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16.《 side: エーデル》 無謀なる若手冒険者の悲劇

 オレはエーデル・スライバー。冒険者をやり始めたばかりの駆け出しルーキーってやつだ。


 オレは連邦のスラムで生まれ育った。

 肉親は妹のフィーダだけ。


 スラムでの生活はロクなもんじゃなかった。だけどたまたま拾われたスライバー孤児院に救われた。そこのマザー=アン・スライバーはおっかないけど俺たち孤児をちゃんと育ててくれた。いくら感謝しても感謝し足りねぇと思ってる。……ちょっと前に流行り病でおっ死んじまったんだけどな。


 妹フィーダは幼い頃から重い病気を患っていた。目が見えないんだ。もしかしたら治療できるのかも知んないけど、スラムの孤児であるオレには金も無くてあいつを治療してやることもできなかった。

 だからオレは、マザーが亡くなって無理やり世間に放り出されちまったのを契機に、妹の治療費を稼ぐために一攫千金を目指して冒険者になることにした。


 なにせ14才のオレは外から見ると身元不詳のただのクソガキだ。そんなやつにろくな仕事などない。

 ただ昔っから腕っぷしは強かった。孤児院でもリーダー格みたいな役割だったからな。だから、手っ取り早く稼ぐために──冒険者になった。


 とはいえ、オレらみたいな親なしは、国家や企業が持つダンジョンには潜れない。そのためには兵士になるか企業に就職するしかなかったけど、オレらみたいなのを雇ってくれるとこなんてなかった。そもそも雇われるくらいなら普通の仕事探してるしな。


 他にも選択肢がなかったわけじゃない。

 例えば流しの探求者になって、ゲートやダンジョンを探しても良かった。だけど、殆どの人が一生探し続けたって一つも見つけられないことがザラだし、仮に見つけてもそいつが金になるかはまた別問題だ。

 そんなギャンブルみたいなことをやってる余裕はオレたちにはなかった。


 その点、フリーの冒険者は制約はないし、命さえ賭ければリターンは期待できる。

 結局、俺たちには──選択肢なんて大してなかったんだ。


 だから、同じ孤児院から器用で頭の切れるスライ、貴族の落胤で魔法が使えるイスメラルダの3人で、小銭をかき集めて『レウニールのダンジョン』に挑むことにしたんだ。



 レウニールのダンジョンは、オレたちみたいなフリーの冒険者でも金さえ払えば入れるところだ。だけど、そいつは裏を返すと低管理でろくなサポートもなく、出てくるドロップも大したものは出ないということを意味している。


 例えどんな場所だろうと、オレたちに選択肢はない。そう覚悟を決めてアタックしたレウニールのダンジョンは、思ってた以上にとんでもない場所だった。


 出てくるのは低級なモンスターばかり。だけどどいつも一癖も二癖もあるやつらで、オレたちは苦戦を強いられた。

 ゴブリン、コボルト、スライム、ジャイアントバット……。


 戦闘のたびに怪我をするものの、なかなかカードを落としてドロップしてくれない。このダンジョンに入るのに、一人当たり5万エルを支払ってる。最低15万エル以上の収入が得られないと大損になるのだ。

 だけど現時点でオレたちが手に入れられてるのは、安物の〝錆びた剣″のカードのみ。こんなの1万エルにもなりやしない。


 もっと深くに行かなければ──。


 成果を求める焦りから、オレは重大な判断ミスをしちまった。

 その結果、オレたちは──忘れられない後悔をすることになる。


「ぐわっ!」

「スライ! どうしたっ……痛っ!」

「エーデル、後ろにゴブリンが……きゃっ!」


 十字路で出くわしたゴブリンの集団に、オレたちは完全に翻弄された。うまく連携も取れず、傷を負うばかり。

 やがてスライが背中を大きく切られ、オレも肩をバッサリとやられた。イスメラルダには矢が3本も刺さっていた。


 このままじゃ全滅だ。そう思った時、スライがなけなしの煙幕を焚いて隙を作った。死に物狂いで剣を振り回して牽制すると、スライとイスメラルダを両脇に抱えるようにして──オレたちは命からがらダンジョンを脱出したんだ。


