処刑8 キャンプ!! 前編
ついに夏休みが始まった、朝の田舎道を走る白いワゴン車、周りの景色は緑一色、生い茂った木々が夏を感じさせてくれる
「ごめんなさい、急に運転頼んでしまって....」
助席に座るのは美遊、運転手は橘だ
「別にいいんだぜ! 誘ってくれてありがとうな」
橘はケラケラ笑ながらハンドルを握る、タンクトップ姿の彼女は夏らしい、肩から綺麗な肌があらわになっている
「ありがとうございます、二人でドライブ....だったら良かったんですがね」
美遊が振り返ると生徒会メンバーが後部座席に全員座っている、夏休みだけあり全員私服である、マイケルだけはいつも通りだが
「たまにはこういう企画も良いだろう?」
茜が笑顔で応える、その隣で楓は茜にもたれかかり寝ているがモーニングスターはしっかりと握られている、その後ろではマイケルは外を眺め、岡部は乗り物に強いのか車中で読書に耽っている
「確か次のコンビニが最後だから、各自買い出ししろよー」
橘の言葉に皆返事して車がコンビニの駐車場に止まる
「んー! やっぱり田舎はいいなぁ!」
茜が外に出て伸びをするとサロペット姿の楓が目を擦りながら降りてきた、続いて岡部とマイケルも下車する
「それじゃあ買い出し終わったら車戻れよー!」
橘が煙草に火をつけ灰皿に向かう、まるで引率の先生だ、生徒会はコンビニで買い出しをしている、美遊は橘にアイスコーヒーを差し入れすると橘がいかつい男と話していた
「橘さん、これ」
「お! さんきゅー」
美遊がコーヒーを渡すと、男が美遊に反応を示した
「お? 美遊ちゃん! 見ないうちにレディになったなぁ!」
「え?」
美遊もその男に見覚えがあった
「ほら、昔鍋とかやったじゃん! 忘れた?」
「あぁ! お久しぶりです!」
慌てて美遊が頭を下げる
「そんなかしこまらなくていいよ! 姉御、じゃあ俺はそろそろ」
「おう、頼むぜ」
男は大きな車に乗り込み行ってしまった
「えと、橘さん?」
「あぁ、あいつか? あいつは荷物係だ、先に目的地に行ってもらったのさ」
「は?」
「これだけの人数の荷物一台じゃ運べなくてな、もう一台レンタルしたんだ」
「そこまでしてくれてるんですか!?」
「当たり前だろ? お前とお前の友人の為だし、私もなんだかんだ言って楽しみだしな」
橘が受け取ったコーヒーに口をつける
「ありがとうございます....冷たっ!?」
「美遊ぅ! ほれ!」
茜が首筋にアイスを当ててきた
「あ、ありがと....なんか今日テンション高すぎない?」
「ははは! 夏休みだからなぁ!」
ショートパンツとTシャツという普段とは違う姿で笑う茜はいつもとは違う印象を受ける
「そういうものなの?」
「若いっていいなぁ! うっし! そろそろ行くぞ、嬢ちゃん皆呼んできてくれ」
「心得た!」
橘の指示で茜がコンビニに戻っていく
「よくもまあ、あいつを手懐けましたね」
アイスを舐めながら車に乗り込む
「意外と素直だぜ、あの連中も」
次々と生徒会メンバーが乗車して車は出発した、しばらく走り目的地に着いた、山の中に開けた場所があり、車を止めても充分広く近くに川が流れていた、先ほどの車はすでに到着していた
「ついたぁぁぁ!!」
茜を筆頭に車からぞろぞろと出てきた
「姉御!」
先程の男が車から降りて近づいてくる
「おう、御苦労さん、荷物は車か?」
「うっす! テントから寝袋までバッチリっすよ!」
「助かる、荷下ろし手伝うぜ、この後仕事なんだろ?」
「さーせんっす! また帰りに回収に来るっす!」
荷物を下ろし、男は車に乗り込み出て行った、橘が荷物を整理しているのを無視して茜は両腕を広げる
「さぁ来い! 闇の使者モスキートよ! 我が血を啜り、永劫なる力を得よ!」
「後で痒くなっても知らないわよ?」
美遊が虫除けスプレーを自分にかけながら呆れている、案の定茜に蚊の羽音が聞こえてきた
「案ずるな美遊、来たな!」
