処刑2 サッカー部殲滅作戦
翌日
天気のいい朝、新入生は桜並木の中まだ慣れていない高校生活に不安と期待に心躍らせ登校してくる、ただ一人を除いて
「気が重いな……」
「どうした美遊っち! 元気ないぞ?」
背後から声をかけて来たのは、中学時代の友人安堂千夏、元気がよくいつも走り回ってるような娘だ、今日も2つに結った髪を揺らしながら美遊の周りをぴょこぴょこ動き回っている
「おはよう千夏」
「どうした? どうした? 青汁飲むか?」
「飲まないわよ、千夏は変な人に人生拘束されたことはある?」
「どゆこと?」
「やっぱりいい、なんでもないわ教室行こう」
二人は校内を歩き教室に向かう
「そういや昨日凄かったねぇ!戦車!」
「ぶふぅっ!」
「すごごごって! 凄い音出してたしさ! 本物なのかな!」
「さ、さぁね」
「あれ何?」
千夏が足を止め指差した先の廊下に赤黒い染みと何かを引きずった傷がついている
「さぁ…何だろうね」
(絶対にあの人だ)
傷は美遊達の教室まで伸びていた、これで教室にあの人がいるのが確定した
「ごめん千夏、私今日休むわ」
ため息をついて美遊は振り返る
「ズル休みはいけないでござる」
「っち」
マイケルが腕を組み仁王立ちで道を塞いでいる、戻ることはできなそうだ
「すげぇ! 侍だ! 侍だよ美遊っち!」
千夏はぴょんぴょんマイケルの周りを跳ね回り喜んでいる
「今日は美遊殿の初仕事が放課後待っているでござる、絶対に早退はダメでござるよ」
「美遊っち、知り合い?」
「すげぇ関わりたくない変態」
美遊は心底嫌な表情を浮かべた
「変態呼ばわりとは失礼でござる」
マイケルは笑みを浮かべている
「千夏、逃げて」
「美遊っち?」
「捕まったら地獄行きよ」
「侍は変態で危険なの?」
「変態ではないでござる!」
マイケルは慌てて訂正し、鞘ごと刀を抜き握り締めながら掲げた
「儂は悪を砕き正義を貫く、良き侍でござる!」
「かっけぇぇ! 侍の時代がくるね!」
「近づいてたらダメよ千夏! それに侍の時代はとうに終わっているわ!」
「むむ? 美遊殿の御学友でござるか?」
「はい! 私は安堂千夏! よろしくね正義の侍さん!」
千夏はかわいらしく敬礼しながら子犬の様な瞳で見上げる、マイケルは耐えられず目をそらした
「は、早く教室に行くでござる!」
「はーい!」
千夏は教室にマイケルの元を離れて教室に入ろうとした時
「遅ぉぉおい!! 遅すぎるぞ! どこで何をしているのだ!」
怒号と共に茜が教室から出てきたのだ
「うっわ……」
「いるではないか、さぁ中に入れ」
腕を引き教室に連行された、もう逃げることはできない、美遊はもう全てを諦めた、今日も1日面倒な事になりそうだ
「美遊っち、この美人さんは誰?」
「っな! 美人とな!?」
茜は赤面し柄にもなく動揺している、黙っていれば確かに茜は美人だ、黙っていればだが
「関わりたくない我儘娘よ」
美遊はため息をついて椅子に座り項垂れる
「美遊、お前は礼儀を知らんのか? 私は主人でお前は部下だ」
「はいはーい、御主人様ぁ」
目をやると前の席にいるはずの田山君がいない、変わりに金髪の少女が座っていた
「やっぱりいたの」
「待ってたよ、美遊ちゃん」
楓が笑顔で振り向いた
「やーん! かわいいこの子!」
反応を示したのは千夏であった
「関わらない方がいいわよ、トップクラスの危険人物よ」
「こんなにかわいいんだよ! ほっぺぷにぷにだよ!」
千夏が興奮気味に楓の頬をつつく、柔らかい頬に千夏の人差し指が埋まっている
「美遊ちゃんの友達? にへへぇ、くすぐったいよぉ」
楓は終始笑顔だ、緩い笑顔に教室の空気が和む
「千夏は本当の姿知らないか……ら?」
美遊が目線を下げると異様な光景が広がる
「田山くぅぅぅぅぅん!?」
楓が平然と腰掛けていたのは田山君本人であった、四つん這いになりながら背中に楓を座らせている
「あぁ、これね元の椅子がちょっと高かったから変わりだよ」
楓は笑顔で田山君の尻を叩く、そこらの女子には出来ない所業をやってしまうのが生徒会だ
「ちょっと何考えてるの! 非常識すぎるわ! 田山君も嫌なら嫌って言わなきゃ!」
「俺は椅子俺は椅子俺は椅子俺は椅子俺は椅子俺は椅子」
「なにがあったの!」
田山君は自己暗示をかけながらひたすら義務を果たしていた
「はっはっは! 美遊のクラスは面白いな!」
