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処刑4 決闘

 美遊は我に帰り慌てて部屋に入る


「たたた橘さん!? 何してるっすか!」


 美遊に橘と呼ばれた女は無邪気な笑みを浮かべる

「何硬くなってんだよ、昔みたいに姉御って呼んでくれよなぁ」


「とにかく! なんでここにいるんすか! 私の住所とかどこで調べたんです?」


「後をつけたぜ!お前中学卒業してから急に姿消すんだもんなぁ、目撃情報集めんの苦労したぜ、ここ一週間くらい尾行させて貰った、ほら! サプライズ?」

 橘は満面の笑みで答えた


「サプライズしまくりっすよ!じゃあどうやってここに入ったんですか!鍵は!?」


「壊してから直した!」


「なんて素晴らしい笑顔!?」


 橘は真剣な顔つきになり煙草の火を消した


「お前、気をつけろよ?」


「はい?」


「変な奴らに後つけられてたぜ? 私達がいなかったら今頃どうなっていたか」


「橘さん達の事じゃ?」


「ちげぇよ」


 美遊は呆れ顏を見せながら呟く


「まぁ大体想像はつくんですがね、めんどくせぇ連中ですよ、今お茶出しますね」


 美遊が立ち上がった瞬間、大きな爆発音が響き玄関がぶち破られ、扉だったものは大きく歪み廊下に吹き飛んだ


「何ぃぃぃ!?」


「手を頭上に組みひれ伏せ! 生徒会だぁ!」


 茜の登場である


「めんどくせぇの来ちゃったぁ!? 何ドア破壊しちゃってんのよ! 大家さんに怒られるの私なのよ!」


 久々に見る美遊の姿に茜は安堵の息を漏らす


「美遊、無事だったか」


「何しに来たのよ! てかどうやってドアぶち破った!」


「これか? 凄いだろう! 岡部作簡易式プラスチック爆弾!」


 茜が小型のリモコンを見せる


「C4かよぉぉ!? じゃなくて! 周りに被害は出てないでしょうね!」


 それを聞いた茜が胸を張る


「生徒会を舐めるな! タイミング悪く出てきた隣人が重症なだけだ!」


「お隣さぁぁぁん!」


「私か? 私は離れたところで伏せてたから平気だ!」


 ふふんと茜は鼻を鳴らす


「あんたはどうなってもいいわい!」


 騒ぎを聞きつけた橘がゆっくり立ち上がり指を鳴らしながら歩いてくる


「よぉ嬢ちゃん、私の可愛い可愛い美遊に何してくれてんだ?」


「こいつが噂の金髪か」


 茜と橘が対立し向かい合う


「落とし前つけてもらうぜ!」


 橘が拳を振るうが、茜の顔前でそれは止まる


「待ってくれ、今メール中」


 茜は橘を無視して携帯をいじっている、緊張感なんてものは存在しない


「なっ……!? メールなら仕方ないな」


「いいんですか!?」


 茜はメールを打ち終わり、携帯を制服のポケットにしまい橘を指差し高らかに叫ぶ


「待たせたな! 私の部下、永遠咆哮エターナル・ロアに手を出した罪、重いぞ?」


「なぁ、美遊この嬢ちゃんは何を」


「ただの馬鹿です、とにかくやるなら表出てください」


 美遊が受け流し、外に二人を出そうとした時


 廊下の先、先程まで美遊達がいた部屋の大窓が割れ、何者かが部屋に転がり込んで来た


「会長! ご無事ですか!」


 片翼の堕天使、岡部である


「せめて玄関から来いよ! なんであんたら壊す事しか考えてないのよ!」


 美遊の怒りがこみ上げてくる


「岡部! こいつが親玉だぁ!」


「くそっ! 仲間を呼びやがった!? いつの間に!」


「どう考えてもさっきのメールでしょう!」

(橘さんもアホなのかな?)


