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処刑3 美遊ちゃん奪還大作戦

 あれから一週間の時が過ぎた


 サッカー部は大人しくなり次の大会に向け、必死に部活に汗を流す、学園は一時平和になり生徒会処刑執行部も巡回以外活動を行わなかった、しかしあれから東西美遊は一度も生徒会室に姿を現していない


「今日も美遊ちゃん来ないねー」


 楓が退屈そうにペンを回す、白紙にひたすら落書きしている


「もう一週間たつでござる、些か心配でござるな」


「いずれ戻るさ」


 茜は窓から外を眺め惚けている、完全に気が抜けているようだ


「もう我慢できないでござる! 美遊殿の教室に行くでござる!」


「マイケル!」


 茜が叱咤するがマイケルは構わずギルドを出て行ってしまった


「まったく……」


 茜は片手で頭を抑える


「会長、あの事に触れたのですか?」


 岡部が鶴を折りながら質問する、手際よく次々と鶴が量産されていく


「あの事?」


 楓が落書きしながら会長席の茜を見上げる


「本人の口から聞いた方がいい」


「そう、会長がそう言うなら」


 楓は落書きを再開した


「マイケルはいかがしますか」


「放っておけ、情に熱い男だ、黙ってられなかったのだろう」


「畏まりました」


 岡部の鶴が300羽を超えた


「ほんっと、何を小さな過去を気にしてるんだか」


 そのころ一年生の廊下をマイケルは闊歩していた


「むむむ、放課後は人がやはり少ないでござるな」


 マイケルは顎を摩り困惑の表情を浮かべる、窓の外を眺めながら廊下を歩く、不意に誰かと肩を接触した


「やや! これは失敬、うっかりしていたでござるよ」


「いえ、こちらこそすいません、って!侍!?」


「いかにも、儂は侍でござるが……」


「貴方が安堂の言ってた侍ですか」


「千夏殿の御学友でござるか!?」


「え、えぇ僕は田山、千夏と同じクラスの……」


 マイケルが田山の肩を握りしめる


「どこだ! 何処にいるか教えるでござる!」


「え?痛い、痛いです!」


「おぉ失敬失敬、田山と申したな、美遊殿が何処にいるか教えて欲しいでござる」


「東西? それなら今休んでますよ、一週間くらい」


「なんとぉ! 美遊殿が休学中でござるかぁ! 体調不良でござるか? もしや先日の騒ぎで怪我をしたでござるかぁ!」


「なんか、風邪ひいたらしいっす」


「風邪ぇ!?これは大変でござるぅ!」


 マイケルは生徒会室に急いで戻る


「なんだったんだろう、あの侍」


 田山君は廊下に残された


「伝令! 伝令でござるぅ!」


 マイケルがギルドの扉を蹴破る


「なんだ、騒々しい」


 茜は呆れ顔で耳掃除に勤める


 マイケルは深呼吸の後人差し指を立てながら凄んだ


「なんと、美遊殿は学校に来ていないでござる」


「知ってた」


「なんと!?」


「岡部からの情報だ、既に知ってる」


「楓殿! 楓殿は知らなかったでござるな?」


「なんとなく察してたよ?」


「なんと!?」


「お前はそんな事のために廊下を走ってまで伝令に来たのか? 抱石するか?」


「なんと恐ろしい拷問方法を立案するでござるかぁ! ふっふっふ! しかしそれだけではござらん!」


「は?」


「マイケルー、よしなよ会長は美遊ちゃんいなくて気が立ってるんだから」


 マイケルは楓の忠告を聞かないで続ける


「会長殿は美遊殿がなぜ休学中かご存知でござるか?」


「それは……」

(まずいな、私のせいなんだよな)


「それはずばり、風邪でござる」

(決まったでござる)


