表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/31

処刑16 二学期の始まり

 今日も爽やかな快晴、業務を全うしている目覚まし時計に起こされた、生徒会一年生、東西美遊とうざい みゆの一日がまた始まる


 眠い目を擦りながらカーテンをそっと捲り隙間から外の景色を覗き込む、アパートの前の道路は既に出勤している車が数台走っていた


(6時......)


 鳴り響く目覚まし時計のアラームを力無く止める、背伸びをして眠い体を起こしてベッドから出る


 彼女の朝はコーヒーから始まる、お湯を沸かしインスタントコーヒーを作りブラックのまま飲みながらトーストが焼けるのを待つ、1人暮らしの高校一年生とは思えない有意義な朝


 何気なくテレビをつけると、ニュースでは芸能の話題を報道していた


「先日チャンピオンの天竺たんを倒したのは今回初出場のちなりん選手! なんと拳1つでチャンピオンをKO!」


 ニュースではプロレスの話題を取り上げていた、最近女子プロレス界に新たな新人が怒涛の連勝を飾っているらしい


「ねむ.....」


 美遊は眠い目を擦りながらチャンネルを変える、目的は天気予報だ


 天気予報を見ながら焼けたトーストを齧る、今日は一日晴れるらしい、洗濯物を干していても問題ないようだ、気だるく立ち上がり夜のうちに回していた洗濯物を外に干す


「さて、支度しますか」


 呟き立ち上がり脱衣所に向かう、朝のシャワーを浴び、湯巻きのまま髪を乾かす、櫛を通し髪を整え歯を磨く、一通り身支度をして久しぶりの制服に袖を通す、そう、今日から二学期である


 通学路を歩いていると、段々と同じ格好をした生徒達が増えていく、眠くても今日は始業式だけだ、それを耐えれば帰って寝れる


「おっはよー! 美遊っち!」


 元気に挨拶してきたのは同じクラスの友人、安堂千夏あんどう ちなつである


「おはよ、千夏は新学期早々元気ね」


 2人並んで校舎に入る、学園内は広い、未だに足を踏み入れてない場所がまだまだある


 何気ない世間話をしながら廊下を歩き、美遊が教室の前でぼやく


「また学園生活が始まるのか.....」


「なんで嫌そうなの?」


「結局夏休みもあいつ等に振り回されて終わったなって」


「生徒会?」


「そ」


 教室の扉を開く、既に登校している生徒達がそれぞれの時間を過ごしている、在り来たりな学園生活を各々が過ごしている


 その後、始業式が始まり教師やお偉いさんのつまらない話が続いた


「続きまして、生徒会長よりご挨拶があります」


 司会の言葉により、生徒会長の桐谷茜きりたに あかねが壇上へ上がる


 生徒会長の座にいる学園のトップ、いや、支配者と言った所か、長く美しい黒髪を揺らしながら鋭い目つきで全校生徒を見渡す、マイクのスイッチを切り、大きく息を吸い込み叫んだ


「紹介に頂いた生徒会長の桐谷茜だ、皆の者よ! 二学期も頑張っていこうではないか! ただし自由を履き違える者は容赦なく処刑対象とする為覚悟しておく様に! ......では失礼する」


 言い終わると茜は壇上に頭を下げてから下がっていった、生徒達は緊張が解けたように安堵の息を漏らす、生徒会処刑執行部会長、桐谷茜の肩書きを知らない者は生徒と乗員含め学園には存在しないだろう