「こりゃあ全力で行かなきゃやばそうだぜ」


 橘が煙草に火をつけ煙を吐き出す


「やる気のようだな! 生徒会の力見せてやろう!岡部!」


「承知!」


「「処刑執行!!」」


「いいから外でろぉぉぉぉぉぉお!」


 その頃


「ここは!?」


 楓が目を覚ますと、知らない空間にいた、見知らぬ部屋だ、薬臭いが清潔感に溢れている、知らない女性が楓を見て目を見開いた、姿からして看護師のようだ


「あら? あらあら! 先生! せんせーい! 急患が目を覚ましました!」


 女性は大慌てで部屋を出て行く


「ここは、病院?」


 楓は首を傾げる、ここに来るまでの記憶が無い、しかし自分は重症を負っているのは解る、身体には治療の跡が見受けられていたのだ


「いたっ!?」


 少し身体を動かしただけで激痛が走る


 程なくして初老の男が姿を現した


「君! 目を覚ましたんだね! 奇跡、まさに奇跡だ!」


「えと……」


 楓は男を見上げ口ごもる


「まだ身体痛むだろう? あぁ、失礼私はここの院長だ」


「はぁ…」


「田原さん、だよね?」


「なんで、楓はどうして病院に?」


「眼鏡の男の子が君を連れてきてね、君の名前だけを伝えて出て行ったよ」


「眼鏡? 岡部か」


 院長は楓が寝ているベットの隣に椅子を置き腰掛ける


「君は上半身の骨が殆どヒビが入っていてね、事故にでもあったのかい?」


「事故……? ちょっと今日一日の記憶が無いんだよ」


 楓は俯きながら呟いた


「そうか、制服から身元は解ったからさ、誰か連絡先解る人いる?」


「えと、楓の荷物はどこー?」


「それらしいものは無かったよ、携帯電話はあったけど」


 院長が携帯を手渡す、良かった壊れてはいないようだ


「まずは岡部に聞けばわかるよね」


 楓が岡部に着信を入れるとすぐに対応してもらえた


「楓さん、良かった回復したんですね」


「うん、ねぇ楓は……」


「少々お待ちください、今取り込み中でして」


 電話越しに風の音が聞こえる、岡部はどうやら外にいるようだ


「何してんの?」


「決闘準備です、終わったらこちらから連絡します」


 その言葉を最後に電話が切れた


「決闘? あれ、切れちゃった」


「何かわかったかい?」


 院長が優しく問いかける


「私の友達が、決闘準備してる事しかわからなかったよ」


「決闘?」


「よく解んないや、そうだ会長にかけよう」


 しかし茜は電話にでない


「あっれー? なんでー?どうしよう美遊ちゃんの連絡先知らないし、マイケル携帯無いしなー」


「みんな忙しいんだね」


 院長が気まずそうに話した


「あ」


 楓が連絡帳を漁っていると【レズ女】の文字が


「いや、辞めとこう」


 楓はそっと携帯を置き、ため息をついた何やら廊下が騒がしい


「おや急患かな、じゃあゆっくり休んでね私はこれで失礼するよ」


「ありがとうございます」


 院長が腰を上げ出て行く、楓は礼を言い頭を下げた


 しばらくしても廊下の騒ぎは治らない、むしろ近づいてくる、どうやら男女がこの病室に近づいているようだ、声がはっきり聞こえるようになって来た


「駄目でござる! 病院で走っては駄目でござる!」


「うっさい! 楓ちゃんが急患で運ばれたのよ! 黙ってられないでしょ!」


「しかし! なんでそんな早く走れるでござるかぁ!」


「愛よ! 楓ちゃぁぁん!」


 病院の扉が勢い良く開かれる、姿を現したのは赤髪の女と侍


「かえれー」


 楓は笑顔で毒を吐く


「あらあら、目覚めていたのね、せっかく愛のキッスのチャンスだったのに」


 紅葉が親指の爪をいじらしく噛む


「楓殿! 良かったご無事でござるか」


 遅れて院長が戻ってきた


「お友達だったんだね、じゃあ後はお願いしようかな」


「えぇ! 任せてください! 手取り足取りねっとり看病しますわ」


 紅葉が目を輝かせる、これはやる気や責任感では無く純粋な、純粋過ぎる下心だ


「おや、君も怪我してるね、こっちに来なさい」


 院長がマイケルの傷口を見つめる


「儂は大丈夫でござるよ?」


「上手い止血だがこのまま黴菌入ったら大変だ、来なさい」


「そうでござるか……ではお言葉に甘えるでござる」


「ちょっとマイケル! 楓をこいつと2人にしないで!」


 楓が必死の懇願するがねっとりとした手つきで紅葉が頭を撫でてくる、鳥肌が止まらない


「大丈夫よ楓ちゃん、だいじょーぶ」


「あんたほど信用ない人は中々いないよ!」


 楓はマイケルを止めようとしたがすでにマイケルの姿は無く、望みが断たれてしまった


「マイケルゥゥゥ!」


「大丈夫、あんな猿いなくても」


 紅葉がそっと楓の隣に座り肩に手を乗せ、優しく抱き寄せ、頭を預ける


「え…?」

(意外に優しい)


「大丈夫、私がついてるから」


 耳元で紅葉が囁くと鳥肌が総立ちし、本能が訴えかけてくる、こいつはやばいと、予感は的中した、紅葉の手が肩から首裏を渡り鎖骨に移動する


「ひっ!?」


「二人きりだね」

 紅葉が頬を染め、楓の鎖骨を撫で回す


「や、やめて!」


「私おまじない知ってるのよ? 怪我によく効くおまじない」


「はぇ?」


 紅葉の手が鎖骨から首を渡り顎に添えられ、軽く持ち上げる


「ちょっと!」

(まずい! このポージングはまずいよ!この人ガチだよー!)


