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処刑7 夏休み前の試練

 今日は特段熱い、金曜の最後の平日だ、今日さえ乗り切れば土日の二日間だけ生徒会から解放される、美遊は机にうなだれながら授業に参加していた


 何もなく平和に今日一日が終わろうとしていた、しかし美遊は放課後に生徒会という面倒すぎるイベントがある


 帰りのホームルームを聞き流し、生徒会への不安とストレスに胃が痛む、鳴き続ける蝉に気をとられながら放課後を迎える、勿論教師の話など耳に入らない、渋々生徒会室に向かうが千夏に止めらた


「テスト近いのに生徒会は大変だね!」


「は? テスト?」


「さっき先生も言ってたじゃん! 予定表にもあるし来週から午前授業になるって!」


 慌てて美遊は予定表に目を通す、しっかりと期末テスト期間と記載されていた


「終わった……積んだわ」


 中学時代もろくに勉強をせず、高校生活も訳の分からん連中に絡まれ勉強なんてできていない、赤点を取り補習で夏休みが潰れるのが目に見えている


「大丈夫だよ美遊っち! この学校テストとか厳しくなさそうだし、補習とか自由参加みたいだよ!」


「本当に自由ねこの学校、助かったけど」


 美遊は安堵の息を漏らす


「だから殆どの部活もお休みになるって!」


「部活が、休み…?」


「生徒会は分からないけど…」


「うっしゃあ!」


 千夏の言葉を美遊が遮る、それもそうだ久々に生徒会と関わらない自由がこの先待っていると信じているからだ、更にそれはテスト終了さえしてしまえば、夏休みに延長される


「それじゃあ千夏! 私は生徒会あるから!」


「わお! 急に上機嫌だねぇ! バイバーイ!」


 生徒会室に入ると全員既に出席していた


「やっと来たか」


 茜が会長席で腕組みしながら呟いた


「ごめんね、ちょっと千夏と話してたわ、さぁ! 今日も巡回かしら?」


「やたら上機嫌だな……気持ち悪いぞ」

 茜の表情が引きつる


「別にいいじゃない、ちゃちゃっと終わらせましょう!」

(今日さえ乗り切ればいいのよ!)


「まぁいい、楓と巡回行ってこい」


「了解!」

「あいあいさー! 美遊ちゃん今日やる気満々だねー!」


 二人は生徒会室を出て行く


「今日の美遊殿は何か変でござる…」


「あれはなんか企んでるな、一応楓も一緒だから今日は変な事出来ないだろうが」


「テストも近いので張り切っているのでは?」

 岡部はテキストを開き勉強してテストに備えている


「テスト? ほぉそうか、そういう事か…」


「会長殿?」


「ふふ、ふふふ! 思いついたぞ岡部! 至急用意しろ! 良からぬ事を考えている後輩に灸を据えてやろう!!」


「仰せのままに」


 ギルドで新たな企みが生まれた時、巡回組は風紀委員長と遭遇してしまう


「ぅげ……レズ女」

 楓はあからさまに拒絶している


「あらあら、今日の組み合わせは最高じゃない!」

 紅葉はそれを気にも留めない


「あ、委員長! こんにちはー!」

 美遊は笑顔で手を振る


「「え?」」


「楓ちゃん、美遊ちゃんどうしちゃったの?」


「なんかおかしいよねー、変なものでも食べたのかなー?」


「やだなぁ! 2人とも、テストも近いし面倒事はやめましょうよ」

 美遊は普段見せない笑顔だ、完全に表情が緩んでいる


「やっぱりおかしわよ!? 私にキャメルクラッチ決めた女子には見えないわよぉ!? まさか毒!? ついにあの会長さん毒を盛ったのね!?」


「落ち着きなよレズ女、美遊ちゃんちょっと疲れてるだけだよー」


「あはは! 2人とも本当は仲良いのよね!」

 美遊は口に手を当て上品に笑う


「「怖っ!?」」


「ふふっ! それにしてもいい天気ね、なんて清々しいのかしら」

 美遊は窓から青空を見上げる、希望に満ちたその瞳で


「ふぁぁあぁぁ!! 無理! 怖い!? 怖いよぉぉぉ!!」

 楓はモーニングスターを頭上で振り回しながらギルドに向けて失踪、歩行者が何人も被害を受け、悲鳴が聞こえてくる


「ちょっと楓先輩? あらら、行っちゃったわ」


「そう…ね」

(やばい、残されてしまった……どうしようこの状況)


