SS御厨パワーと静谷飛鳥の爆破岩討伐録3
「さて、現状の確認のために、観測班から最後に見た光景を話して貰う!みんな傾聴してくれ!」
あぁ…
凛々しいなぁ…
さすがパワー団長…
100人の近衛の難聴を難なく回復させて、パニックに陥らせずに、まとめあげる手腕は流石です!
「はっ!得られた情報は少ないですが、お伝えします!飛鳥隊員が爆破岩のマザーに止めを刺した約2秒後に、野外にいる爆破岩が、同時に自爆したようです。なお、既に死亡していた個体は、どうなったか定かではありません。」
「補足説明として、可視範囲に展開していた友軍が、その爆発に呑まれて、消滅する様子を観測しました。可視範囲外も同様だと考えると、我が隊の損耗率は80%。戦死者400名を数えることとなります!」
うぅ……
やっぱり、先輩方が…
死んじゃったって事、なのかな…
そんなに長い付き合いじゃないけど、会えなくなるなんて嫌だ!
信じたくない!
信じられない!
「すまんな。ありがとう!さて、以上の事から結論付ける!現状で、友軍の生存は絶望的だ。恐らく全員死亡している。次に、今回発生した爆破岩も、自爆して居ないものと思われる。ここまでは良いな?」
団長が整列している近衛部隊を見渡してから、藤四郎副長に視線を合わせた。
「発言して良いでしょうか?」
副長が凄く緊張してる…
「もちろん。言ってくれ」
「はっ、では確認しますが、先程の質問は至極当たり前の事です。何故わざわざ確認したのですか?」
確かに再確認の意味は無いよね?
どうしてかな…
「うん、友軍全員死亡、敵全員自爆。確かに恐らくそうだね。でもそれは、断片的な情報を繋いだに過ぎない!だから、我らは今から事実を確かめる行動を開始する!その為の前提の確認なんだよ!」
「……友軍にいた友人達の死を確認し、万が一にいる生存者を助け、全てが自爆していない事を想定して、爆破岩の捜索も行うべきだということですか?」
涙を堪えて、副長が言葉を紡ぐ。
親しい友人も多かったはずだから、身を切られるように辛いんだろうな。
……それは、パワー団長も同じか…
「その通り!まぁ、ここから見える景色だけでも、十分に双方の生存は絶望的だけど…僕はもう、君達を一人たりとも失いたくない!だから、約束して欲しい!指示に従う事を!」
ふふっ。
従わない奴は、私が泣かしてやるよ!
「はいっ!我ら一同、パワー団長とともにあります!そうだな、みんな!」
「「おぅ!」」
全員の顔に生気が甦った気がする…
さっきまでは、あまりにも大量の死者を受け入れられていなかったもんね。
まぁ、受け入れて良いか悪いかは別だけどさ…
「でも、受け入れて帰り支度をしなきゃ、飢え死にだものねぇ…」
「そうですね。けど、まだパワー団長の指示がまだですよ?飛鳥」
あっ!
メニー。
口に出てたか!
「失礼しました。メニー先輩」
「では、これからの予定を伝える!観測班と記録班は二手に別れ、マザーの死骸の調査及び回収。入り口付近に移動して、外界の確認をおこなってくれ!副長、それぞれに護衛を10名頼む。補給のための物品確認を僕を含めた20名で行う。最後に、残りの58名には、6班に別れて貰って、この塔の周囲30メートルの様子の確認をしてもらう。入り口にいる記録班に逐次報告すること!以上だ!」
「私は何処に張り付きましょうか?」
あぁ。
藤四郎副長の行き先が決まってなかったね。
「入り口で各記録班への指示を頼む。僕も物品確認を終えたら、外に出るからね。此処に残る記録班への指示も頼むよ」
ん?
パワー団長も、前線に行くのか…
補給物資を見てからってのが珍しいね。
「さて、僕の周りにいる20名は補給物資用の倉庫に行くよ!着いてきてね!」
あっ!
私もだ!
地味に嬉しいな!
「以上が、この塔に保管されている補給物資の一覧です!」
レイ先輩の報告だ。
倉庫担当者も兼ねているから、中の物資の内容にも明るいし、一覧の場所も把握してる。
私もいつか、ああいう仕事も任せられるのかなぁ…
「レイ隊員、これと、これとこれの在庫確認をしてくれるかい?本当は使わないことになった方が嬉しいんだけどね」
レイ先輩が首を傾げながら、確認に走っていった。
何かあった時のための準備か…
外はどんな感じなんだろう?
私の愛馬のシャオロンは無事かなぁ…
「お待たせしました。ご指示の物資の在庫状況です。先程お渡ししたリストと同数であることを確認しております!」
「うん!ありがとう!よかった。これで最悪の事態は避けられそうだよ」
最悪の?
何だろうな…
「パワー団長、報告します!」
「よし、聞こうか。扉の外はどうだった?」
在庫確認の後で、入口に来た私たちに、記録班から報告が飛んできた。
本当は、パワー団長にだけどね。
「まず、懸念されていた塔のすぐ先で地面が途切れる事は杞憂に終わりました!ご安心下さい!」
「おぉ!それは良かった!で?どの程度なら土が残っているんだい?」
あぁ!
そうか!
地面が爆発で無くなってる可能性もあったよね。
おぉ、こわっ!
「えっと…実は塔を中心に50メートルの円を描いて土が残っておりました」
「…つまり、そこから先は断崖絶壁って事かなぁ?」
断崖絶壁?