茜が手を叩きながら笑っている
「何がおかしい!」
「でもここは田山君の席だからどこうね」
「今は俺が席だから!」
田山君を無視して千夏が楓を抱き上げた
「ほう、貴方中々腕力あるな」
茜が感心したように千夏を見つめる
「そうですか? これくらいなら」
「会長、楓先輩くらいなら私でも持てる…」
楓が何かを落とし、ガチャリと音を立てそれは姿を現した、禍々しい棘鉄球
「あ、私の愛武器」
「しまいなさい! すぐに!」
美遊の叫び虚しく千夏はモーニングスターに興味を示した
「なにこれ?」
「一生千夏には必要ないものよ!」
美遊は急いでモーニングスターを拾い上げるが
「重っ!?」
想像していたより重かったが、なんとか持ち上げることができた
(こんなの頭上で振り回していたのね……)
「返してー!」
千夏の腕の中で楓がわたわた動いている
「これは没収!」
「力尽くでも返してもらうよ!」
楓が千夏から離れようとするが
「あぁ、こんな妹がいたらなぁ!」
千夏は楓を離さない、むしろ力が入る
「嘘!? なんて力! 楓が抵抗できないよー!?」
楓の顔が青ざめ焦りを表し始めた、抵抗を試みるが千夏の腕からは抜け出すどころか体勢を変える事すらできずにわたわた動いている、それを見ていた茜が勧誘を始める
「ほぅ…素晴らしい、貴方も我が組織に」
「ダメェ! 絶対にダメェ!」
美遊が叫び止める、千夏をこの変態組織に巻き込む訳にはいかない
「組織?」
千夏が首を傾げた、興味を示してしまったのだ
「そうだ、我が組織の秘密結社生徒会だ!」
「秘密になってねぇ!」
「秘密結社生徒会……ごくり」
千夏は固唾を飲み込む
「アホなの!? ねぇ千夏はアホなの!?」
「今なら付属で田山椅子を差し上げよう」
「田山君の許可とれぇ!」
「待って会長!」
暴走を止めたのは楓だった、身を襲う恐怖に打ち勝ち声を上げたのだ
「この子は恐ろしいわ、近くに置くのは危険だよー! 楓は反対だよー!」
「ふむ……楓が恐れるとは、ここは距離を置くか」
茜が顎に手を当て考え込む
「敵に回さなければ楓はそれでいいと思うよー?」
「何の話?」
千夏は笑顔だ、これは理解してない顔だ
「ねぇ、そろそろ離して欲しいんだけど」
楓が疲れを現し始めた、心なしか笑顔に力が無くなっている
「え〜、また遊びに来てくれる?」
「ど、どうだろうねー?」
「ん?なんか言った?」
楓の言葉に千夏は力が入り、ミシミシと肋骨が悲鳴をあげた
「骨!? 骨がぁ! 助けて! 助けて会長!」
「はっはっは!」
茜はそれを笑いながら眺めるだけだ
「助けてやれよ!楓先輩粉々になるわよ!」
流石に美遊が助けに入る、このままでは楓は粉砕されてしまう
「美遊っち! この子かなり私にフィットしてる!」
「だぁぁ! やめなさい千夏! それ以上やると骨折じゃ済まないから!」
「ごめん……可愛かったから、つい」
千夏が腕を緩める、表情から反省が伺えた
「なんとか……助かった」
楓は息を荒げながら立ち上がる
「ごめんね?」
千夏は両手を合わせて謝罪した、根は良い子なのにこの怪力のせいで千夏はよくトラブルを起こしてしまうのだ
「い、いいんだよ……大丈夫だから」
楓が茜の後ろに隠れた、まるで怯え主人の陰に隠れる子猫の様だ
「おかえり楓、千夏と言ったな」
「はい!」
「時が来たらまた会うだろう」
茜は背を向け返してと共に教室を出ようとした時、ドアを開くと目の前に岡部が立っていた
「結局全員いたのかよぉ!」
美遊の叫びを無視し岡部は茜にビニール袋を渡す
「会長、頼まれていた物です」
「ご苦労」
茜は満面の笑みで袋を受け取る
「ちょっと岡部! 居たなら助けてよー!」
「中々楽しそうな声が聞こえたもので……邪魔をしてはいけないかと思いました」
「楽しくないよ! 粉砕されるとこだったよ!」
「粉砕……ですか?」
三人はそのまま教室を後にする
「美遊っちの知り合い変な人ばっかりだね!」
「千夏もその中に入ってるのよ」
「え?」
「あっ……」
美遊は机に置いてあったモーニングスターを見つめる
「これ、あの子のだよね返さなくていいの?」
「放課後また会うことになるし、その時でいいわ」
(待てよ、これが無ければ楓先輩普通の女の子よね)
「美遊っち? 顔怖いよ?」
「ふふ……ふふふ、あいつらの公正第一段階ね」