 紅葉は打開策をひたすら考えるがその必要は無かった


「楓先輩居なくなったし私は巡回をつづけるわ、失礼」


 美遊は手を振り去っていった


「え、えぇそれじゃあ」

(何だったのかしら…)


 ギルドの扉を楓がぶち破る


「会長ー!! ふぁぁぁぁん!」


 真っ先に茜に飛びついた


「どうした楓、酷く怯えているではないか、千夏か?」

 茜は抱き寄せ優しく頭を撫でる、まるで膝上で子猫を撫でるように


「違うよー! 美遊ちゃんが変なの!」


「その事か、安心しろ来週には元に戻るさ」


「どういう事ー?」


「楓も勉強しておくように、絶対に赤点なんか取るなよ」


「わかったよー!」


「ただいま!」

 美遊が満面の笑みで帰ってきた


「ひぃ!?」


「ご苦労、異常は?」


「楓先輩が失踪…あら? いるじゃない」


「一番の異常は美遊ちゃんだよー!」


「あらあら、なんの事かしら?」


「まぁいい今日は解散だ」


 茜が号令を出し、皆帰宅準備を始める

 この時既に茜の計画は動いていた、始まりはこの呟き


「それじゃあ週末はしっかり勉強しろよ」


「了解!」

 美遊は元気に返事をして皆ギルドを出ようとした時、計画が実行された


「では、また来週な」

 茜のその言葉に皆返事をして出て行く


 少しして美遊が戻ってきた


「待ておいぃぃぃぃ! 来週!? 来週ってどういう事よぉ!?」


「やはりそういう魂胆か、永遠咆哮エターナル・ロア


「テスト期間は部活ないのでしょう!?」


「おいおい、生徒会には仕事が多いのだぞ? 休んでいられる物か」

(今日決めたがな)


「私は勉強集中したいから免除して欲しいわ」

 美遊は苦し紛れの言い訳、それに対し茜の反応は意外だった


「よかろう」


「いいの!?」


「あぁ、頑張れよ将来に関わるからな、今日はもう帰れ」


「えぇ」

(らしくないわね、私の意見が通るなんて)


 週末は充実に包まれていた、部屋を片付け買い出しをして、千夏と電話したりして過ごした


 そして月曜日の帰りのホームルーム、担任の坂山から通達が入る


「えー、皆今日からテスト期間で午前授業だが、お前らは初めてだが今回のテストから変更がある、補習についてだ」


 教室内がどよめく、皆噂で補修は自由参加と周知していたからだ、坂山は構わず続けた


「補修は必ず受ける事になった、赤点なんか取るなよ」


 教室内にブーイングが溢れた


「大丈夫だこの学園は夏休みの自由を奪ったりしない、補修は1日だけだ」


 全員安堵の息を漏らす


(1日だけなら余裕よ)

 美遊もその一人だったが


「なお補修監督は生徒会処刑執行部会長、処刑執行鋼鉄淑女しょけいしっこうアイアンメイデンこと、桐谷茜様が執り行う」


 一年生の中でも茜の恐ろしさを周知しているのはこの教室だけだ、田山椅子騒動が全てを物語っている


 田山君がカタカタ震えている、千夏は何も理解していない


(あのバ会長めぇ! また騙されたの!?)


