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処刑1 新入生歓迎

 薄暗い部屋の中で黒髪の女が窓際に立ち外を眺めていた、部屋にはもう一人男の姿があった、眼鏡で寡黙な青年だ、外では部活の勧誘活動を行っている集団で賑わっている


「そろそろ我々も動くか……用意してくれ」


 女がそう呟くと、男はそれに頷き部屋を出て行く

 高校生になり第一の進路、それが部活である、ここで選択を間違えたら青春なんて灰色になってしまう


(この新入部員争奪戦会場、勢いで決めてはいけないわね)


 東西美遊とうざいみゆは周りを見て実感した、この学校はどうやら部活の域が広いらしく、勧誘にも熱が伝わってくる


 突如風が吹き髪が乱れ美遊は慌てて赤茶の髪を手櫛で直した

その時背後から生徒達の怒号が聞こえる


「メイデン様だぁ!メイデン様がいらっしゃったぞぉ!」


「道を開けんかぁ!馬鹿者ぉ!」


 美遊が振り向くと生徒達が跪き、頭を垂れ道を開けていた


「なによ……これ」


 美遊は自分が生徒達が開けた道の真ん中にいる事に気がついたが、その事に気付いた時には更に異変が起きていた


 遠方から轟音を響かせ巨大な鉄の塊が移動してきている姿が見えた

美遊はその鉄の塊をマジマジと見つめたが、近づいたそれが何か解った時には遅く、目の前でそれは停止した


「戦車だぁぁぁぁぁ!?なんでぇぇ!?」


 近づいた鉄の塊は紛れも無い戦車、かつて第二次世界大戦にてドイツが使用していた重戦車、ティーガーである


(とりあえず逃げなきゃ!)

美遊は一目散に逃げ出そうとしたが


「そんな!」


 美遊の背後にあった道は生徒によりしっかりガードされた、先程までひれ伏していた生徒達が肩を組み道を塞いでいる


 振り向くと戦車の上に人組の男女が仁王立ちしている、女は長い黒髪をを風になびかせ腕組みしながらその鋭い目つきで美遊を見下していた


 男はその隣で眼鏡を中指で上げ同じく美遊を見下した


「えと……何かしら?」


表情を引きつらせながら美遊は勇気を出して質問した


「ほぉ、新入りか」


 美遊の質問を無視して女は冷徹な笑みを浮かべた、男は無言のまま見つめている


「だから私に何か用なの!?」


「面白い目をしている、良い存在になるだろう」


「話を聞いてよ!」


「いいぞ、実に良い! 我々には君が必要だ」


 女は戦車から飛び降り美遊を指差し、口端をニヤリと上げ見つめる


「一緒に来てもらおう」


「ちょっ!ちょっと待ってぇ!」


 女は美遊の腕を引き笑いながら歩き出すと、自然と道が開けられる


「はっはっはっ!これはいい拾い物をしたなぁ!我がギルドは君を歓迎する!」


「ギルドって何ぃ!?」


 女に腕を引かれ校内を進む、男はついてこなかった


「貴方は何者なの?皆頭下げてるけど」


「私か? そうだな……組織の支配者、かな」


「なにそれ」


 程なくしてついた目的地


 女は美遊の腕を離し扉の前で振り返り、腕を組みながらふふんと鼻を鳴らす


「ここが我がギルドの拠点だ!」


「ギルド……?」


「そうだ!今日からお前は仲間だ、歓迎するよ」


「何がギルドだぁぁ!」


 扉にはしっかりと看板があり、美遊は指差し叫んだ


「おもっくそ生徒会室じゃねぇかぁ!」


 看板には生徒会の文字が、その後ろは黒く塗りつぶされている


「こいつは驚いた、もう見抜くとは」


 女は顎に手を当て小首を傾げた、この女阿呆ではなかろうか


「隠す気ゼロだろぉ!てかなんの文字塗りつぶしてんのこれぇ!」


「まぁいい中に入れ」


 女は美遊の背後に回り背中を押した


「その前に質問いい?」


「なんなりと、私は組織の支配者だからな」


「さっきの戦車は何!?」


「ティーガーか?あれは世界対戦でドイツが……」


「じゃなくて!」


「ちゃんと車庫入れしたぞ?」


「違うって…」


 美遊は諦め渋々ギルドの扉を開ける


「……うわ、何これ」


 美遊は中を見てしまった、生徒会室の数々の武具が並んでいる、刃物、鈍器、銃器、さらには用途不明の物が並べられている、美遊は恐る恐る中へ進んだ


「そう緊張するな」


「無理よ!」


 部屋の中に異質な物がまだあった


「お侍……?」


 なぜか部屋の中で正座している侍の等身大の置き物があった、侍は和服を着こなし頭には髷を結い、刀を腰に下げ厳かな表情で目を閉じ正座ている


「何なのよこれ」

(動かない、よね)


