処刑21 両部長奪還緊急作戦会議
諜報部の処刑の翌日、未だに生徒会への懸念は払拭されていない、美遊は授業中周りからの視線が痛かったが千夏がいつも通り接してくれたのが唯一の救いだった
放課後に重い足取りで生徒会室へ向かう、早くこの状況を何とかしないといけないのだから
「来てやったわ……あ?」
乱暴に足で扉を開くとマイケル以外のメンツが揃っている、そして他にお客様がギルドを訪れていた、忍び装束を身に纏った男が無言で茜を睨み上げ、その目は血管が切れそうな程充血している、諜報部副部長の鎖鎌の翔だ
「……」
茜も呆れた様子で溜息をつく
「おいおい黙りじゃわからないだろう?」
「……」
翔はただ茜を睨み上げながら胡座をかいている、相当腹が立っているようだが何も語らない
「忍者!? なんで忍者がいるのよ!?」
「あぁ美遊いい所に来た、此奴を何とかしてくれ、ここに来てからこの通りだ」
溜息をついて翔の顔を覗き込む
「ねぇあんた何の用よ、諜報部なんでしょ? 喧嘩でも売りに来たの」
「……」
今度は美遊を睨みあげる
「感じ悪、どれくらいこの調子なのよ」
美遊は自分の席にどかりと座る
「楓が来た時にはこの状況だったよー!」
楓はいつも通り笑顔である、そしてギルドの扉がまた開かれる
「やや? 翔殿?」
「貴様ぁ! 噛み殺すぞ!」
マイケルがギルドに入ると翔が瞬時に立ち上がりマイケルの胸倉を掴み壁に押し当てる
この一瞬の間に岡部が翔の後頭部に銃口を当てた
「例えお客様でも、生徒会の1人に手を挙げることは許可できませんね」
「んだごらぁ!」
「随分と荒々しい忍者ですね」
岡部は怯むことがない、茜も完全に飽きてしまい外を眺めると、今日も平和な空が広がっている
「落ち着くでござる、御主等と約束したでござるよ、もう悪さはしないと昨日言っていたではないか」
「貴様も昨日言ったよな! 頭領に危害は加えないと!」
話が噛み合わない、翔の言っていることが解らないのだ、勿論生徒会は霧隠麗羽に手を出していない
「何があったでござる?」
「何があっただと? どの口がほざくか! 貴様等生徒会がうちの頭領を拉致監禁しているのだろう!」
「儂等は何もしていない、麗羽殿が居ないという事でござるか」
今にも喧嘩が始まりそうな中ギルドの扉を叩く者が1人、ゆっくりと扉が開き見知らぬ生徒が現れた、眠たそうな目をした男子生徒、大きなスケッチブックを脇に抱えている
「悪いが今は立て込み中だ、所用なら出直してくれ」
茜の言葉を無視して男子生徒は一歩踏み出し、スケッチブックに何か書き出した
『失礼します』
男子生徒が表示した紙面に書かれていた文字だ、背景では翔が怒り散らしているのを気にもしていない様だ
「岡部、彼は誰だ?」
岡部は机の上に生徒の名簿を広げて1人の人物にたどり着いた
「彼は新聞部副部長の浩太さんですね」
「ほう? 新聞部の副部長まで生徒会へ殴り込みか?」
『待って、聞きたい事がある』
「筆談か? 構わん続けろ」
浩太が書いた文字に全員固まった
『豊が居ない、侍に連れていかれた』
浩太はその眠たそうな目をマイケルへ向ける
「儂じゃないでござる!」
「待てよ! 新聞部部長まで消えたのかよ! 貴様等はどれ程!」
翔はもうマイケルに噛み付く寸前だが、茜が腕組みして言葉を発する
「いよいよ騒ぎになって来たな、作戦会議だ! そこの両名も参加しろ!」
両部長奪還緊急作戦会議が始まる
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
薄暗くじめついた空間で麗羽は目が覚めた
「ここ、どこ……!? 豊! 豊しっかりして!」
隣に新聞部部長の豊が座らせている、手足を縄で拘束され酷く憔悴している
「麗羽ちゃん、良かった目が覚めたんだね」
豊は優しく微笑みかけてくれたが、不安な表情を感じさせる、助けようとしても手足が動かない、自分も同じ様に拘束されているのだ