 放課後、生徒会室の扉を蹴破った


「バ会長はいるかぁ!」


「おや、勉学に集中するのではなかったか?」


「この…!」


 周りを見渡すと生徒会メンバーは机に向かいペンを走らせている、マイケルだけは毛筆だが


「どうした? 焦っていないのはお前だけだぞ美遊、皆状況は同じだ」


「く、くそぉ!」


 美遊は急いで着席し、教科書とテキストを開くが


「……くっ!」


「どうした? 手が進んで無い様だが」


 茜が覗き込んでくる


「うっさい! 今集中してるの!」


「素直になればいいのに、なんだったらこの茜先輩が教えてやろうか?」


 茜の挑発、悔しいが美遊には1問目から解く事が出来ない


「あんた等に頼るものか! もういいわ! 家でやる!」

 美遊は生徒会室を飛び出した


「頑張れよー」

 茜は笑顔で手を振る


「良かったでござるか?」


「あれくらいが丁度いいのさ、マイケルお前は数学苦手なんだから岡部に教われ」


「かたじけないでござる」


「構いませんよ、これはですね……」


「会長助けてー! ここわかんないよー!」


「どれ」


「それと会長も素直じゃないねー、美遊ちゃんの成績気にしてあげてるだけなんだからあんな意地悪しなくていいのにー!」


「何の事だ? それより自分の心配をすることだ、解らないのこれか?」


「うんそれー!」


 二年生達を支える三年生の姿がギルドにはあった、一方美遊は


「なんで私呼んだんだよ……」


 自室には金髪の女、ウルフこと橘が不満そうに煙草をふかしている

 美遊には助けを求めるのに見境が無かった


「だって橘さん大人ですから高1の問題くらいわかるかなーって」

 美遊は口を尖らせながら抗議する


「あのなぁ、私が言ってるのは呼び方に問題があるって事だ、連絡よこしたと思えば何だ? 助けて欲しいから今すぐ来て欲しいって言うからバイク飛ばして来たんだぜ?」


「確かにそうですけどぉ」


「ったく…仕方ねぇな、貸してみろ」

 橘は溜息混じりに頭をかきながらテキストをめくる


「さっすが橘さんっす!」


「大体高1の勉強なんて中学の延長だろ? 何でできねぇんだよ」


「頼りになるっす橘さん! その問題ぶっ飛ばしちゃってください!」


「任せろし、高1の数学なんて算数だぜ、算す……」


 橘の動きが止まる


「橘さん?」


 そのまま煙を吐き煙草を携帯灰皿に入れる


「橘さん?」


 橘はテキストを閉じて立ち上がる


「ねぇ橘さん?」


 そして玄関に向かう、美遊は後ろからついていく


「橘さん!?」


 橘は外に置いていたバイクにまたがり


「すまん!!」


 エンジン音と共に去って行った


「橘さあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」


 1人残された美遊は溜息をついてテキストに向き合う


「解らない……どうしよう……」


 そのまま迎える翌日


「千夏ぅ、助けて欲しいわ」


「どったの? うわ!? 美遊っち顔色悪いよ!?」


 徹夜して解いた問題が数学テキスト3ページだけでなおかつ間違っていたなんて口が裂けてもいえない


「勉強教えて……」


「うん無理!」


「即答!?」


 千夏はいつも通り緩んだ笑顔で即答した


「だって私力になれないよ? 昔から一夜漬けだし、まだ一切勉強してないもん」


「あんたよくそれであの成績だったわね」


 なにを隠そう千夏は中学時代から成績が良かった、化物級の身体能力で体育は勿論座学も好成績で文武両道の才女、しかもテストはいつも一夜漬け、もはや伝説の域であった、ただ普段私生活の言動がアホなのだ


