処刑14 生徒会VS風紀委員ー夏の陣ー 副将戦
日が傾き、辺りは薄暗くなった頃
一発の銃声を頼りに岡部は周りを警戒しながら進むが
(この人混みでは解りませんね)
周りを見渡してもサニーの姿は見つからない、そうしていると目的地にたどり着いた
一般人がざわついている、銃声が鳴ったのだ無理もない、爆発やら警察やら言葉が飛び交っている、発生場所で間違いない
その中でも人集りができている店が一件
綿飴屋だ、店主が囲まれ質問責めを受けている
人混みを掻き分け、店主の元へたどり着くことが出来た
「すいません、ここら辺で発砲音があったみたいですが」
「おうおうおう! あんちゃんの仕業か!? 商売上がったりだ!」
岡部に対し、捩り鉢巻きの法被姿の店主が食いついてくる、禿げ上がった頭まで赤くしてかなりお怒りの様だ
「いえ、私では無いですよ、それよりここに金髪で大きなリュックを背負った女の子来ませんでした?」
「あぁ!? まずは謝罪だろうが!」
「いえ、ですから私では......」
「ならあの女の子が悪者ってかぁ!? かぁ! 男らしくねぇな!」
「来たんですね」
(なんでしょう、酔っ払った橘さん級に面倒な人ですね)
「あぁ、何でも日本は久しぶりらしくてな、屋台を見せてくれってなぁ! 綿飴が好物なんだってよ!」
サニーの事を話すたびに店主の機嫌が良くなっていく、自分の店の商品を褒められご満悦な様だ
「それで、店に入れたのですか」
「余りにも懇願されたからよ、一本だけ記念に作らせてやったよ、すげぇ喜んでな」
「そうですか、すいません周りの方々一回どいてください、危険ですから、離れて離れて!」
岡部の張り上げる声に野次馬達が離れていく
「あんちゃん何すんだ! 客が離れていくじゃねぇか!」
「いいですから! 店主さんも離れてください!」
「お、おう」
岡部の気迫に押され店主も屋台から一歩出る
「やはり......」
(となると、見越して試合前から準備していた事になりますね)
岡部が屋台の下、テーブルを覆っている布を捲る
そこにあったのは謎の装置、慎重に取り出し店主に見せる
「なんだいそりゃあ......てて! 鉄砲じゃないか!?」
装置はM9の銃口を斜め上に立てかけた台座、木材で作られており、紐が至る所に張り巡り途中で重りに繋がっている、トリガー部には指輪がかけられ重りが落ちると同時に空砲が鳴る仕組みだ
「やはり罠ですか、恐らく時限式にするためには祭り会場で容易に手に入る氷1つで十分です」
「おい! あんちゃんどこ行くんだい!」
「やられました!」
岡部が振り向いた瞬間、眼前をコルクが横切った
即座に屋台から飛び出して距離を取る
「沙織さん......」
「あらー、外しちゃったかぁ」
そこにはサニーの姿が、射的銃にコルクを詰めている、岡部も射的銃をサニーへ向ける
「まさか姿を見せていただけるとは」
岡部が射的銃を発砲、しかしコルクを銃身で防がれた
「ははっ! 焦りすぎだよ!」
「恐ろしい方ですね......」
「じゃあ! 始めよっか!」
サニーがサイレンサー付きのM9を抜き撃ち、やはり二丁持ち込んでいた
また綿飴屋の屋台に飛び込み回避
「ひぃっ! やめてくれぇ!」
店主は頭を抑え岡部の隣で姿勢を低くしている、このままでは損害が出る
岡部は動けなかったM9はhit扱いにはならないが、何処か負傷するのはほぼ負け同然
サニーの発砲が止む、リロードだ
岡部はこの時を待っていた
屋台から飛び出しグロックをフルオートで発砲、サニーの手元からM9が弾かれ地面に落ちる
ヒューと口笛を吹いてサニーはニヤリと笑う
岡部がすぐさま接近し、避けられない距離で射的銃を構えると、サニーは両手を上げて降参の姿勢を見せる
「やるぅ! 流石No.2!」
「今私は貴方を超えます」
岡部が眼鏡を指で上げながら射的銃をサニーへ向け発砲、生徒会の勝利と思われたが
そう上手くはいかなかった
近づいたのが仇となる、サニーが岡部の銃を蹴り上げたのだ
コルクは明後日の方向に飛んで行く、その刹那サニーがM9を拾い上げてステップで距離を取りつつ岡部の脚に発砲
「ぐぅ.....!?」
命中してしまった、右脚に激痛が走る
怯みを見せるとサニーは続けて発砲
岡部は逃げるしか無かった
その頃、お互いの大将の茜と紅葉だ、生徒会の面々は祭り会場に遊びに行ってしまった
先に口を開いたのは紅葉
「いいの?」
「何がだ?」
「サニーは反則してるわよ?」
「構わないさ、それくらいハンデとしてやろう、どっちにしろ会場内では収まらないと思っていたし、正直祭り会場の外でやりあってもらった方が損害が減る」
2人が話しているのは試合開始時に会場から抜けて森に行っていたのだ、最初のルールでは反則だが、茜はその行為を黙認していた
「そう、それで? 生徒会の人達に伝わらない様に席を外させたのね」
「まぁな、それに私が恐れていたのは片方が場外から狙撃というつまらない試合になる事だ、それにサニーが場外に出たのは15分程度、何をしていたか知らんが、大した支障にはならんだろう」
「15分ね、たかが15分、されど15分よ」
「解っている、サニーの事は侮れん」
岡部は右脚を抑えながら走る、サニーは発砲とリロードを繰り返しながら追いかける
ジリ貧だが、サニーの銃弾は一発もそれ以降当たっていない
まるで脅し、脅迫の様な行為だ、さらにサニーは岡部の足元しか狙っていない
(体制を立て直す時間が欲しいですね.....!?)
