【コミックスも発売記念!】特別なミッション
本日、PCゲーム版(既に売り切れ続出!)とともに、ホーリーアンデッドのコミックス一巻も発売となりました‼️
コミカライズ発売を記念して、作者の東条さかな先生に捧げる短編を掲載します(*´∇`*)
「今日は特別なミッションに挑もうかと考えています」
学園に入園してしばらく経ったとある休日、私はウルフェとネビュラちゃんに向かってそう宣言しました。
「特別なミッション……もしや、どこかのダンジョン攻略ですか?」
いいえ、違いますわウルフェ。
もっと高度で高尚なものです。
「お嬢様のことなので、新たな狩り場を見つけることでございましょうか」
新たな狩り場……ネビュラちゃんは普段の私のことをどう思ってるんですかね?
あとで小一時間くらいは『呪い』でお痛しないといけませんね。
「これは極めて危険なミッションです。下手すると命に関わります」
「ごくり……」
「お嬢様、それはいったい──」
私は震える声を抑えながら、二人に伝えます。
「スイーツです」
「は?」「ひ?」
「スイーツを食べに行きます」
「お、お嬢様……スイーツというのは、敵の名前でしょうか?」
「いいえ、スイーツは甘い食べ物ですわ」
「ボクにはわかりかねるのですが、スイーツを食べることの何が危険なのでございますか?」
「まぁ! ネビュラちゃんともあろうものが、なんという甘い認識を」
スイーツは危険なのです。
前世の私は勇気を出してスイーツ店に入ったのですが、店員や客からの冷たい目、意味不明なメニューや理解不能な注文方法に、私のガラスのメンタルは粉々に砕け散って、あえなく逃亡したものです。
まさにトラウマですね。
「スイーツゆえに甘いとは、これいかに」
「お嬢様……」
「いや、スイーツとかどうでもよくないですかね……」
良いわけないでしょう。
「私がいつか超えなければならない壁。それが──スイーツ店なのです」
「はぁ、そうでございますか」
「このウルフェ、お嬢様のためであればたとえ地の果て天の果て、スイーツ店であろうとお供いたしますよ」
こうして私たちは、学園の近くにある有名なスイーツ店へと向かいました。
ですが──いざ店の前に立つと足がすくんでしまいます。
「これが強敵を前にしたときの足の震えというものでしょうか……」
「たんにお嬢様がビビってるだけだと思いますけどねぇ。ぷぷぷ」
「ネビュラちゃん、ずいぶんと余裕がありますね。あなたは一人でも入れるのですか?」
「ええ、問題ないでございますよ。じゃあボクは先に入ってますねー、ぷぷぷ」
「あっ……」
言うが早いか、さっさと店の中に入っていくネビュラちゃん。なんて薄情な。お仕置き確定ですね。
残された私は、思わずウルフェを見上げます。
「ウルフェ、あなたほどの戦闘能力を持つものであれば問題ありませんよね?」
「い、いえ、あの、俺はどうにもこのような店には入ったことが無くて……」
なんと、イケメンなくせに使い物にならないですね。
こんなときくらい役に立てばよいのに。
「ですが俺は必ずお嬢様の盾となります。ですから、どうかご安心なさってお店にお入りください」
「……仕方ありませんね」
いざとなればウルフェを犠牲に捧げて逃げるとしましょう。
なぁに、骨は拾いますよ。……骨はね。
カランカラーン。
「いらっしゃいませ……きゃっ、イケメン!」
「え、うそ、やだっ!?」
「すっごいイケメンだわ!」
スイーツ店に入った瞬間、店員たちがウルフェを見て歓喜の声を上げます。
ああ、そうでしたね。
イケメンはすべてを解決する。
恐るべしイケメン、憎むべきイケメン。
ですがウルフェを店員たちに捧げることで、私は先に進むとしましょう。
さようならウルフェ、あなたの犠牲は忘れません。
「私は先に席に座りますわ」
「あ、お嬢様、置いていかないでくださ──」
「あなたはあなたの戦場で戦いなさい」
「は、はぁ? わ、わかりました……」
店の奥に行くと、先に入ったネビュラちゃんが勝ち誇った笑みを浮かべながら足を組んで紅茶を飲んでいます。
ぐぬぬ、なんて苛つく顔をしているのでしょうか。
「おやー、お嬢様。ようやくいらっしゃったのでございますね」
「……これくらい楽勝でしたわ」
「あらーそうでございましたかー。ボクが気にしすぎていただけでございましたね。ぷぷぷー」
今すぐ呪いを発動してお仕置きしたいところですが……やってしまうとネビュラちゃんに負けた気がするので、ここはぐっと我慢です。
「はーっ、酷い目に遭いました。スイーツ店とは恐るべきところなのですね」
遅れてやってきたウルフェが汗をぬぐいながら着席します。
「ウルフェもやっとわかりましたか。スイーツ店の恐ろしさを」
「どこが恐ろしいんでございますかね、ぷぷぷー」
調子に乗っているネビュラちゃんは無視して、スイーツを注文することにします。
ですが……メニュー表を見ても、なにが書いてあるかがわかりません。
「お嬢様、このメニューは……『乙女の淡雪』『朝日の当たる小川』『王都の夜景』とはいったいなんなのでしょうか?」
「……」
「こちらの飲み物の『とーる』や『ぐらんで』とは何なのでしょうか? あと、おぷしょんとやらもありますが……」
「……」
「あれれ、こんなのもわからないでございますかぁ? お嬢様、ボクが代わりに注文するでございましょうか?」
「いいえ、大丈夫です」
注文を取りに来た店員が──ウルフェの顔を目をハートにしてガン見しながら尋ねてきます。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「……おまかせで」
「ぶっ!」
横でネビュラちゃんが噴き出してます。
……失礼な子ですね。
「ス、スイーツ店でおまかせ……ぷぷぷ」
「ウルフェ、あなたが頼んでください」
「はい、お嬢様。ではレディ、この店のおすすめはあるかな?」
「え、あ、はい。こちらの商品が──」
ウルフェがイケメンパワー全開で注文をこなしている間、涙目で笑いをこらえているネビュラちゃんを睨みつけます。
あとで罰ゲーム確定ですからね。覚えてなさい。
しばらくして、ようやくスイーツと飲み物が運ばれてきました。
「こちらが『乙女の淡雪』に紅茶のトールサイズ、こちらが『王都の夜景』にコーヒーのグランデとなっております」
ほほぅ、これが乙女の淡雪ですか。
白いチーズケーキですかね。なんでこんな変な名前をつけるのでしょうか。
「お嬢様、こちら本当の雪ではないですからね? ぷぷぷー」
「……」
ネビュラちゃんを無視して口に運んだスイーツは、実に甘い味がしました。
あぁ、そういえば前世では危険な魔法薬を使いすぎたせいで味覚がほぼ消失していましたからね。
「これで、次からもうおひとりで来れますかね?ぷぷぷ」
「お嬢様であれば学園できっとたくさんのお友達ができますよ! そのお友達と来れば良いのですよ!」
そうですね。
きっとできますよね。
私にも──お友達が。
もしできなかったら……仕方ありません。
そのときはアンデッドたちを引き連れてスイーツを食べに来るとしましょうかね。
そんなことを思いながら、私は残りのスイーツを口に運ぶのでした。
それでは、引き続きホーリーアンデッドをよろしくお願いしますm(_ _)m