処刑5 大掃除と仲間と姉御
美遊は涙が出てきた、引っ越ししてまだ一ヶ月弱の部屋が戦場さながらの大惨事である
「それより、岡部達をなんとかせねばな」
一行はとりあえずベッドの上の物をどかし、岡部と紅葉を並べる
「これ、風紀委員長目を覚ましたら発狂するんじゃないの?」
「仕方ないだろうこの部屋にはスペースが少ないのだから、写メ撮っとこう」
「あんた鬼だな!!」
茜は携帯で横になる二人にシャッターを切り、橘はズカズカ進み少し空いているスペースに胡座をかく
「ちょっと寒いな」
「そりゃそうでしょうよ!」
「待っていろ、茶を淹れてこよう」
茜は洗い場に勝手に向かった
「あんたは勝手に動くなぁ!」
「美遊ちゃん泣いてるの?」
「そりゃ泣きたくもなるわ!」
「とりあえず、お片づけしよー? ね?」
楓が美遊を諭し片付けを始めようとするが
「痛っ!?」
楓に激痛が走り体制を崩してしまい、そのまま本棚にダイブした、本棚はあまり大きい物ではなかったが中身をぶち撒け倒れた
「もうあんたら正座してろぉぉぉぉ!!」
「美遊ー! どうだ! 似合うか!」
茜がエプロン姿で戻ってきた、一回転して裾をふわふわさせている
「会長ー! かわいいー!いつでもお嫁いけるよー!」
「ははん! 褒めるな楓……美遊?」
「何やってんのよー! いいからあんたも座ってなさい!」
「ほほぅ? 私を侮っているな? 私は料理もできるぞ?」
「そういう意味じゃないわよ!」
「中華は火が命ってな!」
茜は親指を立てウィンク、自信に満ち溢れている
「あんた絶対調理場立ってはいけないタイプよ!」
「仕方ねぇなぁ、掃除するぞ」
腰を上げたのは橘
「橘さん、流石っす橘さん!」
協力的な者がいる事に美遊は感激する
「え?」
茜は首を傾げる、意味がわからないらしい
「あんたもやれぇ! この元凶めぇ!」
「そんなのマイケルにやらせとけ」
「マイケル?さっきからおとなしいね?」
楓に問われたマイケルはしっかり正座し、そわそわしている
「儂は幾分女性の部屋とは初めてでござってな……」
「はっはっは! マイケル!これが女性の部屋に見えるのか? どう見ても廃墟だろう!」
茜は手を叩いて笑い、有無を言わさず美遊は茜の頭部を叩く
「いった!? 何も殴ること無いだろう!」
美優に殴られた頭部を両手で押さえながら涙目で訴える
「いいから片付ける! あんたも手伝うの!」
「もうどっちが上かわからないでござるな……」
「ならいっそ部屋ごと消すしか……ごくり」
「だからなんでそうなるのよぉ!」
「おら! ちゃっちゃとやるぞ」
橘が喝を飛ばした、彼女は既に掃除に取り掛かっている、できる女だ
「すいませんね」
「美遊いいんだよ、こうなったの私にも原因があるみたいだしな」
「貴様は美遊のなんなんだ?」
「掃除終わったら教えるぜ」
「えぇ〜」
茜は剥れて駄々をこねる、これでも生徒会のトップである
「だからそこの面々も手伝ってくれよ、そこの侍」
「儂でござるか!?」
「本棚持ち上げてくれよ、雑巾はどこにある?」
「あぁ! 橘さん、それくらい私やりますから」
「美遊は他を片付けてくれ、床は私と侍がやるから」
「そうですか……なんかすいません」
美遊が雑巾を手渡すと橘は隅から拭き掃除を始める、やはりできる女だ
「むむ、どうも悪い輩には見えないでござるな」
「まだ疑うか? 素晴らしい忠義だな、だが私は敵じゃないぜ……と」
「御主は……」
「だから話は片付けてからだ、ほら」
「うぬ……承知でござる、これで大丈夫でござるか?」
「あぁ、ありがとう」
マイケルが本棚を持ち上げ、橘が床を拭く
「さーて! 楓もやるよー!」
「小さい嬢ちゃんは休んでな、痛むだろ?」
