12.招かれざる客
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「大変だー! 領主代行さまー!」
いつものようにアレクの特訓を見学していたとき、一人の中年男性が息急き切って剣爵邸へやってきました。彼はたしか……村長の息子のジミーだったでしょうか。
あ、ちなみに領主代行とはフローラのことです。
「どうしました、ジミー?」
ガーデニングをしていたフローラが額に吹き出す汗を拭いながら裏庭から姿を表します。ジミーは一瞬フローラに見惚れたあと、すぐに気を取り直して報告してきました。
「た、たいへんなことが起こりました、やつらが……やつらが来たのです!」
「やつら、とは?」
「な──難民です!」
なんだ、難民か。
私は話を聞いてがっかりしました。
どうせなら野盗が来ただの、魔物が出ただの、そういった物騒なお話の方が良かったですのに。
……あ、誤解なきように申し上げると、私は別に村人たちが死ぬことを望んでいません。むしろ最終的には全員傷一つなくするつもりですので。
「しかも、その難民どもは……獣人なのです」
「獣人、ですか」
「ええ、それが三家族も! 総勢10人は超えています!」
という感じで話が進んでいきますが、私は既に話の中身にほとんど興味を失っていました。隣でウルフェが獣人という単語に反応していましたが……。
そのときです。ジミーが聞き捨てならない言葉を口にしました。
「……それで、彼らは大怪我を負っていましてですね」
「なんですって!?」
大怪我!?
いま大怪我と言いましたか?
私が急に大声を上げたので、フローラとジミーは驚いてこちらを見ます。ですが今はそんなことはどうでもいいのです。
「大怪我とは、どのくらいの怪我なのですか? 命に関わるほどのものですか?」
そうであれば大幅な魔力増強が期待できます。なによりあの有頂天が……。
ジミーは私の剣幕に押されながらも、なんとか状況を思い出そうとしています。
「せ、正確にはわかりませんが……かなり血まみれでした」
「そんな大事なことをなぜ先に言わないのです!」
「わっ、す、すいませんユリィシア様!」
私はすぐに横のウルフェを見ました。彼も私のことを見返しています。
「ウルフェ、行きます!」
「はい、お嬢様!」
「姉さまっ!」
「待ってユリィシア! わたしが……」
アレクやフローラが呼び止めようとしますが、もちろん完全無視です。
フローラがたどり着く前に治療しなければなりません。こんな貴重な機会、フローラに奪われてなるものですか。
「急ぎますよ、ウルフェ。時間がないので抱えてください」
「わかりました。では失礼して──」
「遠慮はいりません、全速力でお願いします」
「さすがです……お嬢様」
走りながら、なぜかウルフェが私を褒めるようなことを口にしましたが、その意味はよくわかりません。そんなことより難民たちの怪我の具合が気がかりです。
待っていなさい、私の怪我人たち。
願わくば、かなりの大怪我でありますように。
◆
「たのむっ! 俺たちは魔獣に襲われて大怪我してるんだ!」
「ふん、そんなの信じられるかっ! あらかたどこかで盗っ人でもして追い立てられたんじゃないか?」
「違う! 見てくれこの傷を、どう見ても獣のものじゃないか!?」
「あんたら獣人だろう? 自分で傷付けたんじゃないか?」
「なっ……なんてことを言うんだ!」
現場にたどり着くと、斧や鍬などを手に持ったダリアン村長一行と、ボロボロの格好をした集団がなにやら言い争っていました。猫や犬などの耳を持っているのが見えますので、おそらく彼らが獣人の難民なのでしょう。
どれどれ、怪我の具合はどうでしょうか……。
「まぁ……!」
思わず声が出ます。
それくらい、難民たちは血まみれで大怪我をしていました。特に母親らしき女性が抱きかかえた小さな女の子は、ポタポタと血を落とすほどの大怪我です。
あぁ、これはいけません。思わずよだれが垂れてきます。
しかし時間に余裕はありません。フローラが来る前に治癒する必要があります。
事態は一刻を争います。言い争っている場合ではないのです。
私はじゅるりとよだれを飲み込むと、一歩前に踏み出します。
「ウルフェ、出ます。あなたは手出しは無用です」
「そんな、危険ですお嬢様! 彼らは気が立ってます。俺が一度落ち着かせてから──」
ウルフェに一度全員を打ち倒させるのも手なのですが、彼は強すぎるので簡単に制圧してしまうでしょう。それでは治療対象も大して増えず、時間が経過するだけ、ただの時間の無駄です。
「事態は一刻を争います。そんな暇はありません。黙って大人しくしててください」
「わ、わかりました」
アレクの訓練もそうですが、実力差がありすぎるのも考えものですね。手加減して怪我人が発生しないのですから。
さぁ、気を取り直して一気に治療してしまいましょう。
「双方、お待ちなさい!」
落ち着きなさい、とは言いません。もっと暴れて怪我をするのは望むところですので。
ところが双方は私の声を聞くと、争いをやめてこちらに視線を向けます。
「あ、ユリィシアお嬢様……」「エンデサイドの光……」「〝祈り姫″様だ!」「あぁ、領主代行様より先に〝尊いお方″がいらっしゃったぞ!」
なにやら聞いたことのない単語が聞こえますが……それより先に、獣人側と話をするのが先ですね。
「小さな、女の子? なぜこんなところに……」
「あなたが難民たちのリーダーですか? 私はこの領地エンデサイドの領主の娘、ユリィシアです」
