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20.デトックス

「ブルーメガルテン妃、こちらを……」

「ありがとう、助かるわ」


 侍女にお礼を言いながら、薬を飲んで化粧直しを始めるアンナメアリ。対する侍女たちも爽やかな笑顔で対応しています。


 ……最初は誰かが意図的に毒を盛っていることを疑いました。ですが、彼女たちの様子を見る限り、本当に知らない可能性もあります。

 なにせ、この私ですら《 鑑定眼 》を使うまで、それに含まれていることに気づきませんでしたから。


 そうでなければ、平気な顔をしてアンナメアリに毒を・・浴びせて・・・・いる理由が分かりませんもの。


 だから私は、つい口を開いてしまいます。


「あの──あなたがたは、なぜブルーメガルテン妃に毒を塗っている・・・・・のですか?」

「っ?!」「えっ?!」「はあっ!?」


 投げかけた問いは、この場の空気に劇的な変化を齎しました。全員が、ギョッとした顔でこちらを見たのです。

 前世からあまり女性に見られるという経験が少なかった私は、思わずキョドってしまいます。


「ユリィシア、あなた何を──」

「ユリィちゃん。あなたもしかして……原因が分かるの?」

「え、ええ、分かりますけど」


 私は3人の侍女のうち、化粧道具を持っている人を指差します。


「あなた方が利用している化粧品ですが、これには白魔砒石が含まれてますね?」

「は、はい……ルナール地方特産の超高級白魔砒石を用いたものだと聞いていますが……」

「純度の高い白魔砒石は、体に害をなしますよ」


 私がそう言うと、この場にいた全員の動きが固まりました。




 前世においても、白魔砒石はかなり重宝していました。なにせ色付きが良いので、曼荼羅陣の臓腑刻印に欠かせない塗料なのです。だから、その副作用についても私はよく知っていました。


「し、しかしこの化粧品は、美白効果の高い粉として上流階層で一般的に使われているもので──」

「そうでしょうね。健康であれば問題ないのかもしれません。ですが──」


 白魔砒石は、健康なうちにはほとんど害のない鉱物です。

 しかし、なかなか体外に排出されにくい物質のため、健康であれば少量なら体外へ排出されますが、もしそうでないなら──徐々に内臓に蓄積されていきます。


 白魔砒石の怖いところは、本人も気づかないうちに体内に蓄積されて悪影響を及ぼすことです。実際私も臓腑刻印を施したあとで副作用にずいぶんと悩まされました。


 食欲の劇的な減退、体重の減少、激しい頭痛やむくみ、思考能力の低下──それら複合的な要因の結果もたらされる生命力の削減。酷い時には死に至ります。


「アンナメアリ様は、おそらくもともとお身体が弱いのではないでしょうか? そこに純度の高い白魔砒石の化粧品を使うことで、どんどん体に悪影響を及ぼしたのでしょう」

「白魔砒石に、そんな悪影響が……」

「ユリィシア……あなたなぜそんなことを知って──」

「ブルーメガルテン妃っ! も、申し訳ございませんっ!」


 真っ青な顔で頭を下げる侍女。おそらく自分が知らないうちに毒を盛ってしまったことに怯えてるのでしょう。

 まぁ日常的にウルフェに毒を盛っている私からすると別に気にするほどのことではないと思うのですが、とりあえず適当に侍女をフォローして誤魔化して、フローラの追求から逃れることにします。


「気に病むことはありません。あまり世間では知られていないことのようですから。私も偶然書物かなにかで見聞きした記憶があっただけですし」

「で、でも……」

「誰でも知らなければ誤ちを犯してしまうものです。ねぇ、お母様もそう思いません?」

「えっ? あ、そ、そうね……」

「ユリィシアちゃんの言う通りだわ。あなたたちに何の罪もないわよ」

「ブルーメガルテン妃さま……。うう、ありがとう……ございます」


 涙を流して側妃に感謝と謝罪を繰り返す侍女たちと、背中を撫でて優しく落ち着かせるアンナメアリ。フローラも感激しているのか、目を潤ませているようです。

 ──しめしめ、なんとかうまく誤魔化せたみたいです。


「……ユリィシアちゃん、あなたはとっても優しい子なのね」

「えっ?」

「私たちの過失をフォローしていただき、ありがとうございます」「危うく私たちはブルーメガルテン妃さまを苦しませ続けてしまうところでした」「さすがはもと聖女フローラ様のお嬢様です。本当に心優しい……」


 誤魔化すことには成功したのですが、今度は全員から感謝をされてしまいました。感謝というのはどうにもされ慣れていないので、なんだか居心地が悪くなります。

  え? これまで治癒した時に感謝されなかったのかって?

