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処刑24 決着

 刀を振り上げた甚助の腕に手裏剣が突き刺さる


「あぁ……!?」


 甚助の首に鎖が絡まり締め上げていく、鎖を引き寄せながら急接近する影を甚助が斬りつけると、影は丸太へと姿を変える、鎖を解きほどき距離を取ったが甚助の首筋から血が流れ始めた、一瞬の間に美遊の姿が消えた


 影はマイケルの隣へ着陸し姿を見せた、黒の忍び装束を身に纏った目つきの悪い男、諜報部副部長である鎖鎌の翔だ、一瞬で忍の技を駆使し美遊の救出を成し遂げた


「はぁ!? 何が起きたの!? ってあんたは!?」


 翔は美遊を下ろし無言で睨む、翔は無意識にこの様な表情を取ってしまうのだが、慌てたのはマイケルも同じだ


「翔殿!? 何故いるのでござる!? 生徒の避難はどうしたでござる!」


「うるせぇ! 生徒の避難は終わらせた! 今学園に残ってるのはお前らと俺、そしてあの野郎だけだ! ここからは参加させてもらう!」


 甚助が首に手を当てると赤い鮮血が滲んでいる、それを見つめてニタニタ笑う


「何? 何何何? 仲間? まだ仲間がいるんだ面白いねぇ、久々に自分の血を見たよ、一切群れ無かった兄上がねぇ!」


「兄上? お前弟が居たのか?」


「知らぬ、儂は一人っ子でござるよ」


甚助が刀を二本全力で同時に振り上げる


「仲間も女も、纏めてぶった斬ってやるよ! 桜花裂傷!」


 甚助の放った巨大な縦長の二本の斬撃、マイケルと翔は目を合わせてから頷き、マイケルは楓を、翔は美遊を抱えて左右に避難、地面を抉りながら進んだ斬撃は校舎裏の山にラインを刻み込んだ


