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第一ページ

キーンコーン カーンコーン…


8時30分の本鈴が校内に響き渡るころ、3年7組の教室のドアは

遅刻ギリギリで走ってくる生徒でごった返していた。

生徒たちは我先にと言わんばかりに、バタバタと音を立てて教室に入り込む。

そんな生徒たちに入り混じり、明らかに20は超えた一人の男が透明の箱を抱えて入り込んできた。


キーンコーン カーンコーン……プツン…


「あー!あっくん遅刻〜っ!!!」


「あっくん」と呼ばれたその男は、教室に入り

教卓の前に立つと持っていた箱を教卓に置いた。


「君たち…仮にも僕は君たちの担任をやっているんだが?せめて『先生』をつけなさい、『先生』をっ!」


「えー…でもその身長じゃーね…」


男の一言に生徒たちは動じもせず、好き勝手に騒ぎ始めた。


男の名前は、富永あつし。年齢28歳、国語教師。

28歳という年齢にしてはやや小さめな身長のせいか、

生徒からは「あっくん」と呼ばれ、同僚の教師からは「変人」と言われ、

校内では(ある意味)名の通った男である。


「…ン?…なんだ、金沢は休みなのか?」


教卓に置いた透明の箱から、出席簿を取り出して出席確認をしていると、

金沢馨の席が空いていることに気が付き、誰に問うでもなくつぶやいた。


「さぁ?知らねー」


教卓の前に座っていた一人の生徒が、富永の独り言に気付き、そう答えた。


「ふーん、宮城も知らないのか……ま、いいか。高校3年にもなれば電話なんてしなくても大丈夫だろう」


富永は小さくそうつぶやくと、持っていた出席簿で教卓をバシンッと叩いた。


「ほら!席着いて!!授業始めるぞ!」


本日一発目の授業を始めようとしたとき、

教室のドアを叩く音がした。

富永がドアを開けると、そこには数学教師『土井光伸』が立っていた。


「…先輩、ちょっと。」


どうも深刻そうな顔つきの土井を、富永はドアの外で待たせ、

生徒たちに、静かにしてろよ、と忠告して教室を出た。

教室を出ると、突然土井が富永の腕を引っぱって走り出した。


「なに?!何処に行くんだ!!?」


「第一応接室です!!説明は後でしますから!!」


土井の足の速さについて行けなくなった富永は、

半ば引きずられる格好で第一応接室へと急いだ。







-------------------


コンコンッ…



僕らは応接室のドアを叩いた。

中からの返事を聞き、息を整えて静かにドアを開く。

中には学校長と教頭、3年の学年主任そしてもう一人、

顔をハンカチで押さえた女が、中央にあるソファーに向かいあわせで座っていた。

僕らが入ってきたことに気付くと、校長は立ち上がり、女はハンカチを膝元に下ろした。


「待っていましたよ、富永君。」


「……あの方は?」


僕は校長に、その女に目を向けつぶやくように聞いた。

校長は少し困ったように僕に言った。


「あぁ……ちょっと困った事になってね。あの方は君のクラスの金沢くんのお母様ですよ」


「そうですか…。」


僕はとりあえず金沢母に軽くお辞儀をし、教頭らが座っているソファーの隣に立った。


「で?どうして僕らはここに呼ばれたんでしょうか」


僕は校長がソファーに座ると同時にそう聞いた。

校長は重い口を開くように静かに話し始めた。


「……実は金沢馨くんが、先週金曜日の夜コンビニに出かけたきり、もう2日も家に帰ってないそうなんだ。」


「…はぁ…、家出かなんかじゃ…」


「…それが…」


僕の隣で立っていた土井が突然口を挟んだ。


「それが、少し調べてみたんですが……近隣の高校でも似たような事が起こってるらしくて……」


「…似たようなこと…?」


「はい。夜、家を出た子がそのまま帰ってこないんです」


「……高校生?」


「ええ。」


土井は静かに頷いた。


「…で、どうして僕がここに呼ばれたんですか?」


数分前に校長に聞いた事を、僕はもう一度言った。


「あなたが、…以前勤務していた学校である事件を解いたと、聞いたことがあったからです…」


答えたのは、土井だった。


「……ほぉ。あれ、ですか。」


僕は校長に目を向ける。


「確か、あの事件は校外にはばれないように、と関係者以外には何も話さなかったのですが…。

 校長先生は知っていらしたんですね。……それも、…こんな数学教師にまで…」




『あの事件』。

このことはまた後で話すとしよう。

今は色々と面倒だしね。

少しだけ、この話に出てくるけれど。




「で、この僕に解いて欲しい、と。まだ事件だとも決まっていないのに?」


「…だったら…だったら馨はっ、理由もなく家を出て、理由もなく帰って来ないって言うんですか?!」


突然ソファーから立ち上がり、手に持っていたハンカチを握り締めて、金沢母が叫んだ。

さっきは気付かなかったが、身長は僕よりも高く、土井より低い。

スレンダーな体型の、俗に言う、『モデル体型』というヤツだな。


僕は隣に立っている土井を見上げ、小さくため息をついた。


「………やればいいんでしょう、やれば。」


土井は小さくガッツポーズをしていた。
















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