「はぁ……はぁ……楓ちゃん、楓ちゃん」


「息あがってるよ! やばいよ!」


 抵抗しようにも体に激痛が走り力が入らない

 紅葉の顔が徐々に近づく


「ちょっ! ほんとに! やめっ!!」


 楓は無抵抗で涙ぐむことしかできない


「なんてね」

 紅葉がクスリと笑い顔を離す


「え?」


「貴方はあの会長さんの部下でしょう? 見てない所で横取りなんてできないわ」


「レズ女……」


「だからこれで今日は勘弁してあげるわ」


 そう言うと紅葉は楓の額に口付けする


「ひゅっ!?」


「あらあら、額のキスは友情の儀式よ?」


 満足気に紅葉は笑う


「何してんのさー!」


「とにかく、安静にしなきゃいけないわ、重症なんだから」


「私どうしたんだろう」


「さぁね、外傷無しで骨だけ亀裂入るなんて異常よ」


「そうだよねー、そういえば何でここに?」


「あの猿、いや侍があの通り作戦中に怪我しちゃってね、それで病院連れてきたら、私と同じ制服の女生徒が搬送されたって看護師さんから聞いたのよ」


「そうなんだー、あれ?マイケルのためにそこまで?」


「ちょっとした礼よ、それはただ……」


「あれ?作戦?」

 楓は考えた、何かを思い出しそうだった


「どうしたの?美遊ちゃん奪還作戦よ?」


「作戦……作戦? 美遊ちゃん? 何だっけ、何だか重要な…」


「ちょっと楓ちゃん? スーパーで何かあった?」


「スーパー? スーパー! 思い出した! 私は! 私はあの怪力女に!」


「怪力女?」


「あの怪力女、確か……」


 楓は思い出した


 千夏は話していた、金髪の女についてぼやいていたのだ、楓に語りかけるように


 朦朧とする意識の中、千夏の言葉を聞いていた、その中に覚えている言葉がある


 スーパーで気を失いかけている楓に語りかけていた千夏の言葉


『橘さんに勝てる人なんて存在しないんだよ、だからさ、君も金髪のおねーさんには気をつけなきゃだめだよ?あれ?聞いてる?おーい! 寝ちゃったかな』



 その時の状況を思い出し、楓は我に帰る


 茜が負ける人間なんかいない、楓は思っていた


 しかし予感がする


 楓は茜の人間らしい部分をよく見ていた


 すぐ調子にのって

 感情的になりやすくて

 影ではこっそり傷ついて

 何より自らを犠牲にする事を躊躇わない優しい人


 誰よりも人間らしい茜、だから思ったのかもしれない


 茜が危ない


「ちょっと!? 楓ちゃん!」


 紅葉の言葉に楓が反応する


「嫌な予感がする! 紅葉先輩! 大至急マイケルを連れて作戦4エリアの先に来て! 私は先に行ってる!」


 楓は制服の上着を羽織り走り出す


「ちょっとどこ行くのよ!」


「会長のところー!」


 楓はバタバタと病室を飛び出した


 呆気に取られた後、楓はクスリと笑みを漏らす


「やれやれ、手のかかる後輩ね、でも『紅葉先輩』か、ふふふ! かわいいじゃない」


 紅葉はゆっくり立ち上がり病室を出た


「君! 何をしている!」


 廊下に出た楓はすぐに医師に止められてしまう、見るからに若い、配属されたばかりのようだ


「どいて、どいてよ…」


「確か102号室の急患だね、安静にしてなさい、まだ痛むだろうに」


「だめだよ、待ってる人がいるんだ」


 楓は意地となって医師を睨みつける


「そんなムキにならないでおくれ、病室でゆっくり……」


「邪魔だよ」


 楓は呟くと手探りで愛武器を探す


「どうしたんだい?」


「無い! 楓のスターが無い!!」


 楓は動揺した、今まで常に持ち歩いていた愛武器が無いことに気づき楓はパニックを起こす、モーニングスターは鎖で鉄球を繋いだ武器だ、重量もあり持っていればすぐに気がつく、楓は辺りを探し回ったある筈も無い上着の下も、最終的にはスカートの中まで確認するがやはり無い、いつもは手に握りしめている筈なのに


「スターをどこにやったの!?」


「ちょっと君! なな何を!? はしたない!」


「スターを返せぇぇぇぇ!」


 しかし体に激痛が走り楓は蹲る


「ほら、痛いんじゃないか、病室に戻りなさい」


「くっ……ぅうう」

(痛い、なにこれ痛いよ!)