「小さいっていうなぁぁぁ!」
「悪い悪いとにかく安静にしてな」
「う……わかったよ」
橘の頼りになる笑顔が楓を大人しくさせた、不思議と逆らえない
「黒い嬢ちゃんも突っ立ってねぇで、物の整理しててくれよ」
「仕方あるまい」
茜は渋々片付けを始める
「すごい! すごいっすよ橘さん! こいつらを手懐けるなんて!」
「そうか? 物分かりのいい連中だと思うぜ? あ、このダンボール使っていいか? あとガムテープくれ」
「え? 別にいいですけど」
「そうか」
橘は箱状のダンボールを解体し、一枚の板状にし窓だった場所に貼り付ける
「よし、これで風は入らないだろう」
橘は拭き掃除に戻る、順調に部屋が片付いてきた
「さて、問題は扉でござるか…」
あらかた片付きなんとか人が生活できるレベルになったが問題は玄関、C4によって吹き飛んだ大きく歪んだ扉を一同が見つめ悩む
「直すのは骨が折れそうだな、黒い嬢ちゃんなんとかできるか?」
「私は壊すのが専門だからな、こういうのは岡部に任せたいが」
「そういえばあの二人まだ起きないわね」
「岡部だけ起こすか」
茜はやれやれとため息をついて洗い場に向かう
「何する気よ」
「まぁ見ていろ、人を起こすにはこれが一番だ」
水が流れる音、少しして茜はやかんをぶら下げて洗い場から出てきた
「最終警告だ片翼の堕天使、今すぐ起きろ」
「やかん?」
美遊は嫌な予感しかしない
「起きないか、そうか」
茜は岡部の鼻をつまみながら口を開かせ水を注ぎ始めた
※絶対に真似をしないでください
「うわぁ……えげつないわね」
「水責めなんて初めてみたよー」
「げばぁっ!? ぐふっ! かはっ!」
効果はすぐに現れた、岡部は水を吐き出しむせ返りながら上体を慌てて起こす
「おはよう岡部」
茜は笑顔だがこの行為は笑えない程危険だ
「会長!? 私は何を!?」
「それはどうでもいい、仕事だ」
「畏まりました」
岡部はすぐに対応し、茜に従う
「嬢ちゃん過激すぎないか? 眼鏡はそれでいいのか?」
「こいつらに疑問を持ったら負けですよ」
「おや?貴方は」
岡部が橘の姿を確認
「やぁ眼鏡、さっきは悪かったな」
「会長に手をだしたらタダじゃ済みませんよ」
岡部が銃を抜き、橘に銃口を向ける
「こいつは敵じゃない」
「畏まりました」
茜の一言で岡部は落ち着いて銃を納める
「見事な忠誠心だな」
橘は呆気に取られる
「本当にアホみたいね」
美遊も呆れる
「それで、これ直せるか?」
「ほぅ、これは派手にやりましたね」
「お前の作ったプラスチック爆弾がやった」
「無事起動できましたか、良かった良かった」
「良くないわよ!?」
岡部は扉だった物をまじまじと見つめる
「これは…無理ですね」
「すまん美遊! 無理だった!」
「岡部ができないなら無理だねー!」
「これは仕方ないでござるな」
「諦めんなよ!」
「とりあえずこの扉紛いの物をたて掛けとけ」
「適当だなおい!」
「苦労してるなお前、仕方ないな私の知り合いにリフォームできる奴がいるから、それまで我慢してくれ」
橘は煙草に火をつけ、煙を吐き出す
「流石です橘さん!どっかの破壊魔とは違いますね!」
「とりあえず解決だな、では話して貰おうか」
「いいぜ、部屋に戻ろう」
一同が廊下を渡り部屋に戻ると一つの異変が起きていた、紅葉がうつ伏せになって枕に顔を埋めている
「女子の匂い女子の匂い女子の匂い女子の匂いぃ!」
「「「…………」」」
暫くして顔を上げ恍惚の笑顔
「さいっこう!!」
「何しとるんじゃぁぁぁぁ!」
美遊が助走をつけ跳躍し、空中から強烈な肘打ちを背面に叩きこんだ
「愛が痛い!? ……は!? 美遊ちゃん! 無事だったのね! 嬉しいわ!」
「嬉しいわっじゃないわよ! 人の部屋で何してんのよ!」
