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29.覚醒(前編)

 置き手紙を見た私は、すぐに指定された場所へと向かいました。

 理由はもちろん、アレクを取り戻すためです。


 なにせアレクは貴重なSランクの素体……おまけに目下成長途中なのです。

 そんな極めて重要な素体を、前世の私を継ぐものなどという戯言を言っている死霊術師ネクロマンサーに渡すわけにはいきません。

 例えるならば、それは──自分で焼いていた焼肉を隣に横取りされるようなもの。そんなこと、到底受け入れられません。横取りは〝悪″ですからね?



 寂れた倉庫街にある、古く朽ち果てかけた廃墟のような倉庫の前に来ました。

 ここが先ほどの置き手紙に書かれていた指定の場所です。もちろん一人でやってきました。

 ……ウルフェ? そういえばどこに行ったのでしょうか。肝心なときにいないのですから使えない奴ですね。

 まぁいいです。さっさと突入しましょう。迷いは時間の無駄です。

 罠? 警戒? そんなものは無視です。怪我をしたら治癒すれば良いのですから。


 二階にある指定された部屋にも迷うことなく飛び込みます。

 見回すと、室内にはロープで縛られたアレクとゾンビやスケルトンが10体ほど、それに男が一人いました。彼はたしか、うちにアンデット来襲を告げに来た衛兵です。なぜここにいるのでしょう?


 とりあえずアレクは無事でしょうか。生きてさえいればあとは大体復元できます。息をしてると良いのですが。

 ……よかった、アレクはロープで縛られてはいましたが、まだアンデッドにはなっていないようです。素体の無駄使いはされていないようでなによりです。

 滅多に手に入らない貴重なSSランク素体を、下手な死霊術師ネクロマンサーなどに使わようものなら目も当てられませんからね。


「弟を、返しなさい!」


 私は叫びました。

 アレクそれは私のものです。私が今育てている最中なのです。勝手に持って帰ってはいけません。


「おやおや、噂をすればお嬢ちゃん……飛んで火に入る夏の虫とは、まさにこのことだね」


 なにやら衛兵だった男が話しかけてきます。彼が死霊術師ネクロマンサーなのでしょうか?

 ですが、《鑑定眼》で見た限りだとそうではなさそうです。彼──シャプレーというのですか、シャプレーの適正はランクBのハイゾンビ……悪くはありませんが、ゾンビという時点でイマイチですね。


「しかし、まさかたった一人で来るとはね。いやぁ俺はラッキーだなー」

「姉様! 早く逃げて!」

「とりあえずゾンビやスケルトンどもをけしかけてみるかな。ほれ、おまえら! いってこいや!」


 私の元にゾンビとスケルトンが一気に近寄ってきます。

 私は満面の笑みで彼らを迎え入れました。ですが……。


「あ"あ"ア"ア"アンんッ!」

「カタカタカタカタ……カタ……」


 やはり、何もしなくても近寄ってくるだけであっという間に成仏してしまいました。あぁ、無念です。


「な、なんだオメェは……あぁ、そういえばさっきの映像でも100匹以上撃退してやがったな。まさか無防備のままでターンアンデッドをするとは……なかなかやべえやつじゃねえか」


 その言葉、語弊があります。私はターンアンデッドなどしていないのです。むしろこちらはカモンアンデッド……もしくはウェルカムアンデッドだったりするのですから。


「だが、いくら聖魔法が強かったとしても、あんたはただのメスガキだ。この俺──【泥喰い】のシャプレーと剣を交えることができるかな?」


 どうやらシャプレーは、二つ名持ちのようですね。剣に覚えがあるようで、簡単には私の素体アレクを返してくれそうにありません。

 さて、どうしましょうか。飛び込んだは良いですが、先のことはあまり考えていませんでした。どうも貴重な素体が絡むと冷静ではいられませんね。反省せねば……。


「まて……姉様に手を出すな」

「あぁん? 何言ってんだクソガキ」

「姉様に手を出すなって言ってんだよ!」


 迷ってる間にアレクが反抗しています。

 お、良い感じですね。このまま反抗して半殺しくらいになれば癒してあげるのですが。


「バカだなぁガキ。お前のねーちゃんはな、これからこの俺に(ピーー)※自主規制 されるんだよ!」

「なっ……」


 おやおや、私は(ピーー)されてしまうのでしょうか。

 (ピーー)は……そういえば前世でも未経験でしたね。もう女性に転生してしまった以上、男性としての(ピーー)を堪能することはできなさそうですが。


「だから坊やはそこでおとなしくねーちゃんが大人の階段を登るのを見てるんだな。ぎゃはははっ!」

「……る」

「あぁん? なんだクソガキ? 泣いてるのか? 」

「僕が、僕が姉様を守る!」

「はぁ? 拉致られて縛られてるくせにどうするってんだ?」

「この命を賭けても、姉様を守るんダァアアァアァアァアっ!!」


 ──そのときです。

 突如アレクの額が輝きだしました。


 次の瞬間、アレクは素手でロープを引きちぎります。

 額には、光り輝く紋章のようなものが浮き出ていました。


 あの奇妙な紋章の形は──かつて本で見たことがあります。

 たしか、世界を救うだけの力を神々が認めたものにだけ与える特別なギフトを持つ証拠。


 そのギフトの名は──《 勇者の光 》。


 もし、アレクの身に新たなギフトが宿ったのだとしたら……。

 私は眩しさに目を抑えながら、アレクを鑑定します。



  ──アレクセイ・アルベルト ──

 年齢:10歳

  性別:男性

  素体ランク:C → A

 ギフト:勇者の光(New!)