美遊は楓の背に虫除けしながらその姿を眺めていた、茜はニヤリと笑いポーチから虫除けを取り出し回りながら散布し始めた
「ふはは! 簡単に私の血が吸えると思ったか、このたわけが! 今の私は無敵要塞茜様だぁ!」
「何よその悪趣味な遊び....」
「会長ー! かっこいいよー!」
「楓先輩はあれがかっこよく見えるのね....」
「おらー! ガキンチョ共ー! 手伝えー!」
離れた場所から橘の声が聞こえて振り返ると、橘が男子とテントを張っている
3人も作業に加わる、程なくして拠点が完成する、大小のテントが2つ、屋根のみのテントが1つ、あとはテーブルと椅子とバーベキューセットが並べられた、それ以外にもたくさんの荷物がまだ乗ってきた車に乗せられていた
「......」
「どうした美遊?」
黙り込んだ美遊を見て橘が声をかける
「いや、キャンプなんて初めてで何をしたらいいのか」
「遊べばいいんだよ! あいつ等を見習いな!」
見渡すと思い思いに皆遊んでいる
「会長、こちらを」
「でかした岡部!」
岡部から茜がネットのような物を受け取る、岡部も今日はジーンズとポロシャツというラフな姿だ
「ほら、お前も行ってこい! 楽しそうな事始めたじゃねぇか」
橘に背中を押され茜の元へ向かう
「何よそれ」
美遊にはそのネット状の物が何かわからず質問してしまった、それを聞いた生徒会は呆気に取られる
「え? 美遊ちゃんこれ知らないの?」
「儂でも知ってるでござるよ? アメリカには普通にあるでござるよ?」
「そ、そうなの? いや、知ってるわよ? 知ってるからそんな目で見ないで!」
急に恥ずかしくなった、今までアウトドアと縁が無かったとは言え常識が無さ過ぎることを実感する
「ほぉ? ではどうやって使うのだ?」
茜のニマニマが止まらない、悔しい! 悔しいがわからない! ネット状の物を凝視してもわからない! 山でネット? なぜ? わからないがとにかく茜のニマニマが腹立つ!
落ち着け、落ち着くんだ東西美遊、冷静になれば解る、山? 山と言ったら?
彼女の導き出した答えはあらぬ方向に向いてしまった、そうそれは
(熊狩り!? 間違いないわ! こいつ等の常識は一般にとっては非常識! またはめようとしたわね!)
「それは! く....!?」
「く?」
茜が腕組みし片眉を上げる、美遊の言葉は止まってしまった、岡部とマイケルが二本の木にネットを括り付けている
「括り付けるの! 木に!」
(あっぶな、まさかトラップ式なのね....投擲する物かと思ったわ)
「ほうそれで?」
「熊を....!」
(待てよ? 流石に熊でもこれにかかる?)
「くまさん?」
楓の哀れみの目が辛い、確信した、これは熊ではない
「違う! 鹿! 鹿よ!」
「シカさん?」
「違うの!?」
「違うよ!?」
楓もこれには驚いた、美遊は本気で狩りの道具だと思っていたのだから
「はっはっは! お前の頭はどうなってるんだ?」
「あんたにだけは言われたくないわよぉ!」
「これはこうやって使うんだ!」
茜がネットの上に飛び乗り立ち上がり仁王立ち
「なんてバランス能力なの!?」
「くはは! 恐れ慄け、これが正しい使い方だ」
「く...! これは知らなかったわ....」
「違ぇだろ」
冷静に訂正したのは橘、片手に缶ビールが握られている
「橘さん! じゃあこれは一体!」
「美遊、お前は本当にハンモック知らないのか?」
「ハンモック?」
「嬢ちゃんどいてくれ」
「もういいだろう、美遊は面白いな」
茜がハンモックから飛び降り、橘が横になる
「そんな使い方が!?」
「いや美遊、これが正しい形なんだが....」
「騙したな、バ会長めぇ!」
「今回ばかりは私悪くないだろ?」
「よし、ガキンチョ共そろそろ昼の支度するぞ、女子はカレーを作れ、材料はあるから」
「キャンプはやっぱりカレーだよねー! 楓頑張るよー!」
「儂達はどうすればよいでござるか?」
「お前らは私と食料調達だ」
「御意」
岡部がハンドガンを構える