 マイケルは顎を摩り、勝ち誇る


「そりゃあ、嘘だな」


「ござる!?」


 茜は耳かきを引き出しにしまう


「奴はさぼりだ」


「確証はござらん! もし仲間が熱を出し苦しんでると思うと、儂は! 儂はぁ!」


 茜が何枚か写真を無造作に机に広げる


「これは?」


「岡部の追跡写真」


 どれもこれも外で撮影されている、カフェ、ショッピングモール、コンビニ、ゲームセンター

どれを見ても病人とは思えない


「ござっ!?」


「わかったか? さぼりださぼり、病人がこんな真剣に服屋徘徊するか?」


「それは……むむ?」


「なんだ」


「この写真、よく見るでござる」


 マイケルが一枚の写真を指差す


「服屋か、これが?」


「ここ! ここでござる!」


 マイケルが指差した先には赤髪の女性


「紅葉!?」


「紅葉殿もショッピングでござるな」


「あいつ風紀委員長の癖にさぼってんのかぁ! 粛清だぁ! 野郎共いくぞ!」


「わー! 会長の八つ当たりだー!」


 楓は何故か嬉しそうにはしゃいでいる


「待ってください」

 冷静に岡部が止める


「なんだ岡部」


 岡部は赤マーカーを取り出す


「目線ですよ、怪しい」

 紅葉の目線をマーカーで引く


「これは!?」


「私も気づきませんでした、不覚」


 マーカーの示した先には美遊の姿


「他の写真も漁れ!」


 茜の指示に従い全員で写真を凝視する。数枚の写真から紅葉の姿を見つけた、岡部が全てに目線をマークした結果は全て美遊の姿に行き当たる


「会長……これは」


「確定だ、美遊はストーキングされてる」


「これまずいよねー?」


「ふ、ふふふ! はは! あーっはっはっは!」


「会長殿?」


 茜は机を叩きつけ立ち上がる


「人の部下に目をつけるとはいい度胸じゃないか! 処刑してやる!」


「うわー! 会長がキレたー!」


「楓殿は嬉しそうでござるな」


「これは楽しいことになるよー!」


「風紀委員に殴り込みだぁぁぁ!」


「おー!」


 一行はギルドを飛び出し、風紀委員目掛け走り出すが道中道を塞がれてしまった


「来たな生徒会め!」


「絶対に通さないんだから!」


 風紀委員が二人である、勿論二人とも女子


「ほぉ、風紀委員の輩か道を開けろ」


「出来るもんか! 生徒会貴様らはどうせ委員長に暴力するつもりだろう!」


 1人が茜に反発する、この学園中を探しても茜に敵対するなど、なにも知らない一年生か、身の程知らずの阿呆かこの風紀委員の者だけだろう


「私らが何者か知っているだろう? 退け!」


「通さないんだからぁ!」


 風紀委員はファイティングポーズをとる、戦闘の意思表示


「会長ー! ここは楓がやるよー!」


「待てお前等、貴様ら最後の忠告だぞ? 今すぐに退け」


「できない!」


「そうか」


 茜はゆっくり武器を抜いた、それは剣でも刀でもない、銀色に鈍く光る筒、L字に曲がったそれを茜はしっかり握りしめている


 そう、鉄パイプを


「今ならばひれ伏し道を開ければ許してやる」


「ひゅー! 会長かっこいいー!」


 楓が無邪気に喜ぶ


「りゃぁああああ!」


 風紀委員の1人が拳を振り上げ迫ってきが、鈍い音が響き拳はすぐに止まる


「素人が……」


「ぐ……ぬぬ」


 茜が鉄パイプで拳を防いでいた、全力で振るった拳を鉄に当てたのだ

 かなりの激痛に彼女は涙を堪えている


「やれやれ、まだやるのか?」


「うるさい! うるさぁい!」


「なんだ、根性だけはあるな」


 鉄パイプを振るった、鉄棒は風を切り彼女の目の前を通過する、一瞬だった、その一瞬の風圧で彼女の前髪を切り落とした


「ひぃっ!?」


「懲りたら道を開けろ」


「くっ! ダメだからぁ!」


 もう1人の風紀委員が茜に襲いかかる、この風紀委員も素手で挑んでくるようだ


「懲りぬ奴らだ」


 茜は攻撃をかわし、横を通り過ぎる、その際に鉄パイプのL字部を相手の首に掛け、後頭部から床に叩きつけた


「ぐぁっ!?」


「立て、意識はあるだろう」


「痛い、痛いの!」


 後頭部を抑えその場に蹲る


「軟弱な」


「待ちなさい」


 騒ぎを見かね篠田紅葉が姿を現わす


「のこのこ出てきたか! 紅葉ぁ!」


 茜が鉄パイプを構え急接近


「やれやれ、やるしか無いようね」


 紅葉はため息をつき武器を取り出した、短い棒のような物を二本両手に構える


「くたばれぇぇぇ!」


 鉄パイプの動きが止まる、二本の棒を交差させ両手で押さえながら鉄パイプを支えている


「小癪な!」


「会長の援護に!」


 岡部が号令し、生徒会が加勢しようと動く


「来るなお前らぁ!」


 声を荒げたのは茜


「会長……」


 岡部が銃を納める、茜の指示には逆らえない


「会長殿ぉ!」


 マイケルが叫び、それに反応した茜は身を左に反る、頬を擦り紅葉の突きをかわし、そのままバク転で後退し距離を稼ぐ


「やはり、気に入らないなお前は」


「貴方はもっと可愛げがあればお友達になりたかったけどね、楓ちゃんやっほー!」


 紅葉は笑顔で楓に手を振ったが、楓は岡部の背後に隠れる


「あらあら、嫌われちゃってるわね」


「そりゃそうだ、楓は私の部下だからな」


「とりあえず貴方達帰って貰えないかしら」


「美遊のところに行くのか?」


 茜は挑発の笑みを浮かべる


「あら、知っていたの」


「このストーカーがぁ!私の部下に目をつけやがって!」


 鉄パイプを振りかざし茜が走る


「あらあら、元気ね」


 紅葉の鉄の棒が真の姿を見せる、両手に握られていたのは扇、強靭な扇である


「鉄扇か、久しぶりに見たな」


 茜の動きが止まり睨み合いになった

(下手に動いたら殺られる)