美遊はニヤニヤ笑いながらモーニングスターを撫でると掌に違和感を感じ、見てみると赤黒い染みがべったりとついていた
「いやぁ!?」
「うわぁ……何それ」
「なんだろうね……ははっ」
美遊は力なく笑った
「ありがとう、助かったよ」
田山君が立ち上がり礼を言ってきたがこの原因が解らない、田山君は女子からの人気を誇る爽やかな男子生徒であるがどうしてこうなった
「田山君、大丈夫?」
「正直大丈夫じゃないよ」
「何があったのよ……」
美遊が呆れながら問う
「…………」
田山君は目を逸らし黙り込む
「何故黙るのよ!」
「止めてやれ東西」
「そうよ、かわいそうよ」
クラスの生徒達が詰め寄ってきた
「だから何があったのよ!」
「「……」」
「何故黙る!」
後にこれは田山椅子事変として伝説となる
「お前ら朝礼始めるぞ、席につけー!」
担任の坂山先生が教室に入ってくる、細い身体付きで眼鏡をかけ白髪混じりの初老の教師だ
「やばい!」
美遊はモーニングスターの隠し場所を探したが、こんな物を隠す場所なんてすぐに見つける事などできない
「東西、なんだそれは」
「えっと……あはは」
美遊は引きつった笑顔でごまかそうとするが
「まさか!?お前それは!」
「え?」
「楓様のモーニングスターか!」
坂山は目を見開き冷や汗を流している、驚愕より恐怖が勝っている様だ
「楓様!?」
「お前まさか生徒会に……」
「えぇ、まぁ」
「私は何もしていない! だから、だから助けてくれぇ!」
坂山は額を床に擦り付ける、初老の男が全力で女子高生に土下座している図の完成である
「えっと、先生?」
「はい! 何なりとぉ!」
「……どういう事なの」
「東生徒会といえば最強の組織、我々教師でも太刀打ちできない組織!」
「そうなんですか?」
「わからないで入ったのか!」
「こちとら入りたくて入ったんじゃない!」
(何なのよ、生徒会って)
「ともかく、授業中とかは静かにしてください、他の教員には黙っておくから」
坂山は立ち上がり教台に力なく向かう、今にも倒れそうだ
「坂山先生、どうしたのかな」
千夏が心配そうに美遊に声をかけた
「さぁ、知りたくも無いわ」
美遊はモーニングスターをロッカーに隠し1日を過ごしたが、ついに来てしまった放課後
「美遊っち、元気無いよ?」
「これからが地獄よ」
「美遊ちゃぁぁぁん! 楓のスター返してぇぇぇ!」
勢いよくドアが開けられ楓が入ってきた、笑顔で息を切らしている
「あら、楓先輩あれ無くてもいいじゃない」
「いくら美遊ちゃんでも許さ無いよ」
楓は微笑む、笑顔に見え隠れする威圧を美遊は気にも止めなかった
「ふっかわいい先輩ね、千夏! それじゃあ!」
美遊は反対の扉から逃げ出した
「ばいばーい!」
千夏は笑顔で手を振って見送る、肝が座っている訳ではない、異常な事に気付いていないのだ
「逃げ切る! ばっくれる!」
美遊は全力で走った、後ろから普通の女子になった楓がわたわた追いかけてくるのを想像したら笑えてくる、しかし現実はそんな可愛らしいものでは無かった
「うぁぁぁぁぁぁぁ!」
後ろから男子生徒の断末魔が聞こえた、振り向くと男子生徒が何人か壁にもたれ倒れている
「美遊ちゃん? どうして逃げるの?」
楓は棘鉄球のついた棒のような物を振り回していた
「なによそれ!?」
「これもモーニングスターだよ! メイス型だけどね、やっぱりしっくり来ないんだよね」
楓は笑顔を崩さ無い、しかし今度の笑顔からは恐怖しか感じられない
「怖っ!」
美遊は全力で逃げ出した、先程までの余裕など既に無かった、捕まったら殺される
「ふーん、逃げるんだ」
楓は頭上で2、3回メイスを振り回して両足を広げモーニングスターを構える、槍を使いこなす武将の如く
「力尽くでも取り返す!」
楓は美遊を追いかけ始めた、獲物を追う獣の様に迅速に
「何なのよあれぇ!」
後ろからは叫び、悲鳴等が聞こえてくる
「……!?」
「東西、廊下は走るな!」
生徒指導の松田に見つかってしまった、松田は美遊の進行方向に立ちふさがる
「先生! どいてぇ!」
「お前が走るのを止めたらなぁ!」
「……このっ!」
美遊は助走に乗り跳躍した、そのまま松田の頭部に手をつき頭上を身体を捻りながら飛び越えたのだ
「何っ!?」
「先生ごめん! 今急いでるから!」
「あははー! すごいすごい! 先生……邪魔だよー!」
「うごぁぁぁぁぁぁ!」
(先生ごめん!)
