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処刑15 生徒会VS風紀委員ー夏の陣ー最終決戦、夏の終わり

 場の空気が固まる


 紅葉が近づき茜のくじを確認


「ねぇ」


「なんだ?」


「4等、なんだけど」


「なぬっ!?」


 慌てて茜がくじを確認する、紛れも無い四等、抗いようの無い四等の文字が


「あの自信は何だったのよ」


「馬鹿な、私レベルになると当たりくじから手元に来ると言うのに!」


「会長さん.....貴方って人は」


 紅葉も流石に呆れた表情を見せる


「あいよ、4等!」


 女店主が小さい猿のぬいぐるみを渡す、可愛らしい表情をしているが無駄に手足が長い


「......」


 茜は絶句した、これをどうしろと


「ほら嬢ちゃんこっちに来な」


 女店主の元へ行くと猿のぬいぐるみを後ろから首につけられた、両手がマジックテープでくっつく様に作られているらしい


 正面から見ると茜の肩から小猿が顔をのぞかせている


 茜は絶句した、この状況をどうしろと


「あっはは! 可愛いペットができたわね! おめでとう!」


 紅葉は指差し笑っている、無性に腹がたつ


「く......! もう一回だ!」


「えぇ!」


 気を直しくじを引きなおす、結果は紅葉が4等で茜が5等


 紅葉が渡されたのはブニブニの手触りのゴムボール、悔しさから握り閉めると無情にもゴムボールが光りだした


 茜が渡されたのはシガレット、煙草の真似をできる菓子、手招きで楓を呼ぶ


「会長ー? どしたのー?」


 茜は無言でシガレットを一本取り出し楓の口に咥えさせ、頷いた


「補導待ったなしだな!」


「ふぇ? あ、これ美味しい」


「じゃあ、全部やろう」


「ありがとう会長ー!」


「猿も欲しいか?」


「うわー! 会長それかわいいよー!」


「じゃあこれも.....」


「それは会長だから似合うんだよー!」


 何だろう物凄く複雑な気持ちになった


「お、おぅ」


「それじゃあ頑張ってねー! 後ろで応援してるよー!」


「ありがとう、ここで負ける様な私では無いさ」


 くじ引き試合は思いの外難航している、茜はここまで長引くとは思っていなかった


 3回目のくじ引き、2人とも4等、流石に女店主も苦笑いだ


 まずは紅葉が景品を受け取る、子供用のハリセン、厚紙で作られている


「は、ハリセンだと.....」


 茜が笑いを堪えながら前に進み、景品受け取る、紅葉が後ろに下がり待っていた


「ぶふぁ!? な、何よそれぇ! くっ...ふふ!」


 振り向いた茜の顔には鼻眼鏡が装着されていた、余りにも似合わない、残酷な程にカリスマを破壊するアイテムを茜が引いてしまったのだ


 オーディエンスからシャッター音が聞こえる、学園の生徒達だ、美遊も紛れ込んでいるのは言うまでも無い


 普段凛々しく、多くの生徒から恐れられている、桐谷茜の鼻眼鏡姿、これは記念に収めなければ勿体無い


「撮るなぁ! 貴様ら全員二学期覚悟しろよ! 全員処刑してやる!」


 茜が必死に訴えるとシャッター音が止んだ


「どうする? 続ける?」


「当たり前だ!」


 鼻眼鏡の奥の瞳が若干涙目になっていた、その後二回引いたが、4等しか出ない


 紅葉はゴムボールとハリセンが増え、茜には両肩と左腕、合計三匹の小猿が住み着いた


「なぁ、これキリなく無いか?」


「奇遇ね会長さん、私もそう思っていたわ」


