処刑6 卓球部再始動作戦
東西美遊は約束通り登校した、教室では風邪という話で通っていたため普通に迎えられ、千夏も喜んでくれていた、そして放課後
「美遊っち! 生徒会?」
「一応あいつらにも迷惑かけたしね」
「相変わらず素直じゃないね」
「うっさい、それじゃあまた明日ね」
「バイバーイ!」
生徒会室にたどり着くとため息がでた、既に異変が起きていた、室内から何かを拘束で弾くような音が聞こえる
(今度は何をやってるのよ....)
扉に手をかけた瞬間
「っしゃぁぁぁぁあ!」
茜の雄叫びが響き、また謎の音が連続する
恐る恐る扉を開き中を覗いた
中では茜と見知らぬ男子生徒がネットを張った台の上でピンポン玉を交互に打ち合っている
「卓球…?」
高速ラリーが続く、動きからして相手は卓球部だと思われる、何故か茜はそれについていけている
張り詰めた緊張感、生徒会のメンバーが真剣な表情で試合を観戦している
「ひれ伏すがいい!」
茜の放った強烈なドライブは猛スピードで相手のコートを攻める
点数は同点、お互いマッチポイント試合終了かと思われたが
男は不可能を可能にした、ドライブを返したのだ縦回転に合わせラケットを振る、返された球は茜のコートの角に触れた
「くそっ!」
茜は膝から崩れ床を叩いた、敗北したのだ
「メイデン様、その....」
男はおどおどと茜に申し出る
「約束だからな、仕方ない美遊をやろう」
「おい待てぇ!」
美遊が扉を開けてギルドに入ってくる
「なんだいたのか久々に学校で会ったな」
「いたのかじゃないわよ! 何? その私をやるって何!?」
「まぁ落ち着け、おめでとうお前は明日から卓球部のマネージャーだ」
「めでたくないわよ!」
「まぁまぁ....」
「あんたは誰よ!」
男は美遊の勢いに負け一歩引いた
「そう吠えるな、彼は卓球部部長の福谷君だ」
「部長の福谷です…」
福谷は申し訳無さそうに会釈をする、長身細身の表情すら弱々しい男だ
「そもそも私がマネージャーってどういう事?」
「いやぁ、うちの部もマネージャーが欲しくて」
「だったらこのバ会長連れて行きなさいよ」
「そんな! 恐れ多すぎます!」
「諦めろ、生徒会は約束は守るんだ」
「では私はこれで…練習ありますので、美遊さんよろしくお願い致します」
「お疲れさん」
福谷は一礼して卓球台を折りたたみ車輪で転がしながらギルドを出て行く
「さて、話してもうわよ」
「分かっている、岡部資料を」
「畏まりました」
資料を配り終え各自席についた
「現在卓球部は成績を伸ばせていない、美遊はマネージャーとして卓球部に次の大会まで所属してもらう」
「次の大会は何時なのよ」
「二週間後だ」
「短っ!?」
「生徒会が関与したのだ負けは許されない、大会で勝てなかったら廃部だな」
「そんな! 資料を見る限り部員多いわね、これだけいるのに廃部にしていいの?」
資料には部員の数が40人と記載されている
「構わん私がルールだ」
「相変わらずの暴君ね、そもそもなんでマネージャーなんて…」
「賭けをしていた」
「は?」
「ごめんね美遊ちゃん、楓が原因なんだよー」
楓が申し訳無さそうに挙手する
「楓先輩が?」
「うん、楓こないだ怪我したじゃん? 体が鈍って鈍って、楽しめるスポーツしたいーって会長に話したんだよー」
「そしたらタイミング良く福谷部長殿が来たでござる」
「それで?」
「奴らの望みはこうだった、我が部にマネージャーをくれと」
茜は眼前に手を組み話す
「嫌な予感しかしないわ…」
「それで賭けをした、私が負けたらマネージャーを用意してやると、勝ったら卓球台を寄付しろとな」