松田の断末魔を聞きながら美遊は必死に逃げた、罪悪感を感じながらも自分は逃げる事しか出来ない、肉食獣に追いかけられる気持ちが初めて解った気がする
美遊は階段に出た、ここで距離を稼ぎたい
「一気に下る!……っ!?」
美遊は手すりを飛び越え下の階に移動したが、着地を失敗して派手に転んでしまった
「追いついたよー! 美遊ちゃん!」
楓が追いつきメイスを振りかざす
「嘘!? ごめ…!」
美遊は目を閉じ頭を抱える、しかし不思議と痛みが来ない、恐る恐る目を開けてみると
「マイケル!?」
マイケルが刀の鞘でモーニングスターを受け止めていた
「間に合ったでござる」
「ちょっとマイケル! そこどいてよ!」
「楓殿! 落ち着くでござる!」
「落ち着けないよ! 楓のスターを返して!」
「これだろ?」
「会長!」
楓が振り向くと茜がモーニングスターを嫌な音を立てながら引きずっていた
「そう、それそれ!」
楓はメイスを手放し茜の元へ向かい鈍い音を立てながらメイスは床に落ちた、マイケルも安堵の息を漏らし鞘を納める、紛れもなく侍なのだ
「楓、許してやれ」
茜が楓の頭を優しく撫でる、楓はいつもの緩い笑顔で答える
「会長?楓はこれが戻ればそれでいいよ」
「岡部が探し出してくれたんだ」
「そういえば岡部は?」
「今日の活動の資料集め中だ」
「ちょっと待ったぁ!」
美遊が立ち上がる
「騒々しいな、美遊」
「副会長が探し出したって……」
「がさ入れした、岡部は追跡、隠密行動に長けているからな」
「どんな秘密工作員よぉ!」
「美遊殿、落ち着くでござるよ」
マイケルが美遊の肩に手を乗せ諭す
「マイケル……」
「岡部殿のおかげで助かったでござる、素直に感謝するでござるよ」
マイケルはニッと笑った、これには何故か反発出来ない
「まぁ……そうだけど」
「ともかくギルドに向かおう」
茜が美遊の半ば強引に腕を引く
「今日からお前も仕事がある、しっかり頼むぞ」
生徒会室では岡部が机で待機していた、こちらに気づき眼鏡を直しながら立ち上がる
「戻られましたか」
「あぁ」
茜がドアを閉め、各々席に着くと美遊に岡部が紙を手渡した
「何よこれ」
「誓約書です」
「誓約書?」
紙面に書かれていた内容はこうだ、生徒会処刑執行部に所属するに当たって軽傷、または重傷、最悪の場合も生徒会処刑執行部は一切の責任を負わない
上記を合意の上署名を命ずると書かれていた
「ざっけんなぁ!」
「さぁ! 署名をしろ!」
茜は目を輝かせながら美遊を急かす
「書いてある通りです、さぁ署名を」
岡部はペンを取り出した
「こんなの誓約でも何でもないわよ!」
「そうか、書いてくれないか……」
「文句あるの?」
「いや? 誓約書は強制だ、書かないのならそれなりの手を打とう」
「脅そうってわけ?」
「うちはそんな優しくないぞ?」
「美遊殿、ここは素直になった方がいいでござる、会長殿は本気でござるよ」
「マイケル……」
「そうだよ美遊ちゃん、入部届出しちゃった以上逃げられないよ?」
楓は笑顔で話した
「くそぉ……解った、解ったわよぉ!」
「よかった、これを使わなくて良さそうだ」
茜が机に何かを置いた、コロコロと転がるそれは鉄製の器具のようだ、洋梨のような形をしている、先端にゼンマイのようなものがついていた
「それは何よ?」
美遊は署名しながら質問する
「苦悩の梨だ」
「苦悩の梨?」
「こいつはかつてヨーロッパで使われていた拷問器具だ」
「拷問器具?」
「あぁ、かなり小型だが絶大な効果を誇るぞ」
「そう、ほら書いたわよ」
(聞きたくもないわね)
「ありがとうございます、おや? こちらにもお願いします」
岡部が指の先は署名欄の隣だ、不自然な空白がある
「何を書けばいいの?」
「肩書きです」
「ぶっ!」
美遊は噴き出した、こいつらは発言が突拍子が無さ過ぎる
「肩書きなんてないわよ!」
「なら未定とお書きください、会長が決めますので」
「任せろ、カッコイイの考えておくから」
茜はニヤニヤ笑った
「この会長は感性がずれてるからなぁ、嫌な予感しかしないわ」
(まぁ名乗らなければいい話よ)
「では、今日の活動だ、各自動けー!」
「ちょっとちょっと!何するか教えてよ!」
美遊が机を叩きながら立ち上がる
「あぁ、今日は美遊は初めてだからな、好きな相方を選べ」
「相方?」
「この学園はやたら広い、だから手分けで巡回を行うのさ、違反行為を行ってる生徒を正すんだ」
「注意するだけでしょ? 警戒し過ぎなんじゃない?」
「何が起こるかわからん、だからいざという時のために相方を選べ」
「はぁ……」
「美遊ちゃーん!一緒に行こうよ!」
楓が手を挙げる
「楓先輩」
(……は暴れたら手に負えないしなぁ)
「美遊殿は儂に任せるでござる、命をかけてお守りするでござる!」
「うん、マイケルは嫌だな」
「即答でござる!?」
(こんなのと並んで歩きたくないし)
「ならば私が!」
「んじゃ、副会長で」
茜が立ち上がり名乗りを上げるが美遊は無視して岡部を指名
「え……そう、そうだよな」
茜は大人しく席に着いた、かなり寂しそうだが美遊は気にも留めない
「ちぇー、じゃあ行ってくるよ会長」
「儂も行ってくるでござるよ」
楓は手を振り出て行き、マイケルも続いて出て行く
「ほらー!さっさと行ってこいよー!そこの二人もぉ!」
「会長何拗ねてんのよ」
「拗ねてない! ちょっと悔しいだけだぁ!」
茜は口を尖らせる、見た目とは裏腹に子供っぽい所がこの会長にはある
「では美遊さん、行きましょうか」
「そうね」
(よかった、この人はまともだ)
「片翼の堕天使、これより巡回任務に入ります」
岡部はハンドガンを平然に取り出し、弾を装填する
「副会長、それは?」
(こいつも色々やべぇ!)
