優しくされると嬉しくなる
……最近、遅刻常習犯の気持ちが少しわかりました。いや、知らなくていいことなんだけどさ。
昨日までずっと模試の勉強だったんですよ…。頑張ってしたのに結局そこまで点はよくはなかった…。僕の努力と浪費した時間はいったい…。
「あ、えーっと………これはどういうことなんでしょうか」
僕は今、明らかに豪勢な部屋にいる。金とかそういうのではなく、品のある部屋にいる。僕はその部屋の椅子に座っている、のだが…………右腕には巨乳のお姉さんが、対面にはメアとノインがいてお姉さんに睨んでいる。お姉さんはどこ吹く風って感じで僕に抱き着いている。あ、ちょ、強く抱きしめないで! 感触が! あ、あざっす!
「 Σ(ロ゜ ノ)ビクッ!」
急に悪寒を感じた。何処からなのか辺りを見渡すと、二人の視線が氷点下の如く突き刺さった。僕は慌ててお姉さんを離そうとするが離れない。ちょ、やめ、力つよ! そうこうしていると二人の視線がさらに強くなる。もう、Gを見てるのと大差ないくらいに。僕は天を仰いだ。…………どうしてこうなった。
「エイ」
「「「目が、目があああああぁぁぁぁぁぁ!!」」」
アーレウスの洞窟(?)から転移した僕らが最初に見たものは大きな浴槽と、裸のニーナだった。
僕ら(男三人)は、女性三人からの目つぶしを受けて絶賛のたうち回り中である。裸を見た罰だろう。まさかラノベとかでよくあるやつを受けることになろうとは。………世界とは不条理に満ち溢れている。理不尽だ。不可抗力だ。……まあ、それはこの状況下においては通じないんだろうけど。
痛みが引いたのを感じ僕は目を開けようとした。まあ、もちろん――
「まだだめです!」
「痛っっってええぇぇえ!!」
目つぶしの餌食である。……わかってたはずなのになあ。
「はじめまして。私の名はアテンです。人の子よ、よろしくな」
「「「「「………」」」」」
「……あ、僕はアキトです。こちらこそよろしくお願いします。アテン様」
ひと段落落ち着きを取り戻した僕らはメイド(?)に連れられ応接室のような、対面に座りあう席に着いて待つように言われた。それから幾ばくかの時間が過ぎた時、アテン様が現れた。女性である。少しほんわかした優しい感じの女性だ。控えめに言って可愛い。
それで挨拶されたのははいいのだが、その後アテン様の後ろから突如、ピカーってまばゆい光があらわれ、それを感じた瞬間、僕らは膝をついていた。
これは、神が保有するオーラ――神気とでも呼ぼうか――である。神の威圧だったりそういうのが凝縮された光で、人が直視すれば直感で諭されるのである。「この人には勝てない…」と。僕はなんとか挨拶を返せたが、他は威圧で震えていた。……ってメアは無事のようだ。何でだ? あとニーナは他よりは多少マシだった。まあ、少し震えているが。僕らより前に来てるからその時に耐性でもつけたのかな?
「アテンでいいよ。それより………どうした? 体調でも悪いのか?」
「その神気? ですか、ピカーってアテン様から出ている光。それを抑えてはくれないでしょうか? 人にはその力は強すぎるようです」
「えっ……あ、ああ! そういえば出しっぱなしだったね、失敬」
そう言って顔を上に向け反りながら、光が徐々に止んでいく。……なんか、アテン様が堕天しているように見える。後ろに羽が見えそうだ。
みんなが落ち着きを取り戻したので本題に入ろうと思う。
「ここ一体どこなのでしょうか。いまいちわからないのですが」
「そうだな………君たちの言う神界と思ってくれて構わない」
神界。ついにそんなところにまで来てしまったのか。まだ異世界に来てそんなに日数は経ってないのにな。今更ながら小ボスなしで一気に中ボスにいった気がするんだよな。さっきなんて大ボスな気がするんだが…。僕の人生ストーリ上ではあれが小ボスなのかね? 僕の人生は波乱万丈だな! ………笑えね。
「てことは、ここにはいろんな神がいらっしゃるということですか?」
「いや、ここには私しか神はおらんよ。簡単に言えば…………私の家、かな」
「この、世界全部?」
「ああ」
「…」
どうやら神は想像を超えて凄いらしい。
神には一人(?)につき一つ、空間を保持しているらしい。そこを自分らで好きなように変えることができるという。………あれかな? 町育成ゲームと同じ感じか?