  適合アンデッド:

  スケルトン・チャイルドボーン(C)……100%

  デスナイト・ジュニア(B)……92%

  スケルトン・インフィニティ(S)……62%

  ブレイブリー・スケルトン(SS)……3%



 おお! やはりアレクに《 勇者の光 》のギフトが発現しているではありませんか!

 つまり彼は、勇者として神々に認められるほどの才能を隠し持っていたのです。


 事実、今までは伏せ字になっていたアンデッド適性が表示されています。

 SSランクの超激レアアンデッド「ブレイブリー・スケルトン」への素体条件が解放されています。私はついに、三体目のSSランクの素体を手に入れたのです!


「あぁ……アレク、素晴らしいですわ。あなた覚醒しましたのね」


 私は素体が進化する過程を初めて見ました。

 これは──純粋に感動です。なにせ私のこれまで持っていた固定概念を完璧に覆したのですから。


 それにしてもなんということでしょう……まさかアレクまでがこんなにも素晴らしい素体になるとは。これは本当にいろいろなことを考え直さないといけませんね。


 人は──素質があれば進化をする。

 たとえ今はダメでも、成長すれば高位のアンデッドになれる可能性を秘めているのです。


「な、なんだあの光はぁぁああぁ!?」


 動揺して叫びまくるシャプレー。残念ですが彼には成長の可能性はないでしょう。

 おそらく素体が進化するのは幼い未成年のみ。大人になってしまうと魔力が伸びなくなるのと同様、素体としての進化の可能性も消えてしまうのだと推測されます。

 ま、ゾンビは所詮ゾンビですからね。彼にはもはや興味がありません。


 それよりもアレクです。

 こんな貴重な素体、手放すわけにはいきません。


 その間にも、怒りに震える様子のアレクがシャプレーを睨みつけています。


「滅びろっ! 悪党!!」

「な、このやろぉぉおっ!」


 ついには武器を持つシャプレーに対してアレクが素手で殴りかかりました。お、これなら大怪我しそうですね。良い感じです。

 ところが──。


「どらあぁああぁぁっ!」

「うがあぁああぁ!!」


 なんと──アレクが素手で殴りつけると、シャプレーの武器が折れてしまったではありませんか。

 しかも、それでも勢いが止まらず、シャプレーの片腕を吹き飛ばしてしまったのです。


 ギフト《勇者の光》。……なんという力を持っているのでしょうか。


「ぎゃああぁああぁああぁ」


 悶絶しながら吹き飛んでいくゾンビ素体シャプレー。一方、アレクは──。


「姉様……僕は……やったよ……」


 なにやら笑みを浮かべながら私に語りかけてきます。

 そのうち額の輝きが薄れていき……完全に消えました。どうやら力尽きたみたいで、ゆっくりと前のめりに倒れていきます。


 私は慌てて駆け寄りました。


 そして倒れるアレクを──そのままスルーします。



「あ、あれ? 姉さ──」


 がんっ。

 鈍い音がして、アレクが地面に倒れます。どうやらまともに受け身を取れずに倒れて気絶したみたいです。

 まぁただの力の使い過ぎなので、たいした怪我はしていないでしょう。放置決定です。


 それよりも、こっちシャプレーです。


「ぐぅう……ちくしょう……」


 シャプレーは右腕をアレクに吹き飛ばされて悶絶しています。

 あぁ、久しぶりの大物ごちそうではないですか。

 素晴らしい。美味しく頂くとしましょう。


「な、メスガキ……この俺になにを……止めをさそうってのか?!」

「お黙りなさい」


 私は苦しげに呻くシャプレーを無視して治癒魔法を使います。


「治癒魔法発動 ──『治療(トリート)』」


 四肢欠損の治療はウルフェ以来です。さすがに大怪我だけあって、一気に魔力が消費されていき──それに合わせて何とも言えぬ快感が全身を突き抜けていきます。

 あぁ、心地よい……。


 しばらくすると、完全に治癒したシャプレーが茫然とした表情で復元した右手を眺めています。うん、我ながら良い復元でした。


「はい、終わりましたよ」


 ごちそうさまでした。


 私の言葉でハッと我に返ったシャプレーが、右手を前に突き出しながら私に迫ってきます。



「はぁーーー!? オイオイ! オメーなんで俺の治療してんだヨッ!?!? 意味わかんねーヨ!!! 俺が言うのもなんだが、弟の頑張りが台無しぢゃねーーか!!」



 弟の頑張り? なんでしょうかそれは。


 それよりも唾が飛んでくるので近くで叫ぶのやめてもらえませんかね?


別件になりますが、前作

「おっさん冒険者、悪役令嬢になる 〜 ″オーク令嬢″ラティリアーナの華麗なる転身 〜」

が、HJ大賞に続き、「第1回アース・スターノベル大賞」 でも選考通過しました(//∇//)

お暇なときにでも読んでいただけると嬉しいです(o^^o)



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