「人の部屋? じゃあこれは美遊ちゃんの……ふんす! ふんす!」
「やめなさいよぉぉぉぉぉ!」
「いだだだだ!? ギブ! ギブよ!」
背面に座り両手で紅葉の顎を持ち上げた、ギリギリと背骨が悲鳴を上げ、首にも激痛が走る、ギブアップ宣告があったがそのまま締め上げる
「フラッシングエルボーからのキャメルクラッチ……見事だな」
「会長、放っといて良いのですか?」
「やらせとけ、それより貴様」
「そうだったな、座れよ話してやるぜ」
橘はあぐらをかき生徒会のメンバーもそれぞれ座る、美遊も紅葉を解放し戻ってきたが紅葉はうつ伏せでぐったりしている
「嬢ちゃん達生徒会なんだろう?」
「その通り我々は生徒会だ、美遊は私の部下であり……」
橘が話を遮り笑い出す
「はっはっは! 予想はしていたが美遊が生徒会ねぇ、面白い事になってやがるぜ!」
「だから教えたくなかったんですよぉ!」
「どういう事でござるか?」
「侍はこいつの過去知らないんだな」
「知っているのは私と岡部だけだ」
「ちょっと! あんたやっぱり!」
吠える美遊を橘が止める
「一応秘密にしてくれてたんだな、ありがとよ」
「なぜ貴様に感謝されなければならないのだ? 貴様は美遊の何だ?」
「美遊は私の元でやんちゃしていた、所謂元ヤンだ」
「元ヤンでござるか!?」
「そうさ、毎晩のように夜遊びと喧嘩に明け暮れていたぜ、侍以外は反応薄いな」
「なんとなく察してはいたからな」
この時楓が挙手する
「会長ー? 要するにこのおねーさんは美遊ちゃんとの昔のお友達で、美遊ちゃんは元ヤンキーってこと?」
「そういう事になるな」
「あんたらには感謝している、美遊に居場所をくれた」
「橘さんそれ以上は!」
「いいんだよ美遊、こいつはな私達の界隈じゃ有名だったのさ、強かったしよく無茶をしてな」
「それで?」
「ただ欠点はあった、人見知りで喧嘩以外では小心者、他人に声をかける事すらできなかったんだぜ」
「所謂コミュ障だな!」
「黙れや!」
「まぁ、私には姉御姉御ってついてきて可愛かったんだけどな」
「ほぉ?」
「へぇー」
「美遊殿が?」
「興味深いですね」
「ニヤニヤするなぁ!」
「これが私と美遊の関係だ、つまらん話だったな」
「美遊はなぜそれを隠したがる?」
「私が……元々そういう奴だって知ったらさ」
「我々生徒会が邪険にするとでも?」
茜の真っ直ぐな瞳に見つめられ、たまらず美遊は目を逸らした
「だってさ、生徒会よ? 私が生徒を束ねる存在になれる筈がないわ……」
それを聞いた橘が少し乱暴に美遊の頭を撫でる
「お前は昔からそうだな! 小さい事を気にしすぎなんだよ、それに何も気にする事はないぜ、やっと私から離れられるんだしこの嬢ちゃん達がいるじゃないか」
「それ私が言おうとしたんだが……」
「そんな! 寂しいこと言わないでくださいよ!」
「大丈夫だよー! 楓達は美遊ちゃんを邪険にしたりしないよー!」
「楓先輩……」
「そうでござるよ、儂等は皆集まって生徒会でござる」
「不足分は私達でサポートしますよ」
「皆、どうして……」
「どうだ? 生徒会はお前を仲間として歓迎している、学園に戻るか?」
「その……」
「行ってこいよ美遊、楽しい高校生活憧れてんだろ?」
橘はニカッと笑う、何度も美遊を助けてくれた笑顔、何度も美遊を後押ししてくれた笑顔がそこにはあった
「姉御は……」
「はっは! またしょげんのかお前は」
「ともかく美遊は学園に戻す」
「そうだな、任せるぜ嬢ちゃん」
「あのー! 私も質問いいかなー?」
「ん?なんだい?」
橘は楓に微笑みかける
「あの怪力女なんだけどさ」
「怪力女?」
「千夏さんですよ、私も会いましたがあれは尋常じゃありませんでした」