私が名乗ると獣人たちは「あぁ、あの子が【 神聖乙女 】フローラ様のお子様……」「王都で獣人の剣闘士奴隷を救ったと噂の慈悲深き聖女フローラ様のご息女だ!」「ほら見てみろ、彼女が連れている従者は狼族の獣人じゃないか」「あぁ、噂は本当だったのね! きっとフローラ様なら私たちのことも受け入れてくれるわ」などと囁き合っています。
「これは失礼しました。ワシはこの一団でとりあえずリーダーを務めている熊人族のバルドといいますじゃ。元は近隣に住んでおりましたが……先日の大雨で住処が流されまして、しかも魔獣の群れに襲われて逃げ延びてまいりました。その際、獣人だろうと分け隔てなく癒されたと噂の聖女フローラ様を頼ってこちらまで参った次第ですじゃ」
「ふぅん」
どうやら彼らは王都あたりから流れ落ちてきた噂を元にわざわざこんな田舎までやってきたらしいです。
なるほど、今となってフローラの言っていたことが腑に落ちます。たしかに人前で簡単に治療してしまうと面倒なことになってしまうのですね。とはいえ、怪我人が来るのはウェルカムなのですが。
「ユリィシアお嬢様、こいつらは危険な獣人です。出てきては危ない。ここはわしらに任せてください」
「獣人が危険というのであれば、私と共にいるウルフェも危険だということですか?」
「あ、いや、その……」
ダリアン村長がなにやら言ってきたので、適当なことを言って黙らせます。
さて、ここで私が乗り越えなければならない関門は、いかに噂を広げない形で彼らを治療するか、ということです。
フローラが言っていたように、不用意に治癒をしてしまうと噂になってあとあと面倒なことになります。ですが、大怪我を負ったものが10人以上などという素晴らしい機会をそうそう逃すわけにはいきません。
であれば──あとできることといえば、彼らを口止めするしかありません。
しかしどうやって彼らに口止めを約束させれば良いのでしょうか?
ダリアンたちは領地の領民です。領主の言うことには従うでしょう。一方。バルドたち獣人は違います。彼ら領民ではないので──あ、いいことを思いつきました。
そうです、彼らも領民にしてしまえば良いのです。
ええ、これは実に素晴らしい解決策ではありませんか。
「ダリアン村長、彼らは私が今からすぐに治療します」
「なっ!」「えっ!?」「はっ?!」
ダリアンや獣人たちが異口同音に変な声を上げますが、いちいち相手してると時間の無駄なので無視です。
「なにを驚いているのです? 特にそこの女の子には一刻も早い治療が必要ではないですか?」
早くしないとフローラが来て治癒してしまいます。そうすると──。
「手遅れに、なりますよ?」
「うっ!」「はっ!」「うぇっ!」
ですがダリアンたちも簡単には引き下がりません。
「し、しかし彼らは出生不詳の難民ですよ!?」
「ではこうしましょう。エンデサイドは、彼らを領民として受け入れます」
「はっ!?」「へっ?!」「ほっ?!」
驚いた表情のバルドら獣人たち。なにを驚いているのでしょうか? そしてダリアンたちも簡単に頷いてくれません。難しそうな顔をして下を向いています。
あぁもう、面倒ですね。こうなったら強権発動です。
「良いですか、みなさん。バルドたちは大怪我を負ってこの地にやって来ました。どうして──傷付き救いを求める人を拒めましょうか?」
「……」
「ですので、私は彼らを領民として受け入れます。そこに人族か獣人なのかなど関係ありません!」
「おおっ!」「ああっ!」「なんとっ!」
「そして領主代行の子である私ユリィシアは、今ここであなたがた領民に一つの盟約を提示します。私、ユリィシアは──ここに在る限り、あなたたち領民を癒すことを誓いましょう!」
私がそう宣言すると、全員が一斉に膝をつきました。
……え? なんででしょうか?
なぜか横のウルフェまで、涙を流しながら頭を下げています。うーん、意味がわかりません。とりあえず話を進めることにします。
「そのかわり、これから起こることは皆様の心の中に留めて、決して口外しないでください。お約束できますか?」
「「「はいっ!」」」
なんだか皆の反応が気持ち悪いですが……とはいえこれで口止めは成功です。
ついでに、どうせバレてしまうならと、今後は堂々と治癒できるよう根回しもしてしまいました。これで完璧です。フローラ対策は……あとで考えましょうかね。
「今ここに私と皆様の間で一つの盟約が成されました。盟約に従い、私は──あなたがたを癒しましょう」
「おお!」「まあ!」「ああ……!」
領民たちが何やら反応していて、獣人などはぼろぼろと涙を流していますが、そんなことはどうでも良いことです。
下ごしらえが整ったところで、今度は【 治癒の右手 】に魔力を込めてゆきます。見た限り、獣人たちに命の危機がありそうな者はいなさそうです。この程度の怪我であれば【 祝福の唇 】は必要ないでしょう。いちいち全員にキスして回るのも面倒ですからね。
あぁ、久しぶりの大怪我の治癒です。腕が鳴ります。
これを成したあと、一体どれだけ魔力が増加するのでしょうか。また前回のように絶頂感が味わえるのでしょうか。
……想像しただけで生唾を飲み込んでしまいます。
さぁ、ではさっそくやるとしますかね。まずはこの子からにしましょうか。
私は母親に抱かれたまま息の荒い少女に右手を当てます。
「治癒魔法発動 ──『治療』」
次の瞬間、少女の全身が眩しい光に包まれました──。
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