おとぎ話になった男の話。
男は、人形師の家計の生まれでした。
男はごくごく平凡な人間で、自分は他に取り柄もないからと親の後を継ぐことに決めました。
元々、真面目だった男は、父親の指導によって少しづつ腕を上達させていきました。
男は友人が遊びにいっても、恋をしている時もコツコツと人形を作り続けました。
やがてその仕事ぶりが気に入られ、顧客からお見合いを紹介されました。
男とその紹介された女は結婚しました。
男は新婚にもかかわらず、奥さんとろくに会話もせずコツコツと人形を作り続けました。
奥さんは、そんな真面目なあの人のことが好きだといいました。
やがて奥さんに子供が出来ました。
けれども、まだ幼い子供に構うことなく男はコツコツと人形を作り続けました。
奥さんは、困った顔をしました。
やがて戦争が起きました。
男は、兵役のために町を生まれて初めて離れることになりました。
そうして、長い間ひどい戦いが起きました。
終戦をして、男が町に帰ってくると奥さんは別の男の人と再婚していました。
男が、子供はどこにやったんだと問い詰めると、奥さんだった人は孤児院やった後
行方が分からなくなったといいました。
男がショックで呆然としました。
貴方みたいな冷たい人と結婚後悔している、貴方に似たあの子を愛せなかったと
奥さんだった人は言いました。
男は、もうそれからどうやって家に帰ったか解りませんでした。
それからというもの、男はなまっていた勘を取り戻すかのように一心不乱に
人形作りに挑みました。
男は、沢山の生きている人間と見間違うような美しい人形たちを作りました。
けれども、男はその人形たちを一つも売りませんでした。
男は、生きていくためのぎりぎりのお金を得られる仕事をし、いつも貧乏暮らしをしていました。
けれども、どこからか評判は広まってしまうものです。
まずは、隣の家の人から人形を是非売ってほしいといわれました。
男は断りました。
次に町の一番偉い人に人形を売ってほしいといわれました。
男は断りました。
更にその次に貴族に人形を売ってほしいといわれました。
男は断りました。
更に更にその次に王様に人形を売ってほしいといわれました。
男は悩みました。
ここで、断れば平民の男は不敬罪として殺されてしまいます。
そこで、びっちりと人形が入った倉庫に行くと自分ごと火をつけました。
それは、冬のある寒い日で赤々と燃えたそうです。
そうして、月日が流れた今では生きている人間のような人形を作ることのできる
凄い人形師がいたことだけがおとぎ話のように残っています。