 さぁ……いつもは検証に夢中であまり相手の話を聞いていませんでしたからね。正直覚えてません。


「そ、そんなことよりも……お母様、私が治療を試してみてもよろしいでしょうか?」

「えっ!?」「はっ!?」「まぁ!」「ふわぁっ!?」

「ユリィシア、あなた……治療法が分かるの?」


 一応解決策は知っています。

 体内の毒素を外に排出すれば良いのです。


 前世の私は大量に汗をかくことで、新陳代謝を高めて毒素を排出していましたが、アンナメアリほど弱っていると、なかなか自力では排出できないでしょう。


 そこで──私の腕の見せ所です。




「あぁ、すごく気持ちが良いわ……」


 私がアンナメアリに施したのは、《 癒しの右手 》を用いた『癒しのエステ』です。

 すっぽんぽんのアンナメアリに、癒し効果を高めた右手をあてがうことで血流を高め、かつ血液の流れに治癒魔法を乗せることにより、体内から毒素を抜き出す手助けをします。

 その結果──すぐにアンナメアリの顔色が良くなっていきました。おそらく毒気が排出デトックスされているのでしょう。


 最初は治癒魔法でどうにかしようかと思ったのですが、やはり毒──今回の場合は中毒というのでしょうか──解毒については治癒魔法だけではどうにもならないみたいです。


 それにしても、よもや側妃の裸体にダイレクトタッチする機会を得ることになるとは夢にも思いませんでした。

 アンナメアリは側妃になるだけあって大変美しく、痩せ衰えたとはいえスタイル抜群です。そんな彼女の全身を素手で隈無く触りまくります。


 ──あぁ、なんという役得。


「アンナメアリ様。この治療は一回だけでは終わりません。おそらくひと月程度は継続して行う必要があります」

「あらそうなの? ユリィシアちゃん、それにフローラ、良かったら一ヶ月ほど私の治療をお願いできないかしら?」

「わたしからもお願い。ユリィシア、アンナメアリを治してあげて」


 フローラからも正式にお墨付きも頂きました。

 それでは遠慮なく──これから一ヶ月ほど、たっぷりとアンナメアリの柔肌をダイレクトタッチで堪能させていただくとしましょう。むふふっ……。



 ◆



 それから私はフローラ同席のもと、毎日アンナメアリの元に通って癒しのエステを施しました。


 正直、癒しのエステに魔力増強効果はあまり認められません。

 ですが、辛気臭い田舎村エンデサイドに引きこもってるよりは遥かにマシです。

 そしてなにより──。


「あっ……そこ……いいわっ……」


 そう。癒しのエステという大義名分のもと、私はアンナメアリの大変素晴らしい聖域にょたいを余すことなく堪能できるのです。


 私の施術を受けて、アンナメアリは頬を赤く染め、官能的な吐息を漏らします。

 きっと側妃である彼女にこんな表情をさせるのは、国王か私くらいなものではないでしょうか?


 いやぁ、眼福、眼福です。

 フローラの聖なる双丘も悪くはありませんが、アンナメアリも相当なものでした。



「ふぅ……今日もいい仕事をしましたわ」


 アンナメアリのエステが終わった後、話し込んでいるフローラを置いて私は一足先に後宮を退出することにしました。

 いつものように女騎士に連れられて歩いていると──ふと物陰に人がいることに気づきます。


「っ!?」


 人影は、私が見ていることに気づくと駆け足で逃げていきました。

 パッと見たところ、体格的に私と同年代の子供に見えます。服装的には男の子でしょうか? ただ、普通の子と呼ぶにはあまりに奇妙な姿をしていました。


「あれは──仮面?」


 そうなのです。

 その男の子は顔全体を覆う〝仮面″をつけていたのです。


 仮面といえば、懐かしのレウニールでは随分とお世話になりました。

 あの仮面はもう捨ててしまいましたが、やりたい放題やらせていただいたときに使っていたものですので、そこそこ愛着があります。

 なので、仮面の男の子に妙に親近感が沸いてしまいました。


「でも……どうして後宮に男の子がいるのでしょうか?」



 ──ずくん。


 そのとき──なぜか私の左手と左目が、軽く疼いたのでした。



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― 新着の感想 ―
疼くぜ!!早く眼帯と包帯を巻かなければ・・・
[良い点] 現実の白粉より遥かに安全だからこそ、過剰蓄積による害が臓腑に直接陣を描く裏社会以外ではほぼ知られてなかったという訳ですな……
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