SS御厨パワーと静谷飛鳥の爆破岩討伐録4
「ふぇええええっ!めちゃめちゃ高ぁーーい!!」
「もぅ…塀の上から周囲の景色を見たことくらいあるでしょう?あそこと同じ位の高さよ?あら!周りに何もないと、随分高く感じるわね」
メニーだって、高さに目を見張ってるじゃん!
「下では先輩方が、受け入れ準備を整えてくれていますね」
「えぇ、特に土魔法を使っているお二人は、一番に下に到着して、鬼気迫る勢いで、凸凹の地面を均してましたね。頭の下がる思いです!」
目が血走ってたもんなぁ…
やっぱり、大事な人が爆発に消えたちゃったんだろうか…
私は仲間入りしてからの時間が短い分、そういう部分が、そこまで共感出来そうにない…
決して悲しく無い訳じゃないけど、実感として感じられる部分が少ないんだよね。
悪いけどどうしようもない。
「近場が均されたと思ったら、次は小さな土のキューブを、山のように作り出し続けてますね…一気にでっかく作った方が、簡単なんじゃないかと思いますが…」
「ははっ。やあ、こんにちは、知らないと確かに不思議な光景だよね。メニーちゃんも知らないみたいだから教えてあげよう」
首を傾げていたら、遥先輩が近寄って来る気配を感じ取れなくて、凄くびっくりした!
「ふっ!!遥先輩?ありがとうございます!」
「まぁ、そんなに緊張しなくて良いよ。魔物は倒したんだから、肩の力は抜いていこうよ…」
気の抜けたような話し振りと、だらけきったような顔で、いつもの台詞を言っている遥先輩。
この人の変貌振りにはいつもビックリする。
討伐の時は、口調はそのままに、近寄り難い程の冷徹な雰囲気を纏うのに、一度、討伐が終わると、これほどに変わってしまう。
切換がハッキリしてるんだろうね。
「申し訳ありません。まだ、作戦行動中ですので、あまり、気を抜いてばかりもいられません」
メニーが、姿勢を正して返答してる。
まぁ、建前って奴は必要だよね!
「あぁ、そうだよね。私は留守番だから、待機モードだけど、君達は違うものねぇ…ま、無理の無い範囲で、頑張ってね」
なんだろう…
それってブーメランだよねって言いたいけど、さすがに言い難い…
「ところで、あのちっちゃなキューブを沢山作ってるのには、どんな理由があるんですか?」
「あぁ、そうだったね。それを言いに来たんだった。失敬失敬、実は魔法にはね。特定の定型文があるから、逆にあっちの方が効率が良いんだよ。定型文を崩しちゃうと、途端に消費魔力値が、跳ね上がっちゃうからね」
はぁ…
不思議な話だね…
「つまり、百のキューブを造る方が、同じ体積の一個のキューブを造った時より、消費魔力値が少ないんですね?」
「そうそう、流石は我が騎士団の薔薇の姫だ。美しいだけでなく、理解力も高いねぇ…良いことだよ。戦闘力も高いし、薔薇にはトゲが必要だからねぇ」
えぇーっ!
そういう意味で薔薇なんですか!?
真剣に止めて欲しい…
「私、彼氏が居た事も無いんで、その二つ名は荷が重過ぎます。出来れば飛鳥と呼んで頂けると嬉しいですね」
「ふむ…謙虚なのは悪くないけどさ…その様子だと、自分が魅力的だと自覚していないよね。勿体無いけど…そういうのが好きな奴もいるからまあ良いのか。ま、頑張ってよ。飛鳥」
名前で呼んでくれたのは、嬉しいけど、なんか複雑だ…
「遥先輩、ありがとうございます」
「私達も降下します。ご教授感謝致します」
メニーに促された…
ちょっぴり目が怖いのはなんでかなぁ?
「あぁ、気をつけて行っといで」
へにょっと笑った顔が、凄く魅力的だ。
「では、飛鳥さん、準備をしますよ」
「はいっ!」
メニーと二人揃って、ロープを体に巻き付けて、降下の準備完了して、垂直に切り立った崖の上に立つ。
「よし、降下する隊員は君たちで最後だね。僕も再度の見回りをしたら降りるよ」
パワー団長が、見送ってくれる。
遥先輩と夏海先輩が、駐留部隊として残るから、激励してから降下するんだって。
うっ、羨ましいっ!
後ろ髪を引かれるように、降下を開始した。
パワー団長ぉお!
下で待ってますからねーっ!
こんなこと心の中でしか叫べないけどさ!