「違ぇよ物騒だな、よーしかかれー!」
橘の指示で皆動く、まずは女子チーム
「これってどうやって使うのー?」
楓が取り出したのは飯盒、見た事はあるが実際の使い方がわからない
「確か米を炊く装置だな、美遊は解らないのか?」
「調べてみるわ」
美遊は携帯を取り出したが
「どうだ?」
「電波が....あんた何でも知ってそうじゃない、解らなんて意外ね」
「こういう地味な作業は岡部の仕事だからな」
「なんか最近副会長がかわいそうよ....」
女子チームは意外と時間がかかりそうだ、その頃男子と橘は拠点とは離れた場所に移動していた、各自釣り具を持ち、暫く歩くと大きく川が流れている場所に到着
「さーて、始めるとするかぁ!」
「釣りとは久々でござるなぁ!」
「私は初めてです」
三人は糸が絡まないように少し離れて並ぶ、橘は器用に仕掛けを作り、岡部マイケルも難なく釣り糸を垂らし始めた、丁度よくなめらかな岩があり三人はそこに腰掛ける
「よいでござるな、川のせせらぎに時間を気にせず釣糸を垂らす、風情でござるなぁ」
「侍、タイムリミットはあるぜ?」
「そうでござるか?」
「女子達が駄々をこねる前に獲物を釣り上げ戻らなければいけない」
「はっはっは! それは重大任務でござるな!」
のどかな風景に心を休める、ゆっくりと時間が過ぎてゆく、橘はクーラーボックスからビールを取り出し飲み干す
「たまんねぇぜ! 学生はつらいよなぁ、酒飲めねぇもんなぁ」
「お酒ってそんなに良い物なんですか?」
「眼鏡は解ってねぇな! こういうところで飲む酒がいいんだぜ? ほらお前らにはジュースあるから」
橘がクーラーボックスから飲み物を取り出し2人に渡す
「ややっ! かたじけないでござる」
「ありがとうございます」
「さーてバシバシ釣り上げようぜー!」
「....!?」
ここで岡部の餌にヒット、強烈な引きが急遽訪れる
「眼鏡! 引いてる引いてる! 魚の口に引っ掛けるイメージで一気に上げろ!」
「承知!」
岡部が竿を引くと中々のサイズが姿を見せる
「大物でござる!」
「しまっ....!」
しかし獲物は運悪く針が外れ川に落ちてしまった
「へっへっへ! 最初はそんなもんさ! やはりここには獲物がいるな、あっちも時間かかるだろうから気長にやろうぜ!」
橘の予想は当たっていた、好調な滑り出しをした男子とは裏腹に女子の作業は遅れていた
「やっぱりこの飯盒が難敵だな」
「仕方ない、一か八かやるしかないわね」
「美遊ちゃん何か策あるのー?」
「えぇ、おそらくだけどね、炊飯器と同じ原理よ」
「さっすがー!」
「最悪ルーだけになるけど、私がこの米をなんとかするわ! そっちはお願い!」
「心得た!」
「解ったよー!」
「やってやるわよ!」
各自分担し作業を始める、美遊が飯盒と戦いの為に火を起こし楓がバーナーに苦戦しながらルーを作る
「さて、私は具材だな」
茜が車から具材を取り出すと、全て綺麗にカットされていた
「あ....」
(もしかして私仕事無い? 仕方ない、美遊の火起こし手伝ってやるか)
「よし! 火ついた!」
「え?」
「美遊ちゃん! こっちも順調だよー!」
「あれ?」
(よし見守ろう、怪我とかしたらいけないからな、うん)
美遊が米を、楓がルーを作り茜が見守る陣形で作業が始まった
その頃釣り組みは静かに釣り糸を垂らす、橘は鼻歌混じりに虫を針に刺す、どうやら酔いも回りご機嫌なようだ
「橘殿は虫とか平気なのでござるな」
「怖がった方がかわいいか?」
「なっ!? なにを!」
「へっへっへ! ウブな侍もいたもんだぜ!」
「橘さん、引いてます」
「おっといけねぇ! よっとぉ!」
橘が竿を引くと当然の如く魚が付いてくる、これで3匹目だ
「見事でござるなぁ」
「慣れだぜ慣れ、悪ガキの頃暇つぶしが釣りだったからよ」
「悪ガキの頃ですか?」
「いや、なんでも無いぜ....うし! お前らもジャンジャン釣れよ!」
「?」
「そんな目で見ないでおくれよ、そういや眼鏡、黒い嬢ちゃんとはどうなんだ?」