 両手首に光るゴムボールをぶら下げた紅葉も賛成する


「ルールを変えよう」


「そうね」


 新ルールが実行された、2人は祭り会場の端に移動する、くじ引き屋は反対側の1番端近く、一本の道でできていて、出店が囲う様にできている


「準備はいいか?」


「勿論よ」


 新ルールは先にくじを引いた方の勝利、最早くじ引きでは無いが、これくらいしか方法が無かった、この競技のためだけに一時的に祭り会場を通行止にし道を作る


 他にルールは何を使ってもいいと言うこと


 そして遂に本当の最終決戦が始まる


 両者スタートは同じ、浴衣と言うハンデを茜は物ともしないで突き進む、お互い妨害は今の所していない、くじ引き目掛け全力で走るが


「そこだぁぁぁぁ!」


 風紀委員達が茜目掛け突撃の奇襲を掛けるが、茜はニヤリと笑い止まることをせずに全員なぎ払い前進、周りに人を寄せ付けない、生い茂る草木をかき分ける様に突き進む


「く、くそぉ! まだだもん! 皆頑張ろう! 諦めちゃダメ! 追って追って!」


 この部隊を仕切っているのはれーちゃんの様だ、ルールとして何を使ってもいい、勿論部下もその中に含まれる


 しかしれーちゃんの進撃が止まる、目の前に地面を抉りながら棘鉄球がめり込んだからだ


「あははー! また会ったねー!」


 モーニングスターを手元に引きながら笑顔の楓がそこにいた、シガレットを咥えている、これこそ補導待った無しだ


「どいてよ! 私達は生徒会を止めなかればならないの!」


「じゃあ楓を倒してから行くんだねー! 今日はちょっと本気.....だよ!」


 頭上でモーニングスターを振り回して地面に叩きつける、地面の窪みが大きくなる


 生徒会処刑執行部2年田原楓、天使の朝星モーニングスターの名は学園内でも有名だ、真っ向からぶつかれば怪我だけでは済まない


 風紀委員の部隊は足止めをくらい、相手が田原楓と言う事でどよめいている


 完全に士気は落ちてしまった、れーちゃんに部隊の士気を上げる実力を持ち合わせていない


「むぅ、後は先輩達が何とかしてくれるんだからぁ!」


 れーちゃんは両手をジタバタしながら士気の下がった部隊と去っていった


 茜もまた的確に部下を配置していたのだ


「めんどくさ.....」


 美遊は戦闘に参加せずに祭り会場を練り歩いていた


「見つけたぞぉ! 東西美遊ぅ!」


「はぁっ!?」


 ひょっとこ面をつけた女生徒に奇襲されたが美遊はそれを回避


 ひょっとこ女は奇妙な構えをしている、先程は手刀だった様だ


「何やってるの? 谷川さん」


「な、何をいっているんだ!? 私は谷川ではない!」


 ルーキー谷川は慌てて否定するが、表裏のない所が彼女の魅力なのだ、嘘をつくのは得意ではない


「いや、ね? 解るから、解っちゃうから」


「うるさぁぁぁぁい!」


 今度は拳が飛んできたが、喧嘩は素人の様だ、美遊には非常にゆっくりに見えた


 最低限な動きで拳を交わし谷川の手首を掴む


「もうやめましょうよ、こんな事」


「離せ! 私は私はぁ!」


「じゃないと私も谷川さんを殴らなければいけなくなるから、お互い痛いのは嫌じゃない?」


「そ、それは.....」


「やっぱり谷川さんなのね」


「誘導尋問だとぉ!?」


 ルーキー谷川の左腕ボディブローが美遊の腹にめり込む、しかし痛くない


「え? 谷川さんそれ本気?」


「えい! えい!」


 ポフポフと脇腹に拳が当たる


「あ、うん、もうやめましょう?」

(何この娘かわいい)


