物のようですね。


 さて、では今度は確認のために、もう一度左目の力を発動してみましょう。

 えーっと、どうすれば良いのでしょうか? とりあえず、強く念じてみましょう。

 この男の⚫︎▽×よ、不能になーあれっと!


「ぴぎゅおぉぉああぁぁあぁぁっっ?!」


 おお? シャプレーがまたもや股間を押さえて悶絶しています。

 ちゃんと成功したのでしょうか? 早速確認してみましょう。どれどれ……。


 ──


【泥喰い】シャプレー

 状態:呪い(不▲起と⚪︎鈍痛)

 ユリィシア・アルベルトの持つ邪眼《審罰の左目》の効果により、⚫︎▽×が▲起不可となり⚪︎に鈍痛が響く呪いをかけられている。


 ──


 ……なんだか少し違いますが、それっぽい効果は発動していますね。

 一応は成功しているみたいなのですが、どうにも効果が安定していません。

 この微妙な違いはなんなのでしょうか? これは深く検証してみる必要がありますね。


「……えいっ!」

「あうっ!」


 パリーン。

 よし、これでリセット成功です。

 今度はちゃんと⚫︎▽×が不能になるようにコントロールしなければ。




 ◆◆




 それから私はしばらく《審罰の左目》の効果検証を集中して行いました。

 その結果、このギフトは以下のような効果を持つことがわかってきました。


 ・相手を呪うことができる。ただし、効果はかなり厳密に念じる必要があり、曖昧だと違う形で効果が発揮される。より正確に呪うためには、できるだけその内容を具体的に理解していることが望ましい。


 ・そこそこ離れていても、呪うことは可能(5メートルまでしか検証できなかった)


 ・呪いの効果は、事前に私が取り決めた内容を与える。また、呪い発動に関するリスクは特に存在しないが、それなりの魔力を消耗する


 ・呪いの持続時間は現時点では不明。ただ、かなりの長時間効果が発揮するものと推測される



 なるほど、なかなか使える能力ですね。

 本当はもう少し検証を行いたいところだったのですが、さすがにこれだけ検証を繰り返していると、実験素材の方がどうやら限界を迎えてしまったようです。


「ゔゔゔううぅぅうぅぅ……」


 目の前で変な声を出しながら股間を押さえて悶絶しているのは、今回の実験材料となっていただいたシャプレーです。

 度重なる股間への呪いを発動させた結果、どうやら失神してしまったようです。なんとまぁ耐久力の低いことか。さすがはゾンビ素体、使い物になりませんね。

 ただ、彼のおかげでそこそこギフトの解析ができました。その点については感謝しています。


 ちなみに彼には二度と過ちを犯さないように、不能の呪いを⚫︎▽×にガッツリかけました。いつ解けるのかはわかりませんが、下手すると一生解けないかもしれませんね。そのときは──まぁそのときでしょう。


 とはいえこの左目のギフト、特に魔力が増えるといった恩恵も特にはないので、あまり使う機会はないかもしれません。

 あぁ、誰かにお仕置きするときとかに使うと良いかもしれませんね。逆らう者はみんな⚫︎▽×を不能にしてしまいましょうか。


 あ、そうそう。魔力増強といえば、実はこの一通りのイベントをこなした結果、なんと私の魔力が1割程度増加していることに気づきました。これほどの魔力が一気に伸びたのは久しぶりです。

 原因は、もちろんシャプレーの片腕を復元したことも寄与しているかとは思いますが、どうやらそれだけではありません。

 なんと──アレクが《 勇者の光 》に覚醒したことによってもたらされた効果もあったのです。


 なぜ他人がギフトに覚醒することによって私の魔力が増加したのか。その理由は今はまだよくわかりません。

 ですが、これまで手塩にかけて日々「おまじない」を実行して育ててきたことが、もしかしたら関係しているのかもしれません。

 うーん、これは実に興味深い結果ですね。今回は面白い発見が多く、非常に愉しいです。

 もしかすると単純に治癒する以外にも、大きく魔力を増強させる効果がある方法はあるのかもしれませんね。


「えーっと……あんた、何やってるの?」


 ふいに声をかけられ、私は振り返ります。


 あら、私としたことが検証に夢中で全く気付きませんでした。ところであなたは誰なのかしら?


 窓際に視線を向けると、そこには──フード付きマントを被った男が、なにやら呆れた表情を浮かべて立っています。もしかしてこの部屋の家主さんか何かでしょうか?


 いつもの癖で、すぐに彼のことを《鑑定眼》で確認します。

 すると──おやおや。これはまた面白い。


 この男、どうやら人間ではないようですね。


「へぇ……珍しい。あなたのような存在がこんな場所にいるなんて」

「ほう──お前、俺が何者かがわかっているのか?」


 私の問いかけ──というよりは確認に、男が口元をぐっと吊り上げます。

 唇の間からちらりと覗いたのは、鋭く尖った牙。


 鑑定の結果。

 彼の種族名には──『ヴァンパイア』と表示されていたのです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 前者の底なしのバカの方に100ペソ賭ける(๑╹ω╹๑) バカが知能の欠如を意味しているならバカではない気もしますが主人公さんに欠如しているのは共感能力ですよね。ソシオパスってやつだ。
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