「これはグロッグ18Cですよ」
「銃名を聞いてるんじゃないの!」
「おや、軽くて携行には便利なんですが」
岡部が首を傾げグロックを見つめる
「もういい疲れた」
「では会長、行ってまいります」
茜は二人を見送った後、机に広げた書類を見つめる
「この学園は問題だらけだな」
ため息をつき、朝に岡部が持ってきた袋を漁る、取り出されたのはちくわである
茜はちくわを頬張りながら、資料を漁る
「はむ……ん」
(うまい、やはり練り物がないと生活できないな)
「これは」
資料の中に美遊の履歴書が入っていた、補足説明の書類まである
「流石は片翼の堕天使」
茜はニヤリと笑う
(カッコイイ肩書き考えてやらねばな)
美遊と岡部は東棟を巡回してい、各教室を周り違反者を探す
「案外何もないわね」
「今日は特に何もなさそうですね」
「巡回なんて意味あるの?」
「ありますよ、この学校は自由を重んじていますからね、たまに羽目を外しすぎる輩が出てきます」
「ふーん、でも皆道を開けたりしないのね」
「あれは、会長がいたからですよ」
「ねぇ、その銃本物なの?」
「ふふっ美遊さんここは日本ですよ? 銃刀法を知っていますよね?」
岡部はクスクスと笑う
「その言葉、マイケルに言ってやりなさいよ」
「さて、こんなものですか、ギルドに戻りますか」
「そうね」
二人はあらかた巡回を終えギルドに戻ろうとしたその時
「待ちなさい! 片翼の堕天使!」
背後で1人の女性が叫んだ、振り向くと赤髪の女性が立っている
「こりゃあ、会いたくない人に見つかりましたね」
「誰?」
(それよりこいつ等の肩書きって本当に浸透しているのね……)
「貴方が新人さんね」
女は美遊にゆっくり近づき右手を差し出す
「美遊さん、下がって!」
岡部が声を荒げ、すぐに美遊は反応してバックステップで距離を取る
「あらあら、そんな嫌わなくてもいいじゃない」
「副会長! この人は?」
「風紀委員の方です」
「風紀委員? 生徒会あるのに?」
「我々の事を良く思ってない方々です」
「そうね、貴方達は最悪、武力で鎮圧なんて何時の時代?」
「……くそ」
岡部は銃を取り出し構えるが、委員長の反応は冷めている
「待って、今日は喧嘩しに来たわけじゃないの、新人さんを見に来ただけ」
女は長い赤髪を書き上げ、ニヤリと笑う
「美遊さん、目をつけられましたね」
岡部は冷や汗を流しながら睨む、相当焦っているようだ
「えっと、そうなの?」
「彼女は篠田紅葉、風紀委員委員長であり同性愛主義者です」
「は?」
美遊の中の時が止まる、意味がわからない
「新入りさん、風紀委員に入らない? 気に入っちゃったわ」
紅葉は頬に手を添え微笑むが、岡部が庇う様に美遊の前に立つ
「できませんね、美遊さんは既に会長の所有物です」
「所有物!?」
「貴方には聞いてないのよ、堕天使」
「紅葉さん、私は会長に仕える者です、下がれませんよ」
岡部が銃口を紅葉に向ける
「あらあら、やる気?」
「やめて副会長!」
美遊が岡部を止める
「美遊さん大丈夫です、言ったでしょ? 本物じゃないって」
岡部は引き金を引いた、銃声が響き銃弾が真っ直ぐに飛んでいく、弾は紅葉をかすめ背後の窓を砕破した
「おいごらぁ! 偽物つったろうがぁ!」
岡部の胸ぐらを掴み美遊は叫んだ、これは紛れもない焦りと怒りだ、副会長は銃をぶっ放しやがった
「はっはっはっ! やだなぁ美遊さん、本物に限りなく近い偽物ですよ」
当の岡部は首をぐらつかせながら笑っている、もうこいつ等手遅れかもしれない
「すぐに力に頼るのはあんたらの悪い癖、新人さん風紀委員に来る方が賢明よ」
「渡しませんよ、次は確実に当てます」
美遊に胸ぐらを掴まれたまま銃口を紅葉に向けた
「いい加減にしてよ副会長!」
「荒事は今日は無しにしたかったんだけどね」
美遊を無視して紅葉が岡部を睨んだ
「やめて! 私は、私は風紀委員なんか行かない!」
岡部を解放し美遊が両拳を握り締めながら叫ぶ、これ以上この二人に喧嘩させると危ないと本能が訴える、とっさに二人を止めるにはこれしか無い、生徒会に存続する意思表示だ
「美遊さん……」
「そう、気が変わったらいつでもいらっしゃい」
紅葉はため息をついてから、背を向け右手をひらひら振りながら去っていった
紅葉の背中を見送ってから二人はギルドに戻ると、楓とマイケルは既に戻っていた
「流石だぁ!美遊ぅ!」
扉を開くと茜が抱きついてきた
「か、会長何よいきなり」
「なんでもあの紅葉を追い払ったみたいじゃないか!」
「なぜそれを……」
「東棟の廊下ここから見えるんだよー」
楓がギルドの窓を指差す
「はぁ……見てたの」
「なぁ、どんな罵声を浴びせたんだ?」
茜は目を輝かせながら美遊を見上げる
「罵声?」
「紅葉の心をえぐるなんて中々できないぞ、私の目に狂いは無かったな」
茜は美遊を離し一歩下がる
「罵声なんて……」
「では、どうやったのだ?」
「何もしてないわよ」
それを聞いた茜は背を向け会長席に歩み寄った
「そうか残念だな、それより」
「それより?」
茜はニヤリと口端をあげ振り向きながら美遊を勢いよく指差した
「お前の肩書きが決まったぁ!」
「早くねぇ!? 昨日入ったばっかりよ!?」
岡部が小さく拍手し茜を讃える
「流石です会長」
「褒めるな岡部」
茜はまんざらても無さそうだ、ふふんと胸を張る
「嫌な予感しかしないわ」
「これからお前が名乗る肩書きだ、心に刻め!」
茜は巻物を取り出す
「巻物?」
「今回は書に収めてみた」
「嫌がらせ? 嫌がらせなの?」
「美遊殿も、これで正式入部でござるな!」
「会長ー!早くー!」
マイケルと楓が嬉しそうに茜を急かす
「東西美遊! お前にこの肩書きを授ける!」
「正直いらないっす」
美遊を無視して茜が巻物を高らかに広げた
『永遠咆哮』
「えいえん……ほうこう?」
(語呂悪いわね)
「違うぞ! これは……これは!」
茜が親指を立て美遊を見つめる
「永遠咆哮だぁ!」
「はぁぁ!?」
(だせぇぇぇ!)