「嫌だぁ!」


「美遊っちー!」


 奥から千夏が手を振りながら駆け寄って来る


「ああ安堂さん!?」


「やっほー! 谷川さんも居たんだ」


「わ、私は谷川ではない!」


「え? 谷川さんでしょ?」


「うぉぉぉぉぉ! 覚えてろよぉ! 東西美遊ぅ!」


 ルーキー谷川は全力で逃げた


「何だったんだろうね?」


「さぁ?」


 2人で祭り会場を歩いていると


「あ、見っけ」


 正面で神谷がこちらを指差している


「ぅげ.....あんたか」


 美遊が最も会いたくなかった相手だ


「風紀委員三年の人だー!」


「神谷だよ、名前だけでも覚えてね」


 千夏に声をかける神谷はなぜかフレンドリーだ


「何の用? 私達はこのくだらないくじ引きに参加するつもりは無いわ」


「それでも紅葉の指示だからさ、生徒会一年の2人を徹底的にマークしろとね」


「やるつもり?」


「美遊っち、喧嘩はだめだよ」


 千夏に諭されたが神谷はやる気満々の様だ


「覚悟ぉぉ」


 拳を振りかざし神谷が突進しようとしたが拳が届く前につまづいて見事な顔面スライディングを見せる


「「......」」


 ゆっくりのっそり立ち上がろうとした神谷の動きが止まる


「あんた、大丈夫?」


「......立ち、眩みが」


「「身体弱!?」」


「げほっ! がはっ!」


「「病弱!?」」


 美遊と千夏は目を合わせた後、神谷に肩を貸す


「な、私は敵だぞ、今日はハッスルし過ぎただけ」


「はいはい、いいから今日は帰って寝なさいよ」

(風紀委員も変な奴多いのね)