 しかし紅葉は広げた鉄扇を閉じ納めた


「こんなの、やめましょう?」


「ふざけるな! 武器を抜けぇ!」


 茜の喝に紅葉は応えないで静かに首を振る


「正直嫌だけど貴方達にお願いするしか無いかなってね」


「お願い?」


「そちらの新入りさん、美遊ちゃんのこと」


「やらんぞ」


「分かっているわ、中に入りなさい、楓ちゃんもね」


「なんだ? 急に」


「あと、そこの犬と猿もしょうがないから来なさい」


 紅葉は岡部とマイケルを指差す


「はっはっは! この儂を犬とは!」


「違うわよ猿」


「ござる!?」


 生徒会の面々は風紀委員の拠点に入る

 何の変哲も無いただの会議室、綺麗に整理されてる、向かい合わせに配置された机に各自着席した


「とりあえず、うちの子達に手を出したのは許してあげるわ、大した怪我も無いみたいだし、先に噛み付いたのこっちだしね」


 紅葉は風紀委員によって運ばれた紅茶を啜る


「なんだその態度は」


 茜は両足を組み机に乗せ、ふてぶてしく紅茶を啜る、明らかに不機嫌だ


「それより、美遊さんのこととは?」


 岡部が眼鏡を上げる


「よせ岡部、こいつの言う事にろくな事は無い」


「会長さん、これを受け取って」


 紅葉の指示で風紀委員が茜の前に箱を出す


「これは!?」


「気に入ってもらえたかしら?」


 茜は一心不乱に箱の包み紙を破き、中身の小分けされた袋を取り出す


「仙台名物笹かまだぁ!」


「ね、会長さんお願い聞いてもらえる?」


「仕方ないなぁ、話だけは聞いてやろう」


 茜は笹かまをかじりながら応対する、先程までとは正反対で御満悦である


「うわー、会長ちょっろいなー!」


「うまい、やはりうまい」


 茜は次々に笹かまぼこに食らいつく


「聞いてる?」


「聞いてる聞いてる」


「そう、じゃあまず美遊ちゃんを付け回したのは悪かったわ」


「それは認めるのか、それにお前学校さぼってたろ」


「失礼ね、さぼって無いわよ」


 茜が懐から写真を出し机に広げる


「あらあら、よく見て欲しいわね」


 紅葉が写真の窓を指差す


「なんだ?」


「この写真、全て夕方つまりは放課後の時間に取られているわ」


「……っ!?」


「つまり私はサボってはいない」


「悪かった、だがお前は美遊を尾け回していた、これは変わらん」


 茜の笹かまに伸びる手は止まらない


「これはね、少し前に……」


「うっわー、語り出しちゃったよ」


 面倒くさそうに楓が呟く、正直早くこの場を抜け出したい


「そう、私が買い出しの為に出掛けた時、寂しそうな顔をした美遊ちゃんを見つけたのよ」


「寂しそう……でござるか?」


「そうね、何があったかわからないけど、気になって後をつけてみたの」


「おい待てこら」


「結局気づかれちゃってね、美遊ちゃん手を振ってくれたの」


「はぁ……」


「もう運命かなって」


「待て待て! なんでそうなる!?」


 茜を無視し紅葉は続ける


「それから何日も美遊ちゃんと偶然の出会いをしたわ」


「お前がストーキングしたんだろうが」


「ここからが貴方達生徒会にお願いしたい事があるの」


「は?」


「美遊ちゃんを尾け回していたのはそこの犬だけじゃないわ」


「自分を棚に上げるんですね」


 岡部もついに棘を刺したが、紅葉は屈しない


「確実に美遊ちゃんを狙っている輩がいるわ」


「なんだと?」


「そこの犬も解ってるんでしょう?」


 紅葉が岡部に微笑みかける


「どういう事だ岡部!」


「申し訳ありません、私が優先するのは会長の安全です、会長への危険は最低限にしなければいけません」


「お前は命令を違反したのか!」


「まぁ、落ち着きなさいよ会長さん」


 紅葉がなだめる


「岡部が身を引くとは、中々の相手のようだな」


「私やその犬を退くレベルよ」


「岡部、下手に手を出していないか?」


「奴らが現れた時点で撤退しています」


「賢明だ」


紅葉は躊躇いもなく地図を広げる


「問題があるの、奴らは一定の区間で現れる、恐らく美遊ちゃん宅付近なんだわ」


「美遊の住所くらい、職員室漁れば出てくるだろう」


「無駄よ」


 紅葉が鼻で笑う、茜はこういう態度を取られるのが一番気に食わない、無意識に片眉が上がる


「何故だ」


「美遊ちゃん、入学前に引っ越してるみたいでね、中学時代から一人暮らしみたいだけど、この学校に保存されているのは前の住所よ」


「お前行ったのか?」


「えぇ、かなり遠かったからおかしいとは思ったのだけど、それに貴方の自慢の犬でも見つけられていないでしょう?」


「こりゃあ、美遊の住処を探すのが先だな」


「簡単よ、奴らを見つけて追尾すればいい」


「その奴らってのは……」


「私と犬の追尾を見抜いたわ」


「なんだと!?」


 茜が岡部を見つめる


「確かに見抜かれました、両手を構えて片方を私にもう片方は恐らく紅葉さんに向けてたのでしょう」


「それで?」


「人差し指を向け、『バーン』と、もし実銃を持っていたら私は確実にやられていました」


「なんだと、今まで岡部の追跡を見抜いた奴はいないっていうのに……」


「奴はその時笑っていました、私はそれから奴らが出たら身を引くようにしておりましたが」


「なるほど完全に読まれている、か」


「貴方達にお願いは、奴らを排除して欲しいの」


「排除ねぇ、どんな奴らだ?」


「金の長髪、ゴロツキを数人つれた女よ」


「女?」


 茜は意表を突かれた、想像と違っていたからだ


「私が女を見間違えるとでも?」


「そこ威張っちゃいけないとこだぞ?」


「骨格、顔つき、何より胸部が……」


「お前と違ってあったと」


 茜が紅葉を見下し勝ち誇る


「貴方に言われたくないわよ! このまな板会長がぁ!」


「なんだと? 貴様ぁ!」


「まぁまぁ二人ともー! 喧嘩は今はよしてよー!」


「楓ちゃんは、可愛らしいからそれでいいわよ?見合っていて」


「なんだとー!誰が幼児体型だー!」


「はっはっは! 胸など誰も気にしないでござる! 大事なのは中身でござる!」

(決まったでござる)