 痛みは当然だ、上半身の骨に亀裂が入っているのだから


「ほらほら、大人しく戻ってね、いい子だから」


「は?」


 楓が激痛の中医師を睨み上げる


「え?」


「いい子? 私が? いい子? ふふふ、ふはは!」


 医師は突然笑い出した楓に戸惑っている


「楓は女子高生だぁぁぁぁ! 子ども扱いするなぁぁ!」


 医師は無意識に地雷を踏み抜き楓が怒りはメーターを振り切る、自身のコンプレックス、身長の低さから子ども扱いされる事をやたら嫌う


 医師はまさに配属されたばかりの新任であり、さらに遠方から来ていたために制服で高校生と見分けられず、せいぜい中学生くらいだと判断してしまったのだ、まさか高校二年生とは思わなかった


「ひ、ひぃ!?」


 楓の気迫に押される、騒ぎを聞きつけ人が集まってきたが楓は全身の痛みを遮り特攻を仕掛ける


「そこまででござるよ」


 楓の腕を引き、暴走を止めたのはマイケル


「離して! そいつは!」


「落ち着くでござるよ、お医者さんを病院送りにしてどうするでござる」


「楓ちゃん、これでしょ?」


 紅葉がモーニングスターを持ってきた


「スター!」


「落し物にあったわ、得体が知れ無いから処分されかけてたけどね」


 紅葉がモーニングスターを手渡したが、受け取ったが体に負荷がかかり全身に激痛が走る


「痛いっ!?」


「楓殿、やはり病室に戻るでござるよ」


「嫌! 楓も会長の所に行くよー!」


 楓は膝を折らなかった、激痛に耐え堪えている


「猿」


 紅葉がマイケルに目配せする


「儂は猿ではござらんよ」


 マイケルがニヤリと笑い楓を背負う


「ちょっとちょっと!」


「はっはっは! 楓殿は軽いでござるな!……ぐぬぅ!?」


 楓はすかさずマイケルの首を絞めた


「それどゆこと?」


 いつもの如く笑顔である、楓はすぐに手を緩めた


「まぁいいや会長のとこに急いで、ある程度の痛みなら我慢するから!」


「承知でござる!」


「その、楓ちゃん?」


 紅葉が口を開く


「何?」


「やっぱり私が肩車を、ね?」

(楓ちゃんの太ももを堪能したい……猿にはもったいないわ)