仕返しとばかりに橘がニヤリと笑う
「ぶふぅっ!?」
「そういえば気になっていたでござる、岡部殿と会長殿の間柄が謎でござる」
「マイケルまで食いつきますか....ただの主従関係ですよ、会長は私の主、それだけです」
「ほぉ? ではあの黒い嬢ちゃんに男ができても良いと?」
「当たり前です、私は会長を守るのが仕事ですから、それ以上は求めませんよ」
それを聞いて橘は煙草に火をつける
「なんだ、つまらん結果だぜ」
「何を求めてたんですか」
「私だって恋に恋する乙女だぜ? そういう話題はいつでも欲しいんだぜ」
「乙女....でござるか」
「なんだよその目は」
「何でもござらんよ」
「そういう侍、お前は....」
橘はまた一缶飲み干しゴミ袋にいれる、彼女は無邪気に笑いマイケルをからかう、酔っ払いの絡みだ
「わ、儂は! 儂は、平和を守る侍でござるよ! 武士の道に女は不要でござる!」
「ウブだなぁ! はっはっは!」
「本気でござる! 本気で言っているでござるぅ!」
「おうおう! 若いっていいねぇ!」
橘はケラケラ笑いながら今度は酒瓶を取り出した
「流石に飲み過ぎですよ」
「眼鏡ぇ、いいじゃねぇか、お姉さんだって酔いたい日もあるんだぜ」
橘の酔いが加速し始めた頃、女子チームのカレーは完成に近づいていた
「美遊ちゃん! そろそろルーできるよ!」
「ありがとう! こっちも炊けそうよ!」
「あーご苦労ご苦労」
茜が頬杖をついて2人を眺めている
「何で拗ねてんのよ」
「拗ねてなどいない」
「じゃあ何か手伝いなさいよ!」
「なら手伝えること教えろぉ!」
「....あぁ、ごめん」
美遊が目をそらし楓が気を利かせる
「会長ー、お皿取ってもらえる?」
「よしきたぁ!」
茜は嬉々としてそれを受け皿を運ぶ
「ありがとー!」
「部下の頼みじゃ仕方ないだろう、どうだ? 美遊?」
「そ....そうね、ありがとう」
(皿運んだだけよね)
「おや? ちょうどいいタイミングみたいだぞ?」
振り向くと釣り組みが遠くに戻ってきている姿が見えた
「思ったより早いわね」
「美遊! 米を解放するのだ!」
「はいはい」
飯盒の蓋を開くと、熱い湯気が立ち上がり中ではしっかり米が炊けていた
「おぉ! 米だ! ちゃんと米だぁ!」
「最初から最後米は米よ」
「これは男子達も喜ぶよー!」
釣り組みの帰りは大変だった
「ほら、もう少しで付きますよ」
「にゃぁ、歩け歩けぇ」
「酒はここまで人を変えるでござるな」
マイケルと岡部が橘に肩を貸し、全ての荷物を持ちながら歩く、橘はすっかり出来上がってしまっている、2人の首に腕を掛け何とか移動できている
「まさかこの人をこうやって運ぶ日が来るとは....」
「ついこないだまで敵だったのに、今では共にキャンプに来る仲でござるからなぁ」
「そうですね、敵....!?」
「ぐぬぅっ!?」
「はっはっは! 歩け歩けぇ! ひよっこ共ぉ!」
橘が急に腕に力を入れ両脚を前に上げ宙に浮く、不意に全体重が2人の首にかかる
「ぐっ! ぬぅあ! た、橘殿? その体制辛いでござろう?」
「おいおい! 武士が弱音を上げるか? にゃはっは! 私は鍛え方が違うんだよ!」
「やるしか....ないようですね」
真夏の炎天下、長身の女性を三人分の釣り具と空き缶と空き瓶を抱えなら運ぶ謎の修行が始まった、一歩一歩確実に進むが、首への負担が辛すぎる
「これも私の愛だぜぇ! 鍛えろ若者よ」
「ぐ、ぬぅ! 岡部殿、一旦このやたら重いクーラーボックスを置いていくのはいかがでござろう」
クーラーボックスの中身は氷が溶け小さいプール状態になり、残って入りは氷と共に中々の重量になっていた
「あ? 侍、その中には私の大事な酒が入ってんだよ」
「顔が近いでござるぅ!」
「しかたありませんね、それは交代で持ちましょう」
マイケルが慎重に背面からクーラーボックスを岡部に渡す
「く....中々の重さ」
「お前ら何をやっているんだ?」
