54リーフとラード王国の罪
「まずは、私は騎士団長という肩書きを拝命しておりましたが、実態は全く違うという事を明言しておきます」
へ?
でも、実際に騎士団の指揮を執っていたんでしょ?
「お飾りって意味かい?」
セーフ、言い方キツいよ。
「いいえ…真の意味では無いと言うことです。騎士団とは名ばかりの、補給隊ですね。補給隊の隊長だったんです」
補給?
「何に対しての?」
「この町ラードに対して…ですね」
「まさか、週に五百の肉を補給する為だけに存在したと言うのかい?」
「正にその通りですよ」
「バカな、何故そんな事をする必要があったってんだい?」
「生きやすい町を作るためです。最初にこの形を提唱したのは五百年前の宰相だったと言います。当初の理由は廃物利用の為だったそうですが、実行してみると、素晴らしかったんです」
「どう素晴らしかったってんだい?」
「全てにおいてと言って、過言ではないでしょう。昔のラードでも、牧畜が営まれていましたが、平野ばかりで牧草地の無いラードでは、肉類は大変高価なものでした。肉を産み出すためのコストは莫大。輸送コストも非常に高かったのです」
「庶民が口にするのは、年に一度位ってとこですか?」
「いいえ。貧しい庶民では一生に一度口にするのがやっとというレベルだったそうです」
「とすると、その頃は農業立国だったんだね」
「良くご存じですね。このラードは肥沃な平野を一面の穀物畑とする。一大農業地帯だったそうです。その名残が城の周囲一キロに及ぶ、あの畑です」
無茶だよね。
最高の立地条件なのにさ。
「普通なら一番城下町として栄える所に畑だからね。違和感が凄かったよ」
「食料の最後の砦との位置付けなんですよ。話を戻しましょうか。美孝さんは既に把握されてますけど、私たちが一週間で狩ってきていたオーク達と、同じだけの肉を自前で生産するために、どのくらいのコストが必要かご存じですか?」
「穀物換算なら約30倍の重量が必要だね。牛の換算ならだけどさ」
「本当に良くご存じですね!!そう、極一部で飼育されている牛の換算なら重量の約30倍も必要です。比較的少ない鶏換算でも約3倍。しかも、ここに労働力や糞による悪臭の対策、牛なら搾乳作業、鶏なら採卵作業と人的作業も含めると、コストはうなぎ登りです」
「牧場…」
「博識の美孝さんはわかって頂けましたね。私たちは、コスト0で勝手に生産されてくるオーク、ゴブリン、コボルトを収穫してくる刈り取り夫だったのですよ」
「命懸けでですか?」
「まぁ、確かに危険ですので、それなりの装備と実力を備えた騎士団を維持しなければなりませんが…それは国として、元々から当然に発生する義務ですからね。それに、一番強いオークでも、訓練した私達には普通の相手です」
「訓練も兼ねて一石二鳥だねぇ」
「いいえ。セーフさん。普通なら何も産み出さない騎士団が、食料の供給源になるんですから、一石三鳥ですね。しかも、オーク達は捨てるところがありません。肉を始めとして、装備品の剣、毛皮は言うまでもなく、骨などは肥料に加工可能です」
「濡れ手に粟も良いところですね。輸出製品の原料まで供給しているじゃないですか。国としては物凄く儲けたでしょうね」
「確かに当初はボロ儲けだったそうです。ですが、百年ほどたった頃に即位された王により、状況は一変しました」
「賢王と呼ばれた、ラード清正の治世だねぇ」
「はい、清正様が行った治世が今も規範となってますね。具体的には、私達騎士団によりオーク達を完全に排除して交易を盛んにすることと、肉の売り払いの利益を騎士団の維持費と同額程度まで抑えました」
「貿易立国へのシフトですね。流通を活発化させる方向に舵取りしてる」
「何でわかるんですか?王家と榊家に代々伝わる秘伝に近いんですけど…」
まぁ、現代日本人だったから…
学校で習うレベルの話です。
「出身の国も貿易立国だったんですよ」
「まぁ、国外からお越しになったんですね。しかし、素晴らしく高度な国なんですね。美孝さんの理解力は完全に普通から逸脱してますもの」
セーフ曰く、チート野郎ですから。
「ありがとう。でも、そろそろ話を進めましょう」
「話の腰を折ってましたね。肉の価格を抑えて、交易路の安全を確保したことにより、ラードにはありとあらゆるものが流れ込み、出ていくという交易の中心地になりました」