岡部の足が止まる、祭り会場の端まで来てしまった、ルールは祭りの会場内
「おーい! お兄さーん!」
会場の端で千夏が手を振っている
「千夏さん!」
「フィールド広がったってさ! 森も使っていいって!」
岡部に考える暇はなかった、誰が何のために? そんな事はどうでもいい、今は森の中に隠れる事が先決、千夏に片手を上げて挨拶しながら森の中へと走って行く
「がんばれー! おっと、敵さんも森の中オッケーだよ!」
「サンキュー!」
サニーは笑顔で礼を言い、森の中へと向かう
森の中は暗く道も悪い、右脚を負傷した岡部にはかなり堪える
少しペースが落ちると、足元に銃痕がついた
追いつかれてしまった
草木を掻き分けると、開けた場所に出てしまった、すぐ後ろに来ているため引き返すわけにはいかない
意を決して横断しようと今出せる全力で走ると、視界が悪く横に張られた一本のロープが足に引っかかり転倒しそうなった
「うぉ......!?」
引っかかったロープが収縮され円形になり、岡部の足を絡め釣り上げる
岡部は逆さまの宙吊り状態になってしまった、両手を伸ばしても地面につかない距離、岡部は吊るされた足を凝視していると足音が近づいて来た
視線を戻すと、逆さまの視界でゆっくりとサニーが近づいてくるのが見える、捲り上がった浴衣の裾を片手で落ちない様に押さえる、背負っていた射的銃は地面に落ちてしまった
「ははっ! 捕まえた!」
サニーは目の前まで来て両手を合わせて喜んでいる、岡部は無言のまま吊るされている
岡部の目線はちょうどサニーの腹部辺りの高さにある
「さてさて、岡部君? 私の勝ちだね! それにしても脚綺麗だなー、女の子みたい」
浴衣が捲れ、露出した脛を指でなぞる様に指を滑らせる、それでも岡部は口を開かない、サニーは嬉しそうに喋り続ける、そして岡部の眼鏡をそっと外して、サニーは制服の襟元に引っ掛ける
「実はかっこいいんだよね岡部君は、眼鏡外した方がいいよ?」
岡部はど近眼だ、眼鏡を失うと前が見えない、逆さまの視界が一気に曇る、しかし眼鏡を取られる時も抵抗しない、視力を奪われたとしても、岡部はサニーのされるがまま時が流れていく
中腰になり、目線の高さを合わせて目を合わせる、翠の岡部の目をくりっとしたサニーの瞳が岡部の曇った視界を占領する
「この試合私が勝ったからさ、1つだけお願いがあるんだよ」
サニーはニコリと微笑み、背を向けて少し距離を取った
「じゃあ終わりにしよう! 楽しかったよ!」
サニーが射的銃を構えた瞬間、岡部は身体を捻り背を向けて懐から筒状のグレネードを取り出し、目を閉じながらサニーの方向へ投げつける
「嘘!?」
地面に接触した瞬間グレネードは一瞬凄まじい発光をして、人の耳の限界の高音を発する
フラッシュバン、一瞬強力な閃光と高音波で相手の視力と聴力を奪う閃光グレネードだ
暗い森に一瞬閃光が走り、また暗くなった
岡部はグロックを取り出し足元にフルオート、マガジンを使い切り、運良くロープが切れて解放されたが後頭部を強打、後頭部を摩りながら立ち上がる
射的銃を手探りで見つけ、サニーへ近づく
サニーは視界が戻らずわたわたと両手を伸ばしている
岡部が襟元から眼鏡を抜き取り視界を取り戻すのと同時にサニーの視界と音が戻り始めた
だが形勢は逆転された、サニーの額には銃口が当てられていた
「やるぅ!」
「あ、何か言いました?」
岡部が片手で耳栓を外す、いや耳栓ではない、射的銃のコルクだ
「うわ、用意周到だね」
「最後の手段でしたがね」
「だからだんまりだったんだね、降参だよ」
「ありがとうございます」
岡部の撃ったコルクはサニーの額に軽く当たり地面に転がった
「hit、負けちゃった、けど楽しかったよ」