「さてと…とりあえず、遥、夏海、君達の仕事は、この場所の管理だね。10日後にまた来るから、四人で仲良くやって欲しい。魔物は出ないはずだから、やって貰う事はわかってるよね?」
「水魔法の使い手なんで、水は造る予定ですが?」
「そうじゃないでしょ、遥?あの二人は結構頑張りすぎちゃうから、ちゃんと止めてあげなきゃ!そういう意味ですよね?団長」
「意図を汲んでくれてありがとう、夏海。遥、悪いけど、君が一番騎士団の勤務が長いからね。細波と白南風の事を、気にかけてやってくれると嬉しいな」
「…わかりました…でも、無理だと思うなぁ。アイツらは止めても、気絶するまでやっちゃいますので…介抱して、まともな飯を食わせて、暖かい寝床に放り込む事位しか出来ませんよ?」
「ふふっ…やっぱり遥と夏海に残ってもらって、正解だったね。もちろん、そうしてくれれば十分だよ。ありがとう!」
「はぁ…一応は先輩ですので当然ですよ。今日と明日は、屋根のあるところでは、眠れないですね」
「そうだねぇ…あとで、下に布団を降ろしとかないと、面倒くさい話になるね」
「ん?なら、僕が布団を持って降りるよ。二組までなら、問題ないよ?その分手間が省けるよね?」
「えっ!真面目に持っていくつもりですか?」
「もちろん!だって僕の分の荷物は既に下だから、何も持たずに降下をする予定だよ。布団を二組持っていく位何でもないさ。ただ、悪いけど遥の布団は自分で運んで貰えるかな?」
「いえ、自分のは必要ないんで大丈夫です。団長が降りたら、すぐに仮眠に入りますから」
「パワー団長、あの子達の布団を持ってきますね」
「夏海、よろしく。そして…遥、2人位なら夜営の交代要員を融通できるけど?」
「必要ないですよぉ。先輩ですので…それに、細波と白南風も泣きながら寝入る姿は、他の誰かに見られたくないでしょうからね」
「わかった。ん、ありがとう、夏海。じゃ、細波と白南風に一声かけて、キューブの上に置いておくからね。よろしく」
「はい、気をつけて」
「団長、おやすみ」
「見て下さい。メニー先輩!団長が降りてきますよ?でも、背中のあれはなんだろ?」
「は?背中に布団…2つも背負っているわね」
何に使うつもりなんだろ?
「さっき降ろした資材の中には1つも含まれてないですね…」
「頑張ってるね。細波、白南風、君らの分の布団は、このキューブの上に置くから、よろしく」
あぁ…
頑張ってる先輩達の休憩用か!
一瞬さっきのキスが、頭を過ったのは許して欲しい。
だって、初めてだったんだから仕方ない。
誰か仕方ないと言ってくれ!
「仮眠の時に使いますね。ありがとうございます」
「団長達もお気をつけて…」
「ありがとう!君達も無理は禁物だからね。よし、各班準備は整っているな?既に先行した副長率いる調査部隊を回収しながら、ラードに戻るぞ!」
凛々しい団長の声が響くと、各部隊から準備完了の報告が返っていく。
「全部隊準備完了!出立!」
パワー団長を先頭に、全員で走り出す。
馬は全て調査部隊に預けてあるから、団長を含めて全員が徒歩だ。
「ねぇ、思ったよりも速い気がしませんか?」
「行軍中に、無駄話を投げ掛けるんじゃねぇよ。でも、馬と比べても遜色ない速度だな…こりゃ体力温存以外の意味で、馬を使う意味がないかもな」
メニーだって、口調が砕けてるじゃん。
でも、シャオロンを手放す気はないけどね。
「もうすぐクレーターの端に着くよね?あそこで、調査部隊と合流だね」
「飛鳥…」
名前を呼ばれて、睨まれちゃった。
はい、私語は慎みます。
「よーし、全体停まれーっ!一旦休止だ」
各部隊の指揮を終えて、調査部隊と合流していた副長と、団長が情報交換してる。
これが終わったら、ラードに向けて帰るんだよね。
団長と副長は王宮に報告かな…
私は他の団員やメニーと一緒に、寮に帰って疲れをとるか…
今日は、団長の甘い唇を思い出して眠れそうに無いけど…
「承知しました。次の魔物殲滅行程までの2日間で間に合わせます」
「悪いな。宜しく頼むよ」
そう言って、団長がこちらに歩いてくる。
自意識過剰だと思うけど、すげえ緊張する。
あれ?
なっ、なんか止まる気配がない?
う、うわぁ!
なんか、目の前に団長がいるよぉ?
何で?
「メニー、飛鳥、疲れている君たちには悪いけど、この後、僕と3人で王宮に行って貰う。ここで、みんなとは別れて、別行動で動くからそのつもりでいてね?」
え?
えぇえぇーっ!
真面目に私とメニーあてだった…
でも、王宮って…
今回の失敗報告かな、うぅ、気が重いなぁ。
でも、3人でとは言ってもデートは嬉しいけどさ…
楽しんで頂ければ幸いです。