「では次の活動だ」
何事も無かったかの様に急に話を変えられた
「待って! ちょっと待って!」
「なんだ? 永遠咆哮」
「やめろぉ! だいたい何よエターナル・ロアって!」
「お前にふさわしいと思うぞ? 常になんか叫んでるし」
「誰のせいよ!」
「まぁ、これでも食って落ち着け」
茜がちくわを手渡す
「ちくわぁ!? なぜちくわ!?」
「うまいぞ?」
「そういう問題じゃない!」
「お前……まさかちくわ嫌いか?」
茜が絶望の表情を見せる、そこまでの事か
「嫌いじゃないけどぉ!」
「では書類を配布します」
岡部が全員に書類を配り始める
「勝手に進めるなぁ!」
「よくやった岡部、ちくわをやろう」
「有難き幸せ」
「もうなんなのよこいつ等ぁぁ!」
「会長ー!今日は何するの?」
楓が元気よく挙手する
「書面の通りだ、最近羽目を外し過ぎている部活が目に余っている」
「うむ、儂も幾つか心当たりがあるでござる」
「ふふ、成る程ね」
楓が笑みを漏らす
「中でも現在、サッカー部が酷い有様だ」
「サッカー部?」
美遊がちくわをかじりながら質問する
「そうだ、書面にある通り、悪業三昧だ」
サッカー部
前大会で好成績を残してから調子に乗ってる、やんちゃ集団
悪業
・グランドの占領
・女子生徒への口説き
・やたら自意識が高い
・一般生徒へ喝上げ行為
・殺人シュートの開発
「待て待てぇ! 何? 殺人シュートって何!?」
「奴等は、玉を蹴らしたら天下一品だ、そんな中現在殺人シュートの開発を行っていると情報が入った」
「何でも、殺人シュートを受けた者は皮膚が焼け、骨が砕け意識は戻らないと言います」
岡部が追加補足を入れるが何を言っているか美遊には理解できない
「アホくさ、付き合ってらんないわ」
美遊が溜息をついて出て行こうとするが
「もちろん、美遊お前にも参加してもらうぞ」
「嫌だと言ったら?」
「お前の頭蓋骨を粉砕する」
美遊の挑発に対し茜は笑顔で答えた
「拒否権ないじゃない」
「大丈夫でござる、我々に勝てる奴等はいないでござるよ」
「では、皆! グランドに行くぞぉ!」
「おー!」
「え〜……」
美遊は渋々生徒会の面々についていく、グランドではサッカー部が汗を流し活動を行っていた
「なんだ、普通の運動部じゃない」
「油断するな美遊、お前らぁ! 我々は生徒会だぁ! 不埒な悪業を行っているのは既に承知だ! 平伏せぇ!」
茜が大声で叫んび、サッカー部の面々はどよめいている
「生徒会だ、まずいぞ」
「メイデン様が動いたか」
「キャプテン、ここは大人しくしていた方が……」
「待て、話をつけてくる」
キャプテンと呼ばれた男が歩み寄ってくる
「会長殿には指一本触れさせないでござる」
マイケルが割って入るが茜が自ら退ける
「よせ、マイケル」
「これはこれは茜会長、初にお目にかかります、私はここのキャプテンの金田と申します」
金田は頭を下げる、爽やかな表情と引き締まった肉体、そして短く整った頭髪は清潔な模範生と言ったところか
「貴様らサッカー部は今回処刑執行の対象となった」
「おや、困りましたな、我々は清く正しく青春の汗を流しているというのに」
「どの口が、笑わせるな、これから貴様らは処刑を受けてもらう、代表者を選べ」
「やれやれ、わかりました、少し時間をください」
金田は両手を広げやれやれと首を振り下がっていった
数分後
「は?」
美遊は理解できない
「「よろしくお願いします!」」
双方整列して向かい合う
生徒会の対面にはサッカー部11人が並ぶ
「ふふ、処刑執行だ」
「待てよバ会長!」
美遊が叫んだ
「バ会長!?」
「何を始める気!?」
「え? サッカーだが」
「待て待て! 何で? 何で生徒会がサッカー?」
茜はニヤリと笑う
「郷に入れば郷に従え、これが我等のやり方だ、何……すぐに蹴りをつけるさ」
「ずいぶんと自信がありますね、人数差がありますがよろしいのですかな?」
金田がつっかかってくる、目に見えた挑発行為
「後で泣きを見ても遅いからな! 我等を見くびるなよ、各自配置につけ!」
茜の指示で配置につく
陣形などは無く、キーパーにマイケルがいるだけ、後は自由にグランドに立つ
「奴等は馬鹿か?11人に対して、たったの5人で挑むとはな」