「おぅおぅ、あのガキども派手にやられてんな」

「あれ致命傷じゃない? 哀れねぇ」

「あれじゃ長くもたないだろう、可哀想に」


 血まみれのオレたちに浴びせられたのは、無関心と無関与。ここの奴らはただ遠くから見て嘲笑ったりするだけで、誰も助けてくれなかった。


 隣では血を失いすぎたスライが震え出し、矢が肺まで達していたイスメラルダが血を吐いていた。このままじゃ、オレたちは終わってしまう。


「助けてくれ……」


 オレはこのとき、生まれて初めて祈った。

 神でも悪魔でもなんでもいい。とにかくオレたちを助けてくれ、ってね。



 実は、俺たちがレウニールのダンジョンを選んだのには、拠点から近いという以外にも理由があった。

 ここみたいに金を払えば潜れるダンジョンは、他に無いわけじゃない。実際候補は他にもあった。だけどオレたちは、このダンジョンを選んだ。


 その頃レウニールのダンジョンには、ちょっとした噂が流れてたんだ。

 その噂は、普通に生活しているのであれば取るに足らないようなもの。だけど、命を懸けてダンジョンに挑むオレたちにとっては、たとえ藁であってもすがりたいと思うようなもの。


 ──レウニールのダンジョンには、冒険者を守ってくれる〝天使″がいる。


 詳細は分からない。誰も詳しく教えてくれない。

 天使が何なのかも知らない。


 だけど、命からがらダンジョンから逃げ出したものの、大怪我を負っていて治療する金も無く、このままだと死んでしまうしかないオレたちには、それしか縋るものがなかった。


 ……そして実際に。

 ドン底でどん尻な状況のオレたちを助けてくれたのは、他でも無い──この〝天使″だったんだ。



 オレは神なんて信じない。そんなものがいたらとっくにオレやフィーダのことを救ってくれていたはずだから。

 だけど──オレは〝天使″は信じている。いや、信じるようになった。


 その〝天使″は、仮面を被っていた。

 真っ白な、顔全体を覆う仮面だった。


 特徴的なのは、深く被ったフードから覗く白銀色の髪。

 のちにたくさんの偽物が生まれることになるが、見分けるポイントは、絶対に真似できない天使の羽根のような髪の毛の色。それが本物の〝天使″の証なんだ。


 年の頃は──正確には分からないが、外観から感じられる年齢の頃は13歳にしては痩せっぽちな妹のフィーダと変わらないか、もっと下の……10歳くらいだろうか。

 天使には従者がいた。背の高い、これまた犬面の仮面を被った男だった。一目でわかる、かなり腕の立つ護衛に見えた。


 最初に天使を見たとき、頭に浮かんだのは──どこかの貴族の令嬢が、戯れに哀れな底辺労働者を見に来たんだって思った。


 だけど違った。

 天使は俺たちの側に近寄ってくると、そっと右手を差し出してきた。


 警戒して、最後の力を振り絞ってスライたちを護ろうとするオレに、天使は声をかけてきた。


「大丈夫です。あなたたちのことを治療しますから」


 治療、だって!?


 次の瞬間、オレの身体は優しい光に包まれていた。

 すると──それまで激痛が走っていた肩の傷が、あっという間に治ってしまったじゃないか。


 オレが驚いている間にも、天使はスライとイスメラルダを治療してくれた。今にも死にそうだった二人が、あっという間に完治しちまったのには、さすがのオレも驚いたね。


「す、すまない……助けてもらって。でもオレたちは金は……」

「お金など必要ありませんわ。私は傷ついた人を癒したいだけなのですから」


 マジか……。オレは絶句した。


 あぁ、なんという尊い存在なんだ。

 まさかこんな天使のような人が存在していたというのか。


「あなたは……聖女か?」

「いいえ、聖女ではありません。決して私のことを聖女と呼ばないでください。これは──お願いです」


 この人にそう言われて、嫌ということができるわけがない。

 なるほど、例の噂がハッキリと伝わっていない理由がよく分かった。彼女は、治療をしていることを知られるのを嫌がっているのだ。

 であれば──オレも彼女のことを〝天使″と呼ぶことにしよう。


 あぁ、でも残念なのは──。

 天使の力があれば、もしかしたら妹フィーダの病気は治るかもしれない、と思ったからだ。


 そんなオレの心の中を察したのか、天使が語りかけてきた。


「あなた──どこかに治療したい人がいるんですか?」


 確信に近い問いかけ。

 この人は、きっと全てを察してるんだ。


 だからオレは包み隠さず病気の妹のことを話した。

 すると天使は、一も二もなく頷くとオレにこう言った。


「妹のところにすぐに連れて行ってください。私が──治療しますので」


 妹のフィーダは、レウニールの安宿に連れてきていた。すでに孤児院はマザーが亡くなってから人手に渡り、オレたちは追い出されていたんだ。

 目の見えないフィーダは、たった一人でオレたちの帰りを待っていた。きっと不安だったろうに。心細かったろうに。


「ただいま……フィーダ」

「あっ! お兄ちゃんおかえり! あれ? 誰かお客さま? スライやイスメラじゃないよね?」

「あ、ああそうなんだ。実は──」


 彼女のことをなんと呼べば良いのか。悩んでいる間に妹を見た天使は、すぐに目を細めた。

 妹を優しく撫でると仮面をずらす。仮面の下から覗いたのは──世にも美しい顔。オレに上手い表現はできないけど、本物の天使がいるんだとしたらこんな顔なんだなって思った。