「黙れよ糞侍がぁ!」


 茜が投げた椅子がマイケルを襲った


「ござるぅ!?」


「いいか? 私は標準、標準なんだ!」


 茜は自らの胸に手を当てる


「あらあら、貴方が標準なら私含めて皆巨乳ね」


「あ? 今なんつった? 身の程を知れ!」


「あらあら、何よ? 揉む? なんだったら揉んで確かめる?」


「私だって脱いだらすごいんだからー!」


「楓ちゃんはいいのよ、そのままで」


「なんだとー! もういい! 脱ぐ! 脱いでやるー!」


 三人の喧嘩は加速していくが一発の銃声がそれを止めた岡部が天井に発砲したのだ


「皆さん、今は喧嘩している場合じゃありませんよ」


「岡部……」


「とりあえずは美遊さんの確保です」


「あ、あぁ」


「奴らは必ず隣町の住宅街から現れます」


「そうね、間違いないわ」


 冷静になった紅葉が肯定する


「奴らは美遊ちゃんの知り合いなのかなー?」


 楓の質問に岡部は首を振る


「そこまではまだ解りません、執拗に後をつけていたので無関係ではなさそうですが」


「ゴロツキ共は我々で何とかなるとして、問題は金髪の女か」


 茜が笹かまに再び手を伸ばす


「彼女の能力は解りませんから、下手に手は出せませんしね」


「今日の美遊の行動は予想できるか?」


「恐らく、スーパーに買い出しに行くはずよ」


 紅葉が突如口を開いた


「根拠は?」


「三日前、買い出しに行っていたのを見たわ、あの量の食材なら持って三日ね」


「そこまで見ていたのか、お前気持ち悪いな」


「美遊さんの活動時間は平均されてます、決まって夕方か深夜です」


 それに紅葉が追加補足をする


「深夜に出掛けるのは主にコンビニね、それ以外は夕方、美遊ちゃん大人びてるから、私服だと学生には見えにくいのよね」


「のぅ、皆」


 マイケルが恐る恐る発言する


「なんだマイケルか」


「美遊殿の住所なら千夏殿が知っているのでは?」


「「千夏?」」


 岡部と紅葉が声を揃える、扉の前で待機していた岡部は千夏の姿を目撃していない


「あぁ、確かにあの子の事千夏って呼んでいたな、美遊とも仲よさそうだったし」


 茜も納得の意見だったらしい


「では、千夏殿に聞き込みでござるな」


「待って」


 マイケルを止めたのは楓、小刻みに震え怯えている


「楓殿?」


「本当に行くの? 死ぬよ?」


「会長殿、楓殿は何を……」


「あぁ、熱烈なハグを受けたからな」


「ハグ!」


「反応するなレズ」


「その千夏ちゃんって何部なのよ」


 紅葉が嬉しそうに聞く、今すぐに会いに行くつもりらしい


「さぁ?」


「調べてきましょうか?」


「構わんよ岡部」


「会長?」


「どうせ運動部に引っ張りだこだろうからな、すぐに解る、最近千夏が運動部の奴らに追い回されてるのを見かける」


「そんな、無理な勧誘は脅迫に近い! 処刑対象ですよ」


「それを自分で撃退できてるのさ、大した女だよ」


 岡部が首をかしげる


「つまり、あいつはないもう帰宅してるだろう、我々だけで美遊を探す必要がありそうだ」


「そんなぁ!」


「なんでこのレズがショック受けてんの」


「では行動に移るでござる! もう夕方、美遊殿が活動を始めるでござるよ」


「マイケルの言う通りだ、では作戦を開始する処刑執行だ!」


 茜は立ち上がり指示を出す、美遊ちゃん奪還大作戦がスタートした


 作戦その1


 美遊の捜索

岡部が美遊を探し出し追跡する、その際事前に紅葉から聞いていたスーパーまでのルートを岡部が巡回、更に時間を平均化し最も出現しやすいポイントを奴らにが出現しない範囲で絞る