「でもいい機会ですね金田さん、生徒会に勝てば我々は安泰です」
「その時は女はマネージャー、野郎は雑用にでも使ってやろう」
その時高らかな笛の音が鳴り響く、ついに試合が始まった
先に動いたのはサッカー部、ボールを敵陣に運ぶ
しかし、その足はすぐに止まる、目の前で鉄球が地面に刺さっている
「うふふ、スポーツは久々だなぁ!」
楓が鎖を引き棘鉄球を手元に戻す、笑顔でこれをやってのけるからなお恐ろしい
「おいおい、何でもの持ち出してんだ嬢ちゃん」
「ごめんねー! 選手生命終わったらごめんねー!」
楓がモーニングスターを投げ飛ばし選手の溝に抉りこませる
「ごぱぁっ!?」
「よし!」
「よしじゃねぇよ!」
楓のガッツポーズに美遊が喝を入れる
「美遊ちゃん? どしたの?」
「何してんのよ! やりすぎよ!」
「手は使ってないよ?」
楓は笑顔で首を傾げる
「ダメだ……アホしかいない、私がやる!」
美遊はフリーのボールをドリブルし敵陣に走る
「ひゃー! 美遊ちゃんやっるー!」
「通すな!意地でも通すな!」
サッカー部が立ちはだかる、流石は大会好成績のチームだ、スキが見つからない
「……っち! 副会長!」
美遊は岡部にパスを回したが、岡部は身動きせず顔面でボールを受ける
「動けよ!」
「申し訳ありません、スポーツは少々苦手です」
鼻血を垂らしながら岡部は眼鏡を上げる、結構痛そうだ
「仕方ないなぁ!貸して!」
楓がボールを受け取りボールを敵陣に運ぶ、頭上でモーニングスターを振りましながらドリブルを始めた
これにはサッカー部は近づけない
「あははー! 誰も楓を止められ無いよー!」
「……っこの!」
金田がスライディングでボールを奪い、さらに足を引っ掛け楓を転倒させた
「いった〜、膝擦りむいたぁ」
楓をスルーし金田はボールを華麗に運ぶ
「待ちなさいよぉ!」
美遊が必死に追いかけるが金田の脚は速く追いつく事すら叶わない
「届けぇ! これが殺人シュートだぁぁぁ!」
金田は渾身のシュートを決める
脚力、遠心力、軸、全てが一致した時、ボールは楕円形に歪み風を切り地面を抉りながらマイケル目掛けて突き進む、まるでライフルから発砲された銃弾の如くボールは突き進む
「マイケルゥゥゥゥウ!」
美遊が叫び、金田は高らかに笑う
「はっはっはー!見たか! これがシュートの威力……?」
様子がおかしい、よく見るとボールが止まっている
いや、猛回転を起こしながらゴール前で止まっている
「ぐぬぅぅぅぅぅぅぅ!」
マイケルが両手でボールを止めていたのだ、大地を裂いたボールはマイケルの身体を痛めつける
しかしマイケルは崩れない
「馬鹿なっ! そんな筈は……」
「ふぬ! ふぬぅぅぅ!」
マイケルの手の中でボールは停止した、皮膚の焼けた匂いが漂うマイケルは見事ゴールを守ったのだ
「儂は! 異国の大和たまし……」
マイケルが膝を崩し前のめりに倒れた
「はっはっは! そりゃそうなる!俺のシュートを受けて立っていられる奴なんかいねぇんだよ!」
「マイケル、よくやった後は任せろ」
茜がマイケルの手元から転がったボールを受け取る
「降参したらどうだ? もうキーパーは動けないぜ?」
金田が茜に接近しま挑発、しかし茜が動じる事は無かった
「貴様は、生徒会を舐めているな」
「は?」
目にも留まらぬ茜の蹴りが炸裂、金田の側頭部を蹴り抜いた
「てめぇっ! 反則だぁ!」
「反則? そんなもん知らぬ」
「あ?」
「まず、審判すらいないし何より、我々がルールだぁ!」
茜はボールをドリブルし、走り出す
「通すな! 絶対に通すなぁ!」
金田が檄を飛ばすとサッカー部全員が茜に襲いかかるが、茜は軽く飛び一人を空中回し蹴りにより吹き飛ばす
「ぬぁ!」
「そうなりたくなければ道を開ける事だ、今の私は少々気が立っている」
「ざけんじゃねぇ……っぐふぁ!」
次はコンバットキックで敵を鎮める
数々の華麗な脚技で敵を蹴散らす
「これ、サッカーよね」
美遊はこの惨劇を見て呆気に取られているが試合は続行された、一瞬で敵の半数は地面に倒れた
「化け物めぇ」
金田は歯ぎしりしながら茜と対面する
「半数は堕ちた、これで人数は五分だな」
「くそぉ!ふざけんじゃねぇ!」
「一気に抜けるぞ!」
茜は金田を抜かし敵陣に躍り出る
「この一撃にかける! 岡部ぇ!」