「おい待ておかしいおかしい! 私と卓球台賭けて試合したの!? 頭おかしいんじゃないの!?」
「満場一致で試合が始まったでござる、勿論不正がない事は我々が審判をやっていたので問題は無いでござるよ」
「問題大有りよ! そこじゃ無いところに問題しか無いわよぉ!」
「そして私は負けた....不甲斐ない会長ですまない、楓のためにも卓球台用意したかったのだが」
「大丈夫だよ会長、私のために闘ってくれてありがとう」
「楓…私の部下は優秀だな、そういう訳で美遊頼んだ」
「頼まれたくねぇ! なんだこの私の扱い!」
「とりあえず生徒会業務は我々でやっておく、今日は明日からに備えて帰れ」
「強制なのね…」
「異論は認めない」
茜は机の引き出しから何かを出した、重々しい鉄組のオブジェ、しっかりした土台、上部にぜんまいがある
「何よそれ…」
「頭蓋骨粉砕機」
「会長はプロですから死にはしませんよ、同時にトラウマを植え付けるプロでもありますが…」
岡部がぜんまいに手をかけて準備しながら話す
「ちくしょう! 覚えてろぉ!」
美遊は逃げる様にギルドを飛び出した
「良し、成功だな」
腕を組みながら茜がニヤリと笑う
「よろしかったのですか?」
「案ずるな岡部、美遊ならやれる」
「会長どういう事ー?」
「卓球部も処刑対象だ」
「「!?」」
楓とマイケルは驚きを隠せ無い
「では全部計画していたでござるか!?」
「つくづく恐ろしい会長だねー!」
「さぁ! 処刑執行だ!」
美遊がアパートに帰ると先日破壊された扉が修理されて元に戻っていた
「流石は橘さん、窓まで直ってるしお礼しなきゃね」
橘に礼の電話を入れてその日は終わった
翌日
「美遊っち! 今日も生徒会?」
「今日は卓球部よ」
「なんで?」
「頭部を守る為よ」
「え?」
「とりあえずまた明日ね」
「バイバーイ!」
ジャージに着替え長い赤茶の髪を縛る
「仕方ない、やってやりますかねー」
ぼやきながら卓球部部室に向かった
「美遊さん! 来てくださったのですね! ありがとうございます!」
福谷が部室の前で出迎えてくれた、部室内に入ると酷い有様だ
部室内は散らかり、各所で漫画を読んだり携帯をいじったりやりたい放題だ、卓球台すら見つからない
しかしおかしい点に美遊は気付いた
「少ない…?」
明らかに部員の数が足り無い、見渡しても福谷含めて四人しかいない
「ねぇ、福谷部長?」
「は、はい!」
「私はここ部員数40人って聞いてたのだけど、残り36人はどこに?」
「えーと、その所属はしているんですが」
「来てないと?」
「まぁ、その」
福谷が申し訳無さそうに頷く
「幽霊部員じゃねぇかぁ! はめられた! あのバ会長めぇ!」
騒ぎを聞きつけて部員たちが駆け寄ってくる、どれもこれもガラが悪く、いかにもやんちゃしてますと顔に書いているような奴らだ
「あんたがマネージャー!? でかした福谷!」
「かわいいじゃん! 名前と連絡先教えて!」
「女マネ! 女マネ!」
ひっきりなしに質問が飛んでくる
「ねぇ皆、約束なんだけど」
福谷が申し出るが、全員無視して美遊を取り囲む
「……」
福谷は無言でその場を去った
「ねぇ、福谷部長行っちゃったわよ?」
「いいんだよ、俺等と親交を深めようぜー!」
「ちょっと…!?」
(福谷部長…)
美遊は後ろ髪を引かれながらも部員たちと話をしていた、数時間がたっても福谷は姿を現さない
「じゃー、そろそろ帰るか!」
「帰りカラオケ行こうぜー! 美遊ちゃんも!ほら!」
「いや、私はやる事あるから今日は失礼するわ」
「なんだ? もしかして彼氏?」
「まさか、生徒会の仕事よ」
(嘘だけどね)
「なら仕方ないね」
一切卓球台に向かい合う事もなく今日の部活は終わった、一同が帰った後美遊は部室に戻る