 処刑執行鋼鉄淑女しょけいしっこうアイアンメイデン、学園の人間を震えさせるこの肩書きに彼女は恥じない働きをして来た


 少し安心したのは美遊も同じだ、偉そうな態度は気にくわないが、予想以上にまともな挨拶と感じる時点で美遊の感覚も麻痺し始めているのかもしれない


 始業式も無事に終わり、後は帰宅するだけとなった筈......なのだが


「何の用よ」


 美遊が机に頬杖つきながら隣に立つ女生徒を見上げる


「何の用とは失礼な部下だなお前は」


 そこにいる女生徒こそ、先程壇上で挨拶していた生徒会長、三年生の桐谷茜本人である


「私は帰るわよ」


「だーめだ」


 教室内がざわめく、あの生徒会長の桐谷茜が教室にいるのだ、既に何回か見た光景だが緊張が途切れる事がない


「今日はいいじゃない、明日は出てあげるから」


「明日やろうは馬鹿野郎だ」


「ちょっ!?」


 美遊の両手に手錠を掛ける


「さてさて、どうする美遊? これを解除する鍵はギルドにあるぞ?」


「このバ会長め!」


 力技で手錠を壊そうとしてもビクともしない


「わぉ! 美遊っちが逮捕されたー!」


 千夏が嬉しそうにはしゃいでいる


「ちょうどいいわ! 千夏これ切って!」


「できるかなー」


 手錠を千夏に見せる様に茜に背を向けてしまった、これが愚かな行為とは気づかない


 千夏の手刀により手錠の鎖が粉砕された一瞬の間に今度は首輪をつけられた


「はっはっはー! 行くぞ! 今日も元気に生徒会活動に勤しもうではないか!」


 茜は笑いながら首輪から伸びている鎖を引き、教室を出ていった


「ちょっと、離しなさいよぉ! せめてこれ取ってええぇぇぇぇ......」


 美遊の叫びが遠のいていく


「えと......ばいばーい?」


 千夏は首を傾げながら手を振っていた、そして美遊達は階段を登らず廊下を練り歩いていた


「解った解った! 生徒会室行くから! これ外しなさいよぉ!」


 両手で首輪を外そうとしてもご丁寧に南京錠まで掛かっている為、自分の力では外れない


「お?」


 茜の足が止まり振り向き美遊の姿を見つめる


「何よ」


「似合うぞ?」


「ぶっ飛ばすわよ?」


 茜は背を向けてまた鎖を引く


「良いではないか、主従関係を表していて」


「うっさい! 私は犬じゃないのよ! それにこういう趣味だと思われたらどうしてくれんのよ!」


 周りの視線が痛い、それもそうだ首輪で繋がれて両手に手錠だった物をぶら下げているのだ、かなり恥ずかしい


「何だ? 狼も犬も同じだろ?」


「なっ......あんた本気で私を怒らせたいようね」


「偶には飼い犬に噛まれるのも悪くない」


「やろうっての? いいわ、今日という今日こそはあんたを公正してあげる!」


 背後からローキックを仕掛けたが茜は見通した様にジャンプで回避


「伏せ!」


 茜はそのまま鎖を手繰り寄せるとバランスを崩した美遊は前のめりに転んだ


「いったぁ!」


「ほら、行くぞ?」


 茜に手を差し伸べられ、ぶつけた鼻を抑えながらそれを掴み立ち上がる、渋々美遊はついて行くしか無かった


「ギルドじゃないの?」

(は、恥ずかしい)


 茜の向かっているのはどうやら生徒会室ではない様だ、進むに連れて生徒の数が増えて行く、首輪姿の美遊を見つめる目線が増える、辿り着いたのは昇降口、学園の玄関である


 そこには余りにも見慣れた3人の姿


「やっほー! 美遊ちゃん」


 手を振っているのは、生徒会2年天使の朝星モーニングスターの肩書きを持つ田原楓たはら かえで、身長が低くぴょんぴょん跳ねている金髪セミの少女、おかしな所は右手に赤黒い染みのついたモーニングスター持っている事


「遅かったでござるな」


 腕組みをしている中年に見える男は生徒会2年、異国の大和魂の肩書きを持つマイケル、和服姿で髷を結い腰には刀を下げている、一言で言えば侍、顔付きや風貌は日本人そのものだが自称米国出身の高校2年生らしい


「ご苦労様です、では参りましょう」


 一段と礼儀正しい眼鏡の男は、生徒会副会長3年、片翼の堕天使の肩書きを持つ岡部おかべ、これと言って他に特徴は無い


「美遊っち! カバンカバン!」


 後ろから追いかけてきたのは先程の美遊の友人の安堂千夏だ、どうやら美遊の荷物を持ってきてくれたらしい


「千夏、悪いわね」


「おぉ! 生徒会が勢ぞろいだね! これから例のやつやるの?」


 例のやつとは、生徒会名物の『処刑』である、一学期から羽目を外した生徒達が処刑の対象にされてきた


 サッカー部は一度壊滅し、卓球部は処刑の効果でならず者の集まりが公正し、今や礼儀正しい生徒になったという、さらに期末テストの処刑の結果、それ以降赤点を取るものは消え、学園の学力向上が見受けられる