「んむっ! んぅっ!」
左隣には見覚えのある赤髪の人物が拘束されている
「委員長!?」
風紀委員長の篠田紅葉だ、彼女だけは口をガムテープで封じられていた、豊と紅葉に挟まれるように麗羽が拘束されている
「んー! んむ! んむっむ!」
「ありゃー、ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね」
「んむ?」
「幸い口は動くからね」
(あたい、侍と同じ事言ってる)
「んぐ!? ……んぅ」
「麗羽ちゃん!?」
上半身を捩り紅葉の顔に顔を重ねる、豊から見ると唐突に口付けをした様にしか見えない
「ドキドキしたわ、私はいつでもウェルカムだけど」
「にっひひ! あたいはそういう趣味はないさね」
麗羽がガムテープの端を噛んでいる、器用に剥がしたのだ
「びっくりしたぁ、もう麗羽ちゃんは何時も変な行動するからその延長かと思ったよ」
豊も安心した様に胸を撫で下ろす
「変な行動って何さ! とにかく今の状況を説明してよ」
「ごめんね私も解らないの、急に部室に男の人達が来て意識を失ったらここに……そもそも何で委員長まで捕まってるのですか?」
「私が聞きたいわよ、豊さんと同じで気づいたらここにいたわ」
その時倉庫の扉が開き数人の男が入って来た、その溢れる特徴に麗羽は唖然とした
全員男で和服を着込み腰から刀を下げ頭には笠を被っている、いつの時代の人間だか解らない
「ぷはっ! 侍がいる! しかも複数……!?」
近づいて来た紅い和服を着込んだ1人の侍が笑う麗羽の頬を殴る
「麗羽ちゃん!? やめてください! 私達が何をしたというのですか!」
「何してくれてんのよ、殴るなら私だけ殴れと言ったじゃない!」
「何でてめぇが喋ってんだよ、ピーピー五月蝿えんだよお前は」
吠える紅葉の前にしゃがみ込み目線を合わせる、舌を出しながら睨み上げるまるで蛇のような男だ
「何よ、脅してるつもり?」
「強がる餓鬼は嫌いでね」
男は刀を抜き紅葉の首に当てゆっくりと引いた、切り傷から血が流れ始める
「痛いっ!?」
「殺すなとは言われてるが、傷つけるなとは言われていない、立場を自覚しやがれ」
「糞野郎! 委員長から離れろ! このあたいが相手してやる!」
男達の睨みが麗羽に向けられた
「馬鹿がよく吠える、看守役は子守じゃねぇんだ、とっとと殺したいがまだ時ではない」
ぞろぞろと男達は倉庫から出て行き重厚な扉が閉じられた
「委員長大丈夫?」
「大丈夫……よぉぉ!?」
麗羽が首筋を舐め、今度は唇を当て吸い始めた
「ちょちょちょ!? 麗羽ちゃん!?」
「最高! ついに私の時代が来たわ!」
麗羽は吸った血を吐き捨て話すが、紅葉は傷の事など忘れてしまうほどの幸福感に包まれていた
「毒は無いね、一応確認したかったのさ……委員長聞いてる?」
「あ! はいはい! 状況は最悪ね、時では無いと言っていたけど、時が来れば確実にやられるわ」
「でも時って何でしょう」
「あの連中の狙いが解れば……」
「「刀」」
悩む紅葉へ部長2人の言葉が重なる
「え?」
「いやぁ、悪いとは思ってるよ? あたい達は連中を知ってる、元々奴等の協力をしていたからね」
「麗羽ちゃん言い方が悪いよ? 私達新聞部と諜報部はあの侍達に脅迫され行動していました、生徒会を陥れマイケルさんから刀を奪う様に」
「詳しく聞かせて頂戴」
麗羽は溜息をついて語り出す
「奴等の目的は一も二もなく刀さ、生徒会の刀はちと特殊みたいでね、どうしても欲しいらしいのさ」
「特殊?」
「あたい達には関係の無い事さね、そして目をつけられたのが諜報部、契約は無理やり結ばされた、生徒会相手に全力で闘えと」
「何でそんな契約結んだのよ」
紅葉の質問に麗羽はクスリと笑った
「委員”長”の貴方なら解るだろう? あたい達が最も失いたく無いもの」
「部下……」
紅葉が俯くのも無理も無い、同じ状況下なら周りに話さず自分だけで同じことをしていただろう