案の定ピンポン球を弾く音が聞こえる、音のする方へ向かう、卓球部室とは離れた部室棟の別の部屋、ゆっくり扉を開けた
「何よ…これ」
福谷が練習に励んでいた、しかしおかしい台にベニヤ板を立てて壁打ちを続けている
福谷が気づき振り向いた
「見られてしまいましたか……」
「何やってんのよ」
「練習です」
「一人で?」
「はい」
「部員は?」
「あの通りですよ」
「あんたがマネージャー欲しがったのって…」
「あいつらが言ったんです、女子マネージャー用意したら練習するって、次の大会にも参加すると」
「呆れた…」
美遊はため息をついてその場を去り、福谷もまたベニヤ板と練習を始めた
少しして美遊が戻った
「ちょっと!? 何するんですか!?」
美遊はベニヤ板を外し床に投げ捨てたのだ
美遊は無言で使われていなかった側のコートに回る、右手にはラケットが握られている先程いなくなったのはこれを部室内に取りに行っていたのだ
「私に卓球教えて、未経験者だけど板よりはマシでしょ」
「美遊さん…!」
この日は美遊に基礎だけを教えて終了した
マネージャー生活2日目
美遊は部室にはよらず、卓球台のある部屋に向かった
今日は誰もいない、一人で暇を持て余しラケットの上でピンポン球を跳ねらせて遊んでいると福谷が来た
「美遊さん!? 今日も来ていたのですか!?」
「まぁね、今日も指導してよね」
「はい…!」
二人で卓球を始める、美遊は元々運動神経が良く上達が早かった
数時間ラリーを続け休憩に入る
「疲れたー、結構しんどいわね…」
美遊は床に座り込む
「ははっ!お疲れ様です、少々お待ちください」
「ん?」
(初めて笑った所見たな…)
福谷は部屋を出た後すぐにスポーツドリンクを2つ抱え戻ってきた、1つを美遊に渡し隣に座り込んだ
「ありがと、買ってきてくれたの? お金お金…」
「いいんですよ! 自販機すぐそこですし練習付き合ってもらってますし!」
「悪いわね、私で練習相手になるかわからないけど」
ペットボトルの蓋を開けて口に当てる
「いや! 2日目でこのレベルになるなんて生徒会はすごいですよ!」
「生徒会が?」
「えぇ、メイデン様なんて入門書を流し読みしただけであそこまで動けてましたし…」
「あいつは本当に底が知れないわね…化物め、あのさ」
「はい?」
「福谷部長優しすぎない?」
「そう…でしょうか」
「そうよ、だから舐められるの」
美遊はため息をついて壁に寄りかかる
「そうですよね…」
「なんであいつらは残ってるの? 他の幽霊部員みたいに…」
「さぁ、どうしてでしょうね」
美遊の言葉を福谷が遮った
「福谷部長……さて! 練習再開しましょ!」
(なーんか隠してるわね)
「はい!」
二人はまたラリーを始める、この日の部活はこれで終了
「ありがとうございました」
福谷は深々と頭を下げる
「なんでそんな下にでるかな…それじゃあ明日も来るから」
「よろしくお願いします!」
美遊は部室を後にしても帰宅せず生徒会室に向かった
「あ! 美遊ちゃん!」
楓が迎えてくれた
「楓先輩、副会長いる?」
「巡回中だよー! どうして?」
「調べて欲しい事があるの」
「卓球部の事?」
「そう、部員について知りたいの」
「わかったよー! 岡部には私から言っておくねー!」
「至急お願いしたいわ」
「なんかやる気満々だねー! 任せてよー!」
「そんな事はないわ、ありがとう、それじゃあまた」
「またねー!」
楓が笑顔で手を振る、美遊は手を振り生徒会室を跡にする
マネージャー生活3日目
放課後
「美遊さん」
教室を出ると岡部に呼び止められA4判の封筒を渡された
「ありがとう副会長」