「行くよー! マイケル!」


「しっかり掴まってるでござるよ!」


 二人は病院を出た


「ちょっと待ってよ!あぁ、治療費は生徒会につけといてね」


 紅葉が医師に言い捨て後を追いかける


 その頃美遊のアパート付近では茜達は外で激戦を繰り広げていた


「っち…化け物か」


 茜は追い詰めらていた、岡部は既に戦闘不能になり仰向けで倒れている、橘と呼ばれていた女は予想を遥かに超えた人物


「なんだ嬢ちゃんへばったか? おい」


 橘はへらへら笑いながら近づく


「ここまでやる奴は久しぶりだな」


 茜は何故か嬉しそうだ、それもそうだこれ程の相手滅多に出会えない


「あ? 余裕そうだな」


「橘さん、そろそろいいんじゃないでしょうか?」


「よせ美遊、これは生徒会の意地をかけた闘いだ、それにこいつは気に入ら無い、何故美遊に敬語を使わせている! 私には敬いも何も無いのに!」


「そこかよ!!」


「立て岡部」


「畏まりました」


 茜の命令により岡部はゆっくり立ち上がる、岡部を動かす原動力は茜に対する忠誠心のみである


「私は優しく無い、無理でも闘え」


 茜の指示に岡部は無言で頷く


「ほぉ? そっちの眼鏡もやしはまだ立つか?」


 橘は首を鳴らし迫ってくる


「私に策がある、奴の動きをまず封じる」


「ですがどうやって」


「発砲を許可する」


「なーにごちゃごちゃ言ってんだよ」


 橘が茜に殴りかかったその時、銃声が鳴り響く、岡部の放った銃弾は橘の左頭部に命中、橘はそのまま倒れた


「橘さぁぁぁん!」


 おかしい、頭部を撃ち抜いた筈が出血どころか目立った外傷が無い、ショックで意識を失った様だ


「美遊さん大丈夫ですよ、言ったでしょう?本物に限りなく近い偽物だと」


「よくやった岡部」


 茜が迅速に動き橘に首枷をつける、両手を首と一つの木の板で拘束した


「もう辞めて……辞めなさいよ」

 美遊が茜の腕を抑える


「美遊、私は優しく無い」

 茜は寂しげに呟き作業を続ける


「……!?」


 岡部が美遊を羽交い締めし遠ざける


「辞めて! 橘さん! 橘さん…… 目を覚まして! 姉御ぉぉぉぉ!」


 美遊が力の限り叫ぶ


「ってぇなぁぁ!」


 橘は意識を取り戻し茜に噛みつこうとするが、首枷のせいでうまく動け無い


「ははっ! 回復が早すぎる、化け物め! だが勝負あったな」


 茜は笑いながら何かを取り出した


「あれは! 苦悩の梨!」


 美遊には見覚えのある器具だった、茜がマウントを取り脚の動きを封じる


「ぐがっ!?」


 苦悩梨を橘の口へ突っ込む


「どうだ? これが拷問だ」


 ギリギリとぜんまいを回す、すると苦悩の梨は形を変えてゆく、ぜんまいを回す度梨が開いていくのだ


「ごが!?」


「はははっ!このままいけばお前の口は原形を留めず、下顎を粉砕する……!?」


 茜の手が止まる、ぜんまいが回ら無いのだ


「ぐっ……があああ!!」


 橘が必死に苦悩の梨に噛み付いて開くのを阻止している、常識では考えられない顎の力で橘は苦悩の梨の動きを封じている


「ぐぐぐぁぁぁぁ!」


 そしてそのまま噛み砕いた、鉄の破片が散らばる


「馬鹿な! 苦悩梨を噛み砕いただと!? 化け物め」


「なめんじゃねぇよ、私はウルフと呼ばれていた女だぜ?」


 橘が苦悩梨の欠片を吐き捨て、挑発の笑みを見せ、そのまま身をよじり茜を振り払う


「……っち」


 茜が距離をとりながら体勢を直す、橘も体のバネを生かし立ち上がる、首枷のハンデを物ともしない


「さぁ、続きといこうじゃないか」


「待って! いい加減にして!」


 美遊が叫び二人の動きが止まる


「副会長離して、暴れ無いから」


「離していいぞ岡部」


 茜の指示に従い岡部は美遊を解放した


「あんたらぁ! 話聞きなさいよぉ!」


「「「は?」」」


 話は決戦前に遡る、アパートの廊下で二人の女が睨み合っていた


 扉は大破、窓も割れひどい有様である


「あんたは美遊のなんだ?」


 茜が腕組みしながら問う


「昔世話になっていた人よ、知り合いだから! だからここで暴れないで!」


 美遊の必死の訴えを無視して会話が進む


「あ? 何でもいいだろ? お前らこそ何なんだよ、私のかわいいかわいい美遊に何のつもりだ? あ?」


 橘は煙草を咥えながら睨む


「橘さんも! ちょっと待ってくださいって!せめて外出てください!」


 美遊は蚊帳の外、誰も気にかけてくれなく話が勝手に進んで行く


「やるしかないようだな、岡部」


「承知」


 岡部がグロッグを構える


「おうおう眼鏡、チャカ何て持ってんのかよ」


 橘はヘラヘラしている、余裕を見せつけらた


「だからぁ! 争うなって! 橘さんは知り合いだし、あんたら生徒会の目的は何よ!」


