メアさん
この話では戦闘はありません。
流れ的には戦闘だけどね、普通。
目の前に兜がいた。
「うおっ!」
びっくりして後ろに飛んだ。あいつは一体何がしたかったんだ!?騎士は驚いているのか、固まっていて動かない。今がチャンスだろうか。…そんな感じじゃないか。明らかに僕は死んだはずなのにピンピンいてるんだもんな。びっくりするよねえ。口パクパクしてるけど(笑)女とわかるとなんかかわいく見えるね(笑)
「ボーッとしてるけど大丈夫?」
僕が訊いたところでようやく気がついたらしい。
「え、ええ。…凄いわね。確実に死んだと思ってたのにあの状態から蘇るなんて。」
初めて声を聴いた。なんというか、凜とした声だった。正直かっこいい。
「ほんと危なかったですよ。…ところで、あなたはダークネス・メアさんで間違いないですよね?」
…驚いてるね。ばれてるとは思ってなかったようだ。まあ、普通はわからないよね。
「どうして、そう思ったのかしら。」
「どう、って言われても…。あなたが普通より強すぎたから?かな。」
「どれくらいに?」
「ステータスが5桁で全て9、という神業を見たからかな。」
騎士は感心しているようだった。…もしかして頭の回転が速いとか思われてるんだろうか。
「それだけで答えにたどり着く。随分頭の回転が速いようですね。」
ビンゴだった。違うんすよ、他人に訊いたことなんで、僕が答えを導きだしたわけではないんすよ。まあ、そんなこと言わないけど。
騎士は自分の鎧や兜に手を動かし始めた。どうやら脱ぐようだ。なんとなく反対を向いて呼ばれたら振り向こうと決めた。なんか、そっちの方が楽しめるじゃん。
鎧を着たのは初めてなのだろうか。10分はたったと思うが、まだカシャカシャと音がなっている。流石に長いよ。…調べたことによると日本の甲冑は10分以上着替えにかかるらしい。彼女が着ているのは西洋っぽいので日本の甲冑が参考になるとは限らんが、時間はかかるらしい。昔の人は大変だったんだね。このことを誰かから一度も聞いたことがないため知らないアキだった。そして、今も知らない。
「何をしているんだ?」
彼女が質問してきた。
「後ろを向いている。」
「どうして?」
「…なんとなく?」
「何故に疑問形なのだ…。着替え終えたからこっちを向け。」
着替えの「着」の言葉ですでにそっちを見てたりする。…飢えてるのかね。
「改めまして。ダークネス・メアよ。たぶん、君から見たら私は敵になるだろうが、気軽にメアと呼んでくれ。よろしくね(ニコッ)。」
簡潔に言おう。彼女は綺麗だった。身長は165くらいで黒色長髪。体が細く、無駄な筋肉が削ぎ落とされたかのようになっていた。まさに凜とした「お姉さま」っていう感じの人だった。普通に日本人に見えるのは気のせいだろうか。唯一目が右目が黒、左目が紫と異なったことが気になったけど。
「どうしたんだ?」
「………はっ。い、いやなんでもない。」
見惚れてたなんていえない。なんとか冷静になろうと話題を探した。
「そういや、さっき、どうして僕の顔を覗いていたんですか?」
「…」
なんか、黙ってしまった。まさか、地雷、踏んだ?
「それは、」
あ、答えてくれそうだ。
「興味があったからです。」
………ん?どういうことかな、さっぱりわからん(棒)
「長年ここに住んでますが、どうやら皆さん入り口で帰ってしまうようで100年くらい誰とも会ってなかったのです。だから、今回こちらに来てくれた明人さんには少し興味を抱き、ここまで来てもらいました。しかし、ただ来てもらうだけでは面白くないと思い、敵に挑む勇者みたいなイメージでこのようなご招待方法をとらせていただきました。」
…つまり、殺すつもりはなかったと。
「そうだったのですが、久しぶりの戦闘のため手加減が難しく、誤って殺ってしまいました。誠に申し訳ございません。」
「わかったから顔を上げて!」
「はい、ありがとうございます!」
土下座までして謝られてしまった。女性に土下座させてる構図はあまりによくないと感じ、咄嗟に許してしまった。たぶん、狙ってしたのだろう。これなら僕の性格上許すだろう、と。
「まあいい。…それで、メアさん。ここから出ようとは思わないんですか?」
なんか、ズカズカと人のあまり訊かない方がいいことを平然と言っている気がする。昔は場の空気を読めたはずなのに…。
「そうですね。外に出ると狙われるかもしれないですしね。」
いつの時代の話なんだろ。
「たぶん、気づかれないと思いますよ。黒髪なんて確かに珍しいかもしれないですが、僕も同じですしね。それに、メアさんは表の世界から何年かは知りませんが、少なくとも100年は出ていないと考えると顔などは忘れられていると思いますし。」
「…どうして私を慰めているの?」
どうして、とは?