「ここまで腕を上げていたとは……」


「避けちゃった? ははは! まだまた……?」


 銃声が鳴り響く音のと同時に甚助が刀を空振りすると真っ二つに裂けた銃弾が地面に落ちた


「何者ですか貴方は」


 生徒会副会長、片翼の堕天使こと岡部だ、グロックの銃口からは微かな煙が漏れている、片手で眼鏡を正しながら甚助に問いかけた


「まーた変なのが来た、いい加減鬱陶しい!」


 岡部に斬撃を飛ばすが地面を蹴りつけながら身を傾けて跳躍しながら回避、AK47をすぐさま取り出し鉛の雨が甚助を襲う


 フルオートの連射を終えたが一発も甚助を捕らえることはできない、二本の刀を器用に使い、目に見えない速さで銃弾全てを切り落としていく


「化け物……貴方が頭で我々は騙されたという事ですか」


「今更遅い、化け猫は餌に釣られて今頃天からお前らを見守ってくれてるだろうよ」


「会長に負けはあり得ませんよ」


 銃口を甚助に向ける岡部の目は本気だ


「岡部殿! 頼みがあるでござる!」


「マイケル! 皆さん! 無事でしたか、良かった」


「頼む、皆を連れて逃げてくれ」


「私も参戦します、この人数ならどんな相手だろうと!」


「頼む岡部殿! これ以上被害を増やしたくない、こんな輩儂1人で充分でござる! さぁ! 速く!」


「構わないよ? 俺は兄上の刀に用があるんだ、歯向かわなければ手出しはしない、無駄で利益の無い殺生は嫌いなんだ」


 甚助は意外にもマイケル以外は解放してくれるらしい、すぐさま刀を抜きマイケルへ降りかかるが受け止め刀同士の押し合いになる


「まだ解らぬか! 此奴に銃は通用せぬ! 今から此処は戦場いくさばと化す! 儂も周りを構っている余裕など無い! 行けぇ!」


「貴方を放って置けません!」


「そうだよー! 楓もまだやれるよー!」


「頼む、儂の魂が持つ限り!」


 その言葉を聞いた岡部が一瞬目を丸くして動きが止まる、数秒悩んだ後美遊と楓を担いだ、岡部の急変に2人は理解できない


「行きましょう、此処はマイケルに任せましょう」


「副会長!? 何してんのよ! マイケルでもあの男を1人で太刀打ちするのは無理よ!」


「美遊さん、楓さん、マイケルは平成一の侍です、そして何よりあの会長の劔、そう易々と折れる物ではありません、マイケル! 必ず生きてギルドに戻るのですよ!」


 岡部は納得しない2人を無理矢理学園から連れ出した、甚助の一振りがマイケルを斬りつける、胴体に負った深い傷からは多量の血が地面に滴る


「お仲間逃げたけどいいの?」


「構わぬ、これで存分に儂も刀を振れるという物、翔殿も速くに去ると良い」


 一度刀を鞘に収めるマイケルの隣にはまだ翔が鎖鎌を構えている


「馬鹿が、貴様の振るう刀が俺に掠るとでも思っているのか? それに頭領が戻るまで俺は学園を去る訳にはいかない!」


 マイケルと翔が目を合わせてから頷く


「見上げた忠誠心でござる」


「あの男は手練れなのは空気で解る、あんなのに1人で挑むってか? これだから生徒会は狂ってやがる」


「愚痴なら終わった後聞くでござる、諜報部はせっかちしか居らぬでござるか?」


「へっ」

「はは!」


「「上等!!」」


「あーあーあー! 不愉快だ、君は諜報部だろう? 何故そいつに加担するのさ、俺は諜報部の雇い主だよ? 君はその刀を奪うのが任務だと頭領から言われただろ」


 甚助は頭をボリボリ掻きながら苛立ちをみせるが翔は目を充血させ血管を浮き上がらせて吠える


「頭領の様子が変だったのはてめぇが原因か……ぶっ殺す! 俺達諜報部を手駒にしやがったな!」


「翔殿!」


 マイケルの言葉を聞かずに翔が単身で攻撃をしかける


「雑魚が」


「……!?」


 甚助が二本の刀に手を添えると振り終わる前に斬撃が飛び斬り裂いた、翔は多量の出血を自らの手で押さえながら距離を取る


「翔殿! 離れよ!」


「傷はまだまだ浅い!」


「ほんっと頑固な男でござるな! 気をつけよ、あの男は居合の達人でござる、刀を抜く前から距離を取るでござる」


「その上二刀流ってか? カバー範囲が広すぎる……!?」


 翔目掛け甚助が刀を振るう、器用に鎌でそれを防ぐが二本の刀の重圧は凄まじい


「命令違反はいけないなぁ」


「命令……だと?」


 翔が刀を振り払い、甚助の頭部を蹴り綺麗なバク宙で距離を取り鎌を甚助へ向ける


「忍者ってのは雑技団なのか?」


「うるせぇ馬鹿が! 俺の主人は頭領だけだ、それ以外の命令など誰が受ける物か!」


「避けてくれ……桜花裂傷重刃おうかれっしょうかさねば!」


 マイケルが跳躍しながら刀を振り上げると亀裂ができ斬撃が発生するのに合わせて素早く刀を振り下げる、斬撃は重なり合い巨大な姿で甚助へ飛ぶ、翔はそれを見越してバク転で距離を取っていく


「兄上ぇ……その程度なの? 桜花流居合術裂切おうかりゅういあいじゅつれっさい!」


 巨大な斬撃を甚助は居合で斬りつける、斬撃は甚助を中心に割れる様に斬れて校庭に二つの巨大な穴を空けた


 舞い上がった土埃の中から空中のマイケルへ向け格子状の斬撃が飛ぶ


「裂切からの空格子、模範な動きでござるがそれを儂は上回る……」


「さよならだ兄上ぇ!」


「あの馬鹿!」


 甚助が目を見開きながらマイケルが斬り刻まれる瞬間を凝視していたが中々その時が来ない、違う空格子が戻ってきている、その規模は半径5メートルの巨大な格子状の円、美しくも無残な斬撃が地上を襲おうとしている