「他の神のところへは自由に行き来できたりするんですか?」
「いくつか制約あるけど、それを守れば行けるよ」
どうやら神は意外とフリーダムのようだ。
「ちなみにアテン様は何を司る神なんですか? 近しい名の神は聞いたことがあるのですが、アテンという名は聞いたことが無くて…」
「………ちなみに近しい名の神というのは」
「アモン神です。アメン、というのかな。確か、豊穣の神だったと思います」
「ああ、あれか…」
なんか、急に落ち込み始めた。地雷、踏んだ?
「アメンは神話でいうとどこの神話だったか覚えているかい?」
「エジプト神話、ですよね?」
「そうだ。そこの太陽神は知っての通りラーだ。アモン=ラーとも呼ばれる。何時だったかは忘れたが唯一神として崇められていた。だが、ある地域、そしてある時期では別の神を唯一神として崇めていたんだ。それが私、アテンだ」
意外と真剣な表情で存在を語るアテン神。一時期は唯一神、か。一体その時に何があったんだろうか…。
「まあ、そんな私も慈愛の神だとか言われているがな。ただ、私の存在を知っているものは少ない。同じエジプト神話の神なのに…。私はそこまでちやほやされたいわけではないのだが、誰にも相手されないのもそれはそれで寂しいものだよ…」
場の空気が重くなった。なんか、可哀そうになってしまった。僕も知らなかったわけだし。申し訳なさが募る。ここは…。
「いいじゃないですか、知られなくたって」
「「「「「「「!!」」」」」」」
横にいた6人が一斉にビクついた。「何言ってんの!?」て感じで止めろと視線で促してくる。アテン様はいきなりそんなことを、こんなタイミングで言ったことにビックリされたようだ。それでもかまわず続ける。
「誰にだって知らないことはあります。つまり、誰にだって自分は知っていて他人が知らないことはあります。情報は自分にとって有益なものを人は求めます。なので、知らないことがあるのは当然なのです」
アテン様が下を向いた。肩の力を抜いてがっくりしている。みんなはオロオロし出した。
「でも――」
これだけは言える。
「誰も知らないことなんてものはこの世に存在しません。知っている人がわずか少数であっても、知られていることには変わりありません。量より質という言葉があります。つまりはそういうことなのです。それでいいのではありませんか? 現に私たちはあなたのことを知りました」
顔を上げて驚く神。少し光る雫が見えたが見ないことにした。
「それで、いいのではありませんか?」
大事なので二回言います。これは譲れない。
静寂が場を覆う。そして、
「………そう、ですね」
小さくだが、確かに聞こえた。
「でしょ?」
「はい!」
これで大丈夫、かな? 笑顔だし。
太陽神だけあって、笑顔は眩しかった。
そんなこんながあり、アテン神と絆を深めることが出来た。それは、よかったのだが………
「エヘヘ」
……懐かれてしまった。どうしてこうなった…。
神話関係の内容がこれからも入ってくると思います。まあ、できるだけ掘り下げていけたらいいなと思います。…嫌だったら言ってね。たぶんこの方針でいくだろうけど。
今回のキャラでもいたアテン神ですが、よくわからない神だとか書かれているものもありました。はたしてこれが本当にあっているのかは、エジプト神に関してあまり詳しくないので何とも言えません。まあ、僕はこれが正しいと思って書いてはいますが。間違いとかあれば教えていただけると幸いです。




