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1.生まれ変わり

 ──暗い。

 何もない暗黒の世界。

 それが、最初に私が感じた感覚だった。


 目を開けようとするも、開けることが出来ない。体の自由も利かない。

 一体なんなのだこれは? 私はもしかして……失敗したのか?


 フランケルとして歩んできた人生の中でも、ここまでの恐怖は味わったことがなかった。つかみどころのない空間ほど、恐ろしいものはない。

 圧倒的な不安を前に、私にできることなどほとんど無い。ただ、必死になって声を出す。心の底から搾り出すように──。


「オギャァアッーー!!」


 え?

 お、おぎゃあ?


 戸惑う私の体が、何者かに持ち上げられる。

 なんだろうか、この暖かい雰囲気は。私のこれまでの人生において一度も感じることのなかった不思議な感覚。


「あーら、ユリィシアちゃんったらどうしたの? おむつが濡れちゃったのかしら。それともお腹すいたのかな?」



 こ、この声は──!?


 聞こえてきたのは、聞き覚えのある声。

 声のトーンは違うが、間違えようがない。なにせ死の間際の最期に聞いた声なのだから。


 な、なぜ──【 神聖乙女 】フローラの声が……?


 そう思った次の瞬間、私の口元は──柔らかな感触に包まれた。




 ◇◇




 ということで、どうやら私はフローラの子供である『ユリィシア』に生まれ変わってしまったらしい。そのとんでもない事実を、生後半年ほど経ち目が見えるようになって、ようやく私は受け入れることにした。


 父親はもちろん──。


「ほーら、ユリィシアちゃん! パパが来たでちゅよー!」

「ほぁぁ」


 既に親バカ全開となって私を抱き上げる【 剣皇騎士 】カイン。私が、かつての宿敵フランケルの転生した姿だとは夢にも思っていないであろう。


 そう。一か八かでしかけた術はある意味で失敗し、ある意味で成功していた。

 私は、前世の記憶を持ったまま彼らの子供に転生していたのだ。


 しかし、まさか──よりにもよってカインとフローラの子供に転生するとは思わなかった。果たして何が原因でこうなってしまったのか。


「だぁ」

「あ痛っ! ユリィシアちゃんってば、やんちゃだなぁ!」


 憎きカインに蹴りを入れながら、私は考察する。


 おそらくではあるが、今際の際に放った不死王転生の術は完全ではなかったのだろう。普通であれば私の術は失敗し、そのまま魂は朽ちていたのではないか。

 しかし、天は私を見捨てなかった。偶然にもすぐ近くに魂の宿っていない、受精したばかりの〝器″があった。すなわち──カインとフローラの胎児だ。

 不完全な術で弾き出された私の魂は、フローラの胎内にあった受精卵へ宿ることで、かろうじて消滅の危機を乗り越えることに成功する。

 その結果、私は──カインとフローラの子ユリィシアとして生を受けることになったのだ。


 前世で殺されたときには「決戦の前に本番・・をこなしてくるとは、これ如何にっ!?」と若干恨みはしたものの、おかげでこうして転生に成功したのは皮肉なものだと思う。


 しかも私は、この転生によって手に入れたものがあった。

 かつての私がずっと望み続け、だが決して手に入れることが出来なかったものを……。


「だぁだぁ」

「あら、ユリィシアちゃんはお腹空いたのかしら? あなた、この子に授乳するから返してもらえるかしら」

「あ、あぁ。わかったよ……」


 私はフローラに優しく抱き抱えられ、彼女の柔らかな双丘に触れる。途端、私の心はえもいえぬ幸福感に包まれた。


 あぁ……これぞ私が憧れ続けていたおっぱ──いや、″聖女の聖丘″。

 大きく息を吸うと、そのままかぷりとかじりついて聖丘の頂点に立つ聖域を口に含む。


 ちゅうちゅう。


「うふふ。ユリィシアちゃんってば、元気いっぱいね。たくさんおちちを飲んでね」

「あぶー」


 あぁ、至福だ。

 これを至福と言わず何を言わんや。


 私は、確かに一度死んだ。

 非業と呼んでもいい最期を遂げた。

 だがその結果として、私はずっと願い続けていた一つの望みを叶えることが出来たのだ。


 それが──聖女の生”聖域”に触ること。


 ぷにぷに。

 あぁ、やわらかい。まるで天使の羽毛のようだ。


 ぷにぷにぷに。


「あん。ユリィシアちゃっんたら、元気ねぇ」


 だが私は必死に乳を吸いながら母の胸を堪能する。

 なんという素晴らしい聖なる丘。

 まさに神に愛された聖丘と言えよう……。



 〈 ── 鑑定発動 ……成功。 鑑定結果:《 癒しの双丘 》 〉



 え?