「新聞部も同じです、そもそも声をかけられたのは新聞部が先です、あの方達は生徒会に対抗できる力を求めていた、我々新聞部から諜報部の話を聞き出し行動に移したのです」
「極力自らの手を使いたくなかった……とんでもない集団ね」
「ちょっと待っててね今救助呼ぶから、指先が動けばある程度忍術は使える」
「忍者って凄いのね、警察にでも通報する?」
「はっはっは! 警察より頼りになる連中がいるじゃないか!」
それを聞いて紅葉の頬が引きつる
「まさか……」
「あの生徒会長にかかれば簡単な仕事だろう」
「ダメダメダメダメ! あの女に助けてもらうなんて嫌よ!」
「死ぬよりかマシだろうに」
「よりにもよってあの会長さんよ? 無理! 会長さんをこれから命の恩人として関わるの!? うっわ……鳥肌物だわ」
紅葉の言葉を聞き入れずに目を閉じ精神を集中させる
「はは……こうなったら麗羽ちゃんは頑固ですので諦めるしかないですね」
「いやぁ!」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
生徒会室で作戦会議は続いているが居場所が解らない以上解決策が見つからない
「昨日までは特に異常は無かったのだな?」
「そこの侍が殴り込みに来たくらいだ」
茜の問いに翔は不機嫌そうに腕組みして答える
『生徒会の2人が来た以外は何も』
浩太の紙面が捲られる
『ただ、何処と無く落ち着きが無かったように見えた』
「落ち着きがない?」
『そこの2人に対して慣れない演技してたからだと思ったけどそれだけではないみたい』
「美遊、楓、新聞部部長について解る事はあるか?」
「何にも、初対面に対してよくあそこまで言えるわね」
「そうだねー、あれじゃあ元々そういう人だって思っちゃうよー?」
その時ギルドの扉がまた開く
「あんた等ぁ! どういう要件ですか!」
規律正しい模範生の様な女生徒が入って来た、生徒会のメンバーなら全員見覚えのある女、夏祭りにマイケルと闘った頼れる副委員長こと、風紀委員会の千歳だ
「今は大事な作戦会議中です、お引き取りお願い致します」
丁重に岡部が説明しても千歳は納得していない
「どうせまた紅葉に悪戯したのでしょう! 何ど私達の邪魔をすれば気がすむのですか!」
「我々は何も……」
「通してやれ、どうやら面白い情報がある様だ」
「畏まりました、どうぞ」
茜の指示で岡部が中へ通すとズカズカと歩き会長席の前へ立ち茜を見下すと対照的に茜は眼前に手を組み千歳を睨み上げる
「さて、風紀委員副委員長ともあろう方が生徒会に何用かな?」
「シラを切るつもりですか? 紅葉が何処にいるか教えてください、迎えに行きますから」
茜の口元が緩みニヤニヤが止まらない、この報告は茜にとって朗報でしかない、あの風紀委員長の篠田紅葉が姿を消した、この情報だけで辿り着く答え、紅葉もこの事件に巻き込まれたのだ
「風紀委員長の姿が見えない? そうかぁ、それは大変だなぁ、私も友人として心配だなぁ、んふふ」
明らかに悪どい、茜の顔から心情を把握するのは生徒会の人間なら簡単な程だ
「うわー会長悪い顔してるよー」
「どうせロクなこと言わないから覚悟したほうがいいわね」
楓と美遊を他所に千歳のイライラが溜まっていく
「何が友人ですか白々しい! 大体貴方達は毎回毎回……」
茜は会長席を立ち上がりゆっくり千歳の周りを歩き目の前で止まる
「安心しろ副委員長? この処刑執行鋼鉄淑女の名の下に必ず篠田紅葉を救出してやろう」
「何を言っているのですか?」
千歳は話についていけない
「今頃篠田紅葉はどんな思いでいるだろうか、あぁ私は考えただけで胸が痛い、そこで私が彼女を救出してやろう、いや? 恩人になろうとは考えてないさ、んふふんふ」
「ちょっ!? 何を考えてるのですか!? これも貴方達が企んだ物でしょう!」
「面白くなってきた! 岡部確実に3人が囚われている場所を割り出せ! 迅速に……?」