 この事から今や生徒会に逆らう者は学園にいない、帝王による武力と恐怖による統率

 桐谷茜生徒会長はこれが正しい事だと確信している


「今日は違うぞ」


 茜が首を振り否定する


「なら何するのよ、また遊びいくつもり?」


 怪訝な目をしながら美遊は首輪を外そうとしているが外れない


「外食しよう!」


「外食?」


 美遊の手が止まる


「そうなんだー! いいなぁ!」


「千夏も来るか?」


「ごめんね、今日は帰らないといけないから」


 茜の誘いに千夏は残念そうに答えた


「そうか、なら気をつけて帰れよ」


「うん、それじゃ」


 千夏が手を振りながら昇降口を出る際、楓の横をすれ違う瞬間に楓は冷や汗を流した、過去に何度も肋骨を粉砕されたトラウマからだ


 楓の真隣で千夏の足が止まる、楓は息を飲んだ、やられる、またカルシウムが被害を受けると


「な、何かなー?」


 楓は笑顔で千夏を見上げるが内心焦りと恐怖心で溢れかえっているのだ


「ううん、それじゃあね」


 千夏はそのまま帰って行った


「あれ? 何も無かったよー、どうしたんだろう?」


「きっと忙しいのでしょう」


 岡部も千夏の退場に少し安心した様だ


「では行くとしよう!」


 茜が鎖を引きながら靴を履き替える、美遊も慌てながら靴を履き替えた


「だからこれ外しなさいよ!」


 美遊の事を気にせず、生徒会は学園を出る、半ば美遊は引き摺られていた


「さーて、楽しい楽しいランチだぞ」


「人の話聞きなさいよぉぉぉぉぉ!」


 賑やかに道を歩きファミレスに到着して、楓を挟むように女子が、向かいに男子2人が座る


「ハンバーグ! ハンバーグ!」


 楓は嬉しそうに足をバタつかせている


「だいたい何でこんな事を」


 美遊は剥れながら頬杖をついている、首輪と手錠だった物は道中岡部に外してもらった


「別にいいだろう、二学期に向けての決起会だ」


「決起会ですか」


 岡部も今日の目的は知らなかったらしい、茜は勢いよく立ち上がり声を大にして話す


「そう! 我々は闘わなければならない相手がいる! 風紀委員会の連中だ!」


 風紀委員会とは、学園で唯一生徒会に敵対する集団、中でも風紀委員長の篠田紅葉しのだ くれはの存在は生徒会でも要注意している人物である


「あのさ」


 美遊が呟くと茜は勢いよく指差す


「発言を許可しよう!」


「あんたさ、風紀委員会を目の敵にしてるけどさ、何がそんなに嫌なのよ」


「存在だ!」


「身も蓋もないわね、後は声のボリューム下げなさいよ、注目されてるから」


「おっとすまない」


 茜は周りを見渡して、席に座る


「でもさー、あのレズ女をこっちから粛清するのはしんどいよー?」


 楓の発言を聞き茜は頷く、レズ女とは紅葉の事だ


「その通りだが、その周りは早急に対処しなければならない、現在我々に敵が他にもいる」


 無言のまま、焼き魚定食を待っているマイケルの片眉が動いた事に誰も気がつかない


「敵、ですか」

(祭りの時の......まさか風紀委員絡みとは)