 しかし美遊には一夜漬け何てできるはずが無い、集中力が持たず寝るのがオチだ


「仕方ない…か」

 美遊は渋々生徒会室に向かう、いつもより扉が重く感じる


 ゆっくりと扉を開く、最初に口を開いたのは茜


「ほらな、ちゃんと来ただろう?」


「本当に来ましたね…」

 岡部は目を丸くした


「まさに大予言でござるな!」


「いらっしゃい美遊ちゃん!」


 全員が優しく迎えてくれた


「どうした? さぞかし表情が重いが」

 そんな中茜は挑発


「その……やっぱり一人じゃ、その…」


「なんだ?」


「私が悪かったわよ! どうか勉強教えてくださいぃ!」


 美遊は断腸の思いで頭を下げる


「はっはっは! 良かろう! 素直な奴は好きだぞ!」


 茜は満足そうに微笑んだ


「くそぉ…」


「苦手な教科は?」


「全部……」


「仕方あるまい、過去問を用意しようか、岡部」


 茜は岡部に目配せし、岡部は頷きギルドを出て行く


 その時茜の制服のポケットから何かが飛び出し机の上に舞い踊る


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 悲鳴を上げたのは美遊である、それを見るなり飛び上がり机から遠のく


「かわいい!」

 楓は正反対の反応を示した、それは小動物


 くりくりした瞳は周りを見渡しているそれは一般的にネズミと呼ばれる小動物、美遊の拒絶反応をよそに茜は逃げたネズミを抱えるように持ち上げる


「なんだお前、ネズミ駄目か?」


「いいからどっかやって! 早く! 迅速に! 今すぐにぃ!」


「わぁ! こんなに慌ててる美遊ちゃん楓初めて見るよー!」


「わかったわかった、岡部こいつを所定の場所へ」


「畏まりました」


 岡部にネズミを手渡し茜は溜息をつくと美遊の肩に手を乗せた


「勉強しよう、お前にとって今回の処刑はお前には酷すぎる」


「嫌な予感しかしないわね」


「次の処刑にあれは使う」


「よし! 勉強するわ!」


「本当に嫌いなのでござるなぁ……」


 これから美遊は心を入れ替え勉強に励み始めた


 元から物覚えは良かった、ただ勉強をしてこなかったのだ、美遊は先輩達から基礎から教わり真面目に過去問に挑むが残酷にも時は進む


「ああぁぁぁ! もうイライラする!」


「どうしたの?」

 突如立ち上がった美遊を楓が見上げる


「どうもこうも無いわよ! 何でこんなに難しいのよ!」


「落ち着け勉学に近道は無い、ただ基礎が無いだけさ、すぐにできるようになる」


「くっ……」


「それに同年代が皆受けるのだ、お前だけが厳しいわけではないさ」


「そう……だけど、私は英語なんか勉強しても外国行くつもりないからぁ!」


「将来役に立たないとか、勉強しない奴の典型的な言い訳だな……英語講師なら適任がいるだろう」


 茜が指差した先ではマイケルが毛筆で筆記体を綺麗に書き記している


「英語なら任せるでござるよ!」


「そういえば米国生まれの設定だったわね……」


「設定って言うなでござるぅ!!」


「とにかく英語はマイケルが一番得意なんだ、素直になるんだな」


「くそぅ! まさか侍に英語を教わる日が来るなんて!」


「How are you doing?」


「なんでそんな発音いいのよぉ!?」


「ごっざーる」


「うざっ!?」


 テストまで後一週間も無い、美遊の地獄の猛勉強はこうして始まった


 毎日毎日先輩達にわからないところを聞きながら放課後ギルドに残りテスト勉強を行うのが気付けば日課になっていた


 美遊も最初より格段に問題が解けるようになっていた、そしてテスト前日の放課後、午前授業の後昼食をすませいつものように勉強していた、外は既に日が傾きギルドは夕日に包まれる