「はい…目測では高さ約50メートルの崖となっていました。また、50メートルの境界の内側でも、爆発による猛威を受けたらしく、木々が一本もありません。また、我らが乗ってきた馬も、ほぼ全滅です!」
「ふむ、木の生えていた場所を正確に調べたか?衝撃によって抜根されたか、切られていたか教えてくれ。あと、馬の生存頭数は?あと、生存条件を明示して欲しい!」
あぁ…
シャオロンは絶望的だね。
「木については、抜根跡は発見できていません。再調査を要します!馬については、総勢500頭の内で、生存を確認できたのは、20頭です!一番奥の作り付けの厩につないであった新人たちの馬のみが生きています!」
「あぁ…後付けで作られていた新厩舎に居た馬達が建物共々破壊されて死んだのか…これはピッキーも死んだな。残念だ…その他に奇妙な点はあるか?」
団長の愛馬であるピッキーは、一番新しい豪華で広い厩舎に居たんだけど…
死んじゃったんだね。
ん?
シャオロンは逆に生きてそうな気もする。
後で確かめよう!
「はい!実は馬達の死体が一部だけ回収されました。奇妙な点は、全ての死体が先程の古い厩舎に部分的に落ちていた事です。そして、その馬達は隣から、旧厩舎に首なり足なりを突っ込んでいた様です」
「ほう、つまり塔の施設の中に居たから、部分的にでも消滅を免れた訳か…断面はどうなっている?」
馬の生首かぁ…
あまり、お目にかかりたくないな…
「はい…断面は無惨に焼け爛れていました。ただし、その断面は、切断されたかのように非常に滑らかです」
「そうか。…私と同じように、ドラゴンメイルに身を包んだものも居たはずだが、友軍の亡骸は確認出来ているか?」
通常、いの一番で報告されるべき内容だけど…
「残念ながら、塔の周り50メートルと、その先に数百メートル広がる巨大なクレーターには、現在、友軍の亡骸を確認出来ません」
「…わかった!総合して結論をだそう!やはり、想定通り友軍の生存は絶望的!敵もいなくなったがな!次にしなければならないのは、ここからの帰還と、次の魔物の出現への対応だ!特にこの塔へは、10日後に再度来ねばならない!必要な準備を各自で考えて提案してくれ!」
あ…
50メートルを垂直に降りなきゃいけないんだよね?
シャオロン…
どうしよう!
「はっ!観測班と記録班は、先程ご指示の木を確認後、再度の友軍探索と、索敵に移行したいと思います!」
「そうだな…藤四郎副長、頼めるか?」
一旦、目を閉じた副長が、カッと目を開けて発言する。
「パワー団長、彼等に指示は必要ありません。別の指揮の手が足りないでしょう?そちらに割り振って貰えませんか?」
「藤四郎…いいんだな?」
「私だけ、特別扱いは許されません…そうだろ?パワー…」
「そうか…わかった。スマンな、みんな」
あっ!
守備隊の副官は、藤四郎副長の奥さんだ…
真面目な人だから、皆を諌めに行ってたんだろうなぁ…
そういうことか。
「まず、馬を下に降ろさねばなりません!そして、状況を王宮へ知らせねば!同時に観測班と記録班に馬を与えて展開、当然隊員の降下も必要です。昇降のつてとして、ロープの設置も考えるべきでしょうね…馬を降ろす指揮を私に任せて頂けますか?」
「そうだね。いいよ…追加で危急に備えて駐留部隊を残さないといけないな。あとは、土魔法が得意な者がいたら、階段の設置を頼みたいけど…見繕える?」
くっ!
私は魔法の才能無いんだよなぁ…
「細波!白南風!聞いた通りだ!駐留して階段の設置を任せるぞ!」
へぇ…
あの二人の先輩ってあんまり強くないと思ってたけど、そんな特技があったんだね!
「はっ!」
「承知しました。ただ、駐留部隊は、私たち二人だけですか?」
女性二人ってのは、キツいよなぁ…
「残念ながら、他の塔の討伐を考えると、あと二人が限界だ…四人で頑張って欲しい!食料は潤沢にあることを確認済みだ。ただし、水が問題でね。遥、残って貰うよ?」
水魔法の使い手なんだね!
「はぁ…仕方ないですね。あと一人は夏海でお願いしますよ?気の合う面子でないと、辛いですからね」
まぁ、長丁場になるだろうからね…
「いいよ。細波、白南風、遥、夏海の四人で、駐留しながら、階段の作成を頼むね」
あぁ…
あんな風に私も微笑んでもらいたいな!
「「承りました!」」
羨ましいっ!
「さて、レイ隊員、確認して貰ったロープを出して貰えるかな?全員で、馬を降ろしたいよね!あぁ…追加で何か意見があったら、自由に言ってくれる?」
そうだ…
シャオロン!
「はいっ!生き残ってる馬の確認をしたいんですが?」
「飛鳥隊員、一応それは許可するけど、非常事態だから、所有権は無いと思ってね?」
もちろんです!
「はい、シャオロンの無事を確認したいだけです!」
「ん、ならどうぞ?他にも、愛馬の生死確認がしたい人は、飛鳥隊員と行ってきてね。時間は10分。僕らはその間に、準備しとくから、早めに戻ってきてね」
ダッシュで行きます!
一緒に10人が付いてきたけど、その内の5人がバラバラになった愛馬にすがり付いて泣いていた…
新人の括りで近衛部隊に配属されたのは、私だけだったらしい…
悲しいけど、この19頭の馬達の主人は、既に亡くなったんだな。
シャオロンは、運が良かった…
でも、いつまでも嘆いても始まらないんだから!
さぁ、巻き返すために頑張るぞ!!
楽しんで頂ければ幸いです。