「兎も角表出ろよ」


 橘が親指で外を指す


「ふっ……懺悔の時間はやらんぞ? 残るのは後悔だけだ、誰だか知らんが私の部下に手を出したらどうなるか教えてやる」


 茜はニヤリと笑う


「だから、あの……ちょっと話を……」


 三人は外に向かう、美遊の話を一切聞かずに


 その事を今聞いた三人に流れる沈黙、そして、同時に口を開いた


「「「は?」」」」


「だから言ってるでしょ! 橘さんは私の知人!」


 美遊の叫びに茜は首をかしげ橘を指差す


「でも、この女殴ってきたぞ?」


「美遊に近づく不埒な輩は私が成敗してやるぜ」


 橘が指を鳴らす


「貴様が美遊に手を……あれ?」


「お前らがつけまして、あれ?」


 二人はお互いを見つめ合い首をかしげる


「だから、最初から争う必要は無かったのよ」

 美遊は深いため息をつく、思っていたより皆アホだった様だ


「何故それを先に言わない?」


 茜が腕組みしながら片眉をあげる


「言ったわよ! 説明したわよ!」


「だけどよ美遊、じゃあこいつら何なの?」


 橘が茜を指差し、美遊は恥ずかし気に説明を始めるが


「その……学校の」


「我々は生徒会だぁ! 美遊を連れ戻しに来た!」


 茜が高らかに叫び説明を止めた


「生徒会が美遊に何の用だよ、不登校も美遊の自由だろうが」


「そうはいかないですよ、美遊さんは我々の……ぶ!?」


 美遊が説明中の岡部を殴り飛ばす、数メートル吹き飛び撃沈


「美遊は私の部下だ」


「は?じゃあ美遊は今……」


「会長ー!」


 不意に女性の叫びが聞こえて振り向くと

 小柄な女性を背負った侍がこちらに向かってきていた


「マイケル! 楓!」


「良かった無事でござったか」


 遅れて紅葉も息を切らしながら到着


「この侍速すぎ……」


「なんだ生きてたのか」


 茜が紅葉を確認して嫌そうに呟く


「相変わらずね、会長さんは」


「マイケル、降ろして」


「楓殿、怪我は大丈夫でござるか?」


「大丈夫だよ、それより例の女ってあれでしょ?」


 楓が橘を指差す


「やや! あれが奴らの姉御でござるか!」


「え? こいつら何?」

 橘は生徒会を指差し美遊に疑問の表情を見せる


「はは、なんなんでしょうね」

(めんどくせぇの全員来ちゃったよ)


 美遊は力なく笑った、もうどうにでもなれ


 楓は足を震わせながら地面に立つ、見るからに立つ事が限界に見える


「楓、辛そうだな」


「大丈夫だよ会長、それより岡部の方が重症っぽいよね」


 岡部は後方で倒れている、ピクリともしない


「岡部殿!! 儂等の仲間に……許せないでござる」


 マイケルが刀に手を置き橘を睨みつける


「待て、岡部をやったのは美遊だ」

(もう争う必要は無い、か)


「美遊ちゃん! 何で岡部を!!」


「え? 何か誤解……」


「成る程ね、美遊ちゃん今助けてあげるわ」


 紅葉が鉄扇を取り出し構えた、明らかに敵意が美遊に向いている


「紅葉殿!? 何をするつもりでござるか!?」


「落ち着きなさい猿、美遊ちゃんはあの金髪に操られているわ! 精神操作よ!」


「なんとぉぉぉ!?」


「そんな……美遊ちゃん! 目を覚まして!」


 楓が膝をつき嘆き訴える、全員よくわからないノリに流されている


「なぁ美遊こいつら……」


 橘は話についていけない


「聞かないでください」


 美遊は目をそらす、正直関わりたくない


「しかし! 美遊殿を正気に戻すにはどうしたら!」


「ねー会長なんか言ってやってよ、副会長殴ったのは悪かったわよ」


 美遊は渋々白状する


「うむ、流石は風紀委員長だ、よくぞ見抜いた」

(何この熱い展開、私わくわくする!)


「おい! バ会長!」


 美遊を無視し茜は続ける


「美遊は今あの女に操作されている」


「なら、大元をぶっ飛ばせばいいのね」


 紅葉は真剣である、唯一性癖以外はまともだと思っていた紅葉がこのざまである


「いや、違う岡部の犠牲で分かったが、美遊はコアを埋め込まれている!」


 茜が美遊を指差し叫んだ、いつに無く目を輝かせながら


「「「コア‼︎?」」」


「ちょっと待ちなさいよ! コアって何よコアって!」


 美遊は必死に訴える

 橘は思考を止め、首枷を軽々と追った後喫煙タイムに入る、完全に蚊帳の外の為生徒会はその事に一切気がつかない


「すなわち、核を破壊しない限り……」


 紅葉が固唾を呑む


「その通り、美遊は元に戻らん!」

(許せ美遊、こんなに疼くイベントは中々無い)


「そんな、じゃあ美遊ちゃんと闘わなきゃいけないの?」


 楓はカタカタ震えている、完全に信じ込んでしまっている


「これも美遊の為、岡部の死を無駄にするな」

(私の鼓動が疼く…!)