 岡部は手を眼前に組みながら声を漏らした


「そうだ、風紀委員会に今、諜報部と新聞部が飲み込まれたらしい」


「「は?」」


 マイケルと岡部は意外だと声を出した


「何かおかしな事言ったか?」


「いやいや! 何でもござらん!」


 マイケルは慌てながら否定する


「最近お前変だぞ? 何か隠してないか?」


「何もござらんよ」


「そうか? なら続けるぞ? 現在入っている情報によると、諜報部と新聞部が我々を嗅ぎ回っているらしいが私は風紀委員が一枚噛んでいると睨んでいる」


「とろけるチーズのハンバーグのお客様ー!」


 その時店員が料理を運んできて会話が中断される


「あ、はいはーい!」


 楓が満面の笑みで返事をした、ナイフとフォークを既に装備している


 それから順々に注文したメニューが運ばれてくる


「とりあえず食おうか、ちくわが入っていないが美味そうだ」


 茜も目の前のキノコリゾットに視線が移る、茜は練り物が大の好物だが普通に食事も取るのだ


 昼食を取りながら会議は続く


「新聞部はわかるけど、そもそも諜報部って何なの?」


「ん? あぁ、美遊は知らないのか、諜報部とは学園内の、そうだな情報泥棒みたいなものだな」


「情報泥棒?」


 パスタを巻いていた美遊の手が止まる


「そうだ、奴らは危険だ、場合によってはスパイじみた事もやってのける」


「何でそんな事を、暇なのかしら」


「スリルと好奇心、それに情報次第では相手の内心を露わにできます、そこまで考えて動いている輩は一握りみたいですが」


 岡部は背筋を伸ばしながら味噌汁を啜り、説明した


「会長これ、おいひぃ」


 話を聞いているのかいないのか、楓はとろけそうな笑みで茜を見上げる


「そうかそうか、良かったな」


 茜もそれに優しく微笑み返す、これが楓の存在、場の空気を和ませてくれる


「しかし困り物でござるな、諜報部も新聞部も情報網が底知れないでござる」


「マイケルの言う通り、諜報部の情報を新聞部に拡散されたらかなーりの痛手だ」


 珍しく茜がため息をついた


「けど報道されて今更困る事あるの? 既にあんたら好き勝手やりまくってるじゃない」


「美遊は甘いな、我々が恐れているのは捏造だ捏造」


「捏造?」


「例えば、我々が良い事をしたとしても、その現場の写真と適当な文章を並べられたら、一般生徒は信じるしかない」


「成る程ね、じゃあ諜報部の存在は何故? 新聞部単体でも何とかなるんじゃない?」


「元ネタ探しだろう、火の無い所に煙は立たない」


 徹底された敵組織に美遊は落胆した、二学期早々とんでもない奴らに目をつけられた物だ


「それで今日はギルドじゃないんだねー!」


「へ?」


 楓の発言の意味が美遊にはわからない


「だってだよ? 今のギルドは敵の監視下にある可能性があるんだよー?」


「あ、そういう事」


「用心に越した事は無いからな、明日の放課後までにはギルドを使えるようにしておくから、明日はギルド集合でいいぞ、岡部も協力してくれ」


「仰せのままに」


 その後世間話などをして昼食兼、作戦会議は終了した


 生徒会を取り巻く的な存在、奴等が今後の運命を変える事をまだ知らない


 帰路についている中


「ちょっと時間をくれないか」


「ぬぉっ!?」


 1人になった時、マイケルの目の前に脇道から茜が現れた


「ははっ! 驚いたか?」


「先回りでござるか、心臓に悪いでござるよ」


「悪い悪い、次の作戦なんだが、お前に頼みたい事があってな」


 2人で並んで歩きながら話す


「ほうほう、儂の力が必要なのでござるな」


「あぁ、お前には単身で諜報部の殲滅を頼みたい」


「なんと!? それは敵を軽視しているでござる!」


「それはお前が謙遜している」


「ぬぅ.....」


「抜刀を許可する、何も問題なかろう」


「......」


 マイケルの脚が止まり茜が先を越してしまい振り返り、少し心配そうな表情を見せた


「どうした?」

(やはり、祭りの時の気配に気づいているか)


「いや、何でもござらん! 儂に任せておくでござる!」


「マイケル、嫌なら断っていい、諜報部には私と楓が向かう」


「心配ござらん、儂は会長殿の刃、儂の意は会長殿の意でござる、刀身を振るうも振らぬも会長殿次第でござるよ」


「そうか、頼もしいな、よろしく頼むぞ」


「任せろでござる! 明日に備えて今日は床に着くでござる、失礼」


 マイケルは茜を通り越し、最後に優しく笑みを見せ去っていった、茜はその背中を見送り帰路につく


 しかし途中で明日を止め、鞄から紙を取り出し睨むように見つめる


「無粋な真似を......!」


 紙を握り潰し鞄に乱暴に突っ込んだ、遂に始まった二学期も騒がしくなりそうである

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