「貴方の悪い癖ですよ、沙織さん」
「ふぇ?」
「あえて戦闘を長引かせる、綿飴屋の時点で私の敗北は決まっていました」
「そうかな? 私はよく狙ったんだけどね」
岡部が手を差し伸べ、サニーは手を取り立ち上がる
「前からの癖です、試合を長引かせて相手との差をあえて縮める、そこまでハンデを与えた上で勝利する、まさか無自覚ですか?」
「そんなに恐い顔しないでよ、あぁ、昔は優しかったのにな」
「私は優しかったのでは無いです、弱かった、それだけです」
「はは、何それ臭いね」
「茶化さないでください」
「私が勝ったらお願いがあったんだけどね」
「お願い?」
サニーが岡部の手を取り見上げる
「私が勝ったらミリ研、戻って欲しかったんだ」
「聞いてませんよ? そんな話」
「私が決めた、負けちゃったけど」
「とんだ我儘さんですね」
「そうさー、私は我儘さんだよ、岡部君の席がまだ空いてるし、皆待ってる」
「それで風紀委員と組んだ訳ですか」
「御名答! だけどさ、今は生徒会が岡部君の居場所なんでしょ?」
「居場所......ですか、そうですね」
岡部がクスリと笑い、サニーも微笑む
「戻ろっか! お祭りも終盤だしね」
2人並んで森を抜ける、祭はまだ賑わい続けている
風紀委員に生徒会が並び、現在同点
大将戦に全てが賭かる
祭から生徒会を追い出したい風紀委員と売られた喧嘩を買った生徒会の最終決戦の大将戦が幕を開けようとしていた
最終決戦、競技はくじ引き
向かい合うのは、風紀委員長の篠田紅葉と生徒会長の桐谷茜
「やはりタダでは下がらないのね、犬の癖にサニーを抜かすとは思わなかったわ」
「かかってこい変態女、一撃で蹴りをつけよう」
くじ引き、祭りので店の中でも運の要素だけで勝敗が決まる、勝者は浮かれ、敗者は紙切れを握り膝をつく
毎年敗者は屈辱を味わうが、来年にはまたくじを引いてしまう魅力がある
最終戦のルールは先に一等を引いた側の勝利
生徒会も風紀委員も総動員で見守る、ヤジを飛ばしていた大人達も固唾を飲んでむ
「さぁ! 引きな嬢ちゃん達!」
くじ屋の女店主が威勢良く、くじ箱を出す
その箱は丸く切り取られた口にスポンジのカバーで中は見えない
「先に引くといい、私が先に引くと貴様の出番が無くなってしまうだろう?」
「その余裕、いつまで続くかしらね」
紅葉が先にくじ箱に手を入れる、中はどうやら厚紙でくじが作られ大量に入っているようだ
「さーて、どれにしましょうかね」
紅葉が手を突っ込みながら箱の中をかき混ぜる、厚紙のくじがチクチクする、茜は腕を組みながらその光景を見つめている
「よし! これだわ! ピンときたわ!」
紅葉が一枚くじを引いた、厚紙は三角形でミシン目をめくり初めて何が当たったか解る仕組みだ
ミシン目をめくる、緊張の一瞬だが、茜は微動だにしない
結果、5等賞の駄菓子
「ほら、5等だ」
女店主からキャベツ○郎を受け取る
「くっ...でもこれ好きだわ」
「ぷぷーっ5等だと? はっはっは! お似合いだな篠田紅葉!」
「次はあんたの番よ会長さん」
駄菓子を食べながら茜に指示する
「貴様の泣面を拝むのも悪くない」
茜が浴衣の袖をめくりくじ箱の中に手を突っ込む
「くく......くはは! 私に敗北は無い! 私こそ神に愛された豪運、いや、神を超える天運の持ち主なのだからなぁ!」
ニヤリと笑い一枚の厚紙に狙いを定める
「これだぁぁぁぁぁぁぁ!」
一枚のくじを勢いよく引き空に掲げる
「本当にそれでいいのね、懐かしい味だわ」
久しぶりのキャベツ○郎に心打たれながら紅葉が問う
「怖れよ風紀委員の愚か者共! これが生徒会処刑執行部の会長! 桐谷茜様の実力なのだからなぁ!」
勢いよくミシン目がめくられた