 茜はニヤニヤを隠せず俯いた、確信犯であるが始まってしまった物は仕方ない


「しかし、体内の核だけを破壊するなど出来るでござるか?」


「それなりのダメージを与えればドロップするはずだ」


「ドロップシステムでござるか」


 マイケルは納得したようだ、顎を摩り困惑の表情を浮かべている


「待ちなさいよ! 適当なこと言ってんじゃ無いわよ! あんたら全員アホかぁ!」


「ごめんね美遊ちゃん、ちょっと痛いかもしれないけど」


 楓がモーニングスターを構える


「なんで皆私の話聞いてくれないのよぉ!」


「ゆくぞ! 生徒会と雑用一人! 全力でかかれ!美遊、お前の実力見せてみろ!」


 茜の号令により一斉に美遊に襲いかかる


「ごめんなさいね美遊ちゃん!」


 最初に仕掛けたのは紅葉


「っぶな!?」


 間一髪美遊は鉄扇を回避するが


「でありゃぁぁぁぁ!」


 紅葉の頭上を飛び越えマイケルが斬りかかってくる


「ちょっ!いい加減にしろぉ!」

 その刀は美遊の頬を掠め空振ってしまった、マイケルが着地し振り切った所に美遊の強烈な蹴りが入る


「ござっ!?」


「マイケル!? 美遊ちゃんダメだよ! 目を覚まして!」


 楓が続きモーニングスター振り回したが


「痛っ!?」


 骨に負担がかかり、すぐに膝から崩れる


「これほどまでなの!? 精神操作!!」


「私は何もしてないわよ……ねぇ、もうやめよ……!?」


 鉄扇が目の前を通り過ぎる


「くっ……避けた」


「貴方も懲りないわね!」


「これもまた美遊ちゃんのためだもの!」


「私のためなら今すぐ攻撃やめなさいよ!」


 紅葉はジリジリ美遊を追い詰める


「さぁ、観念して」


「ちょっと橘さん!! 何とかしてくださいよ!」


 美遊が橘に助けを求めるが橘はフラフラと何処かに向かってしまった


「ちょっとコンビニ行ってくるぜー」


 ひらひらと手を振りながら橘は去っていく


「このタイミング!?」


 美遊の足に何かが触れる


「美遊ちゃん、追い詰めたわよ!」


 紅葉の渾身の一突きは美遊の眉間目掛け飛び出した


「……!? この駄犬がぁ!」


 紅葉の鉄扇は眉間を刺したが、それは美遊ではなく気を失っている岡部


 美遊は倒れている岡部を担ぎ上げ鉄扇を防いだのだ


「ごめんね、副会長」


 美遊は岡部を投げ捨てると鋭い蹴りで鉄扇を弾き飛ばす


「しまっ……!?」


「甘いわっ!」


 美遊は身を屈め体のバネを生かし拳を突き上げる、その拳は登り龍を思い浮かばせる剛拳


 拳は紅葉の顎を捉え、そのまま上空に殴り飛ばした


「ぁぁぁああああん!!」


 断末魔と共に紅葉が吹き飛ぶ


「もういい! 全員かかってきなさいよ!」


 美遊は息を荒げ叫んだ


「くくくっ見事見事! だが生徒会相手に大口を叩いていいのか?」

(まずい、あれは人殺しの目だ……)


「やってやるわよ! 少し灸を据えてやるわ!」


「会長殿! 美遊殿が!」


「構うなマイケル! 今動けるのは私とお前だけなんだぞ!」


「しかし!」


「美遊を救うためだ、奥義を使って構わない!」


「正気でござるか!?」


「やらなきゃ、やられる」

(あれは本気で怒ってるな、謝っても許してくれなそうだ)


 茜は一人納得して美遊に応戦する


「だいたいあんたらは勝手すぎるのよ!」


 美遊は茜に殴りかかる、女子から発せらるとは思えない重い衝撃


「笑止、この私に手を上げるか?」


 茜は拳を片手で止めていた


「へぇ、中々やるじゃない」


 美遊は拳をを引き口端をニヤリと上げる、戦闘を楽しんでいる様にしか見えない


「お前楽しんでないか?」

(やっべぇ、めっちゃ手痛い)