「ギルドだが?そこのソファに掛けてくれ」


 美遊は言われた通りに腰掛ける


「ギルドはもういいから、貴方は何者?」


 女は美遊の正面に座り足を組んだ


「申し遅れた、私はこの学園の生徒会処け……」


 女の言葉が止まる


「おいこら、今何言おうとした」


 女は咳払いをして訂正する


「私はこの学園の生徒会会長、三年の桐谷茜きりたに あかねだ」


「生徒会長!?」


「いかにも!」


 茜は勢いよく立ち上がり、右手の平を顔に当て、左腕を横に振り上げ言い放った


処刑執行鋼鉄淑女しょけいしっこうアイアンメイデンとは私の事だぁ!」


「何その恥ずかしい肩書きぃ!」


 その時ギルドの扉が開かれ、眼鏡の青年が入ってきた、先程茜と戦車に乗っていた男だ


「おや、戻ったか」


 茜に声をかけられ、男は驚きの顔を見せる


「本当に捕獲したんですね、会長」


「喋った!?」


今まで眼鏡を上げながら頷く姿しか見ていなかった美遊が驚きの声を上げる


「そりゃあ僕も人ですから」


「そうよね、ごめんなさい」

 美遊は冷静に謝るが何か腑に落ちない


「紹介しよう! 彼は副会長の……!」


 茜が男を勢い良く男を指差した


「まさか…」


「彼は副会長! 片翼の堕天使!」


「痛い! 痛いよぉ! この人達痛すぎるよぉ!」

 美遊は頭を抱えたが気にせず男は頭を下げる


「三年の岡部です、よろしくお願いしますね」


「肩書きどうしたんだよぉ!」


 茜が2人の間に入る


「ちなみに岡部は去年の球技大会で右肩を脱臼し、チームを負けに追いやった事から肩書きがついた」


「だせぇよ! 可哀想だろ!」


 茜が指を鳴らすと部屋が急に暗闇に包まれる


「なに!?」


 もう一度指を鳴らすとスクリーンが出てきた、映像には副会長が右肩を抑えながら膝を崩している、茜は笑顔でスクリーンを指差し


「その時の映像だ」


「やめたげてぇ!」


 茜は目を丸くした、そしてまたほくそ笑む


「適応力が高い、やはりな」


「何がよ!」


 室内に明かりが戻り、自動でスクリーンがしまわれた


「そしてそいつが」

 茜は侍を指差した


「え……置物でしょ?」


「失礼な奴だな! 彼は生徒会役員のマイケルだ」


「マイケルッッッッ!」


 美遊はまた頭を抱えた、もう付いていけない


「そうだ、仲良くするんだぞ」


「置物が役員って……めちゃくちゃね」


 美遊はマイケルに近づき、まじまじと見つめる


(クオリティが無駄に高いなぁ……気持ち悪いわ)


「渋くてよい男だろ?」


 茜が背後から声をかける


「そう?なんでこんな……ひっ!?」


 美遊が目線をあげると、先程まで閉じていたマイケルの目が開き美遊と目があった


「YEAAAA!!!」


 マイケルは勢い良く叫びながら立ち上がる


「喋った! 動いた! 英語だぁぁぁぁぁ!?」


 驚く美遊を横目にマイケルは茜に声をかけた


「会長殿戻られていたか」


「こらマイケル、精神統一は1日1時間までと約束だろう?」


「はっはっは! これは失敬! おや、新入りですかな?」

 侍は豪快に笑い美遊に視線を送る


 美遊はぷるぷると震えながらマイケルを指差し叫んだ


「あんたのどこがマイケルよぉ! 順日本人でしょ! やたら古風だし!」


 マイケルの眉間に皺が寄る


「むむ! 儂はマイケル米国生まれだ!」


「嘘をつけ!」


 岡部が眼鏡を上げ口を開く


「彼は異国の大和魂やまとだましい!」


「黙ってろ脱臼!」


「いかにも! 儂は異国の大和……」


「それもういいって!そもそもおっさんじゃない!」


「儂は正真正銘の健全な男子高校生でござる!」


「ござる!? もういいわ! 付き合ってられない、私は帰る!」


 美遊が理解を諦め生徒会室を出ようとした時、再びドアが開かれた


「今度は誰よぉ!」


「会長おっつー!」


 金髪セミロングのふわふわヘアーの髪を揺らし、茜に向けて元気に手を振っている


「紹介しよう!彼女は二年の生徒会書記!天使の朝星モーニングスター! 田原楓!」


「やっぱり肩書きあんのかよぉ!」

(でもモーニングスターって、ちょっと可愛いわね、まともそうだし)


