だけど…
あれから一年が経った。
あちこちを回ることは止めずに冒険者として荒稼ぎしながら過ごしていた。基本の魔法、剣術、体術は上限に達し、戦闘経験もそれなりにつけたので負けることは無くなった。自分を守るだけの力は得ることができ、安全な旅をしている。
冒険者として過ごしていることもあり他人と一緒にいる時間は少なからずあるのが普通だが、俺は誰とも接することがなかった。俺がそのように振舞ってることもあるが、最近は俺を畏怖するような目で見てくるのが増えてきているからそれも関係しているのだろう。ただ、勿論ながら依頼はしっかりこなしている。まあ、金がないと生きていけないのは事実だからな。
ただ、中にはパーティーに入れてほしいと言うやつや、弟子になりたいと志願してくるやつ、更には求婚してくる人もいた。そういう人らは丁重に断らしてもらっている。流石に乱暴に追い払うのは悪いと思うし、自分の考えを相手に押し付けるのもおかしいしな。………それよりも俺のどこがいいんだろうか。俺だったらこんな怪しいやつとお近づきには絶対なりたくないが。
そんなこんなで俺も少しは有名になった。…正直言ってあまり嬉しくはない。相手が嫌いなやつらだからな。
………孤高の勇者なんて不名誉な二つ名まで得てしまったが、俺は気にしない。…なんか、厨二っぽいが気にしない。
そんなある日、俺は一人の子供と出会った。幼稚園児くらいの女性だ。…ただ、その子には犬耳がついていた。
食べ物を買いに街を歩いている店と店の間の、いわゆる裏路地から複数の男性の声と女性の声が聞こえたのだ。裏路地、男性数名、女性。………うん、明らかに強姦だよね。
日本でそういうのだけは知っていたので行ってみようと思った。…あまりいつもなら気にならなかったのだが、この時は何故か行かなければならない使命感に見舞われた。
それで声のした方へ行くと複数の男性が一人の子供を縛って捕らえていた。俺でも流石にこれはいけないと思いその子を助けた。話し合いで解決できず、相手から来たので返り討ちにしたらすぐさま逃げて行った、捨てセリフを残して。
「お、覚えてやがれ!」
………ダセェ、と思ったが突っ込まないでおいた。
その子供だが、縄を解いていると突然襲ってきたのだ。まあ、奴隷にされそうだったのだし怖い思いをしたのだろう。自分の周りが全員敵と錯覚しても仕方ないだろう。ただ、それとおとなしく攻撃を受けるのとは訳が違う。少し悪いが、押さえつけさせてもらった。もちろん関節技で動けなくしている。
…俺だったらこんな場合こう聞く。
「…お前はこれからどうしたい?」
自主性を重んじてみた。
「…死にたい。」
…そして、この回答には驚いた。昔、死ぬ前の俺と同じだった。
こういう時どう返したらいい。…正直あの時はほっといてほしかった。誰かと一緒にいたくなかった。でも…
「逃げても何にもなんないぞ。」
「…私には何もないもん。元からないものがなくなったって何も問題ないじゃない。」
「そうだけど、生きていて損はないぞ。」
「…どうやって?金も服も力もないのに、一体どうやって!?」
「…ならこれでいいか?」
袋を渡す。
「…! これって!」
「こんなけあれば二年は暮らせるだろ。後は自分で稼げばなんとかなるだろ。」
「…なんで? 何もない私にこんなことするの?」
「…自分の我儘さ。気にするな。」
「………ほんとにいいの?」
「ああ。」
「…」
「…駄目か?」
「ううん。…あ、あの、その………ありがとう、助けてくれて! 大事にするよ!」
そう言って満面の笑みを浮かべたのだ。
俺はあの時死んじゃったけど、命があるなら生きてた方がいいと思った。…死ぬとき凄い公開したからな。あれを味わってほしくなかったのだ。
…クソッ。柄にもなくあんなことをしてしまった。
自分のやったことに後悔しているのだった。
人嫌いな俺ではあるが人類が滅亡すればいいのにとかは思わない。ただ、個人的に嫌いなだけ。だから人付き合いをなくすだけで問題はなかった。だけど、あの子を助けてしまった。…情が沸いただけだろう。気にしないでおこう。
この時には気づくことが出来なかった。
それから三日が経った。そろそろこの街から出ようと考え、荷物を片付け、必要なものを買おうとしてた(また買い物かよ…)ところ、ふと彼女のことが気になったので道で会った人に訊いてみた。
「…ああ、その子ならさっき見たよ。でも、さっきの馬車に乗せられていた―」
その時にはもう俺は走っていた。
どうやら奴隷として捕らえられたようだ。迂闊だった。金を渡したからって生きれるわけでもなかったのに。クソッ、さっき見た馬車はどっち行った!?
「おい!さっき通った馬車はどっち行った!」
「は? ちょ、なに―」
「早く!」
「は、はい!門を出ていきました!」
「あんがとな!」
「………何だったんだ今の。」
この街の奴隷商で売らなかったのが気になるがラッキーと受け止めておく。
…ん?この先か?
違和感を感じたのは森の中である。俺はたまたまスキルの〈第六感〉を得ている。これはその名の通り第六感を習得、強化されるスキルだ。まだレベルは2だが違和感とかはだいたい当たるのだ。…当たらないとスキルの意味ないか。…よく見れば馬車も先のところに止めてあったのでここだろう。
森の中であるのは間違いないとして、なんで森の中に?