 完璧な割り出しの結果美遊はすぐに見つかった、岡部が携帯を取り出し物陰から茜に電話をかける


「会長、美遊さんを発見しました」


「ご苦労、奴らの姿はあるか?」


「現在は姿は見えません、奴らは基本帰りにしか出ないのは確かなようです」


「了解だ追跡を続けろ、奴らが出たら美遊を守れよ」


「畏まりました」


 作戦その2


 美遊の誘導

スーパーにて楓が待機、美遊が現れたら姿をちらつかせる作戦だ、美遊あえて姿を確認させる事で極力早く移動させ奴らより先に美遊宅を割り出す為だ


 楓の携帯に着信が入る


「会長ー!どしたの?」


「予想どおり美遊はそちらに向かっている、程なくして到着するから心してかかれ」


「あいあいさー!」


「決してこちらから行くな、お前は見つかっていない振りを決めるんだ、そうすれば美遊は焦ってスーパーから出るはずだ」


「いえっさー!」


「あぁぁぁぁ!」


 女性の叫びごえに楓が振り向く


「か、かか会長ー!」


 電話越しの楓は明らかに動揺している、異常事態が発生したらしい


「どうした!? 見つかったか!? それとも奴らか!」


「こないだの子だー!」


 電話越しに女性の声が聞こえてくる、茜には聞き覚えのある声


「会長ー! まずいよー! 助けて! 何故か千夏が! 怪力女……嘘!? 待って……いやぁぁぁぁぁぁ!」


「楓? 楓! 応答しろ! 楓ぇぇぇぇぇぇ!」


 電話は切れてしまった、予想もしていなかった千夏の乱入により楓は作戦続行不可能となる


「くっ……! 第一の犠牲者が出てしまったか」


 茜は唇を噛みしめ、壁を殴る


 田原楓 脱落


 その時茜の携帯が鳴る、片翼の堕天使からの着信


「会長、美遊さんは順調に進んでいます、楓さんはもう配置に?」


「楓はやられた、作戦から脱落した」


「あの楓さんが!? 奴らを侮っていたか」


「いや、奴らじゃない」


「はい? まずいです会長、美遊さんがスーパーに侵入しました」


「もうなるようにしかならない、祈れ」


 スーパーは夕方になり店内は賑わっていたがそんな中目を引くのが


「きゃぁぁ! 今日は買い物? お使い? 偉いねー!」


 千夏が楓を抱き上げている


「う、ぐぁ! 痛い痛いこの体勢はぁ!?」


 楓のトラウマが蘇る


「はぅ! かわいいかわいいねぇ!」


「ごぼぁ! 折れる折れるからー! 楓の骨と心が粉砕されるー!」


 騒ぎに目をつけたのは一般客だけでは無かった


(うわ……何やってんのよあいつら)


 東西美遊本人である


(あのまま千夏が抑えててくれればいいけど、とりあえず最低限の物買ってさっさとでよう)


「がががが! 誰でもいいから助けてー! 今肋骨がミシミシ悲鳴上げてー! だだだ! 痛い痛い!」


 楓の悲鳴を聞き流し美遊は食材をレジに運び早々とスーパーの自動ドアから姿を現した


「会長、美遊さんが出てきました、やはり速いです、作戦成功です」


「そうか」


「追跡を再開します」


「お前はスーパーに行け、楓を救出するんだ」


「しかし、美遊さんが」


「並大抵では美遊に勝てない、お前も知っているはずだ」


「ですが……」


「いいから行け!」


 茜の叱咤し通話を切った、岡部は理解しないまま指示に従、店内にはいるとすぐに楓は見つかる


(なんですか……あれは)


 千夏は笑顔で買い物をしていた、しかし左腕で気を失った楓を抱きしめていた


 岡部は千夏の前に立ちはだかり、しっかりと千夏を見つめる


「えと、お兄さん? 何か御用?」


「いえ、返していただきたい、それだけです」


 岡部は冷静に答えた、ただ上官の茜からの指示を遂行するために


「返して欲しい?」


 千夏は理解が追いつかない


「えぇ、その……!?」

(立ち姿に隙が無い!? この方、かなりできますね)


「私何かしちゃいました?」


 千夏がジリジリ近づいてくる、端から見れば普通に歩いている様に見えるが岡部には解っていた、攻め入るスペースが全く無い、右手に買い物カゴ、左腕に楓がいるのに


(なんですかこの威圧は……笑顔の真髄にこの娘は何を)


「そのぉ、お兄さん?」


「え、あ! はい!?」


 不意に声をかけられ思わず敬礼する


「ははっ! 敬礼始めて見た」


 千夏は悪戯に笑う、見た目は可愛らしく無邪気に笑う女学生だが


「え? いや、これはその」


「返して欲しいって?」


「その、うちの部員をですね」


「部員?」


「その抱き抱えている女性です」


「あぁ! この子?」


「えぇ、そうです」

(敵意は無い様ですね、良かった)


「そうだなぁ、お兄さんは何者?」


「え?」

(貴方が言いますか)


「最近物騒だしね」


「自分はただ、会長の指示で」

(だから貴方が言いますか)


「もしかして、お兄さん不審者ってやつ?」


「違います! 違いますから!」


 楓が意識を取り戻し頭を上げて力無く岡部を見上げる


「楓さん! 無事でしたか」


「岡部……生きて」


 楓は言い残し、意識を失う


「貴方、楓さんに何を……」


「何って? ギュッてしただけだよ? かわいいし」


「ギュッ?」

(まさか首を!?)


「そう言うお兄さんはこの子の何?」


「自分は楓さんの……」


「答え次第では、バキッとするよ?」


「バキッ!?」

 岡部の冷や汗が止まら無い、ここまで命の危険を感じた事は久しぶりだ


「ねぇ、答えてよお兄さん」


「自分は生徒会の者です、会長から指示を受け楓さんの救出に参りました」


「生徒会? 救出?」


「ですから楓さんを」


「あぁぁぁぁ! もしかして美遊っちの生徒会?」


「おや、同じ学校の方でしたか、美遊さんとお知り合いなんですね」

(そう言えば聞いたことのある声、まさかこの人が千夏さん……?)


