ちょっとしたいざこざ
先週分がこれです。もう一話は今日、遅くても明日には出します。
「帰れ! 仕事の邪魔だ!」
「ですから、あの~」
「これ以上ここにいるなら牢屋に連れ込むぞ!」
「「「…」」」
次の日になり僕はユウとロイド、メアの4人で王城にやってきた。メンバーは魔族一人いたら少しは上手くいくかなという理由でメアを連れていくことになり、異世界人が一緒に行けばもしもの時の解決策が思いつきやすそうだという安着な理由で、僕とロイドは便乗してきたのだ。
それで行ったまではよかったんだがどうもこの門番二人――年配の人と二十歳くらいの金髪イケメン――、ユウの言っていることが理解できてないみたいだ。まあ、僕も門番の立場なら意味わかんないと思うよ。いきなり変な人が来て「俺は転生者だ。知り合いに会いたいから中に入れてくれ」と言っているんだから。いや、間違ってはないけどさ、もうちょっと付け加えたほうがよいだろ。会いたい人の名前を出すとかさ…。仕方ない、僕が聞いてみるか。
「あの~、ここにアルスさんがいると聞いたんですけど、お会いできないでしょうか?」
「!」
イケメンの動きが一瞬固まる。………あれ? 間違えた?
もしかして、いない? もしくは何らかの理由で知っていることに問題があった? やばっ、どうしよ。
「もう堪忍できん! 即刻成敗してやる!」
年配の方が剣を抜いた。イケメンは一瞬驚いたが、その後やれやれという感じを出しながら剣を抜いた。。………お前、ほんとは穏便に済ませたいんだろ。なら止めようぜ、な?
「(大人しく帰ってくれたらこんなことにならなかったのに…。ああ、殺してしまったらごめんね。最近加減が効かないんだ」
前言撤回。ただ単に僕らを阿呆だと思っただけだった。まあ、いきなり魔族の偉いさんが集まる城にこんなことしてくるやつは馬鹿だろうけどさ。やめてくれよ、あまり大事にしたくな……………いや、これでいいか。
「殺さず戦力を削ぐ。いいね?」
「いいんですか?」
「…正当防衛だ、気にするな」
僕らも構えた。ステータス上負ける訳ないし、どうやら相手が慢心しているんだから落ち着いていれば問題ない。さっさとやっちまおう。
「数的有利だけどいいのか? そっちが言えばタイマンでするぞ?」
「ふん、結構だ」
「それなら遠慮なく」
そう言って僕はドラリオン(槍)を掲げた。槍の先端に光が集まり反射して光る。
「セイントフラッシュ!」
「「うわっ!」」
二人は目を閉じて手をかざす。隙としては大きすぎる。
「じゃ、任せたよ」
「…疾っ!」
僕は槍をなおす。ここからはユウの仕事だ。あくまで僕らは手伝いしかしない。これはユウの問題なのだから。みんなが構えた理由は単に緊張を走らせるためだ。それ以上の意味はない。
目を隠した瞬間に飛び出したユウはまず近くにいた年配に木刀で殴りかかった。
バコン ドサッ
首を狙った一撃は相手にクリーンヒットし、一撃で倒れた。その後もう一人のイケメンをやろうとしたところで事件は起こる。
「疾っ!」
「!」
いつの間にかユウの背後をとっていたイケメンの剣が襲っていた。それを間一髪で避ける。
気配遮断なんてスキルなかったんだけど、どうしてユウは後ろを取られたんだ? ギリギリだったことを見るに狙ってやったわけではなさそうだし。
そして内心、ユウも焦っていた。
(警戒は怠らなかった。慢心もしていなかった。ただ、急に消えた…。どういうスキルなんだ?)
そうこうしているうちにもイケメンは攻撃してくる。それをかわしていくユウ。
(わかんないことがあってもやることはいつもと同じだ。落ち着いて、決める!)
イケメンの剣に自分の剣を当てて防御する。何度振られても全て受け止める。その動作が何回も続いた。しびれを切らしたイケメンは
「…疾頭突き」
無茶な攻撃に出てしまう。突きの一撃を最小限の力で反らし、できた隙を逃さず斬る。ただ、次の瞬間には真後ろにいた。
「…流石にわかるっての」
相手の柄を剣で殴る。イケメンは衝撃で剣が手から離れる。次は逃さない!
「…はあ!」
まっすぐ振り下ろした。綺麗にイケメンの肩を強打する。
「かはっ!」
痛みでうずくまるイケメン。どうやら耐久面は弱いようだ。イケメンは立ち上がろうとするがさせまいと剣を向けるユウ。「動けばしぬ」って、そう言っているような威圧を受けイケメンは、両手を上げた。
「まいった。俺の負けだ」
一応縄で腕を縛り、話を聞く。
「何か問題があったのか? アルスさんのことを訊くのは」
「「…」」
頑なに口を閉ざす二人。頼むよ、拷問は苦手なんだ…。早めに頼むって…。
「…アルスが無理ならテミスでもいい。どちらかはいないのか?」
「「!」」
? ここで反応を見せたな。嫌な予感しかしねえな…。なんか予想できたけど。マップの確認は………お、やっぱりいた。
「場所の特定が出来た。とんでいくぞ」
「いいの、それで?」
「…面倒」
「やっぱりそうなるのか…」
いやロイド。僕だってやりたくてしているんじゃない。こっちの方が楽だからそうしたまでだ。
「それが問題なんだろ…」
思ってたことに対する返答が来た。君はエスパーか? そうなのか?
そんなことは置いといて転移するためみんなを集める。その動きに違和感を覚えたのか、
「ま、待ってくれ!」
イケメンに止められた。
「君達の中にアルスの知り合いがいるんだってな。名前を教えてもらっていいか?」
名前を訊かれた。どうして名前を訊くんだろ? 本人じゃなきゃ判断できないだろうに…。
「…ノトス・アルバドロだ」
「ちょ、おい!」
名前を明かすのは得策じゃないだろ。指名手配にでもされたら大問題だぞ。これじゃ、イケメンの思うつぼ――
「!」
いや、なんであんたも驚いてんだよ! もう訳わかんないよ!
「………それは、本当なのか?」
ん? それはどういう――
「…ああ、本当さ」
「…」
急に黙るイケメン。なんか、二人の空間になりつつあるよ…。
「………わかった。許可を出そう。私が案内する」
許可が出た。? 一兵人がそんな簡単に出していいのか? もしかして偉い人?
「! ちょ、いいんですか!?」
そして揉めている。
「ああ。たぶん、これは必要なことなんだろう。ならやるべきだ」
「………あなたがそういうなら」
簡単に諦めたな、年配さん。このイケメンはそこまで偉い人なのか?
「それでいいか? 穏便に済ませたいんだろ?」
ちょっとイラっとくる。「これ以上の譲歩はしないぞ?」みたいな言い草だし、イケメンだし。はっ倒してやりたい。(もうやった後だが気づいていない)だがこれはいい方だ。元々その予定だったんだから。
「わかった、頼むよ」
二人の縄を解いてやった。すると二人はすぐに立ち上がり、
「一応、ガルドには伝えといてくれ。知らないとか言われたら厄介だ」
「了解です!」
年配さんは中に走っていった。仕事熱心だな~。実はいい人なのか?そうとは限らないけど。
「じゃ、いくぞ」
イケメンは一人歩いて行った。僕らも後から続いていく。だが、二、三歩進んだあたりで振り返ってきた。
「自己紹介まだだったな。俺はカイン、よろしくな」
これが現世での冒険者最強との出会いだった。