岡部が眼鏡を上げながら補足する
「千夏も同じ学校なのか? それじゃあまさか、嬢ちゃん千夏の今回のお気にか? 確かに体の痛み方が一致するな」
「えぇ、楓先輩は千夏の被害者です」
橘は笑顔で楓の肩に手を乗せる
「耐えろ」
「それだけー!?」
「千夏に悪気はないんだ、許してやって欲しい」
「私の主に骨がもたないよー!」
「安堂千夏、何者なのだ?」
茜も話に加わる、千夏に関しては興味があった
「千夏はな、普通に生活したいだけなんだ、ただ力が強い女子高生さ」
「あれは強いってレベルじゃないよー!」
「自覚無いから何を言っても無駄なのよ、私も何度腕折られかけた事か……」
美遊はため息をついて右腕を摩るが、さらりと異常な発言だ
「千夏に関しては私より美遊の方が詳しいぜ、私に美遊が付いてきて美遊に千夏が付いてきたような物だからな」
「千夏はちょっとばかし筋力が異常でアホなだけの友人よ、それ以上は何も無いし、敵に回るような事は絶対にないわ、それにこれ以上調べても何も出ないわよ」
「そうか、腑に落ちないが良しとするか」
「では、やはり千夏さんは美遊さんの過去を知っていた……という事ですね」
「そうだけど、どうかしたの副会長?」
「いえ、何でもありませんよ」
(本当は不器用なだけの優しい方なのかもしれません、2度と対面したくないですが)
「じゃあ千夏ちゃんは風紀委員に入って貰おうかしら」
「「「!?」」」
ベッドの上で紅葉が華麗な復活を成し遂げていた
「かわいくて強いなら、風紀委員は大歓迎よ」
「黙っていろレズ」
「会長さんは恐れているのね」
「は?」
「なぁ、美遊あの赤い嬢ちゃんは……」
「私にもわかりませんよ」
美遊は目を逸らし返答を拒否
「なぁ赤い嬢ちゃん、恐らくだが千夏は風紀委員とやらにはいかないと思うぞ?」
「あら、貴方が姉御?」
「そうだが…胸を注視するのやめてくれないか?」
「失礼、千夏ちゃんは風紀委員に来ないってどういう事?」
「貴様の様な変態が嫌だからに決まっているだろう」
茜がすかさず毒を吐く
「いやいや、千夏は美遊にべったりだからな、それに風紀委員なんて真面目そうな所にあいつが行けるはずが無いさ」
「そうだ、それに無理な勧誘をしてみろ、処刑対象にしてやる」
「ま、無理に勧誘はする気は無いわよ、私の主義じゃ無いし」
紅葉は伸びをしながらぼやく
「私からの話はこんなとこだな、美遊は明日から学校に行け」
「学校は別にいいんですがね…」
この時橘の携帯が鳴る、着メロとかでは無く黒電話のシンプルな呼び出し音が響く
「すまんな」
そう言うと携帯を開き、席を外し廊下に出て行った
「折りたたみ式だったな」
「それはどうでもいいでしょ!?橘さん機械苦手なのよ……」
廊下から橘の声が聞こえてくる
「あ? 侍? 訳のわからねぇ事言って……!あぁ、侍か、居るな確かに……あぁ、はいはい解ったぜ」
話を聞いていた一同
「明らかに儂の話をしているでござる」
「派手にやったからね」
橘の電話が続く
「それより扉の修理頼みたい、あと大窓も、あ? 怪我して無理? 知るかよ! 美遊の家の扉だ、住所送るから、あぁ…そうだ、いいな? だから!侍はもういいって言ってんだろうが! そう、そこだから頼むぜ、切るぞ」
橘が部屋に戻って来て所定の位置に胡座をかく
「すまないな、騒がしかったかい? 明日に扉修理させるから」
「ありがとうございます」
「いや、構わ無いさ」
茜がポケットから笹かまを取り出して咥えている
「なぁ、侍」
「な、何でござろう!?」
「そんな硬くなるなよ、私の部下とやりあった侍ってお前さんだろう?」
「いかにも、そうでござるが」