「平地ばかりで、畑しか無かったところだから道の整備も楽だったろうね」
「はい、道を整え、宿を整備し、市場を作り、他国との協定を結んで、貿易立国としての地位を確保していったのです」
「名君だろうね。肉の利益と貿易の利益を考えたら、断然後者に軍配が上がる。人口を考えたら、肉が多すぎて値崩れの可能性もあるしね。でも、既得権益に群がってた奴等を良く押さえ込めましたね」
「目的の為には手段は選ばなかった方のようです」
おぅ怖っ。
「とすると、リーフさん達騎士団は、肉を集めてくる補給隊で、その肉はコスト分だけで市場に回ってたから、健全な発展をしていた。リーフさんの罪と経験値はここからどうつながるんだろう?」
「はい、今までの話は背景説明です。今の話で普通なら国が把握してることがありますよね?」
起点は肉の安定供給だ…
「まさか、発生場所や発生原因も…」
「はい、それです。勿論知っています」
知っていて何故…
「何故、排除しないん…。あぁ、するわけ無いか。利益と命を産み出す宝だもんな」
「そのとおりです。性質も特徴も全て把握したうえで利用していますからね。だから、現在の状況についても予測できるんですよ」
国がやることだからね。
それ位できなきゃ困る…か。
「具体的な説明は出来るんだよな?」
「勿論です。美孝さんには、私の罪も聞いて頂かなければいけませんから…」
辛くないわけ無いよな。
「まず、このラードには五本の交易路があります。北から南に抜ける二本と西から東に抜ける二本、そして北東に伸びる一本の計五本です。残りの三方に、オークたちの拠点があるんです」
やはりあるのか拠点が…
「北西、南東、南西ですか」
「はい、そうです。その拠点に何があるかですが、ほぼ何もありません。自然に出来た塔があり、中にマザーがいるだけです」
「マザー?」
「はい、その塔に陣取り、週に同胞を170体づつ増やす。一族の母ですね。北西にはオークマザー。南西にはコボルトマザー。南東にはゴブリンマザーが居ます」
「産んでいるって言うのかい?」
「いいえ。分類上マザーと呼んでいるだけで、実際には召喚魔法を操る個体ですね。でも、各種族で見た目はさまざまですが、共通点があります」
「戦闘力が皆無なんですか?」
「!!。何故わかるんですか!?召喚に特化するために、戦闘力を持たない個体なのですよ」
「しかも、倒すと…召喚した個体に影響がある?」
「!!。その通りです。配下の個体全てが、動きを止めて、動けなくなります」
「倒しても一定期間で同じマザーが甦るんですよね?」
「それは違いますね。倒すと、10日後に何かしらのマザーが誕生します。規則性はありませんので、何が生まれるかはわかりません」
えっ?
「じゃあ前は違うモンスターが生まれていたこともあったんですか?」
「勿論です。今の三種類になったのは、三百年前ですね。固定されるまでにはドラゴンマザーが生まれたこともありましたよ」
ドラゴンかぁ。
「いきなりドラゴンが170頭とか考えただけで死にそうですね」
「幸い仕組みが解明された後だったので、誕生に併せてマザーを囲み、最速で倒滅出来たので大惨事は免れました。ただし、戦闘力は無いとはいえ、膨大な体力値と防御力を誇っていたため、倒滅までの半日で、マザーを守護に来たドラゴン二頭に蹂躙され、二十名以上の騎士が犠牲になったと聞きます」
流石はドラゴンだが、酷いもんだな。
「可哀想な話ですね」
「ラードの守護のための犠牲ですからね。騎士の本懐でしょう。私には果たせなかった事です。因みに、その時倒されたドラゴンマザーから、騎士団長の防具を各一式を作り出していますので、代々引き継いでいますよ」
「代々?男性の時もですか?」
「男性用と女性用が作られたんです。その他にも生き残りの騎士団は動けないドラゴンを倒して、経験値を積み重ね、無類の強さを誇ったそうです。その時に、二十のドラゴンを葬ったのが御厨家当主で、今もその力を受け継いでいると言われてきました。他にも多様な薬や武器と防具が作られ、肉は騎士団を中心に食べられて、随分騎士団の底上げがされたんです」
ドラゴンメイルか。
「凄い防御力なんですよね」
「はい、騎士団長の鎧に身を包めばオリハルコンをもってしても容易には貫かれません」
あれ?