「いえいえ、頑張ってくださいね」
そう言い残し岡部は去っていった
「恐ろしいわね…」
美遊は人目をさけて更衣室で資料を漁る
封筒の中身は資料が4枚、現在辛うじて部室に来てる3人と福谷の資料だ
「これは…!?」
急いで着替えを済ませて福谷の元へ向かう
部屋には福谷の姿がすでにあった
「やぁ美遊さん今日もよろしくお願いしますね」
「え、えぇ」
また二人で練習を始めるが、今日は美遊の動きが悪い、正確には集中力が持たない
「美遊さん? 疲れましたか?」
「いや、あのさあいつらって…」
「おい福谷ごらぁ! 今日も美遊ちゃんこねぇぞぉ!」
部屋の扉が蹴破れる、美遊が恐れていた展開、最悪のタイミングで卓球部員共が来た
部員達にこの光景を見られたくなかった
「あ? なんで美遊ちゃんこっちいんの?」
「なんで? ねぇなんで?」
「おい福谷よぉ! 説明しろよ何なんだよぉ!」
部員の一人が福谷の胸ぐらを掴んだ
「やめなさいよ!」
「美遊ちゃんは黙ってて! 福谷どういう事だおい! なんか言えよてめぇよぉ!」
「卓球がしたいんだ…皆で」
「あ? 調子乗んなよ? こんなもの!」
部員の一人が福谷の手からラケットを奪い振りかざす
「やめ……!」
美遊の停止をを無視してラケットを台に叩きつけて折ってしまった
時間が凍りついた、長い長い一瞬の静寂
「どうだ? 懲りたら卓球とかほざくんじゃねぇぞ! 皆行こうぜ! 美遊ちゃんもさ」
「…けんな」
「美遊ちゃん?」
「ふざけるなぁぁぁ!」
美遊が部員のを殴り飛ばした、部屋を渦巻く動揺
「美遊さん!? 何してるんですか!」
福谷が声を上げた
「部長は下がってなさい! 久々に頭にきたわ!」
「ちょっと美遊ちゃん!」
「黙れダボ共がぁ!」
部員達に有無を言わさず壁を蹴る、この威圧は大体の者を鎮める、狼から授かった威嚇
すかさずもう一人を蹴り飛ばす
「ちょっとちょっと!?」
「あんたら正座しなさい!」
「美遊ちゃん俺等舐めすぎ!」
3人がかりで美遊を襲うが
「私も甘く見られた物ね!」
美遊はやはり異常だ、片っ端から殴りつけた
それでも彼等は止まらない
美遊は溜息をついて本気になる
まずは1人を蹴り飛ばし距離を取らせ1人の頭部を掴み額に膝蹴りを決める、部員はその場にうずくまる
激痛により1人戦闘不能、残り2人を鎮めるのも時間は要さない、1人の首裏に左腕を回し股下から右腕を回し頭上に持ち上げた
「うらぁぁぁぁぁ!」
そのまま背後に首から叩き落す、このノーザンライトボムは有名なプロレスラーが使う力技だ
部員は意識を失う、まさにKO
「なんだこの女ぁ!?」
「遅いわ!」
怯んだ最後の1人にすかさずラリアット、喉仏を潰される感覚と衝撃に耐えられず仰向けに倒れた、即座に追撃に回る
倒れた男の右手首を踏みつけ、力を入れていく
「ぐがぁ! 痛ぇ! 痛えよぉ!」
「誓いなさい、卓球を再開するとね」
「あ? 再開? たんまたんま!」
「もういいです、ありがとうございます」
美遊の暴走を止めたのは福谷だった
「よくないわよ、次の大会負けたら廃部なのよ」
「そんな!?」
「うちの会長が言ってるんだから覆らないわ、絶対に」
「待てよ!廃部ってどういう事だよ!」
部員が反論する、美遊は足を離した
「何を気にしているの? やる気のないあんた等には関係ないでしょ?」
「それは…」
「素直になりなさいよね、卓球やりたいんでしょ? 全部知ってるのよ」
「美遊ちゃん…」
岡部から受け取った資料によると、現在部室にいる卓球部は経験者の集まり、中学時代に全員好成績を残している
しかし高校一年生の新人戦に無残な敗北を見る、相手が悪かったのだ