 茜が受け止めた手をひらひらさせる


「まさか、私はあんたらと違って争いは嫌いなの!」


「ならば話し合いでだな」


「だめ! 絶対私の話聞いてくれないじゃない!」


「やれやれ、面倒な娘だ」


「あんたにだけは言われたくないわよ」


「だがやる気が溢れているのはお前だけじゃないぞ! マイケル!」


 茜の喝にマイケルは答えた


「承知でござる!」


「嘘!?」


 マイケルは跳躍し上半身捩り、空中で気を高め全力の抜刀を放つ


「秘技! 桜花裂傷!!」


 空中に飛んで空振りの様に見えたが、その一閃に込められた気は空気を割き、真空波となり美遊目掛け飛んでいく


「何よそれ!?」


 美遊は間一髪回避したが、足元ではコンクリートが綺麗に裂けている


「桜花裂傷を避けたでござるか!?」


 マイケルは着地後、美遊の無傷を確認し驚愕した


「殺す気かぁ!!」


「流石はマイケル、久々に桜花流を見たな」


 茜は満面の笑みで頷く、その時突如鳴り響く拍手


「おうおーう、すげぇなコンクリートがパックリだぜ」


「橘さん!!」


 橘が煙草を咥えやる気のない拍手をしながら帰ってきた


「貴様!?」


 動揺を隠せないのは茜だった


「なんだ嬢ちゃん」


「いつの間に消えていた!!」


 茜は橘が立ち去った事に気付いていなかった


「あ?さっきコンビニ行くって言ったろ、煙草切らしてよ」


自由になっている右手で咥えている煙草を指差す


「首枷はどうした!? 何故つけていない!」


「折った!」


「折った!?」

(思っていた以上に化け物だぞこいつ、マイケルまで負傷させるのは痛いな)


 橘が茜に近づくがマイケルが割り込んだ


「悪の根源め、会長殿には触れさせないでござる!」


「おうおう、解ったから危害は与えないから」


「近づくなでござる!」


「マイケル!! もういい、もういいんだ」


「会長殿……」


「降参だ降参! 強いな貴様! 」

 両手を上げ笑顔で茜は降伏した、マイケルは理解できず警戒を解かない


「まったく、つまらん芝居だったぜ」


 橘はため息をついて手を差し出す


「話が解る奴だな」


 茜が手を取る


「美遊を頼んだ」


「言われなくても」


 茜は橘を見上げる


「このジャジャ馬を扱うのは大変だぞ?」


「だからこそ面白いのだろ?」


「ちょっと待ちなさいよ!」


 納得のいかない美遊が叫ぶ


「橘さんどういう事ですか! なぜ止めるのです!」


「良かったじゃないか、こんな張り合いのある友人は中々いないぞ?」


「友人? 私は被害者です!」


「会長! 楓は納得いかないよー!」


 声を上げたのは先程まで蹲っていた楓


「その小さい嬢ちゃんはやたら重症みたいだが……」


「小さい言うなー!!」


 橘はゆっくり楓に歩み寄る


「な、何!」


「そう荒れないで欲しいぜ、体痛むんだろ?それに私達は争う必要は無い」


「美遊ちゃんを元に戻して!」


 楓の涙目に負け、橘は頬を掻き目をそらす


「なぁ、さっきまでのはこの黒い嬢ちゃんのお遊びみたいだぞ?」


「ふぇ?」


 楓が呆気に取られ茜ちゃんを見上げる


「まぁなんだ、楽しかったろ?」


「どういう事ー? この人は……」


「とりあえず中に入ろうか、そこの伸びてる眼鏡の兄ちゃんと赤い嬢ちゃんも介抱しなきゃな、美遊」


 そういうと橘は紅葉してを担ぎ上げる、美遊はため息をついてから岡部を担ぎ上げ、茜は楓に肩を貸す


「橘さん、まさか中って」


「お前ん家」


 一行は美遊のアパートに向かう


「待ってください! とても人が入れる状況じゃないですよ!」


 美遊は抵抗の意思を見せるが橘は聞く耳を持たない、そして美遊の部屋の前に着いてしまった


「ここが、美遊ちゃんの……」


 楓が口を紡ぐ、扉は無く廊下を抜けると部屋に繋がる


 大窓は粉砕され、窓ガラスの破片が床に散乱風が通り室内の物を薙ぎ倒していた


 その際橘が持ち込んだ灰皿も机から落ち、吸殻も床を占領している


「片付け苦手ってレベルじゃないよ? これ」


「楓先輩!? 私じゃないわよ? これやった私じゃないわよ!」


「まったく、最近の娘はなってないな」


 茜は呆れた顔で腕を組む


「お前のせいじゃぁぁぁ!」


 美遊の叫びが夕方の空に響いた

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