「なんかやべぇ人しかい無いんだよね!」


「美遊さんはそんな事言いふらしてるんですか」


「そうそう! 確か我儘娘と、危険人物とストーカー眼鏡と変態侍の生徒会だよね? あれ? お兄さんストーカー眼鏡?」


 岡部はため息をつき頭を抱える


「我々の評価が下がる一方ですね」


「ねぇ、美遊っちの事知ら無い?」


 急に千夏が真面目な顔付きになる


「美遊さんの?」


「最近学校に来ないんだ、こんな時に限って」


「こんな時?」


「あ、いや! なんでも無いよー! この子返すね!」


 岡部に楓を手渡す


「貴方こそ、何か隠してませんか?」


「ははっ! まさかー!」


 千夏の動揺は明らかである、ましてや岡部が見逃す筈がない、これは何かを知っているはず


「我々は美遊さんの調査中なんです、知っている事をせめて現住所だけでも」


「ダメ!」


「何故です! 美遊さんのためなんですよ?」


「ダメったらダメ! そもそも美遊っちの住所私も知ら無いし! これ以上追求するなら、ゴリッてするよ!」


 千夏は必死だ、子犬の様な瞳で岡部を見上げるが背中に獰猛な野獣を背負っている様な威圧を感じる


「ゔ……わかりましたよ、今は争っている場合では無いので」


 岡部は身を引く事にした、今は時間を割いている場合では無いとその事を念頭に置いた決断である、岡部は背を向けスーパーを出ようとしたが


「待ってお兄さん」


「はい?」


「美遊っちは今無事だよ、連絡は取れてるし、今はそれしか言えない」


 岡部はニコリと笑みを浮かべ頭を下げた


「ご協力、感謝します」


「ただ、あまり美遊っち怒らせ無いでね?高校生活楽しみにしてたから」


「畏まりました」

(この人も美遊さんの過去を知る者……ですか)


