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10.アルベルト領地エンデサイド

ここからエピソード2となります!

 ここは王都から半日ほど馬車に乗ったところに、アルベルト剣爵の領地エンデサイドはあります。

 世帯数はわずか20ほどなので、領地というよりは村なのですが……剣爵という最下層の貴族の領地など、しょせんこの程度だったりします。


 そして私は、この領地エンデサイドで当面の間を過ごすことになりました。もちろんそれには理由があります。


 ウルフェを回復させた一件のあと、私は真剣な顔をしたフローラに言われました。


「ねぇユリィシア。あなたはね、四肢を回復させるような強大な奇跡を行使してしまったわ。そう、してしまったの」

「は、はぁ……」

「でもそれはね、普通では到底考えられないことなの。四肢を復元する奇跡なんて、今の世の中でも行使できる人はほとんどいないのよ」


 どうやら私はやり過ぎてしまったようです。こんなに困った顔のフローラは初めて見ました。


「……あなたはとんでもなく聖母神様に愛されてるのね」

「そう、なんですかね?」


 こっちは全く愛してなどいないのですがね。

 片思いの神様、可哀想に。


「ええ、もちろんよ。だけどね、あんな奇跡を行使するのは今後はなるべく控えるようにして欲しいのよ。そうしないと、あなた……目立ちすぎてしまうから」

「目立つ?」

「ええ。あんな奇跡をほいほい起こしてしまったら、あなたすぐに聖女認定されてしまうわよ?」


 聖女認定──それはいけません。

 なにせ私は生まれ持っての死霊術師。その天敵たる聖女になるなど、到底受け入れられません。

 なにより聖女になってしまったら、死霊術の研究などできなくなってしまいます。


「それは……困ります」

「でしょう? わたしもあなたを、あんな辛気臭い教会ところなんかに入れたくないわ」


 どうやらフローラも私が聖女になるのは反対なようです。この一点において彼女は完全に私の味方です。

 もっともフローラは私に『すてきなろまんす』とやらを経験してもらうことが夢だと公言してるので、残念ながらいつかは袂を別つ必要があるのですが……。


「とりあえずあの場はわたしが奇跡を発動させたように見せかけて誤魔化したわ。あとはカインがその場を収めてくれたのよ、感謝なさい?」

「……ありがとうございます、お母様」


 なるほど、たしかに不用意でした。どうやら私は世間に疎いのだと自覚する必要があるみたいです。

 あの絶頂けいけんはなかなか捨て難いのですが……仕方ありませんね。今後は人前であのような大魔法──魔術を披露するのは極力控えるようにしましょう。


「だからほとぼりが冷めるまで、わたしたちは領地に行くことにするわね」

「領地に、ですか?」

「ええ、あそこならあなたの力のことを隠すことが出来るからね」


 そう言われてはもはや選択肢はありません。私は素直に従うことにしました。


「はい。わかりましたわ、お母様」


 こうして私は、しばらくの間領地に引きこもることになりました。

 もっとも、平日は王都で単身赴任生活となってしまうカインは大変落ち込んでいたのですが……ザマーミロです。




 ◆




 こうして始まった領地エンデサイドでの生活ですが、色々と不自由なことがあります。その一つの例が、『治癒対象の不在』です。

 ウルフェの四肢の復元という思いがけない出来事たなぼたの結果、傷ついた相手を治癒したほうが魔力増強に効果が高いことが分かりました。なるほど、これまで無傷の弟にどれだけ使っても魔力が増えなかったわけです。


 ですが、ここは田舎の領地むらです。怪我人なんて早々現れたりはしません。

 仕方なくエンデサイド村の村長ダリアンに怪我人の確保をお願いすることにします。あ、もちろんフローラには許可を取ってませんが。


「ダリアン村長、もしお身体が悪い方がいらっしゃったら、こっそりこの私に教えていただけませんか? 私が治療しますので」

「おやまぁ、領主様のお嬢様はなんとお優しいのか。さすがは元聖女さまの娘ですね。ふぉふぉふぉ」


 ダリアンは初老の好々爺なのですが、残念ながら私の言ってることが理解できないらしく、ニコニコと微笑むだけです。どうやら痴呆が始まっているみたいですね。

 仕方ありません。これ以上の会話は時間的にも効果的にも無意味で無駄なので断念することにします。


 あぁ、どこかから怪我人そざいでも現れてくれないかしら。

 このままでは私の才能は干からびてしまいますわ。



 問題は他にもありました。

 それは──ウルフェとアレクの不仲です。


「姉さまにちかよるな!」

「アレクセイ様……俺はお嬢様を守るために側仕えしています。だから受け入れてはもらえないだろうか?」

「だめだっ! 姉さまは、ぼくがまもるんだっ!」


 ……というより、アレクが一方的にウルフェに敵愾心をむき出しにしています。どうしてこうなってしまったのでしょうか?