茜が岡部にパス、岡部は顔面でそれを受ける
「ちょっ!? 副会長!」
「甘い!……何だと!?」
金田が岡部に接近するが、首に鎖が絡まり仰向けに倒れた
「さっきはよくもやってくれたねぇ!」
楓は金田を重石代わりにして高く跳躍し、両手で持ち手の棒を握り締める
「1番痛いのやっちゃうよー!」
「まさか!? やめろぉ!」
「ライトニング☆スター!!」
一気に天から降るその姿は稲妻そのもの、重く鋭い一撃が金田の腹部に突き刺さる
「なぁぁ!?」
痛みに金田は意識を失い、ボールは岡部の顔面を離れ宙高く弾け飛び、茜がボールを高く蹴り上げる
「決めろぉ!! 美遊ぅ!」
「仕方ないわね!」
美遊は宙に跳躍し、渾身のシュートを叩きこむ、ボールは相手ゴールを目掛けて飛んでいく
「届けぇぇぇぇぇえ!」
生徒会の願いの籠ったシュートは凄まじい威力だったが、相手キーパーも黙ってはいない、シュートを止めに動く
そこに銃声が鳴り響きキーパーの意識がそれた、その一瞬の隙にボールはゴールネットにめり込んだ
一瞬の沈黙
「いよっしゃぁあ!」
美遊は思わず声を上げる
「美遊ちゃんナイッシュー!」
楓が背後から美遊に飛びつく
「楓先輩!」
「見事だ」
茜が拍手しながら歩み寄る
「会長」
「さて、キーパーこちらに点が入ったが……続けるか?」
キーパーは横に首を振る
「金田さんも気を失ってるし、残ってるのも戦意喪失、勝ち目はないです」
「ふ、決まりだな」
茜は腕を組み胸を張る
「一件落着ですね」
「岡部、顔すごいよ?」
楓が岡部の傷を摩る
「これくらい傷には入りませんよ」
「がっはっは! 流石は片翼の堕天使でござるな!」
「マイケル! まったく、心配かけんじゃないわよ」
美遊は呆れながら優しく微笑む
「貴様らサッカー部は、これに懲りたらもう悪さをしないように」
「会長?もういいの?」
「あぁ、もう大丈夫だそれにまた悪さをしたらまた処刑してやる」
茜は悪戯に笑う
「もう悪さしないでねー!」
楓がキーパーに微笑む
「え、あ!はい!」
「あれは、天使の微笑み!」
茜が驚愕の表情を見せる
「天使の微笑み?」
美遊は呆れながら聴いた
「敗者の心を奪い、無意識に部下を作る、恐ろしいマインドコントロールだ!」
「アホくさ、あぁ疲れた〜!」
美遊は伸びをして筋肉をほぐす
「さて、一旦戻ろう、我がギルドへ」
生徒会のメンバーはギルドへと帰還した
ギルドに到着し各自席に着く
「つっかれたわ」
美遊が机に突っ伏した
「皆ご苦労、思いの外早く終わった」
茜が会長席にどかりと座る
「久々にいい汗かいたー」
「楓殿はいつも笑顔でござるな」
「そうだよー!」
「では、今日はここまでだ、体力が回復したら各自帰宅しなさい」
茜の指示により、美遊以外全員帰宅、美遊は寝息をたて机に突っ伏したままである
夕日が生徒会室を優しく照らす
「まだ起きそうにないな」
茜は美遊を見つめ頬杖をついてちくわをかじる
(大した者だな、既に生徒会に馴染んでいる)
「あ……」
ちくわの在庫が切れてしまった
「しまった、これは不覚、帰りにかまぼこでも……」
「本当に練り物好きなのね」
「!?」
美遊は目を覚まし茜を見つめていた
「起きたのか」
「お疲れ、帰ってもう一眠りするわ、それじゃあ」
美遊が欠伸をしながら立ち上がる
「待て、永遠咆哮」
「あ?何よ鋼鉄淑女」
「お前、なぜ最後のシュートを託されたかわかるか?」
「は?」
「お前の身体能力はかなり高い」
「何が言いたいの?」
「ふっ……人は変わる物だな」
美遊が机を蹴り飛ばした
「あんたまさか!」
「そう吠えるな、よくある話だろう」
両手を眼前で組み美遊を見つめる
「うっさいわね! 何で知ってるのよ!」
「岡部の情報収集を舐めない方がいいさ、だがお前が何者だろうと私はお前の味方さ」
「……っ!このっ!」
美遊は拳を納める
「お前はいい戦力になる、私の目に狂いはなかった」
「もういい! 帰る!」
「あぁ、気をつけてな」
美遊は乱暴に扉を閉める
1人残った茜はため息をこぼした
「やれやれ、手のかかる部下だ……おっと、かまぼこ買いに行かなくては」
茜も席を立ち、ギルドを後にする
美遊の過去
その因果に拘束されている者は数多くいる
学校に新たな影が近寄っていることをまだ誰も知らない