「そんな顔するなよ! あいつらがどうせふっかけたんだろ? それにお前さんには負けて当然だしな! その腹の傷はうちの奴らにやられたんだろう? 悪かったな」
橘が頭を下げる、きっちり部下のけじめをつける出来た人物だ
「頭を上げて欲しいでござる! 儂もちょっとやり過ぎてしまったでござる、それに一番被害受けたのは紅葉殿でござるよ」
「私はもうそんな事忘れてしまったわ」
紅葉が目を逸らす、特には茜なんかにあの事を知られたくない
「赤い嬢ちゃん…怪我したか? うちのがすまない! 後でみっちり締めておくから!」
「いえいえ、大丈夫よ怪我とか無いし」
「しかし泣いていたでござる」
「馬鹿猿!!」
「は? 泣いたの? お前泣いたの?」
茜は聞き逃さなかった、一番聞かれたくない奴に情報が流れてしまったのだ
「泣いてない! 泣いてないわよ!」
「悪かった! 嬢ちゃん私を殴れ、気の済むまで!」
「いやいいわよ! 怪我とか無いから!」
「マイケル詳しく」
「肩を抱きながらこうガタガタと震えていたでござる」
「糞猿! やめ…‥」
「嬢ちゃん殴れ! 殴ってくれ!」
それぞれの意見が食い違い部屋の中が大騒動である
「委員長は泣き虫さんなんだな、ぷぷっ! いいと思うぞ? これから少し手加減してやらんとなぁ、はっはっは!」
茜は笑いを堪えられない
「ちょ! 殺すわ! ぶっ潰すわ!」
「できるものならな! 泣き虫の貴様にはできないだろうがな! ぷくく…!」
「まぁまぁやめなさいよ、バ会長もいい加減にして! やるなら外でなさい! それと橘さんもいい加減頭を上げてください!」
美遊が喧嘩を止めに入った、これ以上部屋を壊されてたまるか、その思い一つだった
「美遊ちゃん保護者みたいだー!」
楓はけらけら笑いながら喜んでいる
「はい、皆さんもう夜ですので騒がないでくださいね」
岡部も止めに入る
「岡部も保護者みたいだー!」
「そういえば腹が減った」
茜が思いついたように呟く
「なら、そろそろ帰りましょう、美遊さんも今日は疲れていますよ」
「副会長だけはまともで良かったわ!」
「え? 私今日泊まるが?」
茜が当然の如く答える
「帰れよ! 頼むから!」
「寝巻き、貸してくれよ?」
「なにその笑顔!? 話を聞いてよ!」
「じゃあ私楓も泊まるー!」
「楓先輩!?」
「生徒会がいるのは不服だけど、しかたないわね」
「あんた風紀委員だろ!!?」
「今日は酒盛りだぜ! あぁ、私しか飲めないのか残念だな」
「橘さんまでおかしくなったら、ここはお終いっすよ!?」
「ぷっ! くくく! はっはっは!」
茜が笑い出し、それに合わせて皆笑い出した
「何よ! 何なのよぉ!」
「なんでもないさ、それじゃあ総員撤退だ!」
「「「おー!」」」
生徒会のメンバーは各自立ち上がり、玄関の扉だった物をどけて出て行く
「美遊ー! 明日学校でなー!」
茜が最後に叫び出ていった
「さて…私も帰るわね、じゃあね美遊ちゃん」
「あ、うん」
紅葉も腰を上げ手を振りながら出ていった
「美遊ー、愛されてんなぁ、何かあったら相談しろよ? 急にいなくなるのもダメだぜ!」
「ありがとうございました」
「じゃあな」
橘は優しく背中を叩いてから出ていった、全員出て行き部屋には美遊1人になる、急に訪れる静寂
「あ、カーテン」
美遊は立ち上がり大窓のカーテンを閉める、窓はダンボールが貼り付けられ風をしっかり防いでいる、振り返り部屋を眺めた
先程までうるさかった部屋とは思えない静寂と孤独が部屋を包み込んでいた
「まったく、好き勝手やり過ぎなのよ」
ベッドに仰向けに倒れ込み天井を眺める、白い天井と静寂に意識を奪われそうになる
『生徒会はお前を仲間として歓迎している』
茜の言葉が脳を過る
「仲間か……あ! そうだ」