「この事、生徒会長にバレたら、お前ら生爪剥がされる」


「うちのバ会長はそこまでしないわよ」


「く、ふふふ、生徒会......来年からは平和になりそうだね」


 その頃各代表はというと


「邪魔だどけぇぇぇ!」


「紅葉! ここは私が止めます! 早く!」


 茜と副委員長の千歳が手を組合ながら押し合っている


「ダメよ千歳! 1人で会長さんの相手をしては!」


「いいんですよ紅葉、私は風紀委員の勝利を願ってますからぁぁぁぁぁぁ!」


「ち、千歳ぇぇぇぇぇ!」


 千歳をその場に残し紅葉は前へ進むが


「ここから先は」


「通さないでござる」


 岡部とマイケルが立ち構えている、くじ引きまで後少しなのに、なんともいやらしい配置、茜らしい


「犬! 猿! どきなさい!」


「できませんね」


「我々も任務があるでござる!」


「怪我だけじゃ済まさないわよ、悪いけど私は会長さんと男には容赦できないの」


 紅葉が鉄線を抜くと、岡部は銃、マイケルは腰から鞘ごと刀を外す


「サニー!!」


「「「......」」」


 紅葉が声を張り上げても反応がない


「サニー! サニー!」


「あの、沙織さんからこれを預かってます」


「手紙?」


 岡部が紅葉に便箋を渡す、中身を確認すると


『用も済んだし帰るね! グッドラック☆ミ』


「グッドラックじゃないわよぉぉ! 仕方ないわ! 私が直々に相手をしてあげる!」


「切り替えの速さ、恐ろしいですね」


「これでも上に立つ人間なの......よ!」


 岡部目掛け強烈な鉄扇の突き


「くぬぅ......でござる!」


 マイケルが割り込み鞘で鉄扇を防いだ


「猿、どきなさい貴方は後、怖かったら尻尾巻いて逃げてもいいわよ」


「マイケル!」


「岡部殿、儂は御主等の刃でござる、生徒会の誇りにかけて儂......!?」


 紅葉の膝がマイケルの溝にめり込む


「うだうだ煩い猿ね、しっかり躾けないと」


「マイケル!! 私の後輩にぃ!」


 岡部が紅葉の背後に周り銃を抜き発砲、しかし鉄扇を広げ防がれてしまう


「遅いわね、それでもあの会長さんの部下?」


「くっ」


 改めて実感する、三年生の篠田紅葉、風紀委員長であり、何よりあの桐谷茜と同等に争い続けている女


 相当の実力の持ち主、彼女もまた化け物なのだ


「よくやった」


 一言聞こえたと思うと岡部の頭上に茜がいた、人知を超えた跳躍力


「会長!!」


「時間稼ぎは成功だな!」


 跳躍中に肩から紅葉目掛け武器を投げつける


 紅葉の視界が埋まる、飛来物が3つよく見ると猿だ、手足の長い猿が3匹身体を大の字にしながら飛んでくる


「小細工を!......!?」


 紅葉が鉄扇で薙ぎ払うが、次は茜が飛んできた、鉄扇が振り払い終わるタイミングで飛びついたのだ


 茜がマウントを取る、紅葉を押し倒し仰向けの腹部に座り込んだ


「よう紅葉いい格好だな」


 茜がニヤリと笑う、一般生徒なら恐怖で失禁する茜の笑みも、紅葉にとっては何時もの事


「貴方以外の女子なら最高だったのだけど?」


「減らず口を、だがもう勝負ありだ」


「は?」


「ルールは先にくじを引いた方が勝ち、だろ?」


「会長さん、まさか」


 岡部がくじ箱を持ってきた


「そのまさか、買ったのだ、箱ごと」


「反則! 反則よ!」


 茜がくじ箱に手を入れ一枚引く、捲ると三等だった


「反則も何も、明確なルールは無いはずだぞ? 裏をかいて何が悪い」


「これだから生徒会は、いずれそんなやり方じゃ多量の敵を作るわよ」


「全て粛清する、本来ならこの場で貴様に異端者のフォークで発言を撤回させるが、今回は許してやろう」


 茜が立ち上がり紅葉を見下す


「やはり、貴方の事好きになれないわ」


 紅葉も立ち上がり土を払う


「結構結構、忘れたか? 貴様は我々生徒会に楯突く組織の長なのだろう? しかし、今回は私もやり過ぎた、岡部」


「はっ!」


「生徒会全員を集めろ、あと千夏と乳女、次の遊び場に行くぞ、後祭り会場の責任者に今回の騒ぎの詫びを頼む、その後例の場所に集合だ」


「畏まりました」


「どういう事!? 貴方達は勝ったのよ!?」


 紅葉が吠える姿を見た茜がクスリと笑う


「もう十分遊んだだろ? 我々は夏休みをエンジョイするので忙しいのだ」


「元々長居するつもりは無かったって事?」


「貴様等が喧嘩を売るから買っただけだ、これをやろう」


 くじ箱を紅葉に手渡すと茜は去っていった


「もぅ! 何なのよぉ!」


「紅葉.....」


 ふらふらと近づいてきたのは神谷


「神谷!? 大丈夫? だから無理しちゃだめだって言ったじゃない!」


「大丈夫......落ち着いたから、それより皆で遊ぼうよ、せっかくのお祭り、勿体無い」


「そう、それもそうね、納得いかないけど生徒会は出て行くみたいだしね」


「良かった、皆呼んで来るね」


「ありがとう、でも無理しちゃダメよ、何だったら千尋に頼むし」


「へーきへーき」


 数歩歩いて前のめりに神谷が倒れた


「神谷ぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その頃生徒会は鬱蒼とした森の前にいた、目の前には登るように山道がある


「は?」


 美遊は思わず声を漏らす、がっちりと橘に腕をホールドされながら


「嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!」


「橘さん落ち着いてくださいよ」


 集まったのは生徒会5人と橘、千夏の姿がない


「岡部、千夏はどうした」


「千夏なら用事あるって帰ったわよ」


「この後アルバイトがあるそうでして、拒否されました」


 美遊の言葉に岡部が捕捉した


「バイト!? こんな時間から!?」


 驚いたのは美遊だ、千夏がバイトをしていたのも知らなかったが、何より夜から始まるバイトなど学生がしていいものか? それよりバイト先で千夏が粗相をしてないか? そもそも何故岡部には話した?