 なんだ、いまのは?


 私の右目に、突如なにやら文字が一瞬だけ映し出されたかと思うと、すぐに消えた。

 ……鑑定? 癒し? いったい何が見えたというのだろうか?


 ……はっ!

 そうだ! そういえば《 死霊眼ネクロ・アイ 》はどうなったんだ?

 私の目に宿っていた唯一無二のギフトであり、これまで数々の危機を救ってきてくれた大切なギフトはどうなってしまったのだろう?

 今度は目に力を入れてギフト発動を強く意識してみると、右目だけが強く反応を示した。やがて視界には、フローラの身体から浮き上がるだけでなく──先ほど見えた文字が再び浮き上がってくる。


 ……正直、転生を果たした場合にギフトが引き継がれるかどうかは賭けだった。

 とはいえそれは、かなり勝算の低い賭けであり、引き継がれるのは絶望的だと考えていた。

 ところが、発動しているのが右目だけとはいえ、どうやら私のギフトは引き継がれているようだ。残念ながら左目にはなにも映し出されない。


 だが、発動された能力ギフトは劇的に変化を遂げていた。可視光だけでなく、なにやら文字まで見えるようになっている。表示された内容は──改めて確認したところ、おそらくはフローラの持つギフトの説明のようだ。


 いったい私の《 死霊眼ネクロ・アイ 》は、転生することでどう変質してしまったのだろうか。もしや別物になってしまったのだろうか。気になることは山ほどある。


 しかし──私はすぐに気にすることをやめた。

 考えたら検証したりする時間はいくらでもある。なにせ私は生まれ変わってしまったのだから。

 むしろ、ちゃんとギフトが発動したことを感謝すべきだろう。転生してギフトが引き継がれるなどという話は聞いたことがないのだから。


 それよりも、今このときでしか味わうことができない幸せを満喫することにしよう。

 ──すなわち、聖女の聖丘を。


 それにしても、さすがは聖女たる【 神聖乙女 】の聖丘と言うべきか。実際に手に触れていると、全身がほのかに暖かくなる。

 おそらくは《 癒しの双丘 》とやらのギフトの効果なのだろう。触っているだけでギフトを発現させるとは、どれだけ神の祝福を受けた聖丘なのだろうか。

 これを前夜に手に入れ、十分に堪能したカインは、私との決戦においてさぞかし力が湧いたことだろう。


 ……まあいい、過去の恨みは水に流すとしよう。


 何より私は、今この時、目の前にあることを大事にしたいから。


 ふくよかな乳を優しく撫でる。

 すると、私の幼い右腕が柔らかな光を放つ。



 〈 ──ギフト《 癒しの右手 》の発動を確認しました 〉



 ……なにやら右腕になにか文字が表示されているが、今はそれよりもこの乳房を口にする方が先だ。


 ぱくり、乳房を口に含む。

 ちゅうちゅう。

 あぁ……美味い。なんで濃厚な味なんだ。

 前世において、これほど美味で甘味なものを口にしたことなどない。

 これぞ──至福。これぞ──眼福。



 私は──生まれ変わることで手に入れたのだろう。

 かつての生において見果てぬまま望み続けた……何かを。




 〈 ギフト覚醒──《 祝福の唇 》を獲得しました 〉



 ……それにしても、さきほどからチラチラと視界に映るものは何だろうか?


フローラ「どうしてかしら? ユリィシアを抱っこしてると疲れが癒されるのよねぇ」

ユリィシア「だぁ! だぁ!」

フローラ「それに、おっぱいをあげてると湧き上がるような力が……」

ユリィシア「だぁ?」

カイン「なぁに、それはきっと愛だよ」

フローラ「そうね……これがきっと愛なのね。それにしてもユリィシアは物分かりの良くて手のかからない子だわぁ。それにこの髪の色……聖母神様のご加護ではないかしら? 今度お母さんに見てもらいましょうかね」

カイン「お母さんって……あの?」

フローラ「ええ、そうよ。お母さんがどうしたの?」

カイン「いや、あの、結婚のお願いに行ったときに鉄拳制裁されてから恐ろしくて……」

フローラ「あぁ、お母さんは怒ったら怖いからね。でももう大丈夫よ。一発殴ったらすっきりしたって言ってたから」

カイン「あわわ……」

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もうダメだ。お終いダァ!!人類は・・・
[良い点] もうこれある意味主人公の夢が叶って幸せすぎ るしここでEDでも十分ハッピーエンドじゃない?
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