慌てて携帯を取り出し、電話をかけると静寂の中に呼び出し音が響く
「もしもし」
「わぉ! 美遊っちからかけてくるなんて珍しいね! どしたの?」
電話の相手の千夏は驚きの声を上げている
「なんか、部屋が静かでさ」
「どゆこと?」
「やっぱりなんでもないわ、明日から学校行くから」
美遊は今回の被害を奇跡的に回避していた熊のぬいぐるみを抱き寄せる
「おぉー! 皆待ってるよ!」
「そう」
「ねぇ美遊っち」
「何?」
「生徒会楽しそうだね」
「は? な訳ないでしょ」
「いやいや楽しそうだよ、あんなにイキイキしてる美遊っち中々見れないよ?」
「ははっ何よそれ、イキイキしてないわ、どいつもこいつも変な奴よ」
ぬいぐるみと見つめ合いながら軽く笑う
「今日ね、生徒会のかわいい子と眼鏡のおにーさんに会ったんだよ」
「副会長に?」
「うん、あの人副会長なんだ、それでね? 必死に美遊っち探してたよ、かわいい子も多分そうなんだと思う」
「あいつらが…」
「中学の時の事、気にしてるの?」
「ちょっとね、あの頃の私は最低だったから」
「優しかったよ? 気にすること無いんだよ!」
「あんたは能天気でいいわね」
「酷いなー、そうだ! それとね! 緊急事態なんだよ! 橘さんがこの街にきてるの!」
「うん、知ってる今日会ったわ」
「なんだー! 知ってたのか、美遊っち橘さんのこと大好きだもんね」
「ちょっと馬鹿! 何それ!」
ぬいぐるみを倒してしまい、また優しく抱き寄せた
「橘さんね、私に会っていきなり、千夏! 美遊を知らないかぁ!って凄かったよ? 皆さ美遊っちの事を気にかけてる、自分ダメなんだとか絶対に思っちゃダメ」
「まさか千夏に説教されるとはね」
「もー! 真面目な話なんだから!」
「そうねありがとう、ちょっと元気出たわ」
「良かった!」
「それじゃあまた明日ね、今更登校するの気が引けるけどね、行かなきゃだし」
「はいさー! おやすみ!」
「おやすみ」
電話を切るとまた静寂が訪れる、いつも通りの筈がどこか落ち着かない、これが寂しいという感情なのか
(アホくさ、お風呂入ろ)
浴槽に湯を張りしばらく待機、テレビをつけても何かが静かだ
「さてと」
脱衣籠に雑に衣服を脱ぎ捨て、鼻歌混じりに頭を洗う、泡を洗い流し鏡を見ると紛れも無い自分が写っている、少し寂しげな表情をしているのが解ってしまう
『自分がダメなんだとか絶対に思っちゃダメ!』
「千夏….」
体も隅々まで丁寧に優しく洗いあげ浴槽に入る、今日の疲れを風呂が癒す一日の疲れが抜ける感覚が猛烈に眠気を誘った
浴室から出て、湯浴み一枚で部屋に戻り髪を乾かす、テレビでは今日の出来事を淡々と報道しついた、パジャマに着替え暖かいココアを飲み一息ついた
「本日大掛かりな喧嘩がありました、怪我人も発生、警察の到着した時には全員逃走した模様です」
(喧嘩かぁ…うわ、ここの近くじゃない)
そんな事を思いながらテレビをぼんやりと眺めていると、目撃者のインタビューVTRが流れる
「驚きましたよ! 不良達と侍の喧嘩ですよ!?」
「かはっ!? けほっ!」
美遊は不意の発言にむせた
(確実にマイケルじゃない、何やってんのよ)
インタビューは続く
「最初は何かの撮影かと思ったのですがね、スタッフも見当たらなくて、おかしいなって思って通報したんですよ」
「そりゃするわね…同じ立場なら私も絶対するわ」
テレビに力なくツッコミを入れる
(もういい、疲れたわ)
テレビを消し、歯を磨き寝支度を始める、もちろん何事もなく消灯した、暗いと余計静けさが増す、目を瞑り布団に身を任せ美遊は眠りへと誘われていく
不意に茜の事を思い出す
(夢の中にまで出てくるのね)
くすりと笑いそのまま眠っていた