 余計な心配で美遊の胃が痛み始める


「バイトなら仕方ないな、ではこのメンバーで始めるとしよう」


「嬢ちゃん、私は保護者として子供の遊びを邪魔してはいけない! だからここで待つ!」


「却下する」


 橘の必死の訴えを笑顔でぶった切る茜


「私は聞いたんだぜ! この神社はやばいって! 今は誰も使う事のない寂れた神社! そそ、それにここは出るんだろう? その......お、お化け」


 橘は次第に元気が無くなっていく、本気で嫌なようだ


「では、チーム分けだ」


「私の話を聞いてくれよぉぉぉぉ!」


「では肝試しスタートだ!」


 1組目、チームは楓と橘


「あぁぁぁ、無理、無理無理無理!」


 落ち着き無く楓の手をしっかり握りながら周りを見渡しゆっくり進む橘、楓はモーニングスターを引きずりながら橘の右手を握ってあげている


「おねーさん怖がり過ぎだよー!」


 道が悪く、木の根が露出している、人の手が長い間加えられていない事が解る


 そんな中橘の持つ懐中電灯が唯一の光原である、明かりを照らしながら楓は笑顔で歩く、怖さなど感じていないようだ、その時茂みが揺れた


「ガサって! 今ガサって言った!」


「風で木が揺れただけだよ、そもそも何で1組目を志願したの?」


「だってよ、ガキンチョ共先に行かせたら何して来るか解ったものじゃねえよ」


「でもさ、1組目が1番怖いと楓は思うんだけどなー?」


「え? 何でだ?」


「だってさー、1組目って事は誰も通ってないって事だよー?」


「おう」


「て事はだよー? もし何かあればさー」


「本物の仕業ってこ......と」


「おねーさん! おねーさんしっかりしてよー!」


 完全に橘の足が止まってしまった、クイクイと楓が引っ張るがビクともしない


「ごめん嬢ちゃん、脚が震えて......」


「大丈夫だよー! 楓が付いてるから!」


「もう、限界だ......すまん嬢ちゃん、私は下山する、ぜ?」


 橘の肩に何者かの手が乗った、楓もがっつりそれを見てしまう


「おねーさん、肩! 肩!」


「う、うぉぉぉぉおおぁぁぁぁあ!」


「おねーさぁぁぁぁん!」


 橘が全力で逃げて楓もそれを追って消えてしまった


「行っちゃったわね」


「美遊殿も人が悪いでござる」


「だって追いついちゃったんだもの」


 二組目、美遊とマイケルはゆっくり歩いてきたが橘達に追いついてしまったのだ、2人の叫び声が遠くなりまた歩き出す


「夜の森は涼しいでござるな」


「そうね、マイケルはくれぐれも注意しなさいよ、夜の森にいる侍なんて洒落になってないわ」


「そうでござるか?」


「そうよ、だから懐中電灯を顔に当てるのやめなさい」


「アメリカンジョークでござる」


「何がアメリカンよ」


 そして3組目は茜と岡部


「はっはっは! 皆楽しそうだな!」


「会長、足元お気をつけください」


「大丈夫だこの程度、夏休みももう少しで終わりだな、名残惜しい」


「実に有意義な夏休みでしたね、二学期も期待しております」


 茜の脚が止まる、岡部も一緒に立ち止まる


「そうか、もう二学期か......」


「会長?」


「それにしても、美遊を入部させて正解だったな、あれ程の人材は中々居ない」


 茜は笑っていた、少し寂しそうにも見える


「そうですね、より一層生徒会が良きものになったのは明確ですから」


「さて、行こうか岡部、付いてきてくれるか?」


「えぇ、どこまででも」


「良い返答だ、では行こうか、もうすぐ時間だ」


 三年生組が歩き始めた頃、美遊達はゴール間近


 山を歩いていると、途中から石階段が出て来る、何事もなく階段を登り終えると大きな鳥居があり、その奥には古びた境内が佇んでいる、鳥居の下で橘が仰向けで倒れているのを見つけた