「どうしたのですか! 私の話を聞いて……?」
茜の視線が廊下を見て固まった、開いた扉から廊下に異質な影が伸びているのが見える、千歳も振り返り影を目撃、影は縦長でバランスが悪そうにぐらつきながら近づいてきている、ギルドにいる全員が固唾を飲み込む、そしてその物体は姿を見せた
「犬ぅ!?」
美遊が声をあげた、姿を見せたのは犬の上に猫が乗り、その上にハリネズミが乗っている、よく見るとハリネズミの上に器用に小さな蛙が乗っていた
「なんですか……あれ」
千歳は頭を抱え始めた
「ふ、ふふふ、まるでブレーメンの音楽隊だな」
茜がワキワキと手を動かしながら近く、勿論狙いは猫
「ワン助! ミャー子! トゲ太郎! 大蝦蟇ぁ! 来てくれたのか!」
反応を示したのは翔だ
「そこをどけ忍者! 私にお猫様をもふらせろ!」
「うるせぇ! 俺の仲間手を出すんじゃねぇ! 嚙み殺すぞ!」
「仲間……だと? 貴様ぁ!」
茜が翔の胸倉を掴み睨み上げ今にも殴りかかりそうな気迫で押し込む、翔もこれには怯んだようだ
「な、なんだよ」
「貴様はお猫様とお友達なのか? どうやった? どうやったらお猫様とお友達になれるのだ? 教えろ、教えないつもりならこの場で貴様を処刑する、親指から一本づつすり潰してやるからなぁ!」
「落ち着くでござる会長殿! この者共は諜報部部長のペットでござる!」
「ペット……だと、なぁ岡部」
「ダメです」
茜が何も言わない内に岡部が拒否した、茜の頼みを断るなんて珍しいと美遊は驚いたが、何かに納得した様に茜が頷いた
「そうだな、確かにここではお猫様を飼うことはできな……いたぁ!?」
ブレーメン編成を解除したワン助が茜の足首に噛み付いた
「躾のなって無い犬ですね」
「よせ岡部、どうやらこのメルヘンなお客様達は用があって来た様だ、そうだろう?」
茜の足首を噛みながらグイグイ引っ張り外へ出そうとしているワン助の頭を優しく撫でて茜は微笑むと、ワン助は口を離し1度吠えて尻尾を嬉しそうに振っている
ミャー子もトゲ太郎も茜を先導しようとしている
「道案内してくれるつもりかしら」
美遊は物珍しそうに最近覚えた携帯の録画機能を使いながら呟く
「岡部! 急いで支度だ! すぐに出陣だ」
「では儂も行くとするでござる」
「マイケルは残れ、私と岡部2人で向かう」
「何故でござる! この事件には儂が必ず原因として絡んでいる! 行かせてくれでござる!」
マイケルの意思に茜は首を振り否定した
「解ってくれマイケル、今は何が起こるか解らない、ここを襲ってくる可能性もある」
「しかし!」
「敵の狙いはその刀なんだろう? お前自ら罠にハマる理由はあるまい、それにここを何があっても守ってくれるのはマイケル、お前だ」
「会長殿……」
「美遊と楓もここに残す、私の大事な物を守ってくれるな?」
マイケルは渋々承諾した様に無言で席に座る
「何が起きてるかよく解らないけど、怪我すんじゃ無いわよ?」
「危なくなったら楓も読んでねー!」
2人も異論は無いようだ、茜は話を続ける
「ここからは我々生徒会の仕事だ、各副長も今日は速やかにかえれ、世話のかかる部長達は明日から登校すると保証しよう!」
翔と千歳は納得していない、千歳に至っては説明すらされていないのだから無理もない
「待ってください、紅葉は今どこにいるのですか!」
「時間がない、手短に話そう」
茜が思い出したかのように一連の動きを説明を始めた、この緊急事態を解決する為に生徒会が遂に動くのは、生徒会処刑執行部会長桐谷茜と副会長の岡部、さらにワン助ミャー子、トゲ太郎に大蝦蟇
このチームで各部長救出任務が開始された、生徒会二年の田原楓、一年の東西美遊はギルドに残り警戒を続ける
同じく生徒会二年のマイケルは緊急時にギルドの防衛に当たる為に待機
各副長は自らの部室に赴き、部員を強制的に帰宅させてから帰宅、例外無く風紀委員会も同じ動きをさせる
こうして各長救出任務が動き出した