「空格子・きわみ


 マイケルが着陸すると笑っていた、とてもではないがその表情は悪どく、善人とは程遠い笑み、格子の隙間を縫ったが回避不能な攻撃により右肩から先を失った、翔は命辛々空格子極を回避したが息を切らしている


「あの馬鹿……俺まで殺そうとしていた?」


 マイケルはゆっくりと歩き倒れている甚助に歩み寄る


「兄上、流石だ、衰えていない……ぐぅ!?」


 無言で傷口を踏みつけるマイケルは天地狂刃を甚助の首に当てる、斬首するつもりだがマイケルは口端を釣り上げ笑っている


「甚助よ……強くなったな、実に面白い戦いであったがこの刀は譲る事はできぬ……ぐぅぬ!?」


 マイケルが突如表情を歪め苦痛に苦しみだした、天地狂刃を手放し地面に落ちると息を荒げ両手で頭を抑える、甚助は目を見開きその光景を眺めている


「おいおい……どうしたんだよ」


 近く翔を唸りながら振り払う、まるで何かに取り憑かれている様だが、震える手で無理やり天地狂刃を拾い上げ鞘に収めると意識を失いうつ伏せに倒れた


「呪いを克服した?」


「貴様、その侍に何が起きたか説明しろ、噛み殺すぞ?」


甚助は翔の言葉に耳を貸さない、右腕を使わないで立ち上がり、ふらつきながらマイケルに歩み寄る


「嘘だろ? 何故? 兄上が刀に、半端者の兄上が? 兄上何をした! 何故兄上が!」


「おい話を聞かねぇか、何が起きたかと聞いてんだ」


「あれだけの罪を犯して! 人を殺めて! 俺達の帰る場所を壊して! 何を1人で……!」


 マイケルは眠っている様だがそれを片手で甚助揺すりながら叫び続けている


「うるせぇ」


 翔が甚助の首に腕を回しロックを固め口に布を押し当てる、甚助の脳が麻痺し体が動かない、全身が痺れてまともに動けない


「何を、しやがる……」


「忍は薬のプロだ、人体がどの成分でどれだけ動けなくなるかは熟知している」


「痺れ薬か」


「このまま貴様の首を切り取ってもいいが、それは俺の仕事では無い」


 翔は懐から小瓶を取り出し甚助の腕から先が無くなった右肩に液体を塗り始めた


「何だ、毒殺か」


「失礼な事を言うな、傷にはこれが一番だ、頭領お手製の大蝦蟇の油だ、後は止血すれば死なないだろう、腕は生えてこないがな」


「なぜ、俺を生かす」


「頭領ならそうしているだろうから、絶対に殺さないだろうからな」


 翔はマイケルと甚助を担ぎ校舎の中へと運んでいった


 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 静かな病室で茜は目が覚めた


「おや、目覚めたかい」


 ベッドの脇で麗羽が頬杖つきながら茜を見つめていた、その格好はくノ一では無く制服を


「……くっ!!」


 茜は自分の胸元を握り締めながらベッドを殴りつける


「おいおい、勝手に連れ出して悪かったけどさ……!? 大丈夫かい!?」


 茜の様子がおかしい、汗をかきながら息を漏らす、呼吸が整っていなく過呼吸の様に無理矢理酸素を取り入れている


「くそっ……!」

(やってしまったな! ダメだ、いかなる理由があろうとも……耐えろマイケル!)