それから卓球部はやる気を失い二年が過ぎた、それまでの大会には不参加、帰宅部代わりに所属する人数が増えたがこの四人だけは部室に通い続けている
「あんたら今年卒業なんでしょ? 最後の年くらい真面目にやりなさいよ」
「でもよぉ、今更卓球なんてさ…!?」
膝蹴りを受けた部員が声を上げたが、強烈な美遊の平手が飛んだ
「解ってないわね、やれって言ってるの」
美遊の眼光は目を合わせた者を凍りつかせる
「美遊さん、やりすぎですよ」
「福谷部長、こいつらは本当は卓球したいのよ、ただアホだから自分で気づいていないの、これくらいやらないと解らないのよ」
「そうなんですか?」
「そうよ」
「でも負けたら廃部か、どっにしろ勝てないっしょ、負けてもかっこ悪いし」
「馬鹿ね、やらないで逃げるより負けたほうがかっこいいに決まってるわ、そうでしょ? まだ解らないならそれこそ卓球できない体にしてやるわよ」
「ひっ!」
「よーし! じゃあ練習始めましょう! そこの伸びてるのは水かけるかなんかして起こしなさい、道具は部室にあるわよね!」
こうしてこの日から美遊はマネージャーではなく鬼コーチの様な立ち位置になったのだ最初は渋々美遊に殴られない為だけに練習していた部員達も次第に自ら練習に励む様になった
美遊も帰宅後、映像などを繰り返し勉強していた全ては卓球部のために
大会まで後3日、かなりの仕上がりだ、4人は真面目に練習し卓球をスポーツとして楽しんでいる
「やっているな」
「メイデン様!?」
茜が部室に来て部員達がその場にひれ伏す
「邪魔しに来たの?」
「そんな目で見るなよ美遊、足が向いただけだろう」
「どうだか、全部知ってたんでしょ?」
「何のことだ?」
「もういいわ」
「剥れないでくれ私が悪かったよ、だがお前は良くやってくれた」
「あんたが謝るなんて…」
「邪魔してすまない、それでは大会楽しみにしているぞ」
茜は言い残し部室を跡にする
「何だったのよ今の、まぁいいわ! 皆しっかりね! 大会近いわよ!」
部員に喝を入れて練習を再開させる
茜はギルドに戻り、席にどかりと座った
「お疲れ様です」
岡部がお茶を淹れてくれた
「すまないな、美遊は大丈夫そうだ」
「会長も優しいよねー、わざわざ様子見に行くなんてねー!」
「楓、わかるだろう? 私は部下を大切にすると」
「もちろんだよー!」
「しかし美遊殿も頑張っている様で安心したでござるよ」
「当たり前だ、岡部の協力もあった様だしな」
「気づいていたのですか」
「私に隠れて行動しても無駄なのは知っているだろう?」
「やはりお見通しでしたか」
「なに、感謝しているくらいさ、おかげで美遊に火がついた」
「恐縮です」
茜は満足気に笑い、引き出しから卓球入門書を取り出し流し読みを始める
「あと3日、頼むぞ美遊」
そう呟き入門書を閉じた
そしてついに迎えた大会当日、会場は熱気に包まれていた
「美遊ちゃんこれやりすぎだよぉ!」
「そうだぜ、これじゃあ恥ずかしくて人前出れねぇ!」
部員が嘆いた、それもそうだ昨日練習後福谷含め卓球部員は美遊に丸刈りにされていた、4人揃って坊主頭の異様なチームは周りの目を引く
「皆似合っているわよ、こないだまでは隅に溜まったゴミみたいな頭してたじゃない、そっちの方がいいわよ」
「そうですかね」
福谷も慣れない髪型に少し照れている
「えぇ、福谷部長もバッチリ! さぁアップしときなさい! もうすぐ本番よ!」
「「「「うす!!!」」」」
各々試合前の最後の僅かな練習時間、集中力を高める、無意識に時間は流れてしまう
そして時は来た
試合は団体戦、5人1チームで勝ち抜き戦を行う、部員は4人しかいないが無理矢理参加した、すなわち4人で相手校の5人に勝たなければならない