「これは──視神経が生まれつき切断されているみたいですね。あぁ、だというのにSランクの素質……素晴らしいですわ。あなた、お名前は?」

「え? フィーダです」

「そう、フィーダ。あなたには魔法の素質があります。治ったら鍛えると良いですね」


 綺麗な顔が、妹の額にキスを落とす。


「あっ……」

「起動せよ──『生命の樹セフィロト』」


 セ……ロット?

 そう口にしたように聞こえた。意味は分からない。先程から天使は意味がわからないことばかり口にしているのだ。


「お嬢様、治せますか?」

「問題ありませんわ。ただ魔力切れを起こすかもしれませんので、あとのことはお願いしますね」

「あとのことはお任せください。ぜひ……治療してあげてください、お願いします」


 気絶したスライとイスメラルダを抱えてくれていた犬面を被った従者の男が、なぜか天使にお願いをしていた。

 そのままオレの方を見て、優しげな瞳でオレの頭を撫でてくる。


「君。妹を、大切にするんだぞ」

「あ、うん……」


 意味はわからないけど頷いておくことにした。その方がいいんじゃないかって思ったんだ。


 その間にも、天使の治療は始まっていた。


「──【 治療トリート 】」


 もう少しオレが成長して、色々なことを学んだあとに知ることになるんだけど……このとき天使が使った癒しの奇跡は、驚くべきことに初級のものだった。

 だけど、そのあと起こった光の爆発は凄まじいものだった。


「っ!?」


 続けて、激しい光がフィーダに降り注ぐ。

 これは──大丈夫なのかっ!?


「あぁ……エクス──」


 天使がなにか口にしたけど、よく聞こえなかった。きっとなにか特別な魔法の言葉だったんじゃないかと、のちに思うことになる。


 光が収まったあと、天使はパタリと倒れた。同様にフィーダも意識を失っている。


「……これでこの子の病気は治っているだろう。あとは無理をせず安静にすることだ」

「えっ? あっ……」

「兄として、妹を守れ。お前にとってかけがえのない存在であるならばな」


 犬面の従者は天使をお姫様抱っこすると、そのまま部屋を後にした。残されたオレは、ただ茫然と──その場に立ち尽くしていたんだ。




 ◆




 あれから、フィーダの目は見えるようになった。

 それだけじゃなく、フィーダは目に祝福を貰ったらしい。人の目には普通見えない魔力の動きを見ることができるようなのだ。フィーダはその目を《 天使眼 》と名付けていた。

 だからだろうか──妹は魔法使いとしての素質を開花させて、メキメキと成長していくことになる。


 だけど──あのとき以降、天使に会うことはなかった。

 本当はお礼を言いたかった。とにかく感謝の気持ちを伝えたかった。でもパッタリと、姿を表すことはなくなっていたんだ。


 やがてフィーダも冒険者になった。その頃には、オレたちもあの頃のようなヘマをすることもなくなって一端の冒険者として名を知られるようになっていた。


「そろそろチーム名を決めようか」


 スライの提案で、オレたちは冒険者チームとしての名前を決めることになった。


「だったらオレに、良い案がある」

「へー、お兄ちゃんどんなの?」

「エーデル、あんたリーダーなんだから良い加減な名前にしないでよ?」

「分かってるってイスメラルダ。あの人に──あやかった名前だよ」


 あの人。

 その呼び方を聞いただけで、全員がしんと静まり返る。

 それほどに天使の存在はオレたちにとって特別なものになっていたんだ。


「オレたちのチーム名は──光の翼と書いて、エクスロット。『光の翼エクス・ロット』だ!」


 天使が口にした言葉。

 もしかしたら神聖な単語なのかもしれない。


 だけど、どうしてもオレはこの名前にしたかった。

 そして、天使に再会した時に伝えるつもりなんだ。


「ありがとう! あんたのおかげでオレたちは救われたんだ! だからあんたに何かあったとき、オレたち『光の翼エクス・ロット』は無条件で全力でこの身を捧げさせてもらうよ!」


 ……てね。







 ──これが、のちに大成し、Sランク冒険者にまで成長するチーム『光の翼エクス・ロット』の、誕生の瞬間であった。



エクス…それは…(о´∀`о)



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エクス・・・・・・セフィロ◯? ???「私は思い出にはならないさ」
[一言] エクス……プロージョン?
[一言] エクス……カリバー?
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