「もう少し休みなよ、今お医者さん呼んで……」


「黙れ!」


 茜は苛立った叫びを響かせる、静寂の中風の音だけが聞こえる


「なんなんだよ、あんたおかしいぞ?」


「あ、いや……すまない、私は学園に戻る」


「無茶はダメだよ」


「無茶ではない、病室に連れてきてくれてありがとう、後は紅葉の事を頼む」


「その格好で行くのかい?」


 茜が自分の姿を見返すと酷い有様だった、下は病院支給の寝巻き、上はサラシだけ巻かれている、違和感を感じるとすれば肌がヌメヌメしているのだ


「なんだこれは!」


「いやー悪いね脱がせちゃったよ」


「おまぁっ!?」


 隣に眠る紅葉の布団をめくると同じ格好をしている


「特に何もしてないよ、制服はズタボロだったしあたいなりに手当てしたのさ、切り傷には大蝦蟇の油が一番効く、お医者さんには作れないだろうがね」


「見たのか?」


「ちょこっと、細いねぇ会長さん」


 茜は赤面し布団の中に潜り込む


「貴様! ここ、 殺……!」


「ちったぁ落ち着いたみたいじゃないか」


「なんだと?……マイケル……」


 確かに先程までの苦しみやイラつきは薄れていた、呼吸も整い会話もできる


「あの侍の絡みかい?」


「あぁ……貴様は何故あの刀が狙われているか知っているのか?」


 麗羽は茜のベッドに腰掛け瞳を覗く


「ある程度、かな……奴等桜花流の代々守ってきた刀、師範代の者が引き継ぎ守っているが、あの侍がその刀を持っているのが気に入らないってとこだろう……そしてマイケルというのは偽名か、もしくはあの侍が桜花流師範代から奪い取ったか」


「なっ……!?」


「ごめんね、会長さんなら解るかい? 桜花源蔵って人物を」


 茜の動きが止まるが、不自然な目の逸らし方で否定する


「知らんな、聞いた事もない」


「そう、源蔵って男は人斬りなんだって」

(この人嘘つくの下手だなぁ、演技は上手いらしいけど)


「……そうか」


「そうだよね、あたいはあの侍が悪い様に見えない、仮にあの侍が源蔵だったとしても」


「さてな、諜報部の情報もデタラメな様だ」


「諜報部を愚弄するかい? そのサラシ取ってやろうか?」


「やめろぉ!」


 麗羽は笑いながら衣類をベッドの上に投げる


「冗談さね、それ着ていきな、あたいの変装セットだけど」


 見た所普通のTシャツとショートパンツの様だ


「悪いな……あまり見るな」


 茜がベッドから出て背を向け寝巻きを脱ぎ着替えを始める


「へいへい」

(あらら、やっぱり2人とも傷は残りそうだね……せっかく綺麗な肌してたのに)


「なぁ……ぶかぶかなんだが」


 Tシャツの襟を掴む茜は落ち着きがない、麗羽の服だとサイズが合わなく襟元に空間ができるのだ


「あーあー、会長さん細いからねぇ」


「何故だ? 遠回しに負けを認めている気がするが……感謝する」


「気をつけなよ、もう外は暗いから」


「解っている」


「あと荷物はこれね、人目に着いたらまずいでしょ?」


 麗羽は深緑の風呂敷を渡す、茜が中身を確認すると木箱にウェストポーチ、棒と携帯が入っていた


「何から何まで悪いな」


「いんや、護衛つけたいけどワン助達も限界で外で寝ちゃってるのさ」


「そこまでさせるつもりはないさ、ゆっくり休ませてやってくれ」


 茜は病室を出て行き静かに扉を閉めた


(生徒会処刑執行部会長、桐谷茜か……あれ程の逸材は居ないだろうね)


 病院を出ると辺りは夜、数歩歩くと木の下で居眠りしているワン助達を見つけた


 しゃがみ込みミャー子へ手を伸ばしたが思い留まり撫でるのを辞めた、風呂敷から携帯を取り出すと、不在着信が岡部から大量に入っている


「心配性だな」


 着信を入れると岡部は1秒で出た


「会長!? 今どちらに! ご無事ですか!」


 かなり焦っているようだが、無事な様だ


「私を見くびるな、お前達は今何処だ、何? 美遊の部屋? 楓も一緒か? そうか良かった……あぁ、私は学園に向かう、マイケルは無事な様だ、あぁ……お前達も学園に向かえ」


 岡部の返答に茜は安心した様だ、茜にはマイケルの安否が解っている


 暗い夜道を学園に向かって歩く、長い一日だったが、桜花流との闘いも幕を閉じた、後処理は時間はかからないだろう


 街灯の灯りを頼りに茜は走り出した

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