試合前の相手チームとの対面、相手校の顧問に早速挑発される
「おや、久々に聞く校名だと思ったら、顧問すらいない弱小高校じゃないですか」
「あん?ごらおっさん!」
部員の一人が喧嘩っ早く殴りかかろうとしたが美遊がその腕を掴む
「やめなさい、ここで暴力沙汰は絶対ダメよ」
「おぉ怖いですなぁ、それにしても顧問はいない癖にマネージャーはいるんですな、ふっふっふ!」
相手顧問は明らかにわざとらしく笑う、明らかな挑発行為、それに合わせて相手校の生徒達もケラケラ笑いながら調子に乗り出す
「だいたいなんだよその頭全員出家でもしてんのかよ!」
指差し馬鹿にする様に笑う
「うだうだうっさいわね!!」
美遊がキレてしまった、全員そう思ったが表情は穏やかだった、部員達は安堵の息を漏らす
「ではそろそろ…」
審判もどうしていいか解らずオドオドするだけ
「悪いわね、審判さんも困ってるし始めましょう」
「ではまず一人目前に!」
審判が仕切り始める
「あぁ待って」
美遊がそれを止めた
「なんでしょうか」
「後で泣き面かいても知らないわよ! こいつらを馬鹿にしたことを後悔するといいわ!」
美遊はニヤリと笑いながら中指を立て相手校に向ける
((((やっぱりキレてるー!!!))))
そうして試合が始まる、結果はすぐに出た
美遊達の高校が勝利した、結果は簡単だ相手校の選手は一人として主将の福谷にすら辿り着けない
「うっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「俺達強え!!」
部員達はハイタッチやハグで喜び合う、美遊はその光景を微笑ましく眺めていた
「馬鹿な……」
相手校の選手は体力切れで座り込み、顧問は膝から前のめりに崩れた
「どう? 思い知った?」
「なぜうちのチームがこんな弱小に…」
「弱小に負けた気分はどうかしら、やる気で何とかなるのよ、こいつらはあんたらとは背負ってるものが違うの、負けるはずがないわ」
「この……行くぞお前ら!!」
顧問は機嫌を悪くして選手達を撤収させた
「いい気味ね、さぁ次の試合まで休んでなさい」
「「「「うす!!」」」」
その後も美遊達の快進撃は止まらない、勢いのついた卓球部は勝って勝って勝ちまくり
そしてここまでこれた決勝戦
「ここまで来たら優勝できるわ!」
「うす!」
「まだ卓球部やってたんだ、福谷」
不意に声をかけられた、福谷が振り向くとそれは2年前福谷達卓球部を惨敗に追いやったチームがいた
「なんだ部長の知り合い?」
「脚の震えが…」
福谷動揺が隠せず脚の震えが隠せない、部員達も様子がおかしい
「なーんだ、新人戦の時みたいだなぁ!違うのはマネージャーがいるだけかよ!」
部員達は答えることが出来ない
「成る程ね、そういう事」
美遊は溜息を吐いた、部員達はビビっているのだ、仕方ない二度と惨敗は許されない、せっかく卓球部は再開できたのに負けたら廃部
「全力で行きなさい、ここまでやって負けるはずは無いわ! いつも通りやりなさい! 胸を張れ!」
「美遊さん…やろう、皆!」
美遊に押され福谷は決意を固めた
「うっし! やってやるやろう!」
部員達の士気も上がる
しかし決勝は簡単ではなかった、いい試合ではあったが主将戦まで持って行かれた、福谷はここに来て三連戦、息も上がり動きが鈍り劣勢に立たされてしまう
「部長! まだよ!まだいけるわ!」
美遊と部員達が声援を送る、福谷の心に響く様に
そして巻き返し、迎えたマッチポイント
緊張のラリーが続き相手校の主将のチャンスボール、鋭いスマッシュが福谷を襲う、しかし諦めない、辛うじて球を返しが現実はアニメやドラマと違う、宙に浮かんだピンポン球は無情にも相手コートをかすりもせず床に落ちた