前を向くと茜が様子を見に来てくれていた、あまりに暇だったのだろう
「会長!?」
「会長殿!?」
「遅すぎると思えば楽しそうな事をやっているな」
「黒い嬢ちゃん、筋トレだ筋トレ!」
橘は辛い体勢にもかかわらずケラケラ笑いながら器用に手を振る
「そうか、貴様様子おかしくないか?」
「私はいつも通りだぜ?」
「ならいい、お前ら早く来いよ? カレーができてる」
「ござっ!?」
「会長!」
背を向けて去ろうとする茜に岡部とマイケルの声が重なる、振り返り腕を組む茜はこの状況を異常と思わないらしい
「まさか、生徒会処刑執行部の男子二人がこの様な事で根を上げる訳ではあるまいな?」
「ぐぬ....」
「にゃはっはっは! 厳しい上司だな! ほれ、もう少しで到着だ歩け歩けぇ!」
茜が拠点に戻ってしまい、男子達はその後なんとか拠点に辿り着く事ができた
「く...ひゅー、ひゅー、やっと着いたでござる」
「これは、しんどいですね」
二人は橘と荷物を降ろし仰向けに倒れる、橘は真っ先に美遊に飛びつき押し倒す
「美遊ぅぅぅぅぅう!」
「なぁっ!?」
「どれどれ、いい子にしてたか?」
「橘さん酒くさいですよ、どんだけ飲んだんですか、お酒は飲むなとはいいませんが飲みすぎない様に昔言いましたよね?」
「ちょぴーっと、ちょぴーっとだぜ」
「ちょぴっとでこんなならないですよ、あれはなんですか」
美遊が指差したのは岡部達が持ってきた二つの袋、缶と瓶がしっかりと分別されているが問題は中身だ、缶が6本、大瓶が2本も入っている、橘が袋から目をそらし一瞬の間があったが
「しらなーい!」
「あんた大人でしょう!? よくもまああの短時間であれだけ飲みましたねぇ!」
「美遊も飲みたいか? まだあるぜ?」
「お酒は20歳になってから!!」
面倒な酔っ払いを横目に昼食を開始
「ほほぉ、これは美味でござるなぁ」
「でしょー! 楓頑張ったよー!」
「おぃぃぃぃ! 何をまったり昼食してんだぁ! 唯一の大人がこんな事になってるのよ!?」
「美遊、我々は重要な事を学んだのだ、酔っ払いはめんど....」
「会長、魚が焼けました」
「わーい!」
「わーい! じゃねぇよぉ! 最後まで言えよぉ!」
岡部が綺麗に肝を抜き取り串に刺し並べていた魚が美味しそうに焼きあがっている
「美遊! ご飯にしようぜ!」
「なんだろう....すごく疲れた」
橘と美遊も昼食の席につく、カレーと焼き魚という稀に見るタッグだが、これはこれで美味い
「うわぁ、おねーさん美遊ちゃんにべったりだねー」
「うへへぇ、美遊はいい匂いだからなぁ」
橘はろくに昼食を取らず美遊に抱きついているが、気にせず美遊はカレーを食べ続ける
「美遊ちゃん大丈夫? 目が死んでるよ?」
「楓先輩、こういうのは慣れですよ」
「あ、うん....そうなんだ」
「もう少しで橘さん寝るはずだから、それまでの辛抱よ」
「にゃへぇ、美遊ぅ....」
橘の言葉に力が無くなってくる
「ほんとに寝ちゃいそうだねー」
程なくして橘は落ちた、美遊にもたれかかったまま寝息をたてる
「器用な姿勢で寝たわね、皆手伝ってちょうだい、あのハンモックに橘さん運ぶから」
「わかったよー!」
「しかたあるまい、川に落とせば起きるだろう」
「あんた後で殺されるわよ?」
生徒会メンバーで橘をハンモックに運ぶ、優しい揺れが安眠を誘う
「よーし! 大人も居なくなったし自由に遊ぶぞー!」
茜が号令を出すとそれに楓が続く、男子達は後片付けを行い、美遊は橘を眺めている
「この悪酔いは、いつまでたっても変わらないわね....」
呆れ顔で寝顔を除くと幸せそうな表情だ、起きる気配が無い、諦めて美遊がその場を離れようとした時
「舞....」
「え?」
橘がそっと呟いた、ただの寝言だと思うがどうも引っかかる
「おぃぃぃぃ! 美遊! 蟹だ沢蟹だぁ! こっちに来いよ!」
「はいはーい!」
川で遊んでいる茜達に呼ばれ美遊もその場を後にした