「ヒューッヒューッ、もう無理、もう無理だぜ」


 完全に息が上がっている、その隣で安坐で小さくなっているのは楓


「おねーさん、早すぎるよー」


「だって嬢ちゃんも見たろ? 私の肩に手がさぁ!」


「解ったからー! 楓も見ちゃったからー!」


 2人はあの位置から止まる事なくここまで走ってきた様だ


「おーい! 橘さーん! 楓先輩!」


「あ、美遊ちゃんだー!」


「美遊ぅ! 無事だったか!」


 知っている人が合流したことに2人は喜びを隠せない


「儂も居るでござるよ」


「マイケルー! ここ本当に出るよー! 早く退散しよ」


 珍しく楓も怖がっている


「そうだ美遊! 私の肩に人の手がぁ!」


「あ、ごめんそれ私です」


「「は?」」


「追いついちゃったから、声掛けようとしたら2人とも逃げる様に居なくなってしまったので」


 美遊が気まずそうに話すと橘が抱きついてきた


「良かったぁ! お前等がお化けにやられたらどうしようかと思ったぜ」


「何で泣きそうなんですか」


「怖かったんだぜぇ」


「はいはい、良かった良かった」


 美遊がため息まじりに橘を抱き寄せる


「おー、揃ってるな」


 茜と岡部も到着した、流石三年生だ、1番早く到着した



「バ会長、これからどうするの?」


「そう急くな、これからが本番だ」


 橘が思わず身構える、茜が携帯を開き時間を確認する


「本番? 何する気よ」


「まぁここに全員座れ」


 茜の指示で石階段の1番上に並んで全員腰掛ける、鬱蒼とした木々が広がっている、中々の高度の場所にこの神社は位置している様だ


「橘さんそろそろ離してもらえませんか?」


「嫌だぜ、後ろの建物怖いもん」


 橘は美遊の腕を抱きしめたまま離さない、もうどちらが保護者か解らない


「何が始まるでござる?」


 その瞬間茂みから黒い影が飛び出し、運悪く1番端にいた橘に飛びかかり、膝の上に乗った


「ゔにゃぁぁぁぁぁぁ!?」


 悲鳴を発しながら美遊に絡めていた腕に力が入る


「落ち着いてください橘さん、痛いです! 腕痛いです!」


「なんだこれぇ!? 妙にフサフサだぞ!?」


「橘さん猫です猫ぉ!」


「猫?」


 落ち着いて視線を戻すと膝の上に猫が乗っている


「ふみゃあ」


 灰色の猫は首を傾げながら橘を見上げている、橘は溜息をついて猫の首裏を掴み持ち上げ目線を合わせる


「脅かしやがって、私は狼だぜ、お前を食っちまうぞ?」


 正体がわかった途端この強気である


「猫.....おねーさん怖がりー?」


「違ぇよ、ちょっとびっくりしただけだぜ」


 楓のおちょくりをあしらいつつ猫を撫でる


「お猫......お猫」


 興奮してるのは真ん中に座っていた茜だ、目を輝かせながらじわりじわり近く


「嬢ちゃん、猫好きなのか?」


「愛らしい、それだけだ、だがそれが素晴らしいのだ!」


 しかし茜が近づくたびに猫は怯える様に橘にくっつき震えてしまう


「あらら、怯えてるぞ」


「何故だ!? 私何かしたか!? 貴様が獣臭いからそこを離れないのだろう!」


「臭くねぇよ!」


「さては雄だな! 雄猫だなぁ!」


 橘が猫を持ち上げ確認


「雄だな」


「何だよ、猫まで乳を好むのか」


「おいこら」


 渋々元の位置に茜が戻ると、光の点が上空に上がる


「始まったな」


 茜がニヤリと笑うと、点は大きな音と共に夜空に大輪を咲かせる


 花火だ、茜の目的はこれだったのだ


 浴衣に夏祭り、そして締めには大花火


「あ、猫が」


 花火の後に驚いた猫は橘の膝から逃げ出してしまった


「今年の夏はたくさん遊んだな」


 花火を見上げながら茜が呟く


 夏休みのイベントはキャンプから始まった、そして祭りに行き、風紀委員と戦い、こうして今は皆で花火を見上げている


 最高の夏休みだ、夜空の花火は次々に花開き見るものを魅了する、この神社は事前に岡部と2人で探していたスポット


 人が居なくこの景色を独占できる穴場


 夜空の大輪に心躍らせ、彼女達の夏休みが終わりを迎えようとしていた


 もう直ぐ二学期が始まる

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