 岡部は楓を背負ってスーパーを跡にする


 作戦その3


 奴らの殲滅


 住宅街に潜む赤髪の女と侍、紅葉とマイケルである


「なんで私が……」


 紅葉が嫌そうに呟く


「しかたないでござる、皆で協力して美遊殿を救うでござる」


「違うわよ! なんで私が猿と一緒なのよ! あ〜楓ちゃんとが良かった」


「しかし、ついてきてくれている紅葉殿も素直じゃ無いでござるな!」


 紅葉がマイケルの首筋に手刀を入れる


「低脳な猿ね、私は美遊ちゃんに戻ってきて欲しいしあわよくば風紀委員に来てもらいたいのよ、それだけ」


「痛いでござるよぉ!……む!?」


 二人は目を合わせ、口を閉じ路地裏に隠れる


 美遊が現れた、買い物袋を手に下げ帰路についている


「ここから先、決まって奴らが現れるのは」


 紅葉が小声で話し、それにマイケルは無言で頷く


 路地裏から表を見渡す、だんだんと美遊の背中が遠くなっていく、通行人はちらほらいるが例の金髪の女が見当たら無い


「今日は来ないのかしら」


 紅葉が表に出ようとするがマイケルに止められる


「待つでござる! 怪しい輩がいるでござるよ」


 マイケルが指をさした先には、いかにもガラの悪い男共が道を闊歩している


「あら、男は目に映っていなかったわ」


「紅葉殿は相変わらずでござるな」


「うるさいわね、とりあえずただの不良か奴らかは解らないわね」


「聞いてみればいいでござるよ!」


 マイケルは路地裏を飛び出した


「ちょっと猿!待ちなさいよ!」


 紅葉の制止も叶わず、マイケルは男共の前に立ちはだかる


「なんだぁ? こいつ?」


「ぶふっ! 侍だ! 侍だぁ!」


「おっさんよぉ! それコスプレ?」


 男共は四人、指差しマイケルをあざ笑う


「いやぁ失敬、少し質問があるでござる」


「ござる! ござるだってよー!」


 男共の笑いは止まらない


「ちょっと猿! 何やってんのよ!」


 紅葉がやっと追いついた


「お?かわいい嬢ちゃん連れてるじゃないか」


「なんだなんだ? 俺たちに用事?」


「助けになるよー! 俺たち強いからぁ!」


 男共は紅葉を見た瞬間に態度が変わる


「貴方達、東西美遊ちゃんを知ってかしら?」


「直球でござるな!?」


「こういうのは早く結論付けた方がいいのよ」


 男共はどよめいている


「美遊、ちゃん?」


「なんで!? こんな奴らが……」


「姉御が言ってた付け回してる連中ってこいつらなんじゃね?」


 男共の反応を見て紅葉が腕を組む


「ほらね?」


「流石でござるな」

 マイケルは鞘を抜く、刀自体を抜く気は無いらしい


「なんだ? やろうってのか? 嬢ちゃん、かわいい顔に傷つけたくなけりゃあ……!?」


 先手を打ったのは紅葉、男の額を鉄扇で突き飛ばした


「私に触れないで貰える? 汚らわしい」


「こっの……!やっちまえ!」


 男共が紅葉に飛びかかるが、近づく事すら出来ない


「甘いでござる!」


 マイケルが鞘で全員薙ぎ倒す


「……っち! なんだこいつら!」


「怯むな! たかが女と侍だぁ!」


 男共は必死に迫る、全てマイケル弾かれ薙ぎ払われてしまう


「なんだ、結構やるじゃない、猿の癖に」


 紅葉はマイケルに少し感心した様だ


「儂は猿ではござらん!」


 マイケルが紅葉を庇うように前に立ち、攻撃を全て受け流す


「なんだよこいつ! 気持ち悪りぃ!」


「言わば今の儂は用心棒、紅葉殿には近づけさせないでござる!」


 マイケルが男の一人胸ぐらを掴み地面に叩き落す、気を失い残り三人


「っなろぉがぁ!」


「その程度ではこの儂に通用しないでござる」


 鞘で一人一人殴り撃沈させるマイケルはまさに武士、平成に蘇った武士そのもの


「あらあら、頼もしい猿ね」


 住宅街で広げられる激戦、勿論人目にどうしてもついてしまう、通りかかった者たちは悲鳴をあげる者もいれば、写真を撮ったりしている者もいる


「何をそんな必死でござる? 美遊殿にどんな恨みが」


「うっせぇ!」


 男がマイケル目掛け拳を構え突進


「猿! 脇よ!」


「なぬっ!?」


 離れた場所から一人が急接近していた事に気付かず反応が遅れた、男は酒瓶を振り上げマイケルの頭部目掛け振り下ろした


 瓶の割れる音が響くがしかしマイケルに傷一つない、紅葉が二つの鉄扇を開き割り込み防いだ、鉄扇当たり割れた瓶は破片となり地面に散らばる


「油断しないで!」


 紅葉が男の顎を蹴り上げる


「ぐぁっ! 白!」


 男は苦痛の呻きで地に堕ちる、残り二人


「らぁぁあ!」


 突進してきた男の拳をマイケルは受け流したが


「ぐぶぅ…!?」


 男のもう片方の手には飛び出しナイフ

 マイケルの溝に深々突き刺さる


「猿ぅ!!」


「小細工とは武士の風上にも……置けない奴でござる」


「悪いな、俺は武士じゃないんで」


 男はナイフを手放し距離を取った


「猿! 血が! 猿ぅ!…いやぁ!」


 紅葉はマイケルに気を取られているところを男の一人に羽交い締めにされる、見ていた通行人がどよめく、警察やら救急車などの単語が飛び交っている


「離しなさい! このっ!」


 紅葉は身動きするもガタイのいい男はビクともしない


「そう暴れるな嬢ちゃん、うんいい香りだ」


 俺は紅葉の髪の匂いを堪能


「離して! いやぁ! 離してぇ!」


「へへっ お前だけずりぃなぁ! 俺は侍の相手、まぁ時期に終わるが」


 マイケルを襲う激痛は動きを鈍らせた、視界が霞む


(儂は守る事が出来なかった、でござるか……)


「猿! 猿! 助けなさい! 助けなさいよ!」


 紅葉は涙ぐみ叫ぶ、もう頼れるのはマイケルしか居ない


「う、ぐぁぁぁぁぁあおおおおおお!」


 マイケルが雄叫びを上げ体に刺さったナイフを抜き取った、多量の赤い鮮血が散らばる


「お侍さん、辛そうだなぁ?」


 男はヘラヘラ笑いながらマイケルを殴りつけた


「儂は、儂はぁ!」


 マイケルが膝を震わせながら堪えている、殴られながらも期を伺っていた、反撃の時を


 三発目を殴り終えたその時


「儂はぁ! 異国の大和魂 マイケルじゃあ!」


 マイケルがついに刀を抜いた


 一瞬の剣戟、居合の太刀筋は見事男の右手の親指の爪だけを切り落とした、気が付いた時には指から出血し激痛が走る


「いっ!? 何しやがった!」


「あまり儂を怒らせない方がいいでござるよ? 次は指を一本ずつ削ぎ落としてくれる」


 マイケルは片手で刀を構えている


「くそったれが! チャンバラゴッコは今の時代通用しねぇぞごら! お前もその女どうでもいい! こっちに加われ!」


「しかたねぇな」


 紅葉を離し加勢する


「くっ、ぅう!」

 紅葉は膝から崩れ泣き出した


「儂にこれを抜かすとは、久々でござるな」

(会長殿、申し訳ない……)