「では…その足はオリハルコン以上の何かで切られたという事になりますよね?」
「はい、それが私の第一の罪です。あの日は普通の鎧を着ていたのです。騎士団長の鎧は修繕中だったので」
「それで足を…でも、何が罪だと?」
「まず、あの日の話をしましょう。いつもと違う鎧を着けて、いつもの狩りへ出た我々は、狩りの終盤に達していました。約480を仕留め、帰還準備をしながらの狩り。その時に三体の特異体に遭遇しました」
「特異体とは?」
「召喚される170体の中に稀に通常のものより強いものが混ざるのです。頻度は年に一度でしょうか」
それなりに例はあるのか。
「それが三体同時ですか。厳しいですね」
「長い歴史中では五体同時の時もあったそうですから…まず、コボルトヘビーは私が首をはねました。ジャイアントオークメイジは、朱音達が足止めし、後一歩で首に迫るところでした…私は右足に突然の違和感を覚え…見てみると既に足はありませんでした。それどころか既に失血によって、意識を失う寸前だったのです」
凄い切れ味だ。
「痛みを感じないほど鋭く切られたんですね」
「恐らくは…意識を失う寸前に見たのは、黒いゴブリンが私の右足を食べながら嘲笑う姿。私が気付くのを待っていたようです。その後直ぐに姿がかき消え、私は意識を失いました」
「その後は、総崩れで救援に来た騎士団も併せて残存兵力は約5割とか…」
「良くご存じですね。目を醒ました私を待っていたのが、その報告でした。愕然としました。何よりも意識を失い、ゴブリンマザーを討つ指示を出せなかったことに…」
「何故?」
「騎士団長の仕事は見極めです。勝てない特異体の発生時に、被害を最小限に止めるために、マザーを討つのです。私は一番大事な時に意識を無くして使命を果たせず、予備兵力まで呼び寄せ、壊滅させて…マザーに近付くことすら出来なくなりました」
大粒の涙が溢れ落ちる。
「更なる罪は負けた事です。騎士団は私のカリスマで力を五倍にしてましたから」
自己の奴隷化か。
「方法が確立されてると聞きましたが、騎士団は団長のカリスマを使うのですか?」
「はい、団長と副長です。せめて死んでいれば、美化されて総崩れにはならなかったはずです。意識を失ったのは最悪と言えるでしょう。…私は…私はラードの民の全ての命を危機にさらしている責任者なのに生きているんです。責務も果たさずに…」
瑞木美孝18才
レベル28(15)
体力値215(140)=30100
魔力値219(140)=30660
力339(140)=47460
知力231(140)=32340
俊敏さ214(140)=29960
器用さ220(140)=30800
幸運値250(140)=35000
魅力437(140)=61180
風10(140)=1400
水10(140)=1400
火10(140)=1400
土10(140)=1400
光10(140)=1400
称号
貧乳も好き、童貞、心清き者、地母神の養い子、殺害童貞喪失、狩人、精霊の親友、コボルトの天敵
スキル
超鑑定
他種族言語理解
スキル取得補正
緊急避難
レベル・スキルリセット
収納ポケット
レベルアップ時の魅力値上昇十倍補正
叱咤激励
大声
解体・交渉・召喚魔法・身体強化・範囲観測中級
精霊魔法信頼級
回復・催眠・風魔法・馬術初級
降霊術
武装レベル:槍13、剣8、投擲19、打撃1、短剣20
妻
リーフ
相性
綱芳(340)さやか(653)恵美(595)武司(95)玲子(55)朱音(486)メルー(72)道緒(83)直(101)メアリー(87)燕(89)レモン(83)流々(88)里乃(81)リーフ(551)天河(53)春臣(63)君里(71)秋虎(72)
精霊:風(10,8)水(9,1)火(9,1)土(8,7)光(7,7)闇(10,8)
奴隷
朱音・メルー・道緒・直・メアリー・燕・レモン・流々・里乃・リーフ・天河・春臣・君里・秋虎
設定
一部非表示
どうでしたでしょう?
明日は三つ子の話を投稿します。三話なので、適当に分散予定ですが、一話分はいつもの時間です。お会いできれば幸いです。