【小説3巻&コミックス2巻発売記念!】 お裁縫は得意?
本日、小説版3巻とコミックス2巻が同時発売となりました!
発売を記念して、ショートストーリーを投稿します!
「ユリィ、今日はわたくしと一緒に縫い物をしませんか?」
「ぬい……もの?」
アナスタシアの予想外の言葉に、私は思わず聞き直してしまいます。
「まあ、ユリィってば可笑しな反応をするのね」
「縫い物って……針と糸で縫うやつのことですよね」
「ええ、もちろんよ。そのほかに縫い物ってあるのかしら?」
ええ、ありますとも。
前世ではよく肉が落ちかけたゾンビを荒縄で縫い止めたりしていました。でもあれ一時的な効果しかないんですよねー。すぐに腐って落ちてしまいますから。
やはり大事なのは縫うことよりも防腐剤のほうですよね。ゾンビは状態を保ち続けるのが難しいのですよ。せいぜい数ヶ月の儚い命なのです。アンデッドゆえに命も何もあったものではありませんが。
ですからやはり私のおすすめはスケルトンですね。どうせ崩れ落ちる腐った肉に拘るくらいなら、思い切ってスケルトンにしたほうがスッキリさっぱりです。
「あのー、お嬢様? アナスタシア様がおっしゃってるのは刺繍とかのことでございますよ」
「死臭?」
まあたしかにゾンビは臭いますからね。
悪臭対策は大切です。疎かにするとカビが生えたり虫が寄ってきたりしますからね。
「これは絶対勘違いしてるでございますね……お嬢様、刺繍とは糸と針で布に模様を描くことでございますよ」
「ネビュラちゃん、そんなことは当然わかっていますよ」
「本当でございますかね……」
危なかった……勘違いしてアナスタシアとアンデッド談義に花を咲かせるところでした。
それはそれでアリなのですが、相手が話してきたことと違う話を返すとはマナー違反と学園で教わりました。
私はできる女、マナー違反は犯しません。
それに相手の会話をドン引きされても困りますからね。ここは相手に合わせておきましょう。
「それでアナ、どうして刺繍の話が出てきたのですか?」
「いつもお世話になっているランスロットとシャーロットにハンカチでも贈ろうと思ったのよ。ユリィもウルフェやネビュラに贈ったらどうかしら?」
「え、贈り物?」
贈り物……その概念はありませんでしたね。
「ネビュラちゃんは何が欲しいですか?」
「欲しいって、それはもうフランケルのひ……じゃなくてボクもハンカチ欲しいでございますね!」
「ハンカチを贈るのは親愛の証よ。ユリィもせっかくだから一緒に贈りましょう」
まぁ、親友のアナに言われたのなら仕方ありませんね。
私が丹精込めたハンカチを二人に贈りましょう。
「あのー、お嬢様? ボクは普通のハンカチで良いですからね。普通の」
「普通では無いハンカチってどんなものですか」
「いや、たとえばあの、お嬢様だったらヤバい死霊が集まるとか……」
「そんな素敵なハンカチがあったら私が欲しいですね」
「あと聖なる力が込められたやつもナシでございますからね。ボク一発で昇天するでございますので」
「たしかに」
「まあいざとなればウルフェ殿に渡しますけどね」
「ネビュラちゃん、私が作ったものはいらないと言うのですか?」
「さ、さすがに命に関わるものは勘弁願いたいでございますよ!」
これだから自我持ちアンデッドは……。
──後日。
私はアナスタシアと一緒に刺繍したハンカチを二人に渡しました。
ウルフェには剣を、ネビュラちゃんにはティーカップを刺繍しています。アナスタシアほど上手ではありませんが、まあ悪くない出来ですね。
「おおお、ユリィシアお嬢様が縫ってくださった刺繍! このウルフェ、生涯の宝といたしますぞ!」
「くんくん……死臭はなし、聖なる力もなし。大丈夫でございますね」
ネビュラちゃんは相変わらず失礼ですね。私だってやればできるんですよ。
「二人とも、大切に使ってくださいね」
「はい! 懐に入れて命尽きるまで守り通します!」
「……これを生徒に転売すれば高値で……ってお嬢様、なんでもございませんからねー!」
ふふ、たまには二人の働きに報いるのも悪くはありませんね。
この調子で、私にずっと仕えるのですよ。骨になっても……うふふ。
ネット版から大幅に加筆修正した書籍版3巻と、東条さかな先生によるコミックス2巻をどうぞよろしくお願いします(о´∀`о)