「よろしくー!新入り!」


 楓が美遊の脇を抜け室内に入ってくる、鉄が擦れ、鎖が音を鳴らしていた

 美遊はその音の元凶を見てしまう、血みどろの棘付き鉄球が鎖に繋がれ引きずられていた


「怖ぁぁぁぁぁぁ!」


「何が? 新入り? 楓は何もしてないよー?」


 楓は振り向き眩しい笑顔を見せる


「でも笑顔は天使ぃぃぃぃぃ!」


「だから言ったろうに、天使の朝星……とな」


「モーニングスターって武器名かよぉ!もうこんな所いられるかぁ!」


 美遊は走り出し生徒会を出て行く


「しまった! 逃すわけにはいかない! マイケル!」


「承知!」


 マイケルは生徒会室を走り出し廊下で簡単に美遊を抜いて回り込んだ


「会長殿に目をつけられたら逃げられないでござるよ!」


「どけぇぇぇぇぇぇ!」


「ござるぅぅぅぅ!」


 美遊は助走で勢い付けマイケルを蹴り飛ばした、マイケルはこめかみを蹴り飛ばされ、側頭部から吹き飛んだ


「マイケルがやられた? くく! くはは! 面白い! 面白いぞ新入り!!」


 茜は笑いながら美遊の背中を見送った


「会長、いかがなさいますか」


「絶対に欲しいに決まっているだろう」


「畏まりました」


 片翼の堕天使岡部は冷静に答え、その場を離れていく


「これより我が生徒会処刑執行部の全戦力であの娘を捉える! 全員で行くぞ!」


校舎を逃げ切った美遊は息を切らしながら振り返る


「追って来てない…よね」


 グランドでは運動部が汗を流して活動している


「あ〜ぁ、私もああいう部活入りたいなぁ」


「却下だ」


「ひぃ!?」


 茜が不意に肩を掴んだ


「い、いつから!?」


「たった今来た所だ」


「早すぎでしょ!」


「3階から来たからな」


「はぁ?」


 美遊が生徒会室がある3階を見ると窓からロープが垂れている


「無茶しすぎ! 兎に角私は生徒会なんかに入らないから!」


 美遊は茜を振り払いまた走り出す


「逃げるな! 弾が当たっても知らないぞ」


 突如鳴り響く轟音


「何よぉ!?」


 地面が抉れ煙が上がる、遠方に戦車が見えた


「だから弾が当たると」


「弾って主砲かよぉ!」


「これが堕天使の息吹だ!」

茜は眼を輝かせ、思いついた様に手を叩く


「いちいちめんどくせぇな!」


「我々には勝てないのは解っただろう? 行くぞ」


茜は美遊の手を引き、強引に連れて行こうとするが

「嫌だぁ! 離して!」


「早くしないと」


「会長ー! そいつ抑えといてー!」


 校舎から楓がモーニングスターを頭上で振り回しながら出てきた


「軽々回してるし!? さっき引きずってたくせに!」


「うーん、女子力……かな?」


 楓は笑顔で答え、ジリジリと距離を詰めてくる


「解った! 解ったわよ! 生徒会に入る、入りますからぁ!」


「素直な新入生で楓は嬉しい!」


 楓は頭上で振り回していた棘鉄球を地面に下ろすと地面にめり込んだ


「とりあえず拘束だな」


 茜は手錠を取り出し手際良く美遊を拘束した


「そこまでする?」


「逃げられたらかなわん」


「はいはい」


 美遊は生徒会室に連行され、扉を開けるとマイケルが正座待機していた


「はっはっはっ! だから言ったのでござる! 会長殿からは逃げられないでござるよ!」


「新人、名前を教えてくれ」


茜は美遊をソファに座らせ会長席で何かを書き始め質問した


「東西美遊……」


「よし解った」


 茜はペンを取り出し何かを書き始めた


「何書いてるの?」


「入部届だが?」


「勝手に書くなぁ!」


「入部するふりして逃げられたら困るからな」


「ゔ……」


「さてと、美遊の肩書きは後で考えるとして」


 茜が手錠を外し、優しい微笑みを浮かべ手を差し伸べる


「歓迎するよ、ようこそ生徒会処刑執行部へ」


「は?処刑?」


「そうだ、不真面目な生徒を正すのが仕事だ」


 美遊は手を取り立ち上がるが、理解が追いつかない


「聞いてないわよ!」


「生徒会とはそういうものだ」


「よろしくー!新入り!」


「あは、あはは……」

 美遊は力なく笑う


(まずはこいつらをどうにかしないと……変えれるのは私しかいなそうだし)


「やってやるわよ!」


「やる気になったか! 会長として期待しているぞ!」


「美遊ちゃん! 楓は歓迎するよー!」

 楓は両手を広げ美遊に飛びついた


「宴でござるな!」


「よろしく頼むわ、先輩方」

(私が! 私がこの生徒会を正してみせる!)


 こうして美遊の楽しみにしていた高校生活の貴重な青春は変態達に囲まれ過ごすことが決まってしまったのだが、自由奔放過ぎる彼女達にこれから振り回されていく事を美遊はまだ知る由も無かった

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