「だって、私は魔族よ。人族とは敵対してるし、それこそ憎悪を抱いている人だっているはずだわ。それなのに、あなたはどうして私に気をかけるの?」
そういやそうだったな。…人族と魔族の間の溝、ね。
「あなたは城から近いので聞いたことないですか?41人の勇者が現れたことを。」
「ええ、知ってるわ。正確には召喚されたのでしょ?」
「はい。その中には男性18人、女性23人。41人中1人が大人で他は20歳も満たない子供たちであることを。」
「そうなの?そこまでは知らなかったわ。」
「そして、今から2、3日前にその勇者一行はここの入り口に来ていたこと。」
「…まさか。」
「ええ、僕は勇者の1人です。」
あっさりと告白する僕にメアさんは驚いてると同時に少し警戒し始めた。そりゃ、人類の希望の1ピースが目の前にいる訳だしね。
「勇者は異世界人であるため世事には疎く、城にいる人に価値観を叩き込まれている。」
それでも僕は止めずに話し続ける。
「ただ、僕は、別に魔族だから、人族と異なる異民族だからってことで別に差別したり、蔑んだりはしない。」
メアさんの目が点。
「僕の元の世界には異世界に呼び出され、冒険するといった空想上の物語が実際に複数存在します。たぶん、そういったものの影響で別に恐怖になったりはしなかったのだろう。恐怖は未知が原因だとよく言われてるしね。また、魔族と名前を聞いただけだと確かに悪いイメージを持つかもしれない。ただ、見た目だけでその人の性格などを決めつけてはいけない、と僕は思います。だから、あまりそういう理由で嫌いになることはありません。」
さらに目が点。どうやら相当驚いているようだった。
「…そういう風に言われたのはあなたが初めてです。素直に嬉しかったです。」
感謝された。…こそばゆいな。ただ、僕はここで終わるつもりはない。
「よかったら、僕と一緒にいろんなところを見に行きませんか?」
半分口説いてますよね。…まだ、そのつもりはないけど。
「でも、もしばれたらあなたは…」
「気にしない、気にしない。元々友人は少ないし、僕の友人は僕の考えを尊重してくれるしね。頭も回る。だから、大丈夫だ。」
「いえ、あなたが殺される可能性とかあるんじゃないですか。そこらへんは…」
「大丈夫だ。そもそも、この国には少し嫌な予感がするからあまり愛着があるわけでもないしね。」
「…どうしてあなたは私を外に出したいの?」
それは…
「あなたと僕が似ていたから。」
「似ているのですか?」
「はい。」
言ってみたけど、どう説明しようか。言葉がまとまんねえ。
「あなたは、長年誰にも会わず暇だったと言ってましたね。暇なら外に出て何処かにぶらついてみることだってできたはず。だけど、あなたはしなかった。怖かったという事もあるだろうが、何も行動には映さなかった。世界を傍観していることしかしていなかった。」
静かに最後まで聞いてくれてるようだ。少し安心した。
「…僕も元の世界では何かを求めてたが、それがわからず何もしようとも思わなかった。周りの人を遠目で見ることしかしていなかった。だから、似ているなと思いました。」
だけど、
「僕は、この世界に来て新しいことの発見でとても楽しかった、と思う。だから、楽を求めていろんなところを見て回り、楽しんでいきたいと思います。それこそ魔族の所や獣族の所にだって行きたいです。」
メアさんは驚いているようだ。そりゃ、敵領地に行きたいですなんて言われたらびっくりするよね(笑)
「どうです?一緒に行きませんか?人生いろんなことを経験されていらっしゃると思いますが、偶には外に出て太陽の光に当たることも必要ですよ。」
なんとか、言い切れたかな。
「そうですね、………一緒に行こうかな。あなたといると楽しそうですしね。」
そう言うと僕に近づいてきた。そして、手を差し出してきた。
「これからよろしく、アキトさん。」
「アキでいいですよ。こちらこそよろしく、メアさん。」
メアが仲間になりたがっている。
仲間にしますか?
---Yes---or---No---
メアが仲間になった!
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ア「そういや、メアさんは何歳なんですか?」
メ「アキさん、メッ!ですよ。」
結局、契約の意味はあったのだろうか…。