相手校は優勝を喜び合っている、しかし美遊達の時は止まりその場を動けない、ただ福谷が伏せながら泣いている事だけは理解できた
美遊は我に帰り状況を理解した、周りの歓声が耳に一気に入ってうるさい
卓球部は負けたのだ、最後の最後に
「皆……」
美遊は声を掛けたが誰も答えない、部員達は福谷に肩を貸し控え室に向かってしまった
美遊は相手校に頭を下げてその場を離れた、控え室に向かう途中悔しくて悔しくて壁を殴った、少し泣いたかもしれない、溢れかけた涙を拭いて控え室に入った
坊主頭の男達は泣いていた、それぞれすすり泣いたり、大声をあげたりそれぞれだ
「お疲れ様」
「美遊ちゃん…」
「俺達勝てると思ってた…」
「私だってそうよ、泣かないでよ、お願いだからぁ!」
美遊も堪えられなくなってしまった
「俺のせいです…」
福谷は部員達に頭を下げる
「馬鹿かよ! お前はよくやったよ! 俺達がもっと真面目に練習してたら……くそ!」
「誰のせいでも無いわよ!」
「そうだな」
「「!?」」
控え室に茜がちくわを咥えながら入ってきた、部員達はその場にひれ伏す
「いたの…」
美遊は俯いてしまった、長い赤茶の髪が顔を覆う
「そんな顔するな美遊、全員来ている」
茜の後ろからゾロゾロと生徒会のメンバーか入ってきた
「メイデン様…お願いがあるんです」
ひれ伏しながら福谷が声を上げるがそれを茜が遮った
「あぁ、貴様らいい試合だった見ていて面白かった、次回こそは勝て」
「え?」
「素晴らしかったですよ、次は勝てます」
岡部も卓球部を讃える
「今度楓も教えて欲しいなー!」
「実に見事の一言でござるな! これからも頑張るでござるよ!」
部員達は理解が追いつかない、勿論美遊もだ
「待ちなさいよ! 卓球部は続けてもいいの!?」
「無論だ、お前は帰ってきてもらうがな」
「じゃあなんであんな事最初に…!?」
「何もこの大会で優勝しろとは言ってないだろう」
「この…バ会長めぇぇぇ! 出て行けぇ!」
「はっはっは! そうだな失礼する、では明日ギルドでな」
生徒会は控え室を出て行った
「美遊さん、これはどういう」
「はは、ははは! あっははははは!」
「おいおい、美遊ちゃんおかしくなっちまったか?」
「何しけたツラしてんのよ、あんたらは卓球部続けられるのよ!」
やっと部員達み意味を理解した様だ、一瞬の間の後で歓喜に包まれる
喜び合って最終的には美遊を胴上げまで始まった
「っしゃ! 打ち上げ行こうぜ!」
「カラオケ行こうぜ!」
「お前ほんとカラオケ好きだな!」
「ほら! 福谷も行くんだよ!」
「俺も!?」
「部長なんだから当たり前だ! 美遊ちゃんは?」
「仕方ないわね、今日だけは付き合ってあげる!」
「「「おぉぉぉぉぉぉ!」」」
美遊達が打ち上げに向かう別の道
生徒会も帰路についていた、不意に楓が呟く
「本当に会長優しいねー!」
「なんの事だ?」
「そんな事言って昨日までは廃部にする気だったでしょー?」
「どうだかな」
茜はクスリと笑う
「会長はこういう方なんですよ、今日の彼等を見て気が変わったのでしょう」
「茶化すな岡部」
「そんなつもりは無いですよ」
「しかしめでたい事でござるな!」
「あぁ、美遊はよくやってくれた、明日からまた生徒会で頑張ってもらおう」
茜は長い黒髪を掻き上げ夕日を眺めて伸びをする
「ともかく、処刑は成功だ! 明日からまた忙しくなるから皆よろしく頼むぞ」
「畏まりました」
「勿論だよー!」
「承知でござる!」
その日は各々帰宅した、次の日美遊の喉が枯れていたのは内緒のお話