「今日はここまでにしよう、これだけやれば大丈夫だろう」


「そんな! まだ不安よ!」


 茜の提案を美遊が否定した


「あまり今日無理して本番で寝たりしたら意味が無いだろう? だから今日はもう帰れ」


「そうだけど……」


「後は各自なんとかしろ、解散!」


 夕暮れの帰宅路、美遊は不安と処刑に対する恐怖に襲われていた、気が重く溜息ばかり漏れる


「どうしよ……」


「美遊ぅぅ!!」


「ひゃい!?」


 突如背後から茜が飛びついてきた


「何暗い顔をしている! シャキッとしないか!」


「主にあんたの処刑のせいよぉ!」


「ちょっと付き合え」


「は?」


 茜に連れられて来たのは夕暮れの河原


「青春だなぁ!」

 茜は土手に仰向けに倒れ空を眺める、ゆっくりと流れる雲は平和そのものを訴えてくる


「何の用よ」

 美遊はその隣に座る


「美遊はさ、この世界をどう思う?」


「何よ急に」


「つまらないと思っていないか?」


「あんたが言うのね」


「私はそう思っているからな、この世界はつまらないし退屈な事ばかりだ、今回のテストだってそうだ」


 夕日目掛けカラスが三羽程群れながら飛んでいく、それを見ながら茜は続けた


「学校とは勉学に勤める場所……そう言ってしまえばそれまでだが、もっと大事なことは沢山あるのさ」


「あんた……」


「しかし退屈な事には意味がある、だから今回は気合い入れて頑張れよ」


「そうね、けどさぁ」


 美遊も隣に仰向けになる、眼に映るのは空と雲


「なんだ?」


「あんたらといると退屈しないわ、ほんと」


「……」


「何してるの?」


 隣に眼を向けると茜が携帯を向けている


「ムービー!」


「おいこらぁ! 消せぇ!」


「はっはっは!! 面白いなぁ! お前って奴は!」


「この……!」


「冗談だ、連絡先……まだ教えてなかったろ?」


「確かにそうね」


「教えてくれるか?」


「別に……いいけど」


「けど?」


「やり方解らないわ」


「よかろう! ついでだ、岡部と楓の連絡先も入れておいてやろう!」


 茜に携帯を手渡すと、すぐに作業は終わり返された


「ありがと……」


「いつでも連絡してこい、力になる」


「そうね」


 美遊は優しく微笑む


「やっと笑ったな、どうだ? リラックスできたか?」


「おかげさまでね」


「よし! なら帰るか! 明日頑張れよ」


「ねぇ、今回の処刑の内容って……」


「気になるか?」


「ちょっとね、万が一に備えたいし」


「鼠部屋だ」


「は?」


「だから鼠部屋だ」


 一瞬にして全身に鳥肌が走り体が小刻みに震える


「ちなみに、何をするの?」


「数百匹の鼠を放った密室で再試をしてもらう」


「勉強する! それじゃあ!!」


 美遊は足早にその場を去った


「行ってしまったか……」


 翌日、テスト開始日

 遅刻寸前で美遊が登校してきた


「ぅぁああ……しんどいわ」


「美遊っち? 大丈夫?」


「大丈夫じゃないわよ、寝れてないの」


「一夜漬け?」


「一晩うなされたわ」


「なんで?」


「思い出したくもないわ、今回の処刑は皆回避した方が身のためよ」


 美遊は机に項垂れると、前の席の田山君が気にかけてくれた


「東西? 大丈夫か? 保健室行く?」


「おはよー、私は大丈夫……欠席する方がやばいし、田山君は勉強してきた?」


「そんなに今回の処刑は……」


「ゔ……」


「東西!? なぜ黙る東西ぃぃぃぃぃぃ!!」


「大丈夫だよ田山君! 私が美遊っちの心肺蘇生するよ!」


「やめろ安堂! それが止めになるからぁ!」


 騒がしい教室の風景、周りの生徒達もどよめいている中ついに試験が始まる


 運命のプリントに目を通す


(解る! 解るわ!)


 美遊の出だしは好調だった、教科は英語

 幾度となく屈辱を受けたマイケルの指導、何度も手を出しかけたマイケルの指導が功を成した


 不思議なほど英文が読める、解る

 この感覚は不思議だ、何と言う優越感、この問題を解けない生徒がいるという優越感である


(この程度なら……いけるわ!)


 美遊は本番に来て試験で重要な一つの要素を手に入れた、自信である


 しかしこの後この自信が誤爆する、英語の試験が終わった、手ごたえは上々


「美遊っち!? なんかすごくやりきった顔してるよ!」


「ふふ……千夏、How are you doing?」

(決まったわ!私ってばネイティヴ!!)


