懐かしい男の子
屋敷に帰って思い出した。
毎晩寝る前に日記を書く私が今日一日を振り返っている時だ。
思い出した。あの優しい赤い瞳。心を奪う、持ち主をぐずぐずに溶かすあの魔の魅力を持つ宝石と同じ色。王家の宝玉。
私は知っている。
_____本当の名前はベルじゃない。
_____エイベル。
______ああ。覚えている。
ただ一人。最期まで優しかった。私の無実を信じてくれてたかなんかわからない。それでも私を見る目を変えなかった。
彼の瞳は変わらなかった。
ずっとずっと優しい赤だった。
鼻の奥がツンとした。
瞳の奥が熱くなる。
薄く張った膜が私の視界を遮る。
もう駄目だ。
私はその日、日記に“ベル”との出会いだけを書いた。
事細かに、その美しさと前世と。
気づいたら彼のことでノ_トが半分ほど埋まっていた。
自分の無意識の行動に思わず心の中で苦笑した。
最初に日記を書こうと思ったのはいつだったか。
理由は覚えているのだけどいつからだったかしっかりとは覚えていない。
その理由は単純なことだ。
何の捻りもない、きっかけとも言えないかもしれない。
ただ、前世でも書いていたからだ。
毎日寝る前に一日の出来事を思い出すのが好きだった。
楽しかった。
学園でのたくさんの出来事、婚約者のヨハンのことを考えるだけで楽しかった。
それが楽しくなくなったのはいつからだったか。
今世で、日記を書くようになってから、いつも私が書くのはヨハンのことばかりだった。
今までの日記をパラパラと見返してみる。
どこも行儀よく並んだ字。
その中身は大半はヨハンのことだ。
しかし、そこだけ、ベルのページだけは、それだけは少し違うように見えた。
(やけに黒いなぁ。)
インクをつけすぎて字が太ったか。
いつもより小さな字で書いてしまったのか。
なんだか少し気恥しかった。
その日はそのまま日記を閉じてベッドに入った。