 刀を抜いたマイケルは鬼神の如き動きを見せるがマイケルの攻撃は全て打撃、殴る蹴る、刀も柄の部分しか使わない


「なめてんのかてめぇ!」


「無駄な殺生は嫌いでござる」


「ふざけんなぁ!人を斬るのは恐いってかぁ!?」


「何を勘違いしてるでござるか?」


 マイケルはガタイのいい男を蹴り飛ばし、脚を斬る


「いてぇっ!?」

 堪らず蹲り、地面を転がり回る


「この野郎がぁ!」


「身の程知らずも甚だしいでござる」


 マイケルは先程のナイフを投げると、男の足の甲に突き刺さる


「だぁぁ!?」


 そのまま首根っこを掴み額から地面に擦り刀を首筋に当てる


「儂がその気になればお主らの首などすぐに斬り落とせるでござるよ」


 マイケルは笑っていた、それはとてもじゃないがいい笑顔とは呼べるものではなかった


「くそぅ」


「さっさと失せるでござる、美遊殿にも一切近づくなでござる」


 マイケルは刀を鞘に収めた


「姉御が黙っちゃいねぇぞ」


 男は吐き捨てナイフを抜き逃げ出し、ガタイのいい男も脚を引きずりながらそれに続く


「ささっ紅葉殿」


 マイケルが紅葉の肩に手を乗せる


「触らないで!」


 紅葉がその手を振り払う、酷く怯えているように両肩を抑え震えている


「紅葉殿……」


 紅葉がマイケルをゆっくり見上げる


「さる……?ごめん、守ってくれたのよね」


「立てるでござるか?」


「えぇ」


 ゆっくり紅葉が立ち上がる


「ふむ、しばし休憩するでござる」


「でも、美遊ちゃんが」


 その言葉を聞いたマイケルがニカっと笑う


「後は会長殿に任せるでござる、それにこの手負いじゃ足手まといでござるよ」


「貴方、また血が!」


 マイケルは刺された溝を左手で抑えているが、傷口から血が溢れていた


「これ使って」

 紅葉が包帯を手渡す


「やや! これは準備がいいでござるな」


「私は、巻いてあげたいけど、その……」


 マイケルは包帯を受け取り端を噛み器用に負傷した胴部の止血を始める


「大丈夫でござるよ、お陰で助かったでござる」


 その時サイレンが鳴り響く


「まずい、警察だわ」


「逃げるでござる!」


「ちょっ! ちょっと!?」


 マイケルが紅葉を抱え上げる


 女子をお姫様抱っこする侍、異様な光景である


「離して! 離しなさい!」


 紅葉の鼓動が上がり暴れ始める


「紅葉殿、目を瞑るでござる! 儂は女子! 今は女子でござる!」


「貴方みたいな女子がいてたまるか!」


「とにかく今はずらかるでござる!」


 マイケルはひたすら走る、体が動く限り


 呼吸が上がる中紅葉は目をゆっくり開けた


「!!」


 紅葉の目の前にはマイケルの傷口があった、包帯で止血したとはいえ、走るたびに傷口が開き赤く滲んでいる、紅葉はそっと手を当て傷口を抑えてマイケルに身を任せた


 マイケルは距離を稼ぐのに必死でその事に気付かない、しばらく走り広い公園についた、夕暮れ時で都合良く人気はない


「なんとか撒いたでござるな」


「えぇ、もういいわ」


「失敬失敬、焦っていたでござる」


 マイケルは紅葉をゆっくり降ろす二人は隅のベンチに腰を下ろした


「貴方、傷は大丈夫なの?」


「傷? あぁ、これでござるか」


 包帯は赤く滲み、痛々しく風を浴びていた


「私のせいね」


「やや! 紅葉殿は悪くないでござる、悪いのは奴らでござる」


「そう……ね」


 二人は公園の時計を見上げる


 時刻は6時半を回った、もうすぐ日が沈むあたりは薄暗くなってきた


「奴らは姉御と言っていたでござる」


 マイケルが呟く


「例の女、いなかったわね」


「なぁに! 後は会長殿がなんとかしてくれるでござるよ」


「ならいいのだけど」


 最終作戦、乗り込み


 茜は美遊の背後をこっそり付けていた、マイケル達の地点より先で張り込みしていたのだ


 笹かまをかじりながら後をつける、その時茜の携帯が鳴った、岡部からの着信


「なんだ」


「楓さんの救出に成功しました現在地は病院です、マイケル達はどうなりました?」


「わからん、なんせマイケルは携帯持ってないし紅葉の連絡先なんぞ知らぬ」


「そうですか、会長は無事ですか?」


「私は平気だ、今美遊がアパートに入ったから数分後乗り込む、油断を待つさ」


「了解です、御武運を」


「案ずるな、お前が作ったこれもあるからな」


 茜は箱包みの様な物を取り出した


「使用時はご注意ください」


「任せておけ」


 通話を切る


「さて……美遊待っていろ、学園に必ず連れ戻す」


 茜は決意しアパートを見上げた


 それとほぼ同時刻、美遊は自室のドアを開く


「ただいまー、って誰もいないんだけどね……!?」


 玄関に見知らぬ靴があった、さらに奥からテレビの音が聞こえる


(嘘、なんで? それに臭い、これは煙草?)


 美遊は恐る恐る廊下を歩く、短い筈の廊下が長く長く感じる


(泥棒? でも警戒心が無さ過ぎる、まさか生徒会?けどここが解るはずないわよね)


 そっと扉を開け、中を覗くと美遊はその場を動けなくなってしまった


 部屋の中には金髪の女がいた、胡座をかきテレビを見ながら煙草を吸っている、テレビでは温泉特集が放送されていた


「あぁあ、こういう場所で朝まで酒飲みたいぜ」


 金髪の女は携帯灰皿で煙草を消しながら呟き振り返る


「お前もそう思うだろう? 美遊」


 女は八重歯を見せながら微笑み美遊と目を合わす、美遊の体は硬直しその場を動けない

 所々癖っ毛で跳ねている金髪を揺らしながら、女は美遊を手招きしていた

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