 調子に乗り英文で声をかけてしまった


「Pretty well ‼︎」


 笑顔で即答された


「そそ、そうなの…? 何よりだわ」

(え? なんで解るの、てかプリティって何!? え? これ何か聞かれてるの? 解らない! 解らないわ!?)


「流石美遊っち! 英語できるようになったんだね!」


「ま、まぁね」

(お願いだからその子犬のような瞳で見つめないで! 恥ずかしくて死にそうよ!)


「次は家庭科かぁ、ちょっと苦手だなぁ」


「私は唯一できる教科だから、何とかなりそうよ」


 二限目からのテストも美遊は難なく乗り越えた、家庭科など普段の生活の知識で何とでもなる、何年もやってきた一人暮らしは伊達では無い


 そして三時限目の数学、これが鬼門ここさえ乗り切れば勝ったも同然

(これは勝った! 勝ち戦よぉ!)


 美遊が震えているのは恐怖か、はたまた武者震いか

 今の美遊の気迫はだれも止められない暴馬、プリントの上を走るペンは戦場を走る赤兎馬の如くスラスラと問題が解かれていく

 数学は岡部に教わった丁寧で徹底的に、そこらの塾より解りやすいかもしれないレベルだった

 美遊のオーラが前の席の田山君に威圧をかける、どこから来ているか解らない殺気に田山君は恐怖を感じる

 頑張れ田山君、負けるな田山君


(……くっ!?)


 後半に来て美遊のペンが止まる、美遊が苦手だったジャンルの問題が出てきてしまった


(この……三角形風情がぁ!)


 図形と計量の問題だ、岡部に何度も何度も教わった


 あの辛い日々を思い出せ! 問題を間違えるたびに茜にニヤニヤされる屈辱の日々を!

 過去の美遊なら敵前逃亡、問題すら読まずにげていただろう、しかし今は違う!

(討ち取って見せるわ! この図形問題ラスボスを!!)


 美遊は怯むことなく問題にぶつかった結果


(敵将討ち取ったりぃぃぃぃい!!)


 この時試験管をしていた教師は美遊の背後に三国の猛将、呂布の姿を見たと言う


「でも呂布って脳筋のイメージしかないよね」

 後に彼はそうコメントしている


 勝負は美遊の勝利に終わった、その後の教科も苦戦しながらなんとか全問埋めることができた


 この数日に及ぶ地獄を美遊は見事乗り切ったのだ、テスト期間最終日の放課後


「ぅうぅうおわったぁぁぁ!」


「お疲れ美遊っち!」


「ふふん、なんとか処刑回避できそうね」


「良かった良かった! じゃあ帰ろうか!」


「私は生徒会行くから、千夏は先帰ってて」


「解った! バイバーイ!!」


 美遊は軽い足取りで生徒会室に入る


「お疲れー!」


「お、良い面構えになったな」


 茜が会長席で待っていた


「あれ? 皆は?」


「帰した、お前も今日は休め」


「そう……」


「なんだ?」


「その、ありがとう……」


「赤点は回避できたか?」


「おかげさまでね、何とかなりそうよ」


「そうか、それは良かった、ネズミはよく噛む動物だからな、今回の処刑は血が流れそうだ」


「想像もしたくないわね、それじゃあ帰るわ」


「あぁ、夏休みにもうすぐ入るから体調は万全にしとけよ」


「え? 夏休みも生徒会あるの?」


「当たり前だろう? 夏はイベント盛りだくさんだからな」


「それただ、このメンバーで遊びたいだけなんじゃ……」


「はっはっは! そうとも言うかな」


 美遊は呆れながら頭をかき溜息をついた


「それじゃまたね」


「あぁ」


 後日、テストが返され美遊は赤点を回避したことが発覚、そして茜による処刑が行われた、鼠が敷き詰められた部屋での再試だ、補修を受けた生徒は足に怪我を負い、心にも大打撃をうけたがこれ以降赤点を取ることが無くなったと言う


 そして待ちに待った夏休みを彼女達は迎えた

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