「ねぇアレクセイ? ウルフェにはママが制約の枷の奇跡を施してるから、彼がユリィシアに悪いことをすることはないのよ」

「そんなのかんけいないっ! こんなやつ、しんよーできないよ!」


 フローラの説得ですら受け入れません。これは重症です。

 二人の仲があまり悪いと、ウルフェが去ってしまうかもしれません。こんなつまらないことで貴重なアンデッドのサンプルを失うわけにはいきません。


 ……仕方ありませんね。面倒ですが、私が説得することにしましょう。


「アレク、少しお話ししても良いですか?」

「なんだよっ!」

「今のあなたでは、私を守ることなど無理です」

「っ!?」


 耳元でウルフェが「あの、お嬢様、そんなにどストレートに言わなくても……」などと囁いてきますが無視です。

 なにせ私は効率厨。非効率なことなど大嫌いなのです。

 全ては真っ直ぐ、効率的に。そして最高の結果を導き出すのです。涙目のアレクに私は畳み掛けます。


「そもそも私の護衛はウルフェです。あなたの出る幕はありません」

「なんで……」

「ん? なんですアレク?」

「なんでぼくじゃなくてこいつなんだよ!」

「それは、ウルフェがアレクより強いからです」

「あのー、お嬢様? ですからお言葉が……」

「でも、でも! こいつパパよりよわそうじゃん! こんなやつ、ぜったいやくにたたないよっ?!」


 おやおや、どうやらアレクはウルフェの強さを知らないみたいです。

 仕方がありません。言より証拠、実際に見せることにしましょう。たまたま週末帰省していたカインに声をかけます。


「お父様、ウルフェと模擬戦をやってもらえませんか?」

「へ? なんで俺が模擬戦を……でもまぁいいや、一度ウルフェの実力も確認してみたかったしな」

「よろしくお願いします、旦那様」


 こうして始まった二人の模擬戦は、実に凄まじいものでした。

 私は剣のことはさっぱりわかりませんが、二人がかなりの実力の持ち主であることは素人目にも一目瞭然です。


 ウルフェも元とはいえ二つ名を持つ剣闘士です。左手に剣を持ち果敢に攻めます。一方のカインはさすがは英雄と呼ばれるだけあって、華麗な剣さばきでウルフェの攻撃をいなしています。

 ですがウルフェの動きはなんとなくぎこちないです。どうやら復元した右腕をうまく使えてないようです。卓越した剣術を持つカインに次第に追い込まれていきます。


 ……結局、軍配はカインに上がりました。やはり私を討ち倒した実力は本物なのです。


「君、やるね。久しぶりに歯ごたえのある相手と模擬戦したよ」

「ありがとうございます、旦那様。あなたほどの剣士とは闘技場でも出会ったことがありません」

「ははっ、ありがとう。褒め言葉として受け取っておくよ。でもウルフェも右手を鍛えたら俺といい勝負できるようになると思うけどな」

「はい。俺はこの右手を──お嬢様を守る盾として使うつもりです」

「盾か、いいね。君になら安心してユリィの護衛を任せられるよ。俺も時間があれば君の相手をするから、ぜひ訓練に励んでくれ」

「はい、わかりました」


 そんな二人の様子を口をあんぐりと開けて眺めていたアレク。どうやらちゃんとウルフェの実力を把握できたみたいです。


「アレク、理解できましたか?」

「……うん」

「今後はせめてウルフェとまともに剣を合わせることができるようになるまでは、身の程知らずな発言は控えてくださいね」

「お嬢様! ですからお言葉が……」

「……わかった、りました」


 どうやら納得してくれたようです。これだけ言えば大人しくなってくれるでしょう。

 ところがアレクは俯いたまま何か考え込んだあと、ガバッと顔を上げてウルフェの方に向かっていきました。おやおや、まだなにか言うつもりでしょうか?


「ウルフェ!」

「なんでしょうか、アレクセイ様」

「お、おねがいがある……ます! ぼくを、きたえてもらえますか!」


 なんと、あれほど嫌っていたウルフェに師事をしようというのです。どうやらカインとの模擬戦を見て何か感じるものがあったみたいですね。


 そのときです──私は素晴らしいアイデアを閃きました。


 アレクの希望通りに二人が激しい訓練をして、その結果ケガでもしてくれれば、私は念願の治癒魔法の実地訓練をできます。

 二人の仲も取り持って、魔力も鍛えられる──これって一石二鳥ではありませんかね?


「ウルフェ、私からもお願いします。アレクを本気で鍛えてください」

「えっ? よ、よろしいのですか?」

「ええ、たくさん怪我するように……遠慮なくお願いしますね」

「……なるほど、お嬢様はアレクセイ様の才能を見越して、本気で鍛えよとおっしゃるのですね」


 才能についてはどうでもいいのです。とにかく毎回怪我をして欲しいのです。願わくば、手足を切断するくらいの……。

 ですがいちいち訂正するのが面倒なので、適当に頷いておきます。


「お嬢様のお気持ちはわかりました。それではこのウルフェ、本気でアレクセイ様を鍛えさせて頂きます」

「ええ、くれぐれも全力でお願いしますね」


 あぁ、よかったわ。

 これで一気に二つも問題を解決できたんだもの。


「姉さま! もしウルフェよりつよくなったら、ぼくが姉さまのごえいになれる?」

「まぁ……もしそんな日が来るならお願いしますね」

「やくそくしたからねっ!」


 なんだか機嫌良さげなアレク。きっとチャンバラ相手が欲しかったのでしょう。

 でもかく言う私も、実地トレーニングの目処がついてちょっぴりご機嫌です。


 さぁ、ふたりとも。遠慮なくバンバン怪我して頂戴ね。


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