奴隷商人なら森に入らず他の道を通るはずなのだ。…わからん。
森の中を走っていく。
…てかなんでこんな必死なんだ? 一度しか会ったことない子をどうして?…いや、よそう。そんなこと考えてる暇じゃない。
開けたところに出た。半径10メートルくらいの大きさのところだ。そこに―
「おい!大丈夫か!?」
檻に入れられ、外から魔物に襲われている彼女がいた。
見たところ大きなけがはまだなさそうだ。だが、数が多すぎる。百、いや千はこえるぞ。多すぎないか!?
俺のスキル上、多人数相手での戦いに適さないのだ。しかもこの魔物、ブラックハウンドは普通2~3人で一匹を狩る必要があるくらい強いのだ。しかも4~5匹の集団で行動するため狩りづらいのだ。俺の場合、一人で一匹ぐらいならどうにかなりそうだが流石にこの数は無理だ。でも、ここで行かなきゃ確実に彼女は死ぬ。なら―
「行くしかねえだろ糞ったれ!」
飛び出すしかなかった。
「くらえ! フレイムロード!」
一直線に突き進む。彼女に気がいき過ぎているため後ろからなら簡単だ。炎を纏った剣を突き出して突進するものだが、走った距離と速度によって炎が常に変化するのだ。走る距離が長いほど、速度が速いほど炎が大きくなり、身体も覆うようになるのだ。俺のオリジナルである。
「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
群がっていたハウンドを蹴散らしていく。炎も大きくなってきている。これなら―
「………セイッ!」
突然横から飛んできた矢を弾くことでスキルの力が消された、が一応檻のところに着くことが出来らた。誰だ!?
「死角からの攻撃に気づくとかヤバすぎだろ。」
後ろ!?咄嗟に離れようとしたが、ナイフが掠ってしまった。
「あれも避けられるのかよ、すげえな。」
しかも笑ってやがる。…こいつ、強い!
「お前、だれだよ。」
「あ?俺か? 俺の名はガウスだ。」
ここにいるってことは―
「お前が彼女にこんなことしたのか?」
「俺ではねえよ。俺は雇われただけさ、護衛をな。」
「奴隷商人のか?」
「違えよ。今やってるのはモンスターテイムだよ。」
「…確かにブラックハウンドは高く売れるけど、モンスターテイムに動けねえ囮を置いてするのは違法だろ。」
「俺には関係ねえよ。」
しかも
「肉まで使ってすることか?肉があるなら別に子供はいらんだろ。」
「ああ、それは単なる趣味だそうだ。狼に対する置き土産らしい。」
「じゃあ―」
「ああ、もうそろそろ馬車に着くころだろう。」
…手際がいいな。相当な数をやってきたのだろう。
「じゃあ、なんでお前はここにいるんだ?」
「証拠隠滅さ。檻の回収さ。死体はほっといていいらしいけど。」
「なに馬鹿なことを―」
あれ?体が…
「やっと効いたか。それは即効性の麻痺毒さ。1、2時間くれぇはもつもんさ。おとなしく死んでくれ。運が悪かったな。」
「さて、檻を回収してっと………じゃあな。」
「ま、待て!」
ガウスはすでにいなかった。
「クソッ!」
俺は悔やむしかなかった。
ここで終わるのか…
何のためにここにきた…
助けるため…
なら…
助けろよ!
「おい!しっかりしろ!」
「………! お兄ちゃん!」
…いつの間に兄になったんだ俺?
「…先に謝っておく。ごめんな。」
「?」
そう言うと俺は彼女を抱えておもいっきり―――投げた。
「!!」
空中でじたばたし、尻もちをついていた。怪我はしてないだろう、たぶん。
「早く行け!」
そう言われることで魔物の群がりの外に出たことに気づいたらしい。
「…だめ!お兄ちゃんも!」
俺を心配してくれてるのか。だけど…
「…悪い。流石に身体が限界にようだ。そろそろ無理だ。」
「! なら私が!」
「いいから行け!!」
「!」
あまりに強く言ったもんだから驚いてしまってるようだ。
その後、彼女は森の中に走っていった。
俺は空を見上げていた。ブラックハウンドに齧られながら。
(…俺の人生終わりか。早かったな。二度目の人生もこれで終わりか。合計しても三二歳。短すぎるわ…。)
少しずつ視界が赤く染まっていった。
(ああ、これが走馬灯か…。前世では見れなかったからいい体験になるよ。)
皮肉を考えるしかできなかった。
(…結局親孝行できなかったな。だけど…)
彼女をどうして助けたのかもやっと理解できた。
俺は―
(誰かと居たかったんだな。)
本当は寂しかったのだ。一人でいるのが。誰とも話さないのは。
俺は助けることで誰かと居る時間が欲しかったのだ。
(あそこで素直になってればな。)
少し後悔してしまう。そうしていれば彼女をまた怖い目に合わさなくて済んだのに。俺も死ななかったのに。
でも―
(助けたことは後悔してない。)
俺に優しさを取り戻させてくれたから。
(最後に名前くらい訊けばよかったかな…)
もうむりだけどな…
これだけ伝えたかった。
(…ありがとうございました。)
俺の意識が遠ざかっていき、やがて無くな―
「セイヤー!!!」
ることはなく、そこには一人の男性がいた。
「大丈夫か?」
………ふぇっ?
無理やり感がありますが、まあ、気にしないで、ね。
…ちょっとこの人弱すぎますかね? ま、まあ、ガウスが強かった、ということにしといてください。
ちなみにガウスは後に出てくる